このような作品を評価していただき、本当にありがとうございます。
当初の予定通り10話程度で終わる予定なので既に折り返し地点は過ぎてますが、残りの2人と1機の物語をごゆるりとお楽しみください。
※誤字修正と最後の方に状況補足の文章を追加しました。
「あのガランという男が、フィーシャの団員たちを殺めたというのは本当なのですか?」
私はグラスを拭きながら、隣でブラッディ・シーザーを作っているアドウェナおじい様に問う。
「さぁなぁ…そうかもしれないし、そうじゃぁねぇかもしれない」
曖昧な返事。でもきっと、おじい様は真実に近いところを知っている、もしくは察しているかもしれないと思ってしまう。
「おじい様は───」
「ん?」
「───…もし仮にそうだとしたら、フィーシャはどうすると思いますか?」
おじい様はどうするのですか?と聞こうとして止めた。聞くことに意味がない気がしたのだ。
多くの人間をその手で運んできた彼ならば、きっと多くの別れも経験したのだろう。その口元の深い皺をくしゃりと寄せて笑うおじい様を見れば、そう、思ったのだ。
この人は親しい死すらも"そういうもんだ"と割り切っている、と。
「心配か?」
その手を止めることなく私に問う。
「してないと言えば嘘になります。ですが、彼も既に受け入れているようですのでそこまでは…互いに傭兵、そういうこともあるでしょうから」
おじい様は私の返事に満足そうな視線を一瞬寄越した。
そうしてさっきのような笑みを浮かべるのだ。
「分かって来てるじゃねぇかよ。そうさ、今日の敵は明日の味方なんてよぉくある話。恨み辛みを引きずってちゃぁ必ず足を引っ張られる。あいつだってわかってるのさ」
フィーシャは地域に根付く傭兵だ、敵になったり味方になったりと変化することはそうそう無い。が、ガランのように転々と拠点を移す人間であれば話は変わってくるのだろう。
そういう根付いていない"流れ傭兵"に対して風当たりが良いとは言えないが、それでも未だこの地で動けているのならば受け入れられている証拠。
であれば"
特にフィーシャと私は余裕があるわけではない。最近ようやく軌道に乗ってきたのだ。(フレッくんに納得いってないみたいだけど)自らの首を絞める行為を、
───それが例え、仲間の仇であろうとも。
「つまり」
「何もしないだろうさ」
それはわかっていたことだ。だけど…
「…フィーシャは、少し
弱った姿を、ちゃんと見たわけではない。
それこそ、そう認識できたのは拾われた直後。あの荒野、あの時、あの瞬間だけ。
それでも、出会った頃と今とを比べればかなり差異がある。
「今は大丈夫だろう?嬢ちゃんと会う前は確かに危かったが、それでも切り替えは出来てたんだよ。じゃなきゃぁすぐさまモビルスーツを手に入れようとしたりしねぇさ。
「そうですね…」
煮え切らないような私に対して、おじい様は苦笑いしながらも答えてくれた。
「あいつは真相をはっきりさせたいのさ。後回しにし続けた憂を断ちたいってやつだ」
「あぁ、フィーシャは確かに嫌なことは後回しにしますね」
ファンレターの件とか。食事の時とか。
「それに今回はお相手さんからの接触だ…何か意図があると思って真意を確かめないわけにもいかないだろう?」
それが何よりの懸念事項なのだ。本当にあのガランという傭兵がフィーシャの傭兵団を壊滅させたのだとして、わざわざ何故、今?
ちらりとカウンターで酒を飲む二人組に目を向ける。
「そのために
「おう。あの二人以外にもいるぜ?ブランドンの野郎と親しいやつらをちょっくら呼んだのよ」
おじい様が手元から顔を上げ、店内へと視線を回す。
そうすれば何人かがジョッキを片手に手を振って自己主張をする。
「こいつらも割り切れてはいるが、
全く、あいつもガキじゃぁねぇんだぜ?とため息を吐くおじい様。
確かにさっきも、事あるごとにガランにプレッシャーを送っていたなと思う。
───かつてガランが団長さんに何かの"仕事"の話を持ってきて、断られたのは知っていたそう。
そして
軍によって調査もされた、けれど結局下手人を断定は出来なかったと。
おじい様たちは。その短い映像記録と手際の良さから軍のような組織的な部隊、又は腕利きの傭兵だと考えていたらしい。
…フィーシャが唯一、相手から聞いた言葉を考えれば"仕事"で排除させられたことになる。
どこかの軍、或いはガランがやったにしろ、他の傭兵がやったにしろ、指示
それなりの規模の傭兵を潰す仕事なんて、今の戦争を忘れた国がやるとはあまり思えない。
もちろん確証はない。だけどFleckmansは軍部からもある程度受けの良い、真っ当な傭兵団だっただけに、メリットとデメリットを天秤にかければそこまでする理由がないのだ。少なくとも
では他国からの?
