オルフェンズ10周年で盛り上がっているということで、心残りを晴らすために完結させましょう。
…実は終わらせて無かったこと自体を忘れていたのを、今回の諸々で思い出したので投稿します。いや、申し訳ない…
とは言え、覚えてる人は皆無だと思いますので、これまでの簡単なあらすじ。
フレッくんとかいう意味不明な存在が出てきて因縁っぽいガランが亡くなり相棒のリーリカはフミタンだったこの後どうしよう。以上。
これは回収された通信記録だ。
サルベージされたのは唯一この記録だけではあるが、不自然に、まるで机の上にただ置かれいたかのように容易に発見できたそうだ。
偶然なのか、それとも意図的なのか…
君はきっと聞いた方が良いだろう。
いや、とても短いものだよ。
そうか、聞き終わったら、声を掛けてくれ。
『───ザザ───────ザ─────────』
『──────ザ───────────────れより、定時───』
『──────開始──────ザ───』
『─────────』
『面白いことが───った。ザザ───あの
『─────────』
『───前の海賊による輸送船の襲撃事件───、火の中に消えたと思われていた被検体、フミタン・アドモスと見て間違いないだろうな』
『─────────』
『全くだ…しかし、運命なんてもの信じるつもりはないが中々に面白い巡りあわせだな。あのノブリスがアドモスを仕留め損ねた理由が、まさかエフィームのやつが関わってるなんてな』
『─────────?』
『あぁ、証言は取れている。黒髪の長髪を纏めた男…あいつの宇宙構の出航記録から見てもどんぴしゃだ。写真を見させたが、顔はともかく服装は一致した、間違いないだろうさ。とんだ笑い話だ、プロの殺し屋があのガキに一声かけられた程度で急所を外すとは。ああ、ちゃんとそいつ──始末───さ』
『─────────』
『そうだな、ノブリスはいつまで─────目を覚まさないあの女の、その使い方を変えた。わざわざ───必要もなくなったんだろう。…鉄華団への手札としてはな…実際の所、何に使う予定だったんだ?』
『─────────』
『"疑似阿頼耶識"のためのモルモットねぇ…いや生体パーツか?───"TYPE-F"?哀れなものだ…だが移送するための船は墜落、そこから────生き延び、その残骸の回収作業に参加したエフィームが…拾った』
『─────────』
『そうだ、エフィームは問題じゃない、その伝手が厄介だ。アラスカ支部に顔が効く上に、奇妙な仕事の関係かメディア側へも知られ始めていやがる…そこはお前らのせいだがな?加えて元アフリカユニオンの軍人、アドウェナ・アウィス…そいつがまた厄介だ』
『─────────』
『それもあるだろうな。…あの女は知っての通り記憶がないが、もし元鞘に戻れば面倒なことになる可能性だってある。エフィームのやつ、相当入れ込んでるみたいだからな。…しかしあいつをこちら側に引き込めなかったのは残念だ…なぁに不確定要素は、結局消すのに限る』
『─────────』
『あぁ…まぁ、多少は気にかけはするさ。ブランドンのガキとなればな』
『─────────…?』
『まだ疑ってるのか?俺だって生きてるとは思わなかったさ。コクピットを踏みつぶしたんだぞ?…だが、今度は、しくじらんよ』
『─────────…』
『時間だ。お小言は仕事が終わった後にたっぷり聞くさ、せいぜい武運を祈ってくれ』
『─────────』
『またな』
スタッフしか出入りできない裏口へと回り、控室へ歩く。その間は歩行を補助するための"子供受けしそうなお姉さん"といった顔の女性───ひどくガタイがいいことを除いて───が俺の
女性の手の感触は当然分かりやしない。
今その繋がれた手に感じているのは、余すことなく包み込まれたことによる暑さと、自身の手汗で塗れた不快な湿り気との合わせ技によって生じたかつてない蒸し暑さのみ。
