赫灼の鬼   作:篤志

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鬼との邂逅

カァー、カァー

 

上空を飛ぶ烏が俺に向かって鳴く。

 

「テルキチ!テルキチ!手紙ダァヨ!」

 

叫びながら俺の肩に止まる。足には手紙が括り付けられていた。

 

「お前、六三郎か?」

 

歳を取った烏だ。鳴き声も嗄れ、痩せている。こいつに俺は見覚えがある。・・・昔、俺に付いていた鎹烏だ。

 

「鬼ニナッタンダナァ!テルキチ!」

「長生きだなお前・・・それと、忘れたのか?俺の名は”てるよし“だ。」

 

烏の足から手紙を外し、内容を読む。

 

御館様からの手紙だった。

 

 

 

前略

 

隊士復帰に当たり、貴殿の階級は甲とす

 

加え、鎹烏を付けることとす

 

名 八右衛門六三郎

 

鬼を見つけ次第鬼狩りを決行すべし

 

逐一報告不要

 

草々

 

 

「お前は俺と御館様との連絡係か。」

「老イ先短イ鳥生ダ!存分ニ、コキ使エ!テルキチ!!」

 

鬼の俺が他の隊士と共同任務など出来るはずもない。俺は必然的に単独行動となる。

万が一、任務と重なった場合は・・・俺自身が鬼と判別された時にどう対処するかだ。階級が低い隊士ならばどうとでもなる。階級が上位、特に柱となると厄介だ。背後からの攻撃を躱しながら鬼の頸を切る?どう考えても不可能だ。俺が頸を落とされたら意味がない。

 

どうするべきか・・・

 

十二鬼月以上の鬼と遭遇する時は近くに柱が居る可能性が高くなる。

柱に見つかる前に鬼を殺す?出来るだろうか。神楽と呼吸を使えば父の教えに背く事になるが、可能ではある。既に手段など選んではいられない。ここ最近、以前にも増して鬼の数が爆発的に増えている。それを考え、俺は決断した。

 

『迷ったら死だ。』

 

師匠の言葉が脳裏を過る。

 

「足ガ遅イゾ!テルキチ!鬼ダ!鬼ガイル!」

 

ふと我に帰り、訝しげに鳴く六三郎の頭を苦笑しながらひと撫でした。俺は今、人気の無い夜の街を歩いている。人っ子1人居ない道を進むと、目的の鬼が人の肉を喰っていた。

 

「何だァ?」

 

鬼は俺の存在に気づき、こちらを向く。口周りに着いた人の血が滴り落ち、俺は顔を歪めた。

 

「鬼舞辻無惨は何処にいる。」

 

俺がその名を出すと訝しげに俺を睨みつけ、その名を口にしようとする。だが、何かに怯える様にガチガチと歯を鳴らすだけだ。

 

「な・・・何故だ・・・テメェは何だ!」

「その名を口にできないのが不思議そうだな。」

 

抵抗する鬼の頸に刀を当てて俺は更に問いかける。

 

「十二鬼月は何処にいる。」

「何なんだ!何なんだよテメェはよォ!!!」

 

唾を撒き散らし叫ぶ鬼に当てた刀を滑らし、そのまま頸を落とす。

 

「鬼狩りの鬼・・・だとォ・・・」

 

消滅していく鬼を一瞥し、休む間もなく別の鬼を探す。

しばらく走っていると、鬼殺隊と鬼が争う音が聞こえてきた。随分苦戦しているようだ。

 

俺は狐の面を被り、鬼と対峙する鬼殺隊の隣に立つ。その間に鬼の腕を1本落とす。しかし、実体ではないのか鬼の姿が消えた。

 

「苦戦しているようだな・・・助太刀する。」

 

音もなく現れたように見えたのか、俺を見て言葉が出てこない。少し間が空き、ハッとした様に返答した。

 

「あ、有難うございます!自分は村田と言います!階級は辛です!」

「そうか。十二鬼月ではなさそうだが、厄介な血鬼術だな。」

 