一体どういう意図だろうか。国の戦力とみなして削るのが目的、というのも全然しっくりこない。所詮は傭兵なのだ。
何もアーブラウの主要な傭兵は
…だがそれは、もっと前ならばまだわかる。今は、モビルスーツがどこも配備され始めているのだ。
その上でピンポイントで狙う理由はなんだ。他の傭兵に被害が出ていてもおかしくないのに、彼らだけを亡き者にした理由がわからない。
国外の軍部という線であると、どうも不自然。
では私怨からの個人の依頼だろうか?
それならばいくらでも理由が出てきそうではあるが、目ぼしい人間は一応は調べたらしい。
表と裏の人間含めても、モビルスーツを5機も保有する傭兵団抹殺の依頼料を払える人物、或いは組織は限られている。
加えて"金の動き"というのはどうしても
それでも分からなかった。
ではもしや地球圏外の?考え過ぎだろうか…
そうなれば"仕事"という発言がフィーシャ聞き間違いか、或いはフィーシャが生きているのを知った上でわざと聞こえるように嘘をついたのかも、となるが…それを考えればきりがないか…
…他にも幾も考え得る候補の内、私は何の確証もない直感だが、そうなのではないかと思う動機が一つあった。
フィーシャの仲間の"
おじい様は、私の言葉に対して笑みを深め、こう付け加える。
或いはFleckmansのような、軍とも懇意な力のある傭兵団を壊滅させること自体が
下手人の"仕事"がどう関わって来るかはわからないが、あくまで"排除自体が仕事の目標"ではなく、"目標を達成する上で排除する必要がある人物がいた"のでは?ということだ。
やり方の不自然さ、そしてわざわざ暗殺ではなくモビルスーツでの戦闘を行った理由は周辺人物への警告、又は軍への挑発、それか…他の傭兵への"アピール"。
───Fleckmansの壊滅はそれなりに注目されていた。軍内部の人間には結構な衝撃を受けた者もいたぐらいらしい。
短時間の戦闘、現場を検証した軍も犯人を追えず、真相は謎のまま。
面倒な噂が飛び交い、一年以上過ぎた今はそれも下火だが、それでも心のどこかで
火に寄るのは無害な生き物とも限らない。むしろこの場合は
"Fleckmansを軍の追跡を逃れ葬った力"。なんとも分かりやすく
普通はそんな言葉に乗る傭兵はいないはず。だけど今は乗る"理由"がある。
"鉄華団"だ。
正確には"鉄華団"が"アーブラウ国防軍"の軍事顧問になるまでの
ギャラルホルンの社会的信用低下の影響による世界治安の悪化、それに伴い地球圏内の各国軍がモビルスーツを急配備する風潮。
一時は仕事が増えて嬉しい笑みが漏れていた傭兵たちだが、たったの一年、それだけで既に仕事が減っているのがよくわかる。
フィーシャも言っていたではないか。
───今はまだ体制が整いきってないからこそ俺の様な木っ端傭兵でも軍から
これからさらに傭兵は仕事を失うだろう。現にフィーシャのように運よく伝手が手に入らなかった傭兵もいるはずだ。そういう傭兵の行く先は、さらに大きい傭兵団に取り込まれるか、綺麗さっぱり足を洗うか…海賊に身を落とすか…
皆必死なのだ。
そして同時に軍に大きく取り入った"鉄華団"は羨望と恨みの対象。
特に構成員が"宇宙ネズミ"と蔑まれる子供たちとなれば余計に。
だからこそ、危険と知っても確かな"力"という実績を持った誘いは甘美だろうか。
どうせならと、賭けに乗る様な思考になってもおかしくないのかもしれない。
つまり人材を集めるため。しかも後ろめたい気持ちのある。
敢えて言う必要もないが、下手人は傭兵だとおじい様は思っているようだ。
Fleckmans殺しはあくまで"過程"。
そして団員に元々排除したい人間がおり、規模もちょうど良かったため
下手人はその後ろめたい実績をもって仲間を集め、何らかの"仕事"をしようとしてる。
最近精力的に仲間を集っているのは、今日この場に現れた───
───私はガランを半ば、Fleckmans殺しの犯人と確信している自分に驚く。
おじい様も同じ考えだろうと勝手に思い込んでいたが、さすがに飛躍がし過ぎた気がする。それに結局私自身が集めた情報など皆無なのだ、早計も過ぎる。
もしガランであれば、あまりにあからさまではないか…もっと冷静に考えなければ…冷静?
