綿ぼこりたち   作:凍り灯

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しばらくやらないと言いつつも。







part time hero

 

 

 

 

 

"戦闘で大切なのはリズムだ"

そう叩き込まれている。

 

亡き団長の言葉だ。

スポーツだと良く聞くのではないだろうか。

 

適切なリズムをとり無駄な動きを排除することでモビルスーツの消耗を抑えることと、相手のリズムを計りつつ、回避と攻撃をスムーズに行えるようにすることを目指したものらしい。

格闘技よりの考えに近いのかも知れない。

 

"消耗を抑える"というのは、いくら頑丈なフレームとはいえ、無遠慮に振り回せばガタが来て、いざという時にしっぺ返しを食らうから気を付けよーやということだ。

 

金のない傭兵団だからこその言葉に聞こえるが、これは団長の根本的にあった信条の側面が多いと思う。"道具"を大切にすることを信条にしていたのだ。

そのせいか古い家具とかのアンティークが好きだったもんなぁあの人…ゲイレールに話しかける程だし。

名前もつけてたな、俺もそうしろと言われたが…

 

 

───彼はこうも言っていた。

 

"人の心臓が脈打つように、モビルスーツにもリアクターの鼓動がある"

"人もモビルスーツもリズムというしがらみからは抜け出せない"

 

機械に人と同じような道理を当てはめるその考えに最初は半信半疑だったが、実際に各アクチュエーターの消耗率とかが団長と俺では違いすぎるし強いしで何も言えなかった。

 

団長が趣味で買った脆いアンティークのフォノグラフ(蓄音器)を指して「これは少し力を加えれば簡単に壊れる。本来機械とはとても繊細なもんだ。どれだけ頑丈になろうとも"根"は変わらない」とも言われた。

だからといって当然モビルスーツのフレームが人間より脆いことはないだろう。

架空のスーパーヒーローじゃあるまいし。

 

…あー要は繊細に機械の調子に耳を傾けろという事だ。

そうすれば自ずと最も合うリズムがわかってくると。

 

そうやって訓練していくと、言われた通りに段々とモビルスーツの"癖"がわかってくるのだ。

無理がある動き、早く腕を振りぬける軌道。

数を(こな)せば自然と身に付くものをより身に着けやすく、より深く染み込ませるための教えだったのだと、今では思っている。

 

そして、そういったものがわかってくると今度は敵の動きも見えてくる…らしい。

スペック差はあれど同じモビルスーツ。

自身の乗機を理解すれば相手もある程度理解できると言うことだ。

 

戦い方にも繋がる話だ。

最適な動きがわかるのだから、極めれば無駄のない合理的な操縦をできるようになるわけである。

(ちまた)で噂の阿頼耶識の機械離れした動きではなく、機械を尊重した動きと言えばよいのだろうか?

 

それからある程度習得した上で、戦闘でのリズム感を身につけることになった。

自身の動きを、楽譜の音符のように細分化するように意識し、どんな時でも自分のリズムを崩さないように立ち回る訓練。

 

リズム感を養うためという理由でフォノグラフで色々と聞かされたりしたもんだ。

…「自分の好きな曲を相手に教えたい」っていうあれもあったろうあの団長は。

 

リズムの癖を徹底的に身に着けるために、本当に音楽を聞かされながらモビルスーツを動かすこともあったが…果たして効果があったかは、まだわかっていない。

 

しかしこれらは逆に手練れ相手だとそのリズムを読み取られるという恐れがある。

なのでより複雑に細分化してリズムを刻めるようにしろと言われたっけなぁ…まだそこまで日が経ってないのに、もはや昔のことのようだ。

これらの格闘技っぽい考えは、接近戦が殆どの決定打になるモビルスーツだからこそなのだろう。

 

だが団長の言う"リズム"は暴力的な面より、いかに自身(MS)を思い通りに動かせるかの"理解"に対しての面を重視してたのだと思う。信条が信条なだけに。

 

…結局、俺がそれらを理解しきる前に皆逝ってしまったのだ。

俺が生き残って、どうするんだよ、本当。

 

 

 

───そして今、俺はまさに音楽に乗せた戦いを繰り広げている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白色が目立つモビルスーツ、俺のフレック・グレイズ改が得物を見栄を切って振り回す。