耐えがたい蒸し暑さの中、ついこの間リーリカと共に足を運んだ東洋の寺院で見たあるものを思い返していた。
"即身仏"
間違いない。この苦行はそのためのものなのだ。
下らないことを考えているうちにいつの間にか俺は控室に到着しており、そのままゆっくりと座らされる。ちなみに座る時もまた一苦労だ。なんせ、"着ぐるみ"と言うにはこれはあまりに色々飛び出したパーツが多すぎる。
パーツ類は柔らかい素材で出来ているとはいえ、だからと言って無理な力を加えれば壊れてしまう。そうならないように座る際は干渉しないように作られた専用の椅子へと腰を降ろした。
あぁいや、ほぼ立っているに近い。バーカウンターにあるバーチェアのような高さのある椅子?(刺股が飛び出してるようにしか見えん)に尻の部分に少し引っ掛けた程度。その両脇をゴテゴテした支柱で挟まれ胴を固定される。
ここにきて俺は立ったまま固定されるモビルスーツの気分を知った。知りたくもなかった。歩いてる時よりもずっと圧迫感が増して辛い気がする。
やがて女性が申し訳なさそうにしながら控室を出ていく。
それを見届けた後、その
…が、持ち上がらない。
外すにもそれなりの行程が必要だったのだ。一人でやろうとするも、首元のホックやらジッパーやらなんやらは目の前の大きな三面鏡を見ても見えない。そうだ、視界が狭いからだ、かなりピンポイントで前しか見えない。
舌打ち一つかましたい気分だったが、思い留まる。
そしてその
…結局、一人で外すことを諦めた。
俺を癒してくれるのは唯一つ。控室のスピーカーから流れている誰が演奏したかもしれない名もしれないジャズだけだ。着ぐるみのせいでよく聞こえないんだが?
同じ姿勢しかできないように体を固定される椅子に座り続けてしばらく。控室のドアが開き、この蒸し焼き地獄から解放してくれる女神様の出現に安堵する。
黒髪をポニーテールにした眼鏡の女性。
着ぐるみをばっちり着込んでるためか、それとも変成器でも仕込まれていたのか、くぐもったようなもはや別人にすら聞こえる声が俺の口から飛び出る。
『永遠の瞑想に入りそうだったんだ。助けてくれ
「何を言ってるんですか」
彼女の助けを借りても頭部が重すぎるために持ちがげることが叶わず、結局他のスタッフが来るまで俺は控室の中央に仏様よろしく安置される羽目になったのだった。
俺の横にはフレッくんがいた。
「───なぁリーリカ。何で俺はこんな
喉の奥から絞り出すような…とまでは行かないが、気分的にはそれに匹敵する思いで吐き出した言葉がこれだ。
「それは私が無断で申し込んだからです」
「………知ってるよ」
何かいけなかったでしょうか?などと言いだしそうな声色に二の句が封殺され絶句する。それでもなんとか
ようやく、ごついけど柔らかいという矛盾を抱えたアーマーから解放された腕を使ってボトルの水を飲み干す。
飲み終えた俺が視線を正面に戻した時、大きな三面鏡が再度俺の身体…と隣の2mはある"フレッくん"を迎え入れる。
ヒーローの横にいる中の人───俺のことだが───は大変喜ばしいことにまだミイラにはなっていなかった。
「…着ぐるみアクターってほいほいできるもんなのか?普通プロの事務所にでも依頼しそうなものだが」
「出来てるじゃないですか。今回のように未経験者も募集してる場合はあります。ただ条件はあります。どうやら閉所への耐性が高い人が向いているそうですが…モビルスーツ乗りはクリアですね。本来背が低い人が本来着ぐるみでは理想らしいと聞きましたけど、この着ぐるみ自体が通常より大きいようです。だから背もクリアしいてました。…恐らくギミックを色々仕込むために小さいと厳しいのでしょう。200㎏ありますからね」
「道理で死ぬほど重いわけだこの着ぐるみ。着る前にアシストスーツ着せられたしな…そのせいで地獄だぜ、稼働の熱がきついのなんの………というかこの頭部、重すぎて首の骨いかれるぞ…」
