朝日がカーテンの隙間から溢れて、部屋に流れてくる。それは俺が眠っているベッドにも注がれて、自然と眠気を消していっていた。
天「んっ•••あぁ•••?」
ごく自然に目が覚めて、俺は身体を起こす。隣に目をやると、咲姫がまだ穏やかな寝息を立てていた。そういや昨日泊まっていってたな。
まだ月が起こしにくる時間でもないので、俺は彼女を起こさないようにこっそりとベッドから降りて、音を立てずに部屋を出る。
そーっと、そーっと音を立てずに一階に降りて、リビングに入る。
月「お兄ちゃん?早いね」
天「今日は珍しくスッキリ目が覚めてな」
月「咲姫さんは?」
天「まだ寝てる。もうそろそろ起きるんじゃないか?」
月「彼氏ならやさーしく起こしてあげるものじゃないの?」
天「そういうものなのか••••••?本人が満足いくまで眠らせておく方がいいと思うが••••••」
俺の意見をぶつけてみたが、月はやれやれと首を振った。なんかムカつく。
月「いい?お兄ちゃん。起きてすぐ目の前に好きな人の顔があるのってどう思う?」
天「普通に幸せだと思うが」
月「わかってるなら早く行きなさーい!咲姫さん起きちゃうよ!」
天「へいへいわかったよ•••」
渋々頷きながら、俺はまた二階へと上がって自室へと戻る。ベッドを覗き込むと、まだ咲姫は眠っていた。体勢も変わってないし起きてはいないだろう。
天「•••••••••」
そっと顔を覗き込む。普段から物静かなヤツだが、こうして顔をまじまじと見つめていると、よく整っているのがわかる。
天「まぁ、まだ時間あるし少し遊ぶか」
手を伸ばして、彼女の頭に触れる。よく手入れの行き届いた白い綺麗な髪は、サラサラで触り心地抜群だった。そのまま流す様に撫でていく。
咲姫「んっ、んぅ•••」
少し身じろぎをしたが、まだ起きる様子はない。まだ撫で続ける。
咲姫「んぅ••••••」
こちらに寝返りを打って、顔が目の前にやってきた。そこでとうとう瞼がピクリと動いた。恐らく起きただろう。
咲姫「んっ•••あれ•••?」
天「おはよう」
咲姫「天くん•••?もう起きてたの?」
天「あぁ。可愛い寝顔だったぞ」
まだ頭に手は置いてあるので、撫でるのを止めていなかった。それに気がついた咲姫はまた目を閉じる。
天「おーい?二度寝はするなよ?」
咲姫「ううん。天くんの手を一杯感じてるだけ」
天「まぎらわしいな•••」
苦笑しながらも心はどこか温かい。目の前で幸せそうに瞳を閉じてる彼女の姿が、愛おしくてたまらなかった。
月「はいはい。邪魔して申し訳ないけどご飯できたよ」
天「ん、そうか。じゃあ下降りるかね」
咲姫の頭から手を離して立ち上がる。咲姫も続いてベッドから降りて、リビングの方へ向かった。
制服に着替えて、ネックオーマーと手袋を装着する。雪がチラホラと降っているが、積もるほどの量ではなかった。
天「このまま激しくならないといいが•••」
咲姫「でも今年も積もるって聞いた•••」
天「あーやっぱり?ホワイトクリスマスはいつも通りか•••」
雪降ると自然と更に寒くなるような気がしてあまり好きではない。だからといって降らずに『冬』をちゃんと満喫できないのは嫌だ。
天「とりあえず、凍ったら滑らない様に気をつけろよ?」
咲姫「その時は天くんに捕まる••••••」
天「俺の体幹が保てばいいけどな」
冗談混じりに言っているが、いざとなったらしっかり守るつもりだ。
咲姫「そういえば、校内ライブ•••大丈夫かな•••」
天「所詮は学園内のものだ。変に気張らなくていいぞ。それに昨日言っただろ?クリスマスライブの練習と思ってやれって」
咲姫「天くんは大丈夫なの•••?また忙しくなるのに」
天「俺の心配はいい。まずは自分の事を考えろ」
咲姫「••••••無理だけは絶対にダメ」
天「わかってるよ。迷惑かけたくないからな」
マネージャーとして、Photon Maidenのライブの予定や段取りを立てているのは俺だ。その俺が倒れてしまえば、流れに歪みができてしまう。それは避けなくてはならない。
咲姫「本当に大丈夫•••?」
天「心配し過ぎ」
ワシャワシャと、少し乱暴に髪を乱してやる。少しムッとした表情をされたが、本気で怒ってはいなかった。
咲姫「私はすごく心配••••••」
天「全く•••••」
いつまで経っても心配性なヤツだ。それほど案じてくれているのだろうが、過保護が過ぎるのではなかろうか。
天「倒れるにしても、やる事全部終わらせてからにしてやるよ」
咲姫「倒れるのはダメ」
天「敵わんなぁ」
今日も咲姫は平常運転だった。いつも通り、これが普通だ。雪が顔に当たって、少し冷たさを感じた。
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昼休みになり、俺はいつものように咲姫と一緒に学食に赴いていた。え?中庭で食えって?寒いからやだ。