 

それはグレイズのバトルブレード…の折れた刃を、これまた斧刃の部分がまるまる折れて消えたグレイズのバトルアックスの持ち手部分に貼り付けただけのものだ。

異なる鉄塊を組み合わせるので、それぞれ違う重心の位置を調整をした結果、刃部分が持ち手よりやや前方に飛び出してしまっている。まるで銃剣。

 

剣というよりは剣みたいな斧…マチェットみたいな扱いか。

 

そして後退しながら構えるのは左腕に貼りつけられたシールド。

これはアリアンロッド所属のグレイズシルトのシールド…の、上半分だけ。ちょうどくびれっぽいのがあるだろ?あそこから上だ。

胴体のコクピット部分だったり限定的な位置しか守れないが、ないよりはましと腕に固定している。

 

 

イメージする───

 

 

盾を構えながら相手のモビルスーツの掃射を真横にスライドするように(かわ)す。

激しい砲火。

近づく隙がないんじゃないか?

堅実に立ち回り、まずは相手のリズムを読み取る必要がある。

 

…だが、今求められるのは残念ながら堅実な立ち回りではないのだ。

 

 

"パッション(情熱)"だ。

 

 

砲火に晒されながらもその中を突き貫けるイメージを描き、直後、飛び込むように前進。

爆音と、関節の金属部品が擦れ合う音、スラスターから噴き出す炎の音から熱く(たぎ)るような音楽が聞こえてくる気がする。

 

()を天高々に掲げることも忘れない。

 

決死の覚悟、ここで仕留めると言う自信と熱い魂を感じるような踏み込みを持った突貫。

"曲"はきっとここが一番盛り上がる所だろう。

 

だがそれを相手は「自棄になったのだ」とほくそ笑み、銃を投げ捨て、こちらよりも長いブレードを構える。

相手はブレードの突きによって、こちらが決定打を打てる距離外から仕留めるつもりのようだ。

 

地面の土を巻き上げながら互いの距離が詰められる。

音楽はそのハイテンポを共に走り続ける。

 

ブレードの切っ先が白いフレック・グレイズの胴体へ突き立てられると思われた瞬間。

その刃を前に機体は左にぶれ、大地を噛みしめるよう左足を斜め横に突き立て、体勢を半身にする。

自棄になったと思わせての、そう、フェイントだったのだ。

 

胴体のコクピットの前を凄まじい速度でブレードの鈍い光が通り過ぎ、僅かに掠った装甲から火花が散った。

 

まさに紙一重。

 

そのまま左足を軸に機体をその場で時計回りに回転。相手に背中を晒すもそれは一瞬の事。

やつは思い描いていた敵の死とは違う結果と、大上段の刃の軌道とは違う動きに困惑。やつの腕は突き出されたままで、これ以上は望めない程の隙。世界がスローになる。

 

互いの機体の距離はぶつかり合う程。

"ジルダ"は突きの勢いを止められずに背を晒す。

 

SAUのモビルスーツ"ジルダ"の目の前で、それより頭一つ小さな白い機体がさらに体制を低くして回ったがために、ジルダのパイロットはまるで相手が消えたかのように錯覚していたのだ。

 

フレック・グレイズは遠心力を加えた剣を裏拳で殴りつけるように思いっきり背部のコクピットに叩きつけ、轟音。

 

金属同士がぶつかり合う、列車同士が正面からぶつかり合うよりもさらに大きな鈍く甲高い音!

体格差を感じさせないような強烈な一撃に、禍々しい黒いジルダは大きく胴体をひしゃげさせながら真横へ吹き飛んだ。

 

 

静寂。

残心。

 

 

吹き飛ばされた機体がピクリとも動かず、そのスリッド状のセンサーアイの光が消えていくのを見届けると、白い機体はよろける様に前に倒れそうになる。

 

受けた銃弾は数知れず。

交わした剣戟はどれ程か。

 

限界なのだ。

敵は倒した。

 

ならばもう休んでもいいだろう───

 

 

 

否!!

 

 

 

傷だらけの白い機体は力強く足を踏み出し、大地を抉りながらも倒れない!