「そこがチャーミングポイントなんです。動くカメラアイと開くミサイルハッチは子供心を掴んで離しません」
「お前の心もか?…なんだよこのクオリティ。何が
「さぁ…」
どうにも連中、フレッくんに力が入り過ぎている。いい広報なのは認めるが、それにしてもやりすぎ感は否めない…あぁいや、最初からぶっ飛んでたなそういや…
「俺たちはどこへ向かってるんだ、マネージャー」
「"中の人"としての需要があるとは望外でしたね」
「喜ぶべきか?泣くべきか?」
「むせび泣いて喜びましょう。結構人気なんですよ?」
「あいよぉ、平和な仕事に乾杯」
「もうちょっと嬉しそうに言ってください」
ペットボトルという空の杯を虚しく掲げることしかできない俺に無茶を言うリーリカ。
モビルスーツアクションスタントと言う謎の肩書きにスーツアクターでも追加する気なのか。追加する気なんだろうな。その手に持っている契約書が全てを物語っていた。
俺が歩く即身仏として子供たちに
「控室の天井に空のペイントとは遊び心がありますね。色彩心理の観点から、どうやら癒し効果があるそうですよ」
「あぁそうだな。この翼で飛んでいけそうだ」
「ちなみに刑務所や精神病院で見るペイントですね」
「知ってるか?空を飛ぶのは結構気分がいい。俺は昔のデブリ時代は戦闘機のパイロットに憧れてたんだ。自由に見えたからな」
「お願いだから戻ってきて下さい。──────それに、その
「そうか」
「この翼は彼が大魔王エッスェーユー拉致され完璧なモビルスーツくん、即ち"
「フルッくん」
「後に特殊部隊"BOX"の隊員として彼が「フル」というコードネームで暗躍させられていたある時、戦地にてフレッくんと再会、マチェットで戦うも敗れます。そこから記憶処理をされていた彼はフレッくんとの再会によって幸いなことに記憶を取り戻し、再び共に戦う仲間として活躍するのです。そして彼はそこでフレッくんと肩を並べるために「
「…」
「『一人だけの"
「……」
「再度大魔王の手中に落ち、洗脳された彼はフレッくんの前に立ちふさがります。死闘の果てに彼らは武装のない状態で地雷原で殴り合い、そしてグレイフレッくんはその戦いに敗れ命を落とした…かに思われました。…そうではなかったのです。実は彼は半死半生の状態で生きながらえていました。敵に回収された彼は無理やり生かされていたのです。非道な実験の元彼はさらに邪悪な力を手にしてしまいます」
「………」
「フレッくんがダインスレイブの発射を阻止すべくボックス諸島に踏み込んだ時、再び彼らは記憶を失った状態で対峙します。ですが、度重なる実験の果てにコクピットを病んでしまった彼は敵味方無差別に
「…………」
「フレッくんは果たしてダインスレイブの発射を阻止して平和を、そしてグレイフレッくんの心を取り戻せるのか。──────それが、前回までのあらすじです」
「…あぁ、うん………そうだな」
適当にリーリカの話を流して青い天井を仰ぎ見る。なんと狭い空か。
───今までなかった"普通の女性"としての生活という体験が
…けれども彼女に"遊び"を教える人間はいなかったのだろう。少なくとも、俺は団長に拾われてからは少しずつ過去に置いてきた"子供らしさ"を消化していけたのだが、リーリカはそれがまさに今なんだろうか。でもサブカルに染まるのは、ちょっとやめて欲しい。
少々…いやぁそれなりにフリーダムなところが増えたがきっと良いことなのだろうなぁと思うことにする。思っていいのか?いいよな?隣のフレッくんに視線を送るがだんまりだ。役立たずめ。
これ…"お嬢様"に怒られないよな‥?
「どうしました?」
「どうもこうもないっての…」
「…ふふ、まだまだですね」
悪戯が成功したような子供っぽい笑いに流石に俺もからかわれていただけということに気が付く。なんてこった、俺は掌の上だ。
主導権は既に握られていた。
相変わらず財布の紐も握られている。
首輪の紐は大丈夫だと思う…もしかして大丈夫じゃない…?
