赫灼の鬼   作:篤志

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翁烏とかまぼこ隊

未だ鬼舞辻無惨の足取りは掴めていない。鬼狩りを再開してから2年が経とうとしているが、鬼の数は更に増えている気さえする。

 

やはり、御館様に願い出て俺の存在を鬼殺隊に認めて貰うしか方法は無いのかもしれない。いくら力が有ると言えど所詮は鬼一匹。虱潰しに鬼を狩ったとしても奴が出張ってくる保証はない。焦りだけが募るばかりだ。

 

一方で、先日師匠から六三郎を使って知らせが届いた。

 

炭治郎が無事に最終選別を突破し鬼殺隊として任務に着いたとの事だ。日除けの箱に禰豆子を入れて連れているらしい。俺は嬉しく思い、六三郎に祝いの品を渡して炭治郎の元へ飛ぶよう指示する。

 

「行けるか?六三郎。耳飾りを付けている若い隊士にこれを渡せ。名は炭治郎だぞ?間違えるなよ?」

「年寄リ扱イスルナ!テルキチ!儂ハマダ若イ!ガァーッ」

 

20年近く生きている六三郎の嗄れた声のどこに若さがあるというのか。この前など雨の日に飛んだせいで1ヶ月も風邪を引き御館様の屋敷で世話になったというのに。

 

「行ッテクルゾ!儂ニカカレバ鷹ヨリモ速クトベル!!!ゲホッゲホッ!」

 

飛び立つ六三郎はノロノロと高度を上げ、遠ざかっていく。あれのどこが鷹だ。呆れて溜息が出た。

 

六三郎を見送って下を向く。そこは地面より少し高く土が盛られており、周りには小さな花が所狭しと咲き誇っている。俺はその場所に静かに手を合わせ目を閉じた。

 

 

 

 

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「オイ!権八郎!俺と勝負しろ!」

「さっきから名前を間違えすぎだ!俺の名前は炭治郎だ!た!ん!じ!ろ!う!」

 

同期の善逸との共同任務より先に現地に入っていたもう1人の同期である伊之助は任務が終了した後、山から降りながら俺に勝負を仕掛けてくるようになった。

まるでもう1人大きい弟ができた気分だよ。

 

「俺は間違ってねえ!そんな事よりお前の頭の硬さと俺の頭の硬さどっちが硬いか勝負だ!紋三郎!!!」

「違うって言ってるだろ!」

 

名前を間違えては訂正するという事を繰り返しながら俺達は藤の花の家紋の家にたどり着いた。もう辺りは真っ暗だ。

 

「キューソク!キューソク!」

 

や・・・やっと休める・・・初任務からずっと休んでいないから体がもうボロボロだ。骨も折れてるし、何よりあったかい布団でぐっすり眠りたい。

 

案内をしてくれるお婆さんについて行こうとしたその時、善逸が後ろを振り向いて辺りをキョロキョロと見回した。

 

「なあ、炭治郎。この音何だろう?」

「どうした?善逸?何が聞こえるんだ?」

「んー何だか、爺さんの全力疾走の後の息遣いと言うか・・・今にも死にそうな音?」

「え?!?!大変じゃないか!」

 

そうしていると随分と嗄れた声が聞こえてきた。振り向くと、よく落ちないなという速度でフラフラと飛ぶ一羽の鎹烏がこちらに向かってきてる!

 

「ゼハァ・・・ゼハァ・・・ヤットミツケタ・・・」

 

そう呟くと力尽きたように鎹烏は俺の手の中に収まった。

 

「し・・・死んだァァアアア!!!」

「どうすんだ!!!どうすんだよこれェ!」

「あン?鳥鍋にでもして食えばいいじゃねェか。でも痩せてんなコイツ・・・出汁にしかならねェな!ガハハハハハ!」

 

縁起でもない事を言うな!俺は伊之助の頭にゲンコツを落とし、案内のお婆さんにこと切れた鎹烏を見せた。

 

「すいません、この鎹烏お願いできますか?」

「おやおや、六三郎さんですねぇ。また照吉さんの言付けですかい?」

「えっ?生きてんの?!コレ?!」

 

確かにまだ生きている生きている匂いだ・・・けど、これじゃもう長くないんじゃないかな。

心配で覗き込んでいると、死んだ様に目を閉じていた鎹烏がクワッと目を見開いた!

 

「耳飾リノ若イ隊士!オ前カ!テルキチカラ鬼殺隊入隊ノ祝イヲ預カッテイル!受ケトレ!ゲハァ!」

 

突然元気いっぱいに喋り出したかと思うと、口から俺の手に向けて巾着袋が吐き出された!なんで鎹烏は皆、人に渡すものを腹に入れてるんだろう?受け取る方の気持ちも考えて欲しい。ほら、見てる善逸の顔も受け取りたくないって顔をしてる。

 

「これがお祝い?というか、テルキチって誰だろう?」

「知らない人からの贈り物・・・怖ッ!あっ!でもでもぉ〜知らない可愛い女の子からって考えたらそれはそれでアリかも!」

 

相変わらずだな善逸。でもこれどっかで見たことある巾着袋なんだよな・・・。新しくないし、誰かが使っていた形跡もある。

そんな物をテルキチさんって言う人が何で俺にくれたんだろう?

