今は授業中。俺はボーッとして教師の説明を右から左へと聞き流していた。ライブの事で頭がいっぱいで、他の事を考えている余裕がなかった。
教師「〜であるからして、神山、答えてみろ」
天「••••••••••••」
教師「•••神山?」
天「••••••••••••••••••」
焼野原「おい神山?聞こえてんのか?」
天「•••ッ、な、何だ•••?」
焼野原「いや何だじゃなくて、お前先生に当てられてるんだぞ」
焼野原君に声をかけられて、俺はようやく意識をこちらに引き戻した。周りを見渡すと、みんな俺の事を見ていた。咲姫だけクスクス笑っていたので後でシメる。
教師「•••神山、大問3の問4•••」
天「あっはい。これは•••5xです」
教師「•••正解。ボーッとしてる割にはちゃんとわかってるじゃないか」
天「•••••••••」
教師「あ聞いてねぇわこれ」
すぐに考え事に戻り、俺はまた窓の方を見つめる。あの時は成功したとはいえ、次が成功するとは限らない。しかも前よりハコが大きいときたもんだ。不安でいっぱいになって仕方がない。
彼女たちなら大丈夫だと言い聞かせるが、それでも不安を拭い切る事はできなかった。
天「••••••うーん•••••••••」
できる限りの対策は立てるつもりだし、レッスンを疎かにさせるつもりもない。とりあえずは今できる事を精一杯積み重ねて、少しでも不安を取り除くことにしよう。
気がつけば授業は終わっており、俺はチャイムでようやく気がつく。多少困惑気味になりながらも、全員で席を立つのに合わせて立ち上がり、礼をした。
座り直して、また頬杖をつく。
咲姫「まだ考え事••••••?」
天「•••••••••ちょうどよかったわ」
タイミングよく咲姫がこっちに寄ってきたので、立ち上がって頬を引っ張る。
咲姫「•••いふぁい••••••」
天「よくも人の事笑ってくれたな?」
むにむにの柔らかほっぺたを引っ張ったり押さえたりする。
咲姫「ごめんなさい••••••」
天「よし許そう」
潔く謝ったので、俺はすぐに手を離した。違和感が残る頬を、咲姫はペタペタと確認する様に触れる。
咲姫「いきなり酷い••••••」
天「俺の事笑ってただろ?」
咲姫「だって、面白かったから••••••」
そんなに俺が困惑している姿が良かったのかこいつは。俺は微妙な顔になる。それに対して咲姫は穏やかな笑みを浮かべていた。
咲姫「ねぇ、ぎゅうして••••••?」
天「ぜってぇやだ」
なんで周りに人がたくさんいる中で抱きしめないといけないのだ。俺は絶対にしない。
咲姫「ぎゅう••••••」
天「ダメなものはダメだ」
咲姫「じゃあ私からするっ」
その言葉通り、咲姫は俺に抱きついた。結局こうなるなら最初から訊く意味ないだろ。
咲姫「••••••あまり温かくない」
天「まぁ制服は冷えてるままだわな」
別に制服は俺の体温を吸収してるわけでもないし、というかぶっちゃけ寒い。この時期にこんな薄っぺらい制服は地獄だぞ。
不本意だが、暖を取る為に俺は咲姫を抱きしめた。
咲姫「あっ•••」
天「•••全然あったまらねぇな。ないよりはマシだが」
咲姫「私は、温かくなった••••••」
天「••••••?」
なんかやけに咲姫が笑いながら俺の胸に顔を埋めたので、失礼だが少し怖かった。普段が無表情だから特に。
焼野原「んで、神山さん。いつまで目の前でイチャイチャするおつもりで?」
天「あっ••••••わ、悪い」
流石に指摘されると恥ずかしくなったので、俺はパッと手を離した。が、咲姫は俺から離れることなくくっついたままだった。
天「助けて」
焼野原「無理矢理引き剥がしてもいいが、今後出雲さんに嫌われ続けるのは避けたい」
ねぇマジでどうすればいいのこれ?まさか次の授業始まる直前までこの状態でいろって言うの?周りの視線集まりまくリングで俺精神的にキツいんだけど?ねぇ?