まぁ、つまり。
マネージャー兼オペレータの"リーリカ"はこういう女なのはいつも通りだった。
多分、彼女はそれらを握っている自覚は今ではありありだろう。
だけどどうしてなかなか、そういうのも悪くない。これは一人だけでは、決してあり得ない事なのだから。
───それはそれとして。
やはり来たる再開の日が心配になってしまう。
いや、そうなっちまうのも仕方ないだろう。
なんと言ってもリーリカが監視役とはいえ仕えていた人間は"ノアキスの七月会議"を成功させ、火星の独立運動の旗手として今尚存在感を強めている
───エドモントンでのアーブラウ代表指名選挙の騒動は軍の関係者からよく聞いている。
アーブラウ国防軍発足以前のカナダ国防軍の動きを、ギャラルホルンと例のアンリ・フリュウが抑えたせいでエドモントン周辺は大分混沌とした状態となっていたらしい。
踏み込む鉄華団、阻止するために街を戦場としたギャラルホルン、介入せんとするカナダ国防軍。
一歩間違えればどんな惨事に転がるか分からない緊張感があったと教えてくれた。そんな中でも代表選挙を続けるんだから大したもんである。褒めてはいない。
そしてそこに生身のまま突っ込んだ人間の一人が"お嬢様"である。そんな度胸があるからこその"今"なのだろうが、いや、大したもんだ。これは褒めている。
リーリカは大丈夫と言うが、リーリカの…フミタンの名前を商会につける程なのだ。その執着が隠すことなく突き付けられているのだから多少の心配もする。
…加えて、そのリーリカも平気な顔をしてはいるが本当は内心気が気でないというのを知っているから余計に。
何で親に挨拶に行く彼氏みたいになってんだろうなぁ、と思うがあながち間違ってもいないから始末が悪い。
俺たちはそれから下らない話で時間を潰した。
△△△△△△△△△△
《all we are is dust in the wind》
───僕らは皆 風に舞うゴミみたいな存在。
窓際に置かれたポケットラジオから、アコースティックギターとヴァイオリンによって奏でられる古い曲が流れてくる。もちろん彼の趣味だ。物悲しいような、静かな曲調は心地よく、少しだけ眠気を助長する。
《Don't hang on, nothing lasts forever but the earth and sky》
───しがみつく必要なんかない、永遠なものなどないんだから。この大地と空をのぞいては。
その歌詞に触発されるように、私は窓の外の雄大な景色に眼を向ける。
小さな振動が時たま、カタリとポケットラジオを揺らした。
…カナダとの国境沿いに広がる旧ユーコン・チャーリーリバー国立自然保護区。
この地域はゴールドラッシュの歴史で広く知られており、何千と言う野心家が血みどろの抗争の果てに神への祈りも懺悔も、最後には全てが罵声に変わった無人の原生地。
今では再度保護区として傷付いた自然環境の復活を進めているも、そこを横切るように走る大型の鉄道にフィーシャと私は乗っている。
バイト先であったアンカレッジにあるエルメンドルフ基地を出発し、フェアバンクスを経由してカナダへと進んでいるのだ。
この線路を二つ跨って走る鉄道は定期貨物便として運用されており、モビルスーツほどの大きさがあっても運ぶことのできる希少な交通手段の一つだ。
間接的にテイワズに貸しを作ったフィーシャは、テイワズの現地法人が保有するこの鉄道に乗せて貰えるという幸運に恵まれた。
とは言え、今回はモビルスーツのない身二つ。
航空便で済ませた方が遥かに短時間で済むというのにこの陸路を選んだのには、一つの理由がある。それは──────
『───驚いた…死んだと聞いていたが』
…まともな会話などしたことはない。事務的な通信で顔を見せた程度ではあるが、当然、この人物を忘れるわけがなかった。
"名瀬・タービン"
私がいなくなってから、鉄華団はタービンズと信頼関係を育んだのだろう。当時とは違う、確かな親しみを私ですら感じられた。
『言伝があればこちらから伝えれるぜ?』
「お気遣い感謝します。ですが、今回はご遠慮します」
『ほう?そこの男と夜逃げか?』
「…それもいいかもなぁ」
「ご冗談を。命は拾いましたが、そのまま拉致され実験材料にされそうなところを輸送中に墜落し、命からがら彼に救われました」
