赫灼の鬼   作:篤志

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柱と赫灼の鬼

「よく来たね、私のかわいい剣士達。」

 

半年に一度、鬼殺隊最高位の柱九名を召集し鬼殺隊最高責任者当主の屋敷で行われる柱合会議。

謁見の間に姿を現した今代の産屋敷家当主産屋敷耀哉に柱一同、寸分の狂いなく頭を垂れる。

 

「お早う皆。今日はとても良い天気だね。1人も欠けることなく今日の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ。」

 

穏やかな口調で話す耀哉に対し柱の1人が口を開く。

 

「御館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」

「ありがとう実弥。」

 

ゆったりと座敷に座るのを見届け、口上を述べた柱、現風柱である不死川実弥は耀哉に向かって更に言葉を続ける。

 

「恐れながら、会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた鬼殺隊士について御説明していただきたく存じますが宜しいでしょうか。」

 

不死川は自身の横にいる鬼殺隊士、竈門炭治郎の頭を無理矢理地面に押さえつけている。

 

「その前に、もう1人隊士を呼んでいるんだ。彼も交えて説明しよう。」

「御館様は柱合会議の場に他の一般隊士を参加させるおつもりか!」

 

柱の1人、炎柱煉獄杏寿郎は溌剌とした口調で異議を唱える。

 

「そうだよ杏寿郎。彼はこの件に関して決して無関係では無い。隊士の名は竈門照吉。」

 

名を口にすると杏寿郎の表情が驚きに変わる。他の柱はその名を聞いてもあまりピンときていないようだった。

 

「・・・その方は父上との共同任務で上弦の討伐中に殉職なされた筈!御館様!何故その名が出て来るのです!」

「オイオイ、竈門って事はそいつはそこに居る地味なガキの身内か?」

 

杏寿郎の驚きに次に声を発したのは煌びやかな装束を身に纏う柱、音柱宇随天元だ。宇随の疑問に炭治郎が声を発する。

 

「俺はその人の事知りません!」

「杏寿郎の言う通りだよ。今から15年前、十二鬼月の目撃情報を手に入れた当時の産屋敷当主からの命で先代の炎柱と当時階級が甲だった竈門照吉が討伐に当たった。遭遇したのは上弦の壱だったと言われている。その任務で照吉は遺体も残らず、凄惨な戦いの跡と切り落とされた脚だけが現場に残っていた。杏寿郎、君の父上も私の父も私も当時の鬼殺隊の皆が彼の死を悼んだ。」

 

その場にいる全員が息を呑む。柱に与えられる任務の内、十二鬼月と遭遇する任務は稀にある。しかし、その殆どが下弦以下の鬼である。上弦は皆無に等しかった。

 

「それから十数年の月日が流れ、2年前のある晩に死んだはずの彼が私の目の前に現れた。当時のそのままの姿でね。」

「嗚呼・・・なんと悲しき事。その隊士は鬼となったのですね・・・」

 

一際体の大きい男、岩柱悲鳴嶼行冥はその両目から滝の様な涙を流す。

 

「そうだ。俺は鬼となった。」

 

背後から聞こえてきた声に柱達はすぐさま振り向き、柄に手をかける。声の主の姿を見た瞬間、その場に居た耀哉を除く全員が驚きを隠せなかった。

 

そこには件の鬼である竈門照吉が立っていた。赤みがかった髪と瞳。首から迫り上がってくる揺らめく炎のような痣。顔立ちは炭治郎に何処となく似ている。そして何より柱達は今しがた鬼であると聞いたにも関わらず、太陽の光を浴びて尚、消滅していない事に言葉を失う。

 

「御館様!今すぐ討伐の許可を頂きたい!」

「うそ・・・太陽に晒されても消滅しないの?反則じゃない!」

 

杏寿郎が叫び、恋柱甘露寺蜜璃が驚きの声を上げる。同時に不死川が抜刀し駆け出した。そしてもう1人同じように照吉に斬りかかった柱がいた。

 

「太陽の下で動けるなんざ関係ねェよ!鬼なら日輪刀で首を斬れば消滅すンだろ!」

「同感だ不死川。鬼は全て残らず滅殺する。」

 

口元を包帯で隠し、首に白蛇を巻いた蛇柱、伊黒小芭内だった。照吉の首を狙って日輪刀を振るう2人の柱。何の動きもないまま照吉の頸に刃が触れようとした瞬間、その姿が掻き消えた。

 

「なっ?!」

「血鬼術か・・・何処へ行った!」

 