天「ちょっと出雲さんや•••そろそろ離れませんか?」
咲姫「咲姫•••」
Photon Maidenのマネージャーを担当して最初の顔合わせの時に、苗字呼びしたのをまだ根に持ってるのかこいつは。少し鋭い視線で俺をジトーッと見ていた。
天「••••••咲姫、いい加減離れてくれないか?周りの目もあるし」
咲姫「私は気にしない」
天「俺が気にするんだ!本当にたくましくなったなお前••••••」
以前の咲姫では考えられないくらい積極的で驚いてるよ、全く。このアクティブな気力を別の事に生かしてくれ、頼む。
咲姫「授業始まるまで離れない」
天「••••••えぇ•••••••••いやマジで恥ずかしいからやめてくれ•••••••••」
咲姫「さっきほっぺた引っ張った仕返し••••••」
天「それはお前が俺の事笑うからだろ?」
咲姫「ずっと考え事してる天くんが悪い••••••」
それはごもっともだが、だからって笑うことはないだろ。
咲姫「それに、こうしてる方が落ち着く••••••」
天「•••そうか。はいはいわかった。でも先生が来るまでな?来たらすぐに自分の席に着けよ?」
咲姫「うん、わかった••••••」
結局俺自身が折れて、咲姫を甘やかす事になった。彼女に対して優しくしすぎるのはいい加減直さないといけないな、と少しばかりだが感じた。
が、なんだかんだ素直に言う事を聞いてくれるいい子ではあるので、もうちょっとだけ甘くしてやるのもいいだろう、とも思えた。
なので、そっと頭を撫でる。サラサラの白髪が、俺の手に触れて滑っていく。
咲姫「天くんのなでなで•••落ち着く••••••」
天「好評なようで何よりだ」
その後、教室に入ってきた教師に見事にどやされて、俺と咲姫の惚気っぷりは更に学園内に広まった。今更過ぎてもうどうでも良くなってる俺がいて、少し悲しかった。
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昼休みになると、俺はすぐに咲姫の席に目を向ける。既に彼女は席を立っていて、俺の方へと歩いていた。
咲姫「お昼ご飯•••」
天「あぁ、わかってる」
咲姫から予め貰っている弁当箱を持って立ち上がる。前までなら屋上で二人で食べていたが、流石にこの冷える時期は辛い。咲姫は大丈夫だろうが、俺は無理だ。
天「学食の方に行くか。あそこは暖房効いてるだろうし」
咲姫「うんっ」
迷いなく俺の手を握った咲姫は、学食に向かって歩き始める。少し強引な彼女に困惑しながらも、俺はすぐに歩幅を合わせた。
咲姫「学食に行くの、久しぶり•••」
天「基本は行かないからな•••行くにしてもPhoton Maidenで集まる時くらいだし」
そもそも何か目的がない時以外は、学食に近寄る事すらなかったと思う。弁当頼りだから無縁なんだよな、学食。普通に飯美味いらしいし、今度食べてみようかな。
咲姫「•••••••••むぅ」
が、心の色を見たのか、咲姫が頬を膨らませていた。まぁ、学食か恋人の手料理かって訊かれたら、100%恋人の飯に決まってる。それでも学食の食い物が気になってしまうが。無理矢理胃にぶちこむかな。
咲姫「ダメ••••••」
天「えぇ•••流石にそこまで縛らなくてもいいだろ•••」
咲姫「天くんのお昼は全部私が用意する••••••」
愛されている証拠ではあるのだろうが、なんか怖いぞ。このままエスカレートして某伊藤誠みたいに刺し殺されないといいけど。
学食に到着。適当な席に座って、俺たちは弁当を開けて食べ始める。学食にいるのにここの飯食べないのは何故なんだ、って訊かれそうだけどそんな事は知らん。何食おうが勝手だ。
咲姫「はい、あーん•••」
周りに大量の人間がいる中でも、咲姫は屋上の時と変わらずに俺の口の中に食い物を入れようとしていた。また教室での二の舞が簡単に想像できてしまったので、俺は仕方なく食べる。
天「•••ん、美味い。また料理作るの上手になったか?」
咲姫「本当•••?嬉しい••••••」
心の底から嬉しいようで、咲姫は少しニヤついていた。その姿を見て、俺もつい笑みを零してしまう。
だが周りからの視線が痛くて、とてもじゃないがかなり精神的に参ったのは確かだ。これからも学食は暖を取る為に利用するかもしれないが、あまり目立つような行動は避けようと、俺は考え始めた。
それじゃ、筋トレした後にイベランに戻りやす。千位以内入っときたい。