俺は柄に手をかけ、腰を落とす。

 

「あの、貴方の階級は・・・」

「『水の呼吸、陸ノ型 ねじれ渦』」

 

鬼の気配を感じて全周囲に刀を振るう。手応えは微かにあった。しかし、肝心の鬼の姿が見えない。

俺は徐に村田と名乗った隊士の襟首を掴み、後ろへ引き倒す。何の抵抗もないまま村田は後ろへ倒れた。

 

「なっ!何すんですか!!」

 

そう叫ぶ村田の先ほどまで立っていた場所に地面から鬼の腕が2本生えていた。

 

「弱え奴から仕留めようと思ったが仕損じたか。オイ鬼狩り共、さっさと俺に食われろ。ん?面の鬼狩り・・・お前ェ人間か?」

 

何も無い土の地面から這いずり出てくる鬼。恐らく地面の中を自由に動き回れる血鬼術だろう。俺は腰を落とし、構える。やはり鬼が鬼と認識する前に決めねばな。

 

「村田、お前は水の呼吸を使う隊士だろう。型は全て頭に入っているか?」

「い、一応は・・・。」

 

村田にも刀を構えさせ、俺は鬼の出方を見る。

 

「俺の動きに死ぬ気で合わせろ。奴の頸を落としさえすればお前は晴れて庚だ。気を抜くなよ?」

 

覚悟を決めた顔になった。いつでも行ける。俺は鬼が地面に潜る瞬間を見逃さなかった。

 

「『水の呼吸、漆ノ型 雫波紋突き』」

 

最速で鬼の胴体を貫く日輪刀。俺はそれと同時に村田に向かって叫ぶ。

 

「迷うな!頸を落とせ!」

「うおおおおお!!『水の呼吸、壱ノ型 水面切り』!!!」

 

村田が振った刀は身動きが取れない鬼の頸を落とす。そして残った身体が焼ける様に消滅した。

 

「ハァ・・・ハァ・・・やりました!やりましたよ!これで俺も庚だー!」

 

肩で息をする村田は俺を見て頭を下げる。

 

「有難うございました!貴方がいなかったら今頃どうなってたか・・・」

「気にするな。良くやった。」

「あの・・・この後、隠に報告しないといけないんですが、どうしますか?」

 

俺はこれから来るであろう隠に会うつもりはない。村田に任せてすぐにこの場を去ろう。

 

「すまないが、次の任務の場所へ向かう。後の事は頼む。」

「分かりました!俺が責任を持って報告します!ってあれ?」

 

俺はすぐさま血鬼術を使って身体を消した。意識はまだ村田の側にあったが、それよりもなるべく早くこの場から消える事を優先した。

物凄い速度でこちらに向かってくる気配が一つ。そう遠くない距離だ。そう考えていると足音が止まった。

 

「君!ここに鬼がいなかったか!」

 

溌剌とした声に派手な髪色。その姿を見て俺は思わず声が出そうになる。

 

「えっ?なんで?!煉獄様?!?!いっ・・・いえ!鬼は先ほど他の隊士の方と一緒に倒しました!」

「そうか!しかし、他の鬼が近くにいるかもしれん!警戒を怠らない様に!」

 

煉獄と呼ばれた青年は俺が良く知っている男と瓜二つだ。だが、槇寿郎にしては若すぎる・・・という事は、息子の杏寿郎だろうか。何度か煉獄家に出入りしていたので覚えている。瑠火殿に促されこの腕に抱いたこともある子だ。利発そうな子だと思っていたが、今の佇まいを見るに柱に近い実力を持っている様だ。

 

「『炎の呼吸、壱ノ型 不知火』」

 

杏寿郎の日輪刀が姿を消した俺目掛けて振り下ろされる。・・・やはり柱には俺の存在を認識されないように動かなければならない。共闘は難しいと再認識する。

 

「む?確かに鬼の気配を感じたが・・・杞憂だったか?」

 

