赫灼の鬼   作:篤志

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赫灼の鬼と鬼殺隊

「マサカオ主ガ復帰スルトハ思ワンカッタノゥ。」

「カッカッカッカ!御館様ントコノ坊主モ同ジコト言ットッタワ!寛三郎モマダマダ現役ト聞イタゾ!」

 

無事に柱合会議が終わり、六三郎に会いにいくと他の隊士の年老いた鎹烏と酒盛りをしていた。ますます人間臭くなって来たな、六三郎・・・。

 

「六三郎、俺は今から蟲柱の屋敷へ向かう。お前はどうする?」

「儂ハ寛三郎とモウ少シ話ヲシテオル。オ前一人デ行ケ。」

 

六三郎の隣にいる鎹烏を俺は知っている。昔は違う隊士に着いていたが、今は冨岡に着いている烏だ。何だか鱗滝一門の鎹烏は異常に長生きな気がするのは気のせいか?目の前の二羽もそうだが師匠の鎹烏も去年まで生きていたらしい。師匠が現役の時からの鎹烏だ。少なくとも四十年は生きた。・・・普通ではないな。

 

「六三郎ト昔話ニ花ガ咲イテナ、照吉モ一杯飲マンカ?」

「寛三郎、俺がまだ鬼殺隊にいた頃に酒はやめたと聞いたぞ。」

「・・・ソウナンジャガ、六三郎ガドウシテモッテノォ。」

「固イコト言ウナ!テルキチ!儂ガ勧メタンジャ!今日ダケジャ!今日ダケ!」

 

叫びながら六三郎は徳利から直接酒を浴びるように飲む。勿論、寛三郎も同じだ。

 

「鱗滝ントコノ豪三郎爺モ死ヌマデ酒ハ放サンカッタカラノウ!ソレデ大往生シタンジャ!酒ハ百薬の長ジャ!ノウ!寛三郎!カッカッカッカ!カーッ!ゲホッゲホッ!」

「ムニャムニャ・・・」

 

咽せる六三郎。寛三郎は酒が入り気持ち良くなって船を漕ぎ出した。こうして見ると本当に人間の爺に見えてくるな。俺は頰を緩め、後ろで控えている蟲柱の胡蝶しのぶに身体を向けた。

 

「宜しいのですか?」

「待たせてすまない。六三郎は置いていく。道中案内頼む。」

 

胡蝶の横には杏寿郎が立っている。

 

「照吉殿・・・また会えるとは思っていませんでした。」

 

杏寿郎の表情に違和感を覚えつつも俺は答えた。

 

「・・・杏寿郎か。槇寿郎は柱を降りたんだな。」

「父にお会いになりますか?」

 

杏寿郎の問いに俺は首を振った。

 

「槇寿郎には合わす顔が無い・・・俺はあいつの期待に応えられ無かった。」

 

鬼殺隊として活動を再開した時から槇寿郎の事は頭に常にあった。御館様が俺の存在を公表したという事はあいつの耳にも入る。あの日、上弦の壱を逃し、俺を失い、あいつはどれ程の悔いを胸に抱いただろう。謝らなければならなかった。しかし、俺はそれ以上に伝えるべき言葉がある。

 

「『生きて帰ったぞ。』・・・あいつにそう伝えてくれ。」

 

それを聞いて、頭を下げる杏寿郎。そして勢いよく頭を上げると声高らかに言い放った。

 

「必ず伝えましょう!そうだ、胡蝶!御館様の言った通り、照吉殿は15年前の当時、柱候補の一人と言われていた強いお方だ!俺も当時はよく世話になった!鬼にはなったが、俺は照吉殿を信じることにした!この方の意志は俺達柱に劣ることはないだろう!宜しく頼む!」

 

そう言い残して去る杏寿郎。胡蝶は俺の方を向く。

 

「私はまだ貴方を信用できるほど貴方の事を知りません。それに、不死川さん程では無いですが私も鬼を簡単に信じる事は出来ません・・・ですが、誰でも無い御館様がお認めになったのです。貴方が鬼殺隊として役に立てるのであれば私は何も言いません。」

 