 

「儂ハ腹ガ減ッタゾ!オマエヲ探スノニ何モ食ッテナイ!飯ヲヨコセ!ゼンザブロウ!」

 

だ、誰?ゼンザブロウ?善逸じゃないし、お婆さんがそんな名前な訳ないし・・・

 

「耳飾リノオマエダ!早ォセイ!ジュンイチロウ!」

 

まさかの俺だった!伊之助みたいに毎回呼び名が変わるなんて、しかも郎のところしか合ってないし!

 

「分かったよ。ハァ、やっと休めるって思ったのに最後にこんなに疲れるとは思わなかったなぁ。」

「マダマダダナ!カンタロウ!テルキチハ毎日鬼狩リダ!一日モ休ンデナイゾ!」

 

現役の隊士って凄いんだなぁ。階級はどの位なんだろう。

 

「嘘だね!鬼ならまだしも人間が休み無しで鬼狩りなんか出来るもんか!絶対サボってるよ!」

「いや!この俺なら出来るぜ!弱味噌が出来ねえって決めつけんじゃねえ!」

「皆さまお疲れでしょう。さあどうぞ、お入りくださいませ。」

 

突然始まった2人の喧嘩を遮って、お婆さんは家の中に案内してくれた。俺達3人と何故か巾着袋をくれた六三郎さんも一緒に通された。部屋にはすでに料理が用意されているようだ。4人分の。

 

「お食事でございます。六三郎さん、今日は御膳は海の幸を使っておりますよ。ごゆっくりお寛ぎ下さいな。」

 

何故か六三郎さんが一番に労われている。まあ、お爺ちゃんの鎹烏だからお婆さんも気を遣ってるのかな?・・・って!カラスだよ!鳥だぞ?!しかも六三郎さんの御膳にだけ酒があるし!まるで本当の人間のお爺ちゃんみたいじゃないか!

 

「ガァーッ!生キ返ル!天プラモ美味イ!カッカッカッカ!」

 

器用に笑い声をあげる六三郎さんに善逸は妖怪を見るような目を向け、伊之助は六三郎さんの人間臭さに目を輝かせている。

 

「紋逸!紋八郎!ジジイガラスが人間みたいに飯食ってやがる!フハハハハハ!おもしれーなァ!」

「どうなってんだよ・・・あり得ないだろ。どっからどう見てもカラスだぜ?喋るだけでも気味悪いのに・・・これじゃカラスの鬼って言われた方がしっくり来るよ。」

 

善逸の言う通りだと思う。鬼の何かしらの血鬼術なら納得できる。それほどに六三郎さんは鎹烏の中でも普通じゃ無いんじゃないか?

 

「テルキチモ来レバ良カッタノニナァ。」

「その、テルキチさんは何で俺にお祝いをくれたんですか?俺、鬼殺隊に知り合いなんて居ないのに。」

 

そう、知り合いといえば鬼殺隊に入隊するきっかけとなった冨岡さん、鱗滝さん、同期の善逸、伊之助くらいだ。まだ片手で数えられる。

 

「ア?オマエハテルキチノ家族ダロウ?」

 

六三郎さんは呆れた風にそう言うと、酒が入った徳利に頭を突っ込んで逆さまにした。そしてそのまま飲み始める。と言うか、飲んでいるのか顔から浴びているのか分からないんだけど!

 

全て飲み切ったのか、徳利から頭を抜きそのまま後ろに倒れた。

 

グガァアアアア!ゴオオオオオオオ

 

えっ?!これイビキなのか?

 

「意味わかんねーんだけど!何だこのカラス!ぜーったいにカラスじゃねぇよ!」

「面白ぇ!面白ぇ!!!」

 

ひっくり返った六三郎さんはすぐには起きそうにないので俺達3人はゆっくりと食事を楽しんだ。

 

六三郎さんの飲みっぷりですっかり忘れてたけど、テルキチさんって本当に誰なんだろう?

 

 

 

寝静まった頃、俺は目が覚めて禰豆子が箱の中にいないことに気づき、焦って障子を開けた。

 

「夜風ガ気持チイイノウ」

「むーむ?」

 

縁台に禰豆子は座っていた。膝の上には六三郎さんがいる様だ。何か会話をしているみたいだ。

 

「むー!」

 

俺に気づいた禰豆子は振り向いて抱きついてきた。六三郎さんは禰豆子の膝から降りて俺の顔を見て言った。

 

「ヤハリ、テルキチノ家族ダナ。入隊シタ頃ノアイツニヨク似テル。」

 

六三郎さんは懐かしいという感情の匂いに少し辛そうな匂いが混じっていた。俺が出会った人の中で初めて会った時にそんな感情を抱いた人がもう1人居た。

 