私は冷静じゃなかった?
フィーシャがガランに盗られ───待って、どうしてそういう思考になった?
いや、違う、行くなら私も
違う、違う。そもそもフィーシャはガランの話は受けやしないだろう。
………これはいけない。
心底そう思う。
全くもって今の日常に馴染み切ってしまっている。
情は身を滅ぼす。
何よりそうやって滅びゆく中で、なんの悔いも抱かないというのが問題だ。
だって私は、そうやってお嬢様を庇って撃たれたではないか。
───は?
「お嬢様…?」
「いや、おじい様だぜ?」
「わっ」
思考の渦から抜け出せばおじい様の顔が目の前に。
相変わらずダンディな白髭ですね。
───あら、何を思い出したのだっけ───
トントントン。ドンドンドン。
事前にフィーシャが抜けることを想定に入れて、おじい様が呼んでいた別の従業員が歩き回る音が聞こえる。
ジャズバンドは『my Favorite Things』を静かに奏でており、そろそろ酔いの回ってきた客が下品な笑い声と共に木板の床を踏み鳴らす音がバンドとは別の音楽を生み出していた。
この曲は、古いミュージカルの曲をカバーしたことで、一昔前ジャズの定番になった曲だ。
私も大分、詳しくなってしまったものだ…
家庭教師との恋の果てに、
「…もしかして、何か思い出してたか?」
「えぇ…そうなんですが…やっぱりあまり覚えていられないようです」
「早く記憶が戻るといいなぁ。さっきのといい普段の立ち振る舞いといい、絶対イイトコの出だぜ?」
「だから余計に動きづらいのですよね…」
自身の教養の高さや、無意識の気品はちゃんと理解している。
声高に自身の存在をアピールすれば、恐らく誰かが私を見つけるかもしれない。
…だからこそ自身を"探す"ために大きく動くことが危険と思えてならないのだ。
明らかに、私の最初の記憶は
───恐ろしい程の衝撃。
ひび割れた目の前のガラス。
自身が入っていた何かの溶液で満たされたカプセル。
煙の充満した白い部屋。
迫る火災。
慌ただしい声、足音、爆発音。
何もか朧気で定まらない中、ふらつく足をそれでも力強く踏み出して何かに取り憑かれるように歩いた。
斜めった地面。散乱する薬品と書類。
"優秀な脳"。TYPE‐F、被検体。
『必ず、迎えに来るから───』
『───死に損ないめ、せいぜい死ぬまで役に立つんだな』
───戻らなくては───
ただ、そう思った。その一心で、大地に叩きつけられ、火を噴き出す堕ちたあの船から抜けだした。
生きていたのも、目が覚めたのも、そして誰にも見つからずに抜け出せたのも、なにもかもが奇跡で…
そしてフィーシャと出会ったのだ。
それが何よりも奇跡的だった。本当に、本当に。
「───出会いが不審すぎんだよなぁ。病院でも脱走してきたか?」
「似たようなものです」
おじい様にはある程度話をしてはいても、
あの時フィーシャがあそこにいた理由、請け負った仕事こそが彼の唯一の"ギャラルホルン"の仕事。
『墜落船の残骸処理、及び行方不明者の捜索』
何故落ちたのか、何の船なのか一切不明。
私はそこから来たのだ。
不安になるな、と言うにはあまりに無理がある。
「…もしよぉ、全部思い出しても、
「………拾った責任を果たしてもらうつもりですので」
「
「…どんな行為にも、責任は付き纏うものなのですね…」
私も彼に助けられたせいで、このような想いを抱いてしまったのだから。
「そういうことだったのさ」
いやどういうことだ。
思考が
あの時は何とか言い返すことはできたが、やはり相当
ガランの話を要約するとこうだ。
ガランと団長はギャラルホルンの元同僚、それなりに親しい仲だった。(本当か?)