周りを見渡す2人の柱。それに加えて残りの柱達も刀を抜き、戦闘態勢に入る。

 

「皆、刀を納めるんだ。」

「そうはいきません!そいつは鬼です!いくら御館様と言えど了承しかねる!」

 

姿の消えた照吉はいつの間にか耀哉の隣に立っていた。緊張が走る。不死川の鬼気迫る表情に耀哉は静かに話し始めた。

 

「照吉のことも含めて話すよ。みんな落ち着いて私の話を聞いてくれるかい?」

「鬼は鬼です!御館様!俺にその鬼を斬らせてください!」

 

照吉に向かって今にも斬りかかろうとしている柱は不死川だけでは無い。その場にいる柱の殆どが柄に手をかけている。それを堪えて耀哉の言葉を待った。

 

「皆には照吉と禰豆子、2人の存在を認めてほしいと思っている。」

 

静寂が辺りを包んだ。その中で耀哉の声だけが響く。

 

「にちか、手紙を・・・」

「はい。元水柱、鱗滝左近次様より御手紙を預かっております。一部抜粋して読ませていただきます。“炭治郎が鬼の妹と共にあることをお許し下さい。禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を喰わずそのまま二年以上の歳月が経過致しました。俄には信じ難い状況ですが事実です。もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は竈門炭治郎及び、鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫び致します。”」

 

元水柱、現水柱の両名が鬼に自らの命をかけていると知った他の面々はそれぞれ多種多様な表情を見せた。その中でもやはり鬼に対しての怒りが治まる気配がない柱が2人いる。

 

「死にたいなら勝手に死に腐れよ。喰われた命は戻らず、ただ罪のない人間が死ぬだけだろうが。」

「俺は鬼など信用しない。」

 

耀哉は静かに頷いた。

 

「禰豆子の事は手紙の通りだよ。この2年間人を襲っていないのは事実だ。確かに、これからも禰豆子が人を襲わないという保証は出来ない。でも、その逆も然りだ。私は禰豆子を信じようと思う。」

 

やはり納得がいかないのか不死川は頭を下げたまま拳を握り締め、震える。

 

「それに炭治郎は鬼舞辻無惨に遭遇しているんだ。」

 

照吉が驚きの表情で炭治郎を見た。柱達も一斉に炭治郎を質問攻めにする。どんな姿なのか、何をしていたのか、根城は何処なのか。

 

耀哉は人差し指を口元へ当てて興奮する皆を鎮めた。

 

「鬼舞辻は炭治郎に向けて追手を放っている。私は、奴が初めて見せた尻尾を掴んで離したく無いんだ。わかってくれるかな?」

「人間ならまだしも鬼は問答無用で討伐するべきです!いくら御館様と言えど看過できません!」

 

頑なに反対意見を述べるのはやはり不死川だった。伊黒も同一意見なのか、頷いた。

黙ったまま様子を見ていた照吉は柱達の顔を見渡し、口を開く。

 

「柱の皆々様方、お初にお目にかかる。竈門禰豆子と同じ鬼であり、鬼殺隊士、階級 甲 竈門照吉で御座います。・・・どうか、話を聞いて頂きたい。私は今から2年前より御館様に了承を頂き、鬼狩りに復帰しておりました。しかし、私が鬼の身であるが故にこの事は私と御館様、その他一部の人間にしか知られておりませんでしたが、鬼舞辻に遭遇した竈門炭治郎・・・そして竈門禰豆子という私と同じ人を喰わない鬼の存在を御館様が容認したことで同時に私も鬼殺隊内で公表する運びとなりました。」

「ンなもんあり得ねェんだよ!どうせ陰では人間喰ってんだろォが!」

 

激昂する不死川に対し、霞柱である時透無一郎が照吉に問いかけた。

 

「君はこの2年間鬼を狩ってたの?それにしては君の姿を見た柱は居ないようだけど。」

「何度か皆様方の任務と重なったことは有りましたが、先に私が討伐した後だったり、逆に討伐された後現場に着いたこともあります。その場合は先程も見せた通り身体を消す血鬼術を使っておりました。」

 

思い当たる節があるのか柱の何人かは考え込む。続けて蟲柱、胡蝶しのぶが質問を投げかけた。

 

「鬼殺隊として鬼狩りに復帰するまでは何をされていたんでしょう。まさか不死川さんの言う通り、本当に人を喰って力をつけていたとか?もしそうであれば貴方はこの場で即討伐対象になりますね。」