鱗滝さんだ。もしかすると、あの人も俺を見てそのテルキチさんに似ているって思ったのかもしれない。でも、俺はテルキチさんを知らない。六三郎さんは家族だって言ってるけど俺の家族は禰豆子だけだ。他の皆はもう居ない。

 

「そんなに似ているんですか?俺とその人。」

「テルキチノ方ガオマエヨリ強イ!アト、大人ダ!ソレニ、テルキチハ人デハナイ!」

 

なっ?!俺は顔のことを言ったのに!それに人じゃ無いって・・・まさかテルキチさんって六三郎さんの鎹烏仲間とかじゃ・・・

 

「アイツハ禰豆子ト同ジ鬼ダ。ダガ人ハ食ワン。御館様ト同ジ志ヲ持ツ鬼殺隊ノ一員ダ。」

「え?鬼が・・・鬼が鬼殺隊に居るんですか?!」

 

六三郎さんは俺を見て汗をダラダラと流し始める。お酒の酔いがまだ残ってるのかな?

 

「コレ秘密ダッタ・・・今ノナシ!忘レロ!酒ニ酔ッタジジイガラスノ戯言ダ!妄言ダ!忘レロ!タンジュウロウ!」

 

その名を聞いて、俺は違和感を覚える。それは俺じゃ無い。父さんの名前だ。

 

「俺の名は炭治郎です!炭十郎は父の名です!何で六三郎さんがその名前を知ってるんですか?!」

「クソ!テルキチノ奴メ!謀ッタナ!昔カラテルキチカラ名前ダケ聞イテイタセイデ思ワズ出タ!」

 

何故か六三郎さんの怒りがテルキチさんに向けられる。そんなことよりその人の正体が知りたい!

 

「お願いします!六三郎さん!テルキチさんは鬼になっても鬼殺をしているんですか?人を襲わずに?!」

「儂ハ知ラン!ドウシテモ聞キタイナラテルキチニ直接聞ケ!儂ハ帰ル!」

 

そう言って、来た時と同じ様にフラフラと落ちそうになりながら六三郎さんは飛び立った。遠ざかる姿を見て隣にいる禰豆子は手を振る。

 

「夜風に当たりすぎると冷えるだろ?中に入ろう。」

 

禰豆子の手を引いて部屋に戻りながら俺は考える。

 

六三郎さんが言ったことが本当ならテルキチさんに直接会って確かめてみるしか無い。鬼殺をしていればいつかは会えるはず。そして、鬼を人に戻す方法を知らないか聞いてみよう。六三郎さんに次会ってもはぐらかすだけだろうし・・・

 

というか、六三郎さん、最後まで俺の名前間違えてたな。お爺ちゃんだから仕方がないかもしれないけど。あれ?もしかしてテルキチさんも名前を間違えて呼んでたりしないよな?本当の名前は違うとか?いやいや、それは流石に・・・あり得ないよな?

 

俺は布団に入って、今日貰った巾着袋を眺めた。何でこれをくれたのかもわからずじまいだったなあ。何か意味がある物なんだろうけど・・・

 

そういえば昔、父さんがキセルを入れてた巾着袋がこんな感じの柄だった。凄く大切にしてたのを覚えている。

そうそう、これみたいにほつれた所を母さんが何度も縫って使ってたなあ。

この市松模様の布の部分は母さんが俺の服を作った時に余った布で当てて直したところだな。

あ!この当て布は禰豆子の着れなくなった服を切った物だ。そうそう!母さんが禰豆子に言わずに勝手にやったせいで1日禰豆子が母さんと口をきかなかった・・・そんなこともあったなあ。

そして、この破れかけたところは竹雄が父さんに内緒で巾着袋だけ持ち歩いてどんぐり入れにしてた時に転けて破ったところだ。あの時は父さんの怒った顔が怖かった。

この分厚くなってるところは花子が母さんの真似をして父さんのために縫ってあげたところだな。初めてにしては上手だって母さんも褒めてた。

裏地は確か、母さんが茂に柄が何が良いか意見を聞いた時にたまたま六太も聞いていて2人の好きな柄の布を使ったって母さんが言ってたな。あ、本当だ。半分ずつ2人の好きな柄になってる。

 

そこでふと我に返り、巾着袋をよくよく眺めた。これを渡された時に感じた既視感が現実となる。

 

・・・これは、本物の父さんのキセル入れだ。俺たち家族の思い出が詰まった大切な物だ。

 

気づいた時には思わず胸に抱きしめていた。するとまるで、もう居なくなってしまった皆が寄り添って俺を見守ってくれている様に感じた。

 

有難う。俺、皆のお陰で頑張れる。必ず鬼舞辻無惨を倒して禰豆子を人間に戻してみせるよ。

 

俺と禰豆子にとってこんなに大切な宝物をどうしてテルキチさんが持っていて俺に贈ってくれたのか分からないけど、必ず会って、お礼が言いたい。テルキチさんのおかげでまた一つ心の支えが増えた。

 

テルキチさんが例え鬼だとしても俺は見て、感じた事を信じる。いつになるかわからないけど絶対に会いに行こうと心に決めて俺は目を閉じた。

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