倒れてはいけないのだ!

 

己の矜持(きょうじ)と、その背中を見て育つ若き希望のために…

満身創痍の機体はスパークや異音をまき散らしながらも、その右手に持つ剣を掲げんとする。

 

さぁ高らかに勝利の雄たけびを上げるのだ。

正義は勝つのだと!

 

【ここで背後で爆発】【子供の歓声「フレッくーん!」】

 

 

 

 

 

脚本:イオク・クジャン

軍事監修:ラスタル・エリオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テレッテ〜♪テレテレ〜♪』

 

………………不本意だが、今回はこのような音楽に合わせて動いた俺がいた。

スーパーヒーローしてんだよ、文句あるか。

 

「カットぉ!」

「お疲れ様です監督」

「いやぁ良い動きするねぇ、うちで欲しいところだ」

 

これヒーローショー用の撮影だよな?映画じゃないよな?後、"うちで欲しい"ってあんた、その制服はなんだ?軍の人間だよな?

 

『お疲れ様です。なかなか過酷なスケジュールでしたね』

 

モニターにリーリカの顔が映し出される。

どこか辟易とした感じで、その言葉にも皮肉が込められていた。

 

ほんとだよ………しかも一週間も。

 

いや、期間延長の可能性は契約書にも書いてあったし、なんなら最初に言われたけどさ。

堂々と「明日もお願いしますね!」って笑顔で言われた時は顔が引きつったのも許してほしい。

明日休みだと思ったら仕事終わりに休日出勤だと言われるようなものだ。それくらい濃い一日が連続した毎日だった。

 

溜息しか出ねぇ…

 

「………さっさと帰ろう」

『………そうですね』

 

明らかに子供向けではない(民間ではあり得ない格好の)連中を背に俺たちは『屋外軍事演習場』と看板が立てられたスタジオを後にした。

 

…もう何も言わんぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に意識が浮き上がり、(リーリカ)はゆっくりと目を開く。

 

薄いカーテンからは朝の鬱陶しい光がダイレクトに入り込み、僅かにぼやける視界を閉ざしにかかる。

その朝日の奮闘虚しくきびきびした動きで硬いベッドから私は起き上がった。

 

現在きっかし朝6時。

いつも通りのルーチン。

少し満足そうに頷き、6時から1分過ぎたら鳴るように設定した目覚まし時計のアラーム機能をオフにする。

部屋を見渡せば大きめのクローゼットと、洗面所への扉が目に入る。

 

───かつてここはフィーシャの傭兵団が健在の時に在籍していたクララという壮年の女性が使っていたらしい。

今の私のような仕事を受け持っていた、非戦闘員だそう。

パイロットがフィーシャを残して全滅した後、彼の事を心配しながらもここを去ったと聞いた。

 

クローゼットを開けるも、その大きさを持て余すように少ない衣類しか………おや?見覚えのない、真新しいシャツとスカート。

一体いつの間に入れたのか…後でお礼を言っておかなくては。

何故かサイズがちょうど良い理由も問い詰めなくてはいけない。

 

せっかくの好意なので今日はこれを着ようと手を伸ばす。

 

テキパキと身支度を終え、そうした頃に隣の部屋のドアの開く音が聞こえてくる。

彼が起きたのだ。

 

彼は私にもっとゆっくり眠っていていいと言うが、そういう本人も朝は早い。

やや覇気のない…少しばかりダウナー系のような雰囲気を持つがそれは雰囲気だけで、生活リズムもしっかりしている。

それは今は亡き団長に矯正されたからだと言っていた。

 

彼の部屋には洗面台など諸々の設備がないそうなので、今は一人しか使わない共用の洗面所へ行ったのだろう。

 

…亡くなった団員の部屋を使おうとしないのは「祟りに来られそう」と茶化していたけれど、やはりどこか忘れられないのだろう。

踏ん切りはついてるみたいなので、私などが心配することではないのだけれど。

 

私のような存在には、本当に、過ぎた待遇だと思う。

どこの誰なのかも、()()()()わからない怪しい女の扱いとしては。

 

ネガティブな感情を頭からさっさと追い出す。

今はただ、恩に報いるために動けばよいのだ。

 