『それはなんとも、よく無事だったな?』
「さらには記憶を亡くしていましたが、彼のおかげで先日全て思い出したばかりなのです。また殺されかけてしまいましたが」
『散々だな?…なるほど、以前よりずっといい眼になった。はは、そりゃぁ惚れ込むわけだ』
「…ですが、鉄華団には近いうちにこちらからコンタクトを取ります…せっかくですから、驚かせたいのです」
『チャメっ気も増えたようだな。今の方が全然魅力的だぜ?』
「それは俺も思うよ」
『それで?本当に鉄道でいいのか?とびっきりの空路も手配してやれるぜ?』
「あーそれなんだが──────」
──────私が見届けることのできなかったお嬢様の軌跡。それをなぞるため…と言いだしたのはフィーシャの方だ。
事情を知ったフィーシャがせっかくだからとこのゆったりとした陸路を選んだのである。こういうところは変に、ロマンチックな考え方をする。
眺めていた本より顔を上げ、窓の外を見る。
拡がる緑。遠くに見られる山々は
美しく広大な自然は、テイワズとの邂逅によってより強く意識し始めた再開の日への緊張感を溶かしてくれるようだ。
…かつての私ではこんな風に感動なぞ出来なかったかもしれない。
一度リセットされた脳が、心が、裏表のない日々で得た"日常"が、今の自分に余裕を与えたのだろうか。
窓際に置いてある小さなフレッくんの腹を指で凹ませながら、そう思った。
「何事も経験と言うことですね」
「ん?あぁ、そうだな。二度とやらないぜあんなこと」
「バイトではなく鉄道の話です」
「…じゃぁその手元の手乗りフレッくんをつつきながら言わんでくれ」
「おや、失礼」
体面の座席に座ったフィーシャは呆れたように、けれどもどこか嬉しそうに口角を少しだけ上げて笑う。
それを見て、私も笑う。
そこには
ただただ、私は笑っている。
それに気が付いてしまった時、私はどうしようもなく彼の傍から離れたくなかった。
砂糖菓子ばかり与えられて育ってしまった子供のようにまた求めてしまう。
勿論、止まることなどしない。私は必ず戻らなくてはいけない。
そんな私の背中を、彼はふわりとそよ風のように押すのだ。撫でるような、そんな追い風で。
けれども、後もう少しだけ…
ここにいてもいいでしょう?
良い意味でも、悪い意味でも愛機となったフレック・グレイズ。愛称"ヴェーチェル"。
碌でもない仕事から戻ってみれば、その姿は以前と同じ…いや、訂正しよう。明らかに以前より手が入った姿となっていた。
…なぁ?ここまでするんだったら最新型のグレイズとか融通して欲しいんだが??………スポンサーが納得しない?そうか…
微妙に愛着が湧いてきたのは、まぁある。だが、命には変えられないはずだ。どこまでいってもグレイズの廉価版。機体スペックは、旧型のゲイレールにすら劣るのだ。
「そこで、おじい様たちは考えたそうです───グレイズ並に動けるように改造しようと」
「阿呆か」
フレック・グレイズは、脚部などフレームの一部が簡略化されているせいでスペックダウンを引き起こしている。逆に言えばそれ以外はグレイズとなんら変わらないフレーム構造なのだ。
グレイズの全高は17.8m。フレック・グレイズは15m。約3mも小型になっている以上、近接格闘という選択が主流であるために、地上であればパワーの差が如実に現れてくる。
だから俺もアックスではなく、マチェットを使った突きが基本の格闘を行っていた。振りかぶっても威力が若干出にくいのだ。
「そういう意味で、あのパイルは最適な武器でもある。問題は射程だった…んだが…」
べこべこにへこんでいた盾は修繕され、ついでに長さが増している。そこに収まるパイルバンカーの"杭"の長さも一緒に長くされていたのだ。
それだけで使い心地は大分良くなるだろう。それが
「増えたな…」
「増えましたね…」
シンプルに殺意が高い。
「…で?」
「各種装甲も元通りな上に、追加装甲が施されてます。特に、今回支障の出た足回りに加えてコクピット付近も」
「頑丈さが上がるのは大歓迎だな」
「…ただし、その装甲は
「ざまぁないな。せいぜい役に立ててやろう」
「ナノラミネートアーマーもグレーカラーは変わらず、それでも高級品になってます」