「鬼の身体となってから人としての理性を取り戻すまでの十数年、故郷の山奥で止まる事なく神楽を舞っておりました。」

「何ですか?神楽って。」

 

訝しげなしのぶ。他の面々も不可解だという表情をしている。その中で炭治郎だけが驚いていた。照吉は炭治郎の顔を見て笑みを見せる。

 

「竈門家に代々伝わる無病息災を祈る舞です。・・・私はその神楽の舞と呼吸を使って鬼狩りをしております。」

「それってヒノカミ神楽の事ですよね!」

 

問い掛けに頷く照吉。柱達は何故そのヒノカミ神楽というものが鬼狩りに使えるのか、何れかの呼吸の派生なのかと考えを巡らせる。

 

「今から遡る事四百年前、戦国時代の初め頃に1人の鬼殺隊士が鬼狩りの型と呼吸を炭焼きを営む1人の青年に一対の耳飾りと共に託し、我々はそれを絶やす事なく受け継いできた。・・・それがヒノカミ神楽です。」

「その鬼殺隊士の名は?」

 

柱を含め、耀哉も初めて聞く話だった。

 

「鬼狩りの名は継国縁壱。」

「継国・・・輝利哉、その名の隊士がいたか調べてくれ。」

「少々お時間を頂きます。お待ち下さいませ。」

 

黒髪の少年、次代の産屋敷家当主である産屋敷輝利哉が膨大な資料をめくり、隅々まで探す。しかしすぐに資料を閉じた。

 

「申し訳有りません。継国縁壱という名は見つかりません。」

「やはり鬼の言う事など一つも信用できない事が分かったな。」

 

そう呟く伊黒に輝利哉は首を振った。

 

「その方の名前だけが存在しないのでは有りません。鬼殺隊全ての記録がとある期間だけ抜け落ちております。それが室町幕府の後期・・・おおよそ三百五十から四百年前で御座います。」

「そうか・・・その間に鬼殺隊にとってあまり良くない事が起きたのだろうね。ありがとう輝利哉。」

 

照吉は継国縁壱が実在した鬼殺隊士であるか否かの確認を聞き終え、再び口を開いた。

 

「名が残っていない理由は継国縁壱の兄である継国巌勝という男が鬼と化したからです。」

「照吉殿!それはどう言う事だろうか!」

 

杏寿郎がその場の全員の疑問を口にする。

 

「継国巌勝・・・彼もまた弟と同じ鬼殺隊士の身でありながら現在は黒死牟と名を変え人を喰らって未だに生きている。」

「そいつは・・・上弦なのか。」

 

言葉を発したのは水柱、冨岡義勇だった。頷く照吉に再び緊張が走った。

 

「十五年前の任務で私を鬼の身体にした十二鬼月・・・上弦の壱の正体で御座います。」

 

照吉がもたらした情報は柱達に衝撃を与え、初めて耳にした上弦の壱の過去に皆が怒りに震えた。

 

「私の目的は至極単純。私を鬼にした元凶をこの手で滅殺し、御館様一同の悲願、鬼舞辻無惨の討伐を微力ながら手助けさせて頂くことです。」

「だったら証明して見せろ・・・お前等が特別人間を喰らわねェって事をよォ!」

 

不死川の怒号が響き、彼がその手に持つ日輪刀を自身の腕に滑らせ、傷を付ける。

 

「お前が鬼殺隊として動けるンなら、俺の血なんざ見向きもしねェよなァ!」

 

照吉は不死川の行動に目を見開き、横に置いてある箱に滴り落ちる血を見て突然の行動に納得した。箱からは唸り声のような音が聞こえてくる。

 

「稀血か。それも並の鬼ならば正気を失うほどの。・・・炭治郎、禰豆子は何処だ。」

 

照吉の静かな問い掛けに炭治郎は驚くも、すぐに応えた。

 

「そこの傷だらけの人の横にある箱の中に居ます!」

「御館様・・・失礼仕る。」

 

不死川は箱を担ぎ上げて立ち上がろうとするがいつの間にか目の前に現れた照吉によって阻まれた。

 

「ようやく本性を出したなァ鬼!」

「貴様の血など知った事か。その箱を離せ・・・。」

「どうだァ、俺の血の効き目はよ。目の前の人間を食いたくならねェか?」

 

箱に向かって何度も日輪刀を突き立てる。貫いた切先に少なくない血が付いた。

 

「テメェ等鬼共は今まで散々人間を喰ってきたんだろうがよ。人を喰わねェ鬼だァ?今更そんなもん・・・」

 