今はギャラルホルンを止めて、かつての団長のように傭兵として活動している。
だが当分は仕事を都合して貰わなければ、軍あがりの新参傭兵としては厳しいご時世だった。
しかしだらだらと引き受け続けていれば、待っていたのは傭兵を襲撃する仕事だったという。
今後の傭兵活動を考えればそれは…と難色を示したかったが、半ば頼り切っていた状態では強く出れるはずもなかった。
そして俺たちの訓練日、その時だけ随伴したギャラルホルンの偽装ゲイレールたちと共に襲撃、用意周到な完全な不意打ちによってあっという間に制圧。
そして忘れもしない
ガランは襲撃相手のモビルスーツの詳細は教えられていても、団長がいたこと自体は後で知ったらしい。
意図的に隠されていたのだろう、と言っている。(…本当か?)
そして
今回声を掛けたのも、恨まれていると分かった上でのこと。
それでも互いに傭兵、団長の元で動いていたならば優秀な人材だろうと思っていて、気になってはいた。
ようやく、諸々の決心がついたので声をかけた、と。
「………」
───本当か嘘かが、わからない。
そういうのに長けているわけじゃないが、話し方や表情じゃぁ全くだ。
恐らく、恐らくだが真実も上手く混ざっている。そしてその中に"嘘"がある…と思いたいのかもしれない。
一度目を閉じ、小さく息を吐く。
わからないのであれば、今は疑いつつも話を進めるしかない。
裏付けも何もかもは後回しだ。
「話はわかったよ」
そう静かに伝えれば、目の前の髭面の男も、どこか気まずそうに頷くばかりだ。
「何も言い訳はせんよ。軍に寄生し、そしてその寄生虫を上手く使うのがギャラルホルンだ。そんなことわかっていたことだったんだがな…」
ガランは前のめりになっていた身体を反らせ、パイプ椅子の背もたれにその逞しい背中を預けた。
参ったな、と言ったふうだが、俺も参った。
ガランは本気でそう思ってる、そうとしか見えないからだ。
「…もう過去の事だ。傭兵が戦場に出ればどう転ぶかなんてわからないのは百も承知だろう?"使い捨てられる"、そうならないように立ち回っても、結局俺たちの出る幕は戦場にしかないんだから。わかってるさ、わかってるんだよ」
それでもやっぱり、"真実"と、納得できる答えが欲しかった。ガキだな俺も。
「…今回は、別に謝罪だけじゃぁないんだろう?そう、いつまでも恐縮されちゃぁ話が進まない」
「…悪いな」
そうすると空気が変わる。
部屋の電気のスイッチのようにカチリと。
過去と未来は、俺たちの"仕事"において同居しないんだ。
「だいたい察しはついてるんだろうが、俺はお前をスカウトしに来たのさ」
「面の皮が厚いと言われないか?」
「残念だがよく言われる。…今、俺はこのアーブラウにおいて仲間を集めている。地球圏内の急速な軍拡に従って俺たちの居場所はじわじわ首を絞められるように奪われているだろう?その情勢を利用し、腕利きだが運悪く
落ちぶれた傭兵を集めてるってのは…後ろめたい仕事だろうとやってくれるからか?勘繰っちまうな。
「俺が目指しているのは───鉄華団の打倒」
「…何?」
こいつが鉄華団を
「まぁそんな顔するな。勿論こんな目標をあげたのには理由がある。ギャラルホルンから仕事を回されていたとは言ったろう?」
「今回も回ってきやがったのさ…内容は、『鉄華団とアーブラウ国防軍内に傭兵として入り込み、足を引っ張れ』、だ」
「…スパイの真似事か?ギャラルホルンはそりゃぁ鉄華団に恨みがあるだろうがよ」
「ま、そんなところさ」
「…
そう言えば、ガランは二カッと笑った。
「
満足そうな、親し気な笑顔だ。これが全て演技だった場合、こいつは相当の狸だろう。
「それにどう入り込むと?現状アーブラウ国防軍の発足式典を控えてるこのくそ忙しい時期に?」
「アーブラウとSAUの武力衝突が起こるらしい」
「─────────
しれっと言いやがって…!