「ああ…」
「頭部ウェポンベイのミサイルは予備含めてそれなりに置いて行ってくれました。さらに、スモークグレネードの発射機構を増設されてますね」
「ああ……」
「…背部追加ブースターも新品です。実は肩部装甲の内側にさらに追加のスラスターが増設されていますので、機動性も増しました」
「ああ………」
「……110㎜ライフルやサブマシンガンも新調…弾薬も大量で…あぁ、内部のOSも私の立ち合いの元、最新型にアップデートしてます、ね」
「ああ…………」
「………何故おじい様…いえ、軍の方々はグレイズを融通してくれなかったのですか???」
「知らんが」
いや、わかっている。
象徴として、フレック・グレイズでなければならなかったことぐらいは。いやいや俺は軍属じゃねぇんだぞ??傭兵だ。色んな意味でズブズブだが、傭兵だ。手遅れなぐらいだが。じゃぁ仕方ないか…直してもらった上にここまでしてくれたんなら…いや、仕方ないか??
「まぁ、可愛いから仕方ないですか…」
「…そうか、仕方ないか………」
お前がいいなら、もういいよ…
文句は言ったがなんだかんだ、最早愛嬌がある気がしてきた
「───ねぇフィーシャ。せっかですから写真を、撮りませんか?」
「こいつのか?」
「いえ…私たち、二人の」
ある格闘家が言った。
"Be water"───"水のようになれ"、と。
それは団長がモビルスーツにおける戦闘技術を確立するに当たって参考にした格闘家の言葉。
筋肉のないモビルスーツ に、阿頼耶識の動きが完璧にトレースされることはない。例外はもちろんあれど、逆にそれは無駄になり、余計な関節部の消耗や動きを生んでしまう。
経験を積めばそれを克服していけるのだろうが、宇宙ネズミはだいたいがその前に使い潰されて死ぬ。
…ゆえに、それとは逆の機械らしい動きをするのが亡き団長、ブランドンの教え。阿頼耶識を使わないことも相まって、ある意味で対極の位置にある戦い方。
最低限の動きを最速で、消耗少なく無駄なく素早く精密に機械らしく。
MSを自身の延長として動かすのではなく、己を水とし、MSの
───そこでふと、俺はこんなことを思った。
自分はまさに悪い意味で水であったと。
幼少に植え付けられたものは変われない。自分の存在など価値がなく、誰かのためにしか生きれず、過酷な環境でその都度"形"を変えて生き延びた。求められれば泣き喚くガキをあやし、時に暴力で黙らせ、また命すら投げ出すし、投げ出させた。
父を亡くして路頭に迷った俺の最悪な世渡りは、団長の元でまともになったが、それでも一度染まり切った心は変わらなかった。
『───なぁ団長、次は何をすればいいんだ?何に
あぁ、自分はリーリカに依存している。ガキの頃と俺は何も変わらない。彼女を拾ったのも、きっとただ俺の"形"を定義づけてくれる誰かが欲しかっただけだったのだ。ロベルトのじいさんやクララばあさんが団長たちが死んだ後に俺の元から去ったのは、そんな変われなかった俺を独り立ちさせようとしたからなのかもしれない。
そして彼女はきっとそんな自分を鉄華団と重ねた。重ねたからこそ、彼女は思い出した。
俺はあの時から変わってないのだ。あのまま、大人になってしまった。
俺が団長の哲学を誰よりも理解しきれなかったのは、己の本質を真に理解していなかったからか、それとも…
リーリカのおかげで、俺はようやく気が付けた…やはり彼女こそが俺の
だからこそ俺は「
「本当に、いいんですか?」
「あぁ、止めて欲しいのか?」
「…聞かなくてもわかってるでしょうに」
「地球へはじいさんが連れて行ってくれる…まぁ俺も"行き"は同行するが」
「そう。ならば、安心ですね」
そうやってリーリカは穏やかに笑う。
そうだとも。棉ぼこりを舞い上げるのが、今の俺の役目だ。
迷っているならば背中を押す。後悔しない道を、歩いて欲しい。まだ彼女には失っていけないものたちが大勢残されているのだから。
けれども俺たちは誓い合う。
必ずまた、共に歩もうと。
まだ微妙に気に入らないモダンなデザインのオーディオプレイヤーのスイッチを押して、俺は『Dust in the wind』のアウトロが終わる前に部屋の灯と共に消してやった。
はい、四年経ってました。(!?)