最後まで言い切る事が出来ず、胸ぐらを掴み上げられる。すぐに離れようとするも、照吉の鬼の力が強い為か、ビクともしない。

 

「俺は鬼の身体となったが、人を喰らうような鬼には成り果ててはおらん。」

 

そう言い、不死川を突き放す。

 

「ついて来い。」

 

禰豆子が入っているという箱を拾い上げた照吉は日が当たらない座敷の奥へ移動する。

そして箱を開けた。

 

「その稀血の匂いなら嗅がせるだけで普通の鬼であれば狂乱状態に陥るだろう。貴様自身が一番分かっている筈だ。よく見ておけ・・・人としての理性を保ちながら強い意志を持った鬼がいると言う事を。」

 

箱の中からゆっくりと出てきた禰豆子は不死川を睨みつけ、息を荒くする。

固唾を飲んで全員が見守る中、炭治郎の声が響いた。

 

「負けるな!禰豆子!!!頑張れ!!!」

 

声を聞いた禰豆子の表情に変化が現れる。

普通の鬼ならばここで不死川に喰らい付こうとするだろう。しかし、彼女は違った。

自分の意思で不死川から顔を背け、鬼としての本能を理性で押さえつけた。

 

「禰豆子はどうなったかな?」

「顔を背けました。何度か不死川様に刺されていましたが、目の前の血を見ても噛みませんでした。」

「実弥、これで禰豆子は人を襲わないと証明出来たかい。」

 

耀哉の言葉に少し時間を置き、答える。

 

「・・・承知致しました。ですがこれから先、この鬼共が人を襲うような事があればこの俺が即刻頸を叩っ斬ります。」

 

腕から流れる血を拭い、不死川は元の場所へ戻る。その間、照吉を睨みつけたままだった。

照吉は不死川が座ったのを見届け、稀血を我慢した禰豆子の頭を撫でた。

 

「・・・よく堪えたな。」

 

どこか誇らしげに胸を張る禰豆子。しかし、眠いのかすぐに箱の中に戻っていく。

そして照吉も耀哉の近くに座り直した。

 

「どうかな?皆も照吉と禰豆子を容認してくれるかい?」

 

耀哉の問い掛けに柱達は全員頭を下げる。

 

「・・・異論は無いようだね。では、炭治郎と禰豆子は下がっていいよ。照吉は残って柱合会議に参加して欲しい。この2年の間に会敵した鬼の情報を皆と共有したいからね。」

「承知しました。」

「炭治郎、君と禰豆子が鬼殺隊として役に立てる事を期待するよ。皆に認められる程に強くなりなさい。」

 

頭を下げていた炭治郎は勢い良く顔を上げ、宣言する。

 

「必ず俺と禰豆子が鬼舞辻無惨を倒します!」

「いきなりは無理だからまず十二鬼月を倒そうね。」

 

冷静に返され、顔を赤くする炭治郎。それを見て柱達は吹き出すのを堪えている。一方の照吉は炭次郎の啖呵を聞いて誇らしい感情と共に笑みが溢れる。

 

「照吉と禰豆子の話はこれで終わりにしようか。そろそろ柱合会議を始めよう。」

 

後ろに控えていた隠がコメツキバッタの如くお辞儀をしながら炭治郎と禰豆子が入った箱を抱え上げた。

 

「御館様!柱の皆様!失礼致します!」

「竈門くんは怪我人なので蝶屋敷へ送ってください。その後はそのまま私が預かることにしましょう。よろしいですね?」

「畏まりました!胡蝶様!」

 

再度深くお辞儀をして脱兎の如くその場を走り去る。しかし、炭治郎は隠から離れて忘れ物をしたかのように慌てて戻って来た。

 

「あ、あの!照吉さん!禰豆子の事、有り難うございました!」

「気にするな。後で俺も其方へ向かう・・・お前も俺に色々と聞きたい事があるだろう?」

 

炭次郎は一礼し、今度こそがっちりと逃げられないように隠に抱えられる。その去り際、耀哉が炭治郎に向けて言葉を放った。

 

「炭治郎、珠世さんによろしく。」

 

その名が出るとは思っていなかったのか、呆然としたままの表情で炭治郎は屋敷を後にする。

 

「さて、柱合会議を始めようか。今日は照吉も居る。少し長くなりそうだね。」

 

九名の柱と一体の鬼が耀哉を前にして頭を下げた。そして鬼殺隊が結成されて初となる、鬼が参加する異例の柱合会議が始まった。

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