胡蝶も鬼に身内を殺されていると御館様から聞いた。そして、鬼殺隊となった後も上弦によってたった一人の姉を失っている。鬼そのものを恨んで当然だろう。俺は目の前の少女に対し思う。

 

この少女だけでは無いのだ。年端も行かない子達が鬼殺隊として復讐の為だけに刀を持ち戦っている。その負の連鎖を断ち切るにはやはり鬼舞辻を一刻も早く倒さなければならない。

 

「俺や禰豆子の様な存在が生まれたことで、千年続く鬼と鬼狩りの戦いに変化が訪れようとしていると御館様は予感されている。そしてこの代で鬼舞辻無惨を滅殺出来ると確信している。俺はその支えとして鬼を狩るだけだ。」

「そうですか。」

 

興味がないと言う様な声色だった。俺の言葉など信用しないという声だ。

 

「そろそろ向かおう。炭治郎達が待っている。」

 

俺は控えている隠を呼びつけ、俺と胡蝶を屋敷に連れて行くよう指示を出す。今までは血鬼術で姿を消し、自在に御館様の屋敷を行き来していたが、正式に鬼殺隊として認められた今は形式上隊立に則らなければならない。

目隠しをされ背負われる。ふと、隠が俺を背負った時に震えているのが分かった。そんな隠に声を掛ける胡蝶。

 

「大丈夫ですよ。その人が貴方を襲う事があればその前に私が斬りますから。」

「あ、有難うございます!胡蝶様!」

 

震えが止まる。・・・仕方が無いとはいえ俺は何とも言えない気持ちになった。

 

 

 

---------------

屋敷に到着し胡蝶と別れ、炭治郎に会いに行こうとしたが、聞けば既に寝ているとのことだった。任務の疲れが溜まっているのだろう。炭治郎に会うのは明日にして俺は御館様から借りた日輪刀を腰に差し、近くに居た隠に鬼を狩って来ると伝え屋敷を出る。

 

一応、屋敷から離れた場所に仮の寝床が用意されていたが俺に睡眠は必要ない為、殆ど使用する事はないだろう。

 

俺は屋敷を出た後、近くの鬼の気配がする目ぼしい場所に赴き、刀を抜いて走りながら頸を落とす。消滅は一瞬だ。確認もすることなく移動しながら5体ほど斬ったところで開けた場所に出る。そこで俺は立ち止まった。

 

人の気配が殆ど無い場所だ。鬼も近くには居ない。俺は、日輪刀を側にある木に立てかけた。

 

ここならば誰にも見られず存分に舞える。

 

呼吸を整えた。

 

「『ヒノカミ神楽 円舞』」

 

嘗ての父が舞っていたように力強く、無駄の無い洗練された兄の静かな舞を思い出し、走馬灯の中で見たヒノカミ様の舞のように完成形に近づく為に所狭しと神楽を舞う。

 

記憶の中の彼らに比べれば俺などまだまだ未熟だ。これでは鬼舞辻には愚か、上弦の足元にも及ばない。己の未熟さが奴を逃してしまった。

 

呼吸をする毎に身体が熱くなる。段々と型を繰り返す回数が増えていく。

 

ふと、思い浮かべた3人と共にヒノカミ神楽を舞っているような感覚を覚えた。円になって俺、兄、父、ヒノカミ様がヒノカミ神楽を舞っている。まるで彼らが俺に稽古をつけているかの様だ。

 

「『ヒノカミ神楽 碧羅ノ天』」

 

突然上弦の壱の幻が現れた。俺は動きを止めることなく奴を倒す為に激しく音を立てて呼吸をする。

 

『ゴオオオオオオオ』

 

「『ヒノカミ神楽 炎舞』」

 

俺は手に刀を持っていると想定して動いた。奴の頸が落ち、霞となって幻が消える。しかし再び奴の姿が出現し、奴は異形の刀を振るって斬撃を飛ばす。

 

「『ヒノカミ神楽 烈日紅鏡』」

 

飛んで来る斬撃を払う。奴の顔がニタリと歪んだ。

 

「『ヒノカミ神楽 火車』」

 