こんなこと聞かせて本当に俺が頷くと思っているのか?いや、思ってるはずがない。
これは前座だ。
さっきのこと合わせてそろそろ頭が痛くなってきたが、俺はガランに先を
「俺も詳しくは知らん…この仕事を受ける危うさはわかり切ってはいたが、逆に利用するチャンスだと思ってるのさ」
「…裏切ることも念頭に入れてると思うぜ」
「そうだろうさ。だが、裏切るわけじゃない。仕事はちゃんと果たす…続きを話すぞ。どうやって、かは知らないが久方ぶりの国同士の武力衝突が起こる。それに乗じてアーブラウ国防軍に取り入れってことだが…鉄華団のガキどもは優秀とは言え、本格的に国同士の衝突に上手く対応できるとは思えん」
「そこでギャラルホルンで培ったノウハウを活かした"頼れる大人組"が参上。スパイとして情報を流しつつも、戦場で活躍することによってあんたの傭兵団は一儲け。上手くいけば鉄華団の立場に俺たちが~…なぁんて言いだすんじゃないだろうな」
「大まかにはそういうことだ」
「………で?あんたが気になってることは?」
「俺の推測だが、"普通の戦争"にはならない気がする」
そりゃ俺でもそう思うさ。ギャラルホルンが仕組んでる時点でな。
そもそも何で戦争なんざ起こすのか…
権威は落ちたが、モビルスーツ事業はそれなりのはずだ。博打が過ぎる。
いや、やつらが騒ぎを起こす理由はだいたいは───
「だからイイ感じに混ぜっ返そうと思っていてね」
「…混ぜっ返す?」
いかん、流れに乗せられている気がする。
ガランは俺の問いに頷くと、やつ自身の計画を話始める。
「ギャラルホルンの思い通りに事が進むのも
「あんたが言うと説得力が違うよ」
「皮肉を言うな。俺が思うに、SAU側に別の傭兵団…いや、ギャラルホルンの部隊が加勢することになると踏んでいる」
「証拠は?」
「地球外縁軌道統制統合艦隊だよ。エドモントンの戦いで地に落ちたギャラルホルンの威信回復にも貢献しているあの部隊だ。そこの司令官…マクギリス・ファリドだが、どうにも良い噂ばかりが過ぎると思わないか?まるで正義のヒーローだ」
「…あんたが言いたいことってもしかして…」
「あれはギャラルホルンが返り咲くために仕立て上げた存在だ、と思っているということさ」
「過去に面識は?」
「ない。確かに善人かもしれない。だが権威回復のためと立てられた
「…あんたが介入することで鉄華団の情報を流しつつ動きを阻害、ギャラルホルン介入のタイミングを作らせる。終いには余計なことを知り過ぎたあんたら諸共そのマクギリス・ファリドとやらの出世のために消されると?」
「正確には俺個人を、かもな?」
それはあり得る。
団長を殺す理由がギャラルホルンにあったと言うならば、同じ道筋を辿り、且つ汚れ仕事まで引き受けたこの男は軍の汚点。
消せるチャンスがあるならば消す。そういうことをギャラルホルンは常にやってきた。
これはかつてギャラルホルンにいた団長にも聞いた話だ。
さらには権威の回復は何よりも取り組まなければいけないことのはず。
マクギリスという男がこれを機に立ち上がった善良な美青年だと思いたいが…どうにも出来過ぎている気がするのも事実。
しかし噂では鉄華団と繋がりがあるとも聞く。
噂は噂。だがそれでももし何らかの繋がりがあった場合、あくまで戦争の調停という立場で止むを得ず参戦する形か…でなければいつも通り全てが完全なるマッチポンプで、鉄華団を利用して戦争終結の立役者になる、か。
それは
俺が以前リーリカに話したことが現実となっちまう。
ガキが自らの責任で死ぬのは勝手だが、都合よく利用されれば割を食うのはガキだけじゃぁない。
「だから仲間を集めているのさ、わかっただろう?何をしたいのか」
「…投入されてくるSAU側のギャラルホルンの部隊の、返り討ち」
「そうだ」
ただでは利用されない、ということだろうか。
戦争を止める手立てはない。
ギャラルホルンがやる、と言うならば本当に起きると考えた方がいいだろう。
そうすれば俺たち傭兵は大なり小なり駆り出される…本来ならば。
アーブラウ内だと鉄華団が軍事顧問として支援してる今、統制の取れない傭兵をちまちま雇わない可能性はある。
だから最近ガランは急に徒党を組み始めた。そして規模を大きくすることで戦争でも通用することをアピールする。
そこまではギャラルホルンの筋書き通りだろうが、ガランはさらに腕利きを集めて飼い主に牙を剥くつもりなのだ。
どうせいつかギャラルホルンが自身を消そうと動くのならば、自分も稼げて、それでいて目の上のタンコブな鉄華団を含めてまとめて追い払えそうなこのチャンスに賭けているのだろう。
それに、もしやつらの介入がなかったとしても、ここで鉄華団よりガランの傭兵団が軍にとって有用だと証明できれば、軍と言う後ろ盾によってギャラルホルンからある程度は逃れることが出来る。
加えて傭兵の価値も再認識されるかもしれない。
こういうのが嫌いそうだと分かった上で俺を誘ったのは、このいざこざに介入する手立てがこれぐらいしかないと言いたいからだろうか。
結果的ではあるが戦力としては軍の役には立つことになる。"義理立て"と言うにはスレスレだとしても。
…ん?"鉄華団打倒"を目標にしてるのは何でだ?