振り下ろされた杏寿郎の刀を避けた俺は彼が俺の存在を完全に捉える前にその場から去る。

上空では六三郎が羽ばたき、御館様の屋敷の方角へ飛んでいくのが見えた。

 

 

 

それからも俺は毎日、日没から夜明けまで鬼狩りを続けた。鬼の身体は休息を必要としない為、鬼を刈らない日はない。その間、何度か鬼殺隊の任務と重なったこともあった。勿論、柱もいたが俺の存在は認識されないように立ち振る舞った。

 

鬼狩りとして復帰し1年ほど月日が経った時、俺は奇妙な鬼達を見た。

 

賑やかな夜の街を歩く2人の男女の鬼。少年と着物の女だ。大抵、鬼からはその強さに関係なく、人間の腐った匂いのような不快な気配がするものだ。だが、その鬼達は違った。人の血肉を食べていないのか、鬼の気配は限りなく薄い。俺は日輪刀に手をかけ、その訳を尋ねるべく俺は2人に近づいた。

 

何が目的で人に紛れて生きているのか。返答次第では鬼達が血鬼術を使う前にその頸を落とす。

 

俺は女の鬼の背後に立った。

 

「お前達は鬼か?」

「貴方も鬼でしょう?」

「何者だ!何故鬼が鬼狩りのような真似事をしている!」

 

振り返り、こちらを睨む2人の鬼。少年は女を守るようにして俺の方へ一歩踏み出す。

威勢はいいが怯えているように見えた。

そうか・・・少年は俺が抜こうとしている日輪刀に警戒しているのか。

 

「何故人に紛れて生きている。」

「鬼殺隊の剣士が鬼となったのですか。貴方・・・今まで何人の人を食い殺しました?」

 

俺はそれを聞いて柄を持つ手に力が入った。かつてない程に腹が煮え繰り返る。俺が人を喰っただと?巫山戯るな。

腕の血管が浮かび上がり、呼吸をすると音を立てて鳴る。

 

「俺を奴等の様な有象無象の鬼と同列に語るな・・・殺すぞ。」

「兪史郎!避けなさい!」

 

抜刀と共に俺はまず刀を横薙ぎにし、目の前の少年の脚を根本から両断する。崩れ落ちる少年は痛みに叫んだ。鬼の身体であるにも関わらず、治りが遅い。好都合だ・・・貴様等に血鬼術など使わせる暇は与えてやらん。

 

「貴方は・・・鬼でありながら鬼殺をしているのですか・・・」

「『ヒノカミ神楽、円舞』」

 

女が何か呟いたが、俺の舞は止まらない。刃が女の頸を刈り取ろうとした瞬間、六三郎がけたたましく鳴いた。

 

「テルキチ!ソノ鬼ハ殺スナ!!殺スナ!!御館様カラノ伝令ダ!!殺スナ!殺スナ!」

 

寸前でピタリと刀を止める。女の首から血が一筋流れた。

 

「もう一度聞く・・・お前達は鬼か?人か?どちらだ。」

 

そのままの体勢で質問を投げた。女は目を伏せて一息置いた後、俺を見る。その目には鬼には無い、人の心が現れていた。

 

「私は鬼です。しかし、人を救いたいと思っています。・・・鬼がそう思うのはおかしい事でしょうか。」

「貴様ァ!珠世様から離れろ!」

 

俺は女の頸に当てていた刀を下ろし、刀についた少年の血を払う。先程までの怒りは既に治まっている。

 

「そうか。ならば俺にお前達を斬る理由は無くなった。」

 

踵を返して立ち去ろうとした時、女が俺を呼び止める。

 

「お待ち下さい!」

「何故ですか!珠世様!」

 

抗議する少年の横で彼女は頭を下げた。

 

「同じ鬼でありながら、私達と同じ人を喰わない貴方の話を聞かせて頂けないでしょうか?」

「条件がある。・・・俺が話をする代わりに、鬼舞辻無惨の情報を教えろ。」

 

ここから珠世と兪史郎という2人の鬼との交流が始まった。

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