ふと私は、ベッドサイドの丸机の上に置かれた、焦げ茶色の革製のブックカバーに包まれた一冊の本を見やった。

アンティーク好きの団長が集めていたというコレクションの一つ、今時珍しい紙媒体の本。

 

いつだか、それを何故か気になっていた私に、彼がくれたもの…まぁ彼の物ではないのだと、当人も苦笑いを零していたっけ。

与えられてばかりだ、本当に。

 

もう一度だけその本を一瞥(いちべつ)し、私は割り当てられた部屋を後にした。

 

 

 

 

 

キッチンへと足を運び、朝食の準備をする。

 

今日は私の当番だ。

 

…と、その前に、ここの団長さんの遺品であるアンティークのフォノグラフ(蓄音機)にレコードをセットして電源を入れる。

音楽を流して食事をするのがここでは習慣なんだとか。

 

(くだん)の団長さんはぜんまい式を買えなかったと嘆いていたそうだが、この時代にそれを持つのは博物館か、よっぽどのマニアぐらいだろうに。

 

流れてくる曲はドミートリイ・ショスタコーヴィチの『十月革命』…とレコードに書いてあった。

聞けばマイナーな曲らしく、フィーシャはそれを選んだ私を面白そうに見ていたのだが、彼には悪いが私にはどれを聞いても善し悪しが分からないのでなんとなく感性にあったものを選んでいるだけなのだ。

朝に聞くには少し激しかったかもしれない…音量は低めにしよう。

 

そのマイナーな古いクラシックを聞きながら、私は黙々と調理をする。

 

彼も私も朝からくどいものが食べられないタイプなので、今日はタマゴサンドだ。

大手パン屋チェーンの"COBS BREAD(コブズブレッド)"で買った食パンを薄く切っていく。

 

最適な硬さに茹でた卵を崩し、塩とこしょうで下味を付け、マヨネーズで手早く和える。

マヨネーズはやや控えめに。

切った食パンの上に軽くバターを塗り、ちょうど良いサイズに切り分けたサニーレタスを敷き、その上からタマゴを乗せる。

 

さらに細切れにしたベーコンをカリカリに揚げるように焼いてベーコンチップのように調理したそれ、を多すぎない程度にタマゴに振りかけた。

フィーシャはベーコンを焼く工程を面倒くさがって、棚に置いてある"READY CRISP"と書かれた箱に入った調理済みのベーコンを使っていたり。

 

…さて、これで完成ではない。

 

ラップに包み、冷蔵庫で寝かせることでパンとタマゴをなじませるのだ───と、本来ならばしたいところなのだが、彼は温かいままのサンドイッチが好みらしいのでこのまま。

一度寝かせてから温めてもいいのだが、この前そこまでしなくていいと止められてしまったので不本意だがこれで完成になってしまった。

 

それだけだと寂しいので、今回は簡単な飲み物を一つ。

 

アールグレイに、その量の半分程度の温めたミルク。

本当はスチームミルクがいいのだけれど、ここにはエスプレッソマシンはないので諦めている。(ホイッパーなどで泡立ててもいいのだけれど)

後はバニラシロップを入れて出来上がり。

 

所謂"ロンドンフォグ"と呼ばれる飲み物で、まだ冷えるこの時期にはうってつけだろう。

 

ロンドンとは名にあるものの、バンクーバー発祥の飲み物らしい。

後で何でロンドンといたのか調べようか…

 

準備が出来たため私はフィーシャを呼びにキッチンを後にした。

 

 

 

 

 

大抵、彼はガレージでシミュレーションか…やっぱりガレージでトレーニングをしていたりする。

 

思えば私といない時はだいたいそこにいるなと気が付き、思わず笑みが零れた。

 

ガレージへ繋がる扉を開くも姿が見えない、コクピット内でシミュレーションだろうか?