もしかしてガランの今言った目的を、全員が知ってるわけじゃないのか…?そうであるなら、
それ含めて色々と、危険すぎる賭けだ。確かに、全くあり得ない夢物語でもないか。
だが…
「悪いな、その話は受けれない」
「理由を聞いても?」
一つ、大きすぎる穴がその話に存在する。
それは"ガランがギャラルホルンと繋がっていない"という、保証がないことだ。
俺はやはり、こいつのことをどこか信用できない。私情じゃぁない。
ガランに関しても、
そしてもう一つ。
「俺はなぁ、最悪、傭兵家業から足を洗うことも考えてるんだよ」
ようやく、まともに未来へと目を向けられるようになったんだ。
そんなに長い間落ちぶれていたわけでもない。
そんなに長い間
だけど立ち上がるきっかけをくれた人のためにも、危険な仕事を受けないようにしようと、思ってきてしまってるから。
「あぁ…あの嬢ちゃんか?」
───何故か、何故か心臓が冷えた気がした。
ほんの一瞬だけだ。…気のせいだったのかもしれない。
…だが、傭兵にとって、その"気のせいかもしれない何か"が、一瞬で何もかもを奪ってゆくと知っている。
「そうだよ…参ったな、分かりやすかったか?」
「あの嬢ちゃんの尻を俺が見た時、ガン飛ばしただろう?」
それは明らかに俺の過失だった。
俺は何でもないように振舞う。
「あ~そう言うことなんだ、察してくれ。一か八かを仕掛ける戦いには乗れそうにないんだ」
「はははっ!そう言うことなら仕方ない!縁がなかったと諦めることにしよう。…あぁ、一応持っとけ。気が変わるかもしれないからな」
ガランは懐から名刺を出し、俺はそれを受け取る。律儀なことだ。
そしてあっさり引いたことすら怪しいと思ってしまう。考えすぎなんだろうか…だがこいつ、俺が軍に話すと考えないのだろうか?
アドウェナじいさんを通せば完全に信じられはせずとも、ある程度考慮はしてくれる。
…団長の仲間だから話す気はないと思ってるんだろうか?
あぁ確かに団長ならば静観したかもしれない、だが俺は団長ではない。以前もじいさんと金鉱将校をしょっ引くためのリークをしたばかりだ。
まだ裏付けも何も取れていないから動けないが、その結果によっては伝えなくてはならない。
───しばらくギャラルホルン時代の団長の話や、傭兵になったばかりの時の苦労話なんかを聞かされた後、時計を確認したガランが話を切り上げる。
作ってやったシーザーのグラスも、とっくのとうに空だ。
「美味かった。うちに引き込めなかったのが残念だがな?」
「じゃぁまたここに来て口説いてみるんだな。ただ、もうこういう席は設ける気はないぜ?」
「落としたいのは金じゃなくてお前さんなんだがな!わかった!またぼちぼち飲みに来るとしよう。まだまだブランドンのことも話足りないからな!」
「あんたが来ると店がピリピリするから程々にしてくれよ」
俺の言葉に豪快に笑うガランは、防音部屋の扉をくぐる。
途端に聞こえてくるジャズの音───ようやく、戻ってきた。
外に出れば、やはりガランに向けて視線が刺さる。
団長殺しの容疑者(犯人だったわけだが)が大笑いながら出てこれば、そうもなる。わざとやってるのか?