前書きで言ったとおりですが、元々後二話で、地道に書いてほぼ終わってたのに途中から忘れておりました。
映画ではフレック・グレイズの出番がありそうで(一瞬で終わりそうですが、それもらしさゆえ…)ちょっと嬉しいところです。
これを機に立体化は…まぁなさそうですが、うっすら期待しておきましょう!
ちなみにですが、今までの話も見直したところ、まだまだ誤字があったので修正をしています。
最終話は2、3日後に投稿します!どうか最後までお付き合いください。
■フィーシャ(エフィーム・アダモフ)
簡単な復習。元ヒューマンデブリ。阿頼耶識はない。仲間は全員死亡した後、リーリカと出会った。年齢は30くらい。
自分という存在は、きっと彼女の背を押してやるために生かされた。
なんてネガティブ寄りな思考だが、それでも固い決意が確かにある。
この出会いは、ドルト2の騒乱の時に全てが始まっていた。亡き団員が導いた、そんな風に押されて。
■リーリカ(フミタン・アドモス)
残りたい"リーリカ"としての気持ちと、戻らなければならないと言う"フミタン"としての使命感がぶつかり合う。フィーシャに背を押されるも、本心ではまだ迷っている。
ドルト2でクーデリアへの狙撃を身を挺して守ったとき、運良く凶弾は急所から外れた。それは、後に出会う誰かの声が助けてくれたからとは、その声の主だけが察して、誰にも言わずにいる。
■ヴェーチェル(フレック・グレイズ改ll・寒冷地仕様)
グレイズレベルの性能まで改造されたフレック・グレイズ。アドウェナやその知り合いである退役軍人やら、色んな人によって半分は悪ノリでいじくられた。
見た目は以前とは大きく変わらないが、コクピット回りに追加装甲が増えたので、胴体が前側にゴツくなったイメージ。
そこはゲイレール・シャルフリヒターの装甲が流用されている。
■ガラン・モッサ
フィーシャを殺し損ねたのか、殺さなかったのか。
いまや何もかもが闇の中に。
■飛び込め!フレッくん!
幅広い支持を得てしまったアニメ。もう止まらんよ。
今日の放送でグレイフレッくんが予定通り巨大な二足歩行モビルアーマーに踏みつぶされて散った。
当然の如く大量の花束が届いてフィーシャは頭を抱えた。その花は、fleckmansの団員やガランの名が刻まれた墓を美しく彩ったという。
■アーブラウ国防軍
やはりフレッくんに対する熱意が異様に高い。何なのこの人たち…?
鉄華団とは縁を切り、新たな軍事顧問を探している。
フィーシャは全力で断り続けているが、当てつけのようにフレッくん関連のオファーが増えたので割と本気で揺らいでいる。
■『Dust in the wind』
1977年にリリースされたプログレッシヴ・ロック・バンド「カンサス」の名曲。
in the wind = 逃げられた、なんて意味としても使われる時があるそうです。
on the wind = 風に乗って、風に運ばれてなど。穏やかな雰囲気を出したかったので、サブタイトルにこちらを採用。