一応学食の方に何か面白いものがないか気になったので、咲姫を先に席の方へ向かわせて俺は長蛇の列を並ぶ。
多少の時間は食ったが、俺の番が回ってきたのですぐに選ぶことができた。そして、一つの枠に目が止まる。
天「牛タン定食••••••!?」
何そのクソ美味そうなの。これは気になる•••即買いだこれは。携帯を押し当てて、注文を完了した。
乙和「あぁっ!今週限定の牛タン定食が•••!最後の一つを取られちゃった••••••」
天「えっ、乙和さん•••?」
振り返ると、そこにはしょんぼりと肩を落とした乙和さんの姿があった。
天「これ限定なんですか?」
乙和「そうだよ!今週だけの!超限定!それを最後の一個を天くんが持っていったの!」
食券売り場の欄を見てみると、牛タン定食は売り切れと書かれていた。あっ(察し)。
乙和「今週これが食べたくて学食に急いできてたのに•••お昼何食べよう•••」
そのままどこかに行こうとする乙和さん。そんな彼女の姿が痛々しくて、俺はつい乙和さんの肩に手を置いた。
天「一口です」
乙和「えっ?」
天「一口だけ俺にくれるなら、牛タン定食俺が払いますよ」
乙和「•••いいの?」
天「えぇ。そんな泣きそうな顔されると、こっちが困りますよ」
乙和「やったー!天くん大好き!」
周りに人の目が、しかもまだ後ろで待ってる人がいるにも関わらず、乙和さんは俺に抱きついてきた。一気に俺と乙和さんに視線が集中し、居心地の悪さを感じる。
天「ちょっ、乙和さん•••」
乙和「えへへ〜なになに〜?」
天「人が見てますので、そういうのは•••」
乙和「じゃあ人がいなかったらいいんだ〜?」
天「そう言う問題でもないですよ!」
少し強引に乙和さんを引き剥がして、俺は会計を済ませる。
牛タンが乗った白飯、味噌汁、そして漬け物がおぼんの上に置かれていた。
天「咲姫はどこに行ったんだ•••?」
周りに人が多い所為で、目立つ白髪も目につかないでいた。というかさっき乙和さんに抱きつかれたやつも見られてただろうな•••まだ死にたくないんだけど俺。
周りを見渡していると、ポツンと一人で座っている咲姫を見つけた。その方向に歩いて行き、隣に座る。
咲姫「乙和さんも•••?」
乙和「お邪魔するよー」
天「一緒でもいいよな?」
咲姫「大丈夫•••」
意外にも乙和さんに抱きつかれていた件は言及されない。もしかして人が多過ぎて見えてなかったのか?だとしたら幸いだ。
牛タン定食は乙和さんに譲ったが、俺には咲姫が作った弁当がある。
乙和「あ、天くんにまだ一口上げてなかったね。はい、あーん!」
天「••••••どうしてそうなるんですか」
乙和「譲ってくれたお礼だよー」
天「一口くださいっていう条件つけたじゃないですか」
乙和「割に合わないから追加しといたよ」
天「いらねぇ••••••」
それならまだ二口くれる方がよっぽどいいわ。それか咲姫があーんしてくれるか。
乙和「酷いなぁ〜。乙和ちゃんがせっかく食べさせてあげるって言ってるのに」
頬を膨らませて少し怒った様子の乙和さん。俺は苦笑を投げかけたが、心境は焦りで一杯だった。
天「とりあえず、そういうのは勘弁してください」
乙和「もう〜しょうがないなぁ〜」
牛タン飯が入った茶碗を差し出してきた。まだ口をつけてない箸で少しだけ取って食べる。
独特な食感に塩とレモンの味が効いてて美味い。
乙和「どうどう?美味しい?」
天「これめちゃくちゃ美味いですよ。流石限定なだけありますね」
乙和「そんなに美味しいの!?あーむっ、ん〜!美味しいー!」
すぐに口を開けて牛タンと白飯を運ぶ乙和さん。その表情はとても幸せそうだった。
天「もぐもぐ••••••咲姫、あんまり食べてないがどうした?」
咲姫「さっき乙和さんに抱きつかれてたでしょ••••••?」
天「んんっ!?み、見てたのか••••••」
咲姫「あんなに視線が集まってたら、嫌でも見える••••••」
咲姫の顔は少し不機嫌そうで、じっと俺を見ていた。問題起こした張本人の乙和さんは美味しそうに肉を食べまくっている。気楽でいいなこの人は。
咲姫「浮気•••?」
天「いや違うし•••というかお前度々その疑い掛けてくるよな」
咲姫「だって•••他の人に天くんが取られないか心配••••••」
天「•••••••••はぁ。本当に心配性だな」
ため息を吐きながら頭を撫でると、彼女は少し困惑した表情になる。
天「本当に浮気するなら、コソコソしないですぐに別れ切り出すぞ、俺は」
後ろめたい事をするのは好きではないしむしろ嫌いだ。だからこそ、ハッキリと言う。
天「俺が好きなのは咲姫だし、それは今後変わる事はない」
咲姫「••••••うんっ」
こっそりテーブルの下で俺の手を握った。恥ずかしそうに頬を赤くする彼女の顔は、とても可愛らしかった。
筋トレはもう終わらせてるし、書きまくりまっせ!