と、思った直後にハッチが開く。

ちょうど終わりにするところだったらしい。

コクピット内から、彼が伸びをする声と共にアナトーリ・リャードフのピアノ曲『舟歌』も聞こえてきた。

 

少し長い黒髪を後頭部で纏め、総髪のようにしているフィーシャが顔を出し、私に気が付く。

顎に無精髭を残したまま、相変わらず目だけがだるそうにしていた。

 

「フィーシャ。朝食の準備ができました」

「あいよー」

 

よし、あの髭は剃ってしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォノグラフから音楽が流れたままだが、かまわずに据え付けのモニターの電源を入れ、ニュース番組を映す。

 

たまにニュースの中の小さな事件や、スポーツの勝敗なんかに対して二人でコメントしながら、リーリカの作ったタマゴサンドを頬張った。

無精髭は剃られた。

 

…音楽を流すのが習慣ではあるが、あの団長の訓練のせいでクラシックを聴くと戦闘側に意識が傾きそうになる。

そういえば(かつての仲間の一人である)バルトークはこう言っていた。

 

「朝は特に戦闘体勢になるよな。そう、下半身がな!」まじで黙れよお前。

 

下らないことを思い出していると、リーリカがニュースの一つに反応を示す。

釣られて俺もモニターに視線を戻した。

 

「…徹甲弾?」

「…"鉄華団"ですよ?地球圏に支部を設立したみたいですね──────徹甲弾というのも、ある意味間違いでもなさそうですが」

「エドモントン?近いな。州違いではあるが──────ギャラルホルンという装甲に穴をブチ空ける砲弾だって言いたいのか?確かにひと騒動あったがな」

「そうなるかはわかりませんが………あぁ、ギャラルホルンと言えば、アラスカでの"ヒーローショー"のことなんですが」

「なんかわかったか?」

「やはり動いてたようです」

「…あぁ~やっぱりか?」

 

リーリカが調べた限りでは、フレック・グレイズを採用予定のアーブラウ国防軍のアラスカ駐屯地が、周辺住民の心象をよくするために企画したものだったそう。

他にも基地内部の意欲を上げるためでもあったようだ。

撮影した映像はヒーローショーどころか他にも使われてる?やめてくれよ。契約に書いてあった?ならいいか…

 

で、これに便乗してギャラルホルンが()()しようとしていたらしい。

 

「…やっぱり踊らされてただけだったんじゃ…?」

「…明らかに軍の高官じみた人物がいましたからね」

 

まぁ金払いが良かったからいいんだけどさぁ…

 

ついでに、しばらくしたらデフォルメされたフレック・グレイズのキーホルダーも送られていた。その仕事の早さだけは尊敬するよ…

このキーホルダーも、編集された映像でもそうなのだが、右手のマチェットは特撮映えしそうな剣になっているし、左手の盾も綺麗な円盾に変えられていたし。全身もパッチワークではなく白を基調としつつ水色のラインでカッコよく塗装されている。どちら様?

 

ぷらぷらとそれを手元で揺らしていれば、リーリカがあることに気が付く。

 

「かわいらしいですよね。その文字、なんて書いてあるんです?」

 

見れば一緒に引っ掛かってるタグには『踏み込め!フレッくん!』と書いてある。何に踏み込ませる気だよ。国境か?

 

「というか、フレック・グレイズなんて、同じアーブラウ同士なんだから他の配備が始まってる駐屯地から借りるかなんかすればいいのにな」

「撮影スタッフによれば国防軍総司令官とアラスカの駐屯地司令の折り合いが良くなくて出来なかったという噂ですよ」

 

知らんがな。

 

「それで配備を遅らされたり、他に掛け合っても苦い返事しか貰えなかったりと散々だったという噂も」

 

ほんと散々な噂だな?

 

どうやらアラスカ駐屯地内部でも段々「じゃぁもうそんなんならモビルワーカーでいいよ」みたいな風潮があったようで、これに焦った駐屯地司令が内部の士気を上げるためにも俺を呼んだのでは?とリーリカは見ている。

まぁ一番上が一人喚いてもどうしようもないからな。

 

「それにしても、あそこあたり(アラスカ)で俺たち以外にいなかったのか?」

 

それか他にも依頼をしたが蹴られた、とかだろうな。

 

「普通は蹴りますよね」

 

誰も受けなかったらしい。…良かったな、俺たちが酔狂で。

 

しかしまぁ、いくら仲が悪いからといって、国防軍総司令官が情勢を見誤る程愚かでもないだろうに。

必要な時にはちゃんと配備されるはずだ。何か焦っているのか?