───あぁ、そうだ。一応教えてやった方がいいかもしれない。
「おい。ガラン」
「?なんだ?こいつは?」
バーカウンターを横切り、出口の扉を目指すガランの背中に、カウンターに置かれていた"フレッくん"のぬいぐるみを投げ渡してやった。
リーリカの嘆きの悲鳴が聞こえた気がしたが、無視。
「俺のバイト先だ」
意欲に関しては皆無だが。
「!?…ははは!そういうことか!全く
愛機のことはおそらく掴んでるだろう。加えて俺の言葉で確信したらしい。
さすがにフレッくんのモデルだったとは予想外だったようだ。初めて見せた呆け顔に、俺はやっと同じ人間なんだと安堵する。
そしてこれもある意味
元は
おまけに脚本はセブンスターズの………誰かは忘れたがセブンスターズだ。(俺は今でも疑っている)
調べれば、俺の至極意味不明な経歴も出てくるだろう。恐れおののけ馬鹿野郎。
───ガランが去った後、俺はリーリカが立つバーカウンターの目の前の椅子へと腰を下ろす。
そのままべったりとカウンターに突っ伏した。
気遣ってくれる、或いは詳細を求めるような視線も周りから感じたが、ただ早く癒されたかった…いやほんとあの髭おやじ…。
割り切っていても、過去から近づいて来れば思い出しもする。
忘れられるわけがない。忘れられるもんか。
俺はあの時、団長に見つけられた時から変わらない、そこらへんに掃き捨てられた綿ぼこりだ。
あの時は本当は、舞い上がるだけの風があったから、宙ぶらりんながらも生きていた。
───そう俺は、今はただ、舞い上がる理由が出来ただけなんだ。
もう一度"
「お疲れ様です。フィーシャ」
「あ~~~~~…もう二度と会いたくねぇ…待て、リーリカ…これはなんだ」
「ミルクです」
「ミルク」
「ミルクです」
「ジョッキ一杯の、ミルク」
なんで?
「頭痛にはマグネシウムが豊富な食べ物や飲み物が良いと聞きます」
「あぁ、よくわかったな頭痛いの…あのさ、せめてアルコールが入ってるやつだと」
「ミルクです」
「嬉し」
「ミルクです」
「伝わった、伝わったから」
無表情で見降ろしながらミルクミルク連呼されると怖い。
おかしいな…癒されに来たんだよな?
「…もしかして、フレッくんのぬいぐるみのことで怒ってるか…?」
「いえ、そこまで大人げないことをするつもりはありません」
「………そうか」
これはしばらく機嫌悪いだろうなぁと思いつつ、機嫌取りのためにレストランでも予約しようかと考え始める。
ミルクを飲む。一瞬、ジョッキを傾ける手が硬直する。だけどすぐに再開。
牛乳かと思ったら豆乳だった飲み物を飲みつつ、"イエローナイフ"のオーロラが見えるコテージも追加しないとダメかもしれんと計画を立て始めた。
そしてついに表情に出さずに飲み干した。
大豆にもマグネシウムはある?お気遣いどーも…
───こんなやり取りでも、悪くないと思えるのはきっと幸せなことなんだ───
生暖かすぎる視線の数々を受けながら、そろそろ働けとじいさんに尻を蹴り上げられて気持ちを切り替える。
後で色々話さなきゃならない。だけど今は少しだけ、気難しいことを後回しにしたい。
息を吐く暇もないような『クレオパトラの夢』のピアノ演奏をBGMに、どこかでグラス同士のぶつかる音を聞いていたかった。
△△△△△△△△△△
アドウェナじいさんには、ガランが団長殺しの犯人だと
過去、ギャラルホルンので同僚であり、何故殺すに至ったのか。
じいさんは目を閉じて聞いてるばかりで、特に何を言う訳でもなかった。
何も言うことなどないだろうに、俺たちは所詮、人殺しで金を稼ぐ傭兵なのだから。
それ以降にガランと話した"スカウト"の件は伏せている。
曲がりなりにも傭兵、おいそれと話すわけでもない。確証が無いからだ。
今そのまま伝えればガランの"信用"を裏切り、裏付けも取らず"傭兵仲間"にデマを流す馬鹿になりかねない。
俺たちは傭兵だ。如何に親しかろうと、線引きを忘れてはならない。
だからこそ、急いで裏付けを取らなくてはいけないわけだが。
で、だ。
あの
「パイルバンカーとは頼もしいなぁ?」
「"自作"のマチェットではそろそろガタが来そうですからね」
パイルバンカーである。
これをくれたおっさん共はこう言った。
「さっさと嬢ちゃんとやること済ましてこいよ。こいつでな!!」まじで黙れよ。
やや小型の
左腕のシールドの下部に綺麗に収まったものだからご機嫌だ。差し詰め、"シールドパイル"と言った所だろうか?上手くやれば、"切り札"になる。
「それにまだお金に余裕はありませんからね…改めてお礼をしなくては」
「そうだなぁ~。ミサイルも使った端からスモークグレネードで代用しなくちゃぁいけないぐらいだしな」
モビススーツの弾薬というのは高い。ミサイルは特に高い。一発だけでも正直えぐい。
…だから頭部のミサイルサイロをそのままに、射出機構を流用してスモークグレネードを
スモークグレネードは昔から拠点に置いてあった…言わば残り物だ。
今、俺が
元々これもFleckmansで使われていた煙幕を利用する戦術の応用だ。
懐かしい。
何故今まで使わなかったのか?