俺は跳び上がり、奴の腕を切り落とそうと身体を回転させる。しかし奴の刀が俺の体を貫こうと蠢く。

 

「『ヒノカミ神楽 幻日虹』」

 

俺に襲いかかって来る奴の刃を回避し、懐に潜り込んだ。

 

「『ヒノカミ神楽 灼骨炎陽』」

 

奴の腕が飛び、幻である筈の奴の表情が怒りで歪む。俺は更に速度を上げる。

 

「『ヒノカミ神楽 陽華突』」

 

奴の身体を吹き飛ばした。だが、奴も鬼だ。欠損した腕があっという間に再生した。

 

「ヒノカミ・・・」

 

気づけば奴の斬撃が俺の頸に迫っている。駄目だ、避けられない。

 

『呼吸を忘れるな。動き続けろ。そうすれば見えなかったものも必ず見えて来る。』

 

兄、炭十郎の声が聞こえる。周りを見ると父もヒノカミ様も兄も俺を見ていた。

 

「『ヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞い』」

 

・・・皆の想いがこの舞には受け継がれている。そうだな、兄さん。俺は一人じゃ無い。

 

俺の頸目掛けて襲いかかって来る刃を払い落とし、奴の頸にもう一度狙いを定める。

 

「『ヒノカミ神楽 飛輪陽炎』」

 

奴が持つ異形の刀を砕き折り、俺は更に一歩踏み込んだ。

 

「『ヒノカミ神楽 斜陽転身』」

 

奴の再生した腕が俺を捕まえようと伸びる。それを跳んで避け、今度は後ろから奴の首を狙う。しかし、紙一重で躱された。俺は地に降り立ち、体勢を低くする。奴の頸はがら空きだ。

 

「『ヒノカミ神楽 輝輝恩光』」

 

刃が奴の頸を捕らえた。だが一度では断ち切れない。俺は繰り返しヒノカミ神楽の舞で刀を振るう。

 

そして気づけば幻は消えていた。

 

「任務ダァ!テルキチ!急ギ北北西ヘ向カエ!」

 

息を荒くする俺の元に六三郎がフラフラと飛んできた。急すぎる・・・本当に任務か怪しいぞ。数刻前に御館様の屋敷で別れた時は寛三郎とへべれけになっていた筈だ。

 

「内容は?」

「エート・・・何ジャッタカノウ。忘レテシモタ。」

「・・・一応向かってみるが、何も無かったらお前、暫く禁酒しろよ。何の為の鎹烏だ・・・まったく。」

「任務ナノハ間違イナイ!御館様カラ文ヲ預カットル!」

 

六三郎の足に括り付けてある手紙を取って読んだ後、立て掛けておいた刀を腰に差す。

 

手紙の内容は緊急の討伐任務だった。近くで血鬼術を使う鬼が出ており、任務に当たっている隊士の助けになって欲しいとのことだ。俺が今居る場所からそう遠くはない距離だった為、依頼が来たらしい。

 

「休んでいいぞ六三郎。」

 

頭を撫で、うつらうつらとしている六三郎を肩に乗せて俺は走り出す。

 

道無き道を走る中、横の方から俺と同じ速度で走る隊士の姿を見た。腰には日輪刀がある。傷だらけの身体に鋭い眼光。風柱の不死川だ。

 

「チッ、鬼かと思ったらテメェかよ・・・紛らわしいんだよ。」

 

いつの間にか抜いていた日輪刀を納め、俺と並んで走りながらそう呟く。

 

「たしか・・・不死川だったな。お前も御館様から任務を?」

「御館様の屋敷を出る時になァ。・・・鬼は俺が狩る。邪魔しやがったらテメェも首を落とすぞ。」

 

更に速度を上げた。鬼の気配が段々と濃くなる。そして、大量の血の匂いもする。

 

「稀血が襲われてんな。」

「遅かったか・・・何人かやられているようだ。」

「足引っ張んじゃねェぞ。」

 

鬼の前に躍り出る不死川。苦戦していた隊士たちの安堵の声が聞こえる。

俺は負傷者を一刻も早くこの場から遠ざけようと意識のある隊士達に近づく。・・・全部で八人か。息がある者は六人。残り二人は息絶えていた。それ程に強力な鬼ということか。