それにいくら宣伝しても上が納得しなきゃ結局無駄足だと思うけどなぁ…あ。

 

「───それでギャラルホルン、か…?」

 

編集された映像でSAUのモビルスーツをぶっ飛ばしたことになってるからな、俺。

どうりで不謹慎だと思ったよ。

実際は台本通りに一人で素振りしてただけで、全部編集パワーである。

 

「恐らく、その宣伝に関与させて貰う代わりに国防軍総司令官に働きかける、というような話があったのかもしれませんね」

「おいおい、アンリ・フリュウとギャラルホルンとの癒着(ゆちゃく)の話はまだ新しいぞ」

「"根"は予想以上に広かったということかもしれませんよ」

 

大丈夫か国防軍。まぁただの憶測だけどさ。

 

「…でもそうだとしてあんなの(フレッくん)でなんか出来るのか?ちょっと不謹慎程度だろう?わざわざ子供への洗脳から始めようなんて気の長いことでもするわけもないと思うが…」

「…どうなんでしょう?本腰を入れる前の様子見かもしれません。取っ掛かりの繋がりを作るための副産物でしかなかったとか」

「………まー俺としては儲かるならいいんだけどな」

 

でもなぁ、ここからだと陸路で37時間の距離だから、3日はかかるんだよあそこ。

なんか「またお願いしますね!」とか言われたから不安しかねぇ。

というかこっちは傭兵だっつってんだろうに。さっさと配備して貰え。

 

移動は面倒だったが、リーリカと長く他愛もない話をしたり、信号待ちの時に寝顔を見れたということを考えれば…うぅむ、難しいところか。

 

しかし彼女は免許がないから運転は任せられないし、やっぱりぶっ続けで車内は辛いんだよ…あーそれどころか国籍もないからそっちをどうにかしなけりゃいけないんだった。

()の伝手をつかわないと危険っぽいのがまた。

 

 

()()()()()、自身のことでわかっていないことが多すぎるのだ。

どうしたもんか…

 

 

彼女の横顔を見ながら、色々先行きが不安になってしまうことが多いなぁ、と小さく溜め息を吐く。

 

国防軍にはフレック・グレイズを手に入れた時の借りがある奴がいるから、そこら辺を理由に言いくるめられていざこざに巻き込まれなければいいんだが…

 

………とりあえずお偉いさん同士が仲直りすることを期待しようか。無理か。

 

 

 

 

 

後日、依頼のメールを確認していたリーリカが難しい顔をして俺にこう言った。

 

「似たような依頼が5件来ています………いろいろ書いてはありますが、要はモビルスーツを撮影に使いたいということみたいですが…」

 

傭兵だっつってんだろ。

前のスタジオでも、護衛とか武力を売り込んだはずなんだけどな…違う意味で捉えられたか。

 

「でも、彼らの気持ちもわかります。すごい良い動きしてましたから」

「…団長たちにまた感謝することが増えちまったなぁ」

 

素直に嬉しいと言えないんだよ、この仕事…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっかの兄妹の家

 

『踏み込め!フレっくん!大魔王エッスェーユーの野望を砕くまで!』

「何見てるんだ?フウカ」

「…」

「フウカ?」

「お兄ちゃん!私これに乗りたい!」

「勘弁してよ…」

 

 

 

 

 









■『踏み込め!フレッくん!』
ヒーローショーで思ったより人気になってしまったためにアニメ化した時のタイトル。
子供にはわからないが、大人が見ればアウトに近い領域に踏み込んでる内容なので物議を醸した。
しかし勝手に敵役にされたSAU防衛軍側のお偉いさんが大爆笑してたのでまぁいっかってなったとか。
そのままなんか勢いでアーブラウの国防軍総司令官とアラスカの駐屯地司令は仲直りした。嘘だろ。
オファーが増えた理由でもある。一応立役者なので。
勘弁してくれ。




次回こそ本当に時間がかかる…と思います。
進めないといけない小説があるので。
だけど気分が乗る可能性があるのでわからないです、はい。

あと割と適当なことを書いてるので多めに見て下さい。フレッくんのフィギュアあげるので。
というかプラモでないんですかねーフレック ・グレイズ 。


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