冬場だから、煙幕を利用するのを雪煙で代用していただけ…ってわけじゃぁない。
それもあるが、グレネードを射出するランチャーが一つも残っていなかったために、今まで使えなかったんだ。
まさかミサイルの弾切れを補うために頭ん中に埋め込むことになるとは…
ちなみにだが、まともなミサイルはもう一発しか残ってない。虎の子である。
「左腕に負荷がかかり過ぎな気がするが大丈夫かこれ?」
「フレック・グレイズはグレイズの
「チビだが力持ちってわけか、頼もしいねぇ」
現状右腕には110㎜ライフル。
左腕には腕部側面に貼り付けたシールド、その内側に小型パイル。加えて元々フレック・グレイズの標準装備である小型サブマシンガンを手に持っている。
小型サブマシンガンはそのサイズからシールドに隠れるので、パイルバンカー含め、相手に見せないように立ち回るのが理想。
グレイズ用のブースターもある───継ぎ接ぎだらけの時代を思えば、中々様になってきたものだ。
「パイルを打ち込むための一連動作もOSに書き込まなきゃなぁ」
「しばらくはそっちでも忙しくなりそうですね」
「悪いな。だがガランの話の裏付け方も、こっちも
「いえ、お気遣いなく」
さっさとやろうと言わんばかりに、リーリカはコクピットの端末を操作する。
…以前はケーブルに繋がれた携帯端末でやってたんだが…今日はなんか近くない?いや、俺は大歓迎。しかしその手際の良さは以前に増して良い。
───俺は開きっぱなしのコクピットに座りながら、テストモードで"ヴェーチェル"の左腕だけを動かし重量の間隔を掴む。フレーム的に問題ないとは言え、動作のラグは出る場合があるからだ。
ああ、コクピットに座ってるんだ。
…リーリカはコクピットの縁に腰かけながら身を乗り出して端末を操作している。
…いや近過ぎない?
お礼言うか?
そんなサービス精神旺盛な状況で作業しているにも関わらず、やはりどこか気品がある。
じいさんはイイトコのお嬢さんだろうなぁなんて言ってたが、俺はどちらかというとイイトコなのは変わらないがそのお嬢さんに仕えているイメージがでかい。
出来る侍女頭ってとこか?どうしよう、イメージに合いすぎる。でもメイド服より執事服の方が似合いそうなのは仕様だろうか。
煩悩をさらなる煩悩で封じ込めるという意味のない戦いをしながら挙動の動作確認を続ける俺は…───違和感に気が付いた。
流していたラジオが止まっていた。
───いや、電源はついている。雑音が聞こえるのみで、いつも聴いてる放送局のジャズは流れていない。
このご時世、ラジオの電波が悪くなるなんて古い時代の映画みたいなことなんざそうない。ないのだ。
"エイハブリアクターの稼働している場所では通信障害が出る"
だから今やってるテスト稼働は、内蔵された予備電源用の水素エンジンから供給して左腕だけ動かしてるのだ。ジャズを聴くために。
そしてその時動けたのは傭兵としての、そう、勘だった。
その"気のせいかもしれない何か"が、一瞬で何もかもを奪ってゆくと俺は───
「…っ!?───リーリカッ!!!」
「え─────────」
次の瞬間には、俺たちのいる倉庫は轟音と共に崩壊した。
奪われるのはいつだって、突然なんだ。
最近忙しい癖にまた新しいのを始めたせいで、更新速度がさらに遅くなってしまってます。
一応順番に更新するようにしてるんですがそのせいでどれも終わらないという。これはひどい。
ここ数ヶ月高頻度で終電がオトモダチなので許して下され。
■ガラン・モッサ
昔話を聞いてる限り、団長とは本当に仲が良かったのかもしれない。
色々喋った割に、あっさり引いた。
二度と会いたくねぇ。
■フレッくんのぬいぐるみ
髭おやじに献上された。
■映画と音楽について
『my Favorite Things』:『サウンド オブ ミュージック』で使用された曲の一つをビル・エヴァンスがカバーしてジャズの定番になってます。
『クレオパトラの夢』:バド・パウェルのピアノ曲。彼が何故なぜ"クレオパトラ"を曲名に使ったのかはわからないらしい。