 

「甲、竈門照吉だ。ここから離れるぞ。動ける者は負傷者を担いで走れ。隊士の遺体は俺が運ぶ。鬼の事は心配するな。風柱が滅殺してくれる。」

 

俺が言うことを黙って聞いていた隊士達だったが、俺が鬼である事に気づいた一人が俺を睨んで言った。

 

「お、鬼の言うことなんか信用できるか!」

「でも、隊服を着ているぞ!」

「血鬼術を使う鬼かもしれない!気を抜くな!」

 

ここで隊士達に抵抗されても不死川が対峙している鬼とは別の鬼に襲われ、命を落とすだけだ。この中には稀血の隊士もいる。危険は十分にある。

 

ふと、一人の隊士の背後に鬼が現れた。やはり稀血を狙って姿を現したようだ。

 

通常、稀血の隊士は鬼が嫌う藤の花の匂い袋を懐に入れているが、ここにいる稀血の隊士からは藤の花の匂いはしない。戦闘中に落としたわけでも無さそうだ。恐らく常日頃から携帯していないのだろう。時々、自身の稀血を餌に鬼を誘き寄せる隊士はいるが、よほど実力がない限り危険だ。

 

俺はすぐさま日輪刀を抜き、鬼に接近して頸を落とした。突然現れた鬼に驚き、全員が動けなかったようだ。

 

「お前達を襲う鬼は俺が狩る。夜明けまで少しの辛抱だ。ここから離れるぞ。」

 

二人の隊士の遺体を背負い、俺は日輪刀を抜いた。これでいつ鬼が出ても斬ることが出来る。

 

「行くぞ。」

 

この場から離れようとする俺を見て隊士達は本当に従って良いのか迷っているようだった。それを見た不死川が隊士達に向かって叫ぶ。

 

「早く逃げろやァ!テメェ等がいると邪魔だァ!!」

「わ!わかりましたぁ!!!」

 

不死川の睨みがよほど恐ろしかったのか涙目で俺について来る隊士達。

 

東の空は既に白み始めていた。

 

 

 

 

--------------------

 

半年に一度の柱合会議が終わり、家に帰ってきた俺は父上に会議の内容を報告するため父上の部屋の前に居た。

 

「ただいま戻りました。今日の柱合会議の、」

「入ってくるな!」

 

ガシャン!

 

酒が入った陶器の徳利が割れる音がする。ある時から酒を手放さなくなった父上だが今日は量もいつも以上に多いようだ。

 

「御館様も馬鹿な事をしたものだ・・・人を喰わない鬼を鬼殺隊で認めるだと?」

 

襖越しに俺は父上の言葉に相槌を打つ。

 

「私も目の前で見ましたが、不死川の稀血を目にしても暴れる事はありませんでした。」

「ハッ、信じられるかそんなもの!」

 

俺は御館様の屋敷を発つ前に託された照吉殿からの言伝を父上に話そうと口を開く。

 

「父上・・・竈門照吉殿を覚えておいでですか。」

「その名を・・・二度とその名を口にするなァ!!!」

 

ガシャーン!

 

また徳利が割れる音がする。そこで俺は思い出した。

 

そうか・・・今日は15年前父上と照吉殿が最期に任務に出た日だ。そして、父上はその任務で唯一無二の親友を失った。父は毎年この日はいつも飲んでいる自分の酒ともう一人分を用意して縁台に置いておく。

 

そして月を見ながら静かに飲むのだ。一年の内、この日だけは粗暴は鳴りを潜め、以前の父上に戻ってくれる。

 

だが今日は酒の量がいつもより多い為、俺は照吉殿の事は父上が落ち着いてからにしようと考える。

 

「父上、あまり無理はなさらないよう。今日は一段と冷えます。暖かくしてお休みください。」

 

いつものように返事は無い。俺は立ち上がり、踵を返すと父上の声が嗚咽とともに聞こえてきた。

 

「すまない、瑠火。すまない・・・照吉。」

 

俺はそんな父上の懺悔を聞きながら自室に戻った。

 

外はちらちらと白い雪が舞っていた。

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