日曜日。俺は気怠さの残った身体を起こして、一階に降りた。
月「おはよ、早いね」
天「•••まだ眠いけどな。でも、これ以上寝たらマジで寝坊しそうだし•••仕方ないけど起きないといけない」
月「いやー大変だねー。校内ライブもあってクリスマスライブもあるし、休みはなさそうだね」
天「多分ねぇな。みんなには負担をかけるだろうけど、頑張ってもらわないと」
月「••••••相変わらず自分のことは後回しか。変わらないね。そういうところが好かれる要因なんだろうけど」
天「何の話だ?」
一人でブツブツと何かを言っているのが気味悪く感じて、俺はしかめっ面を妹に向けた。
月はいつもの表情で首を横に振る。
月「何でもないよ。あ、リリリリのみんな、お兄ちゃんを気に入ったみたいで度々会いに来るかもね」
天「は!?何で!?」
月「雰囲気?とか優しくていいらしいよ?見る目あるよねー。流石お嬢様ってところかな」
天「•••どちらかと言うと悪い方だと思うけどな俺は」
普段の雰囲気は最悪と自負しているはずだが、一体何処を見てその結論に至ったのか謎だ。
月「あんまり自分を悪く言わない方がいいよ。お兄ちゃんは優しい人って、みんなわかるもん」
天「•••あぁ、そう」
月「照れんなよー」
天「うるせぇ」
からかつてくる月に少しドスの効いた声を向けてから、俺は朝食を食べ始めた。チラリと外を見ると、わかりやすいくらいの雨が降っていて、俺はため息を吐いてしまう。傘、持っていくのダルいな•••。
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思ったよりも強い雨に、俺の気分は沈んでいた。周りを見ても傘だらけで、人の顔はよく見えない。人々の声も雨が傘にぶつかる音によって掻き消されていて、耳には雨の音しか入ってこない。
天「みんな大丈夫かね•••濡れてないといいが」
少し心配になるが、彼女たちはまだ成人はしていなくても小さい子供というわけではない。傘さして雨凌ぐだけの簡単なお仕事だ。できない方が逆におかしい。
ましてや高校生だ。それくらい考えられないと少し困る。
事務所に到着して、傘をバサバサと開いて閉じての行為を繰り返して雨を飛ばす。
気前よく置いている傘立てに傘をブッ刺して、俺は仕事部屋へと向かった。肩とかは濡れてなくて少し安心だ。その代わりカバンに少なからず被害を受けてしまったが。
天「よいしょっと」
カバンをテーブルの上に置いて、俺は身体を思いっきり伸ばす。自然と声が漏れて、脱力した腕が腰を思いっきり叩く。
バチン!と小気味よい音を響かせる。少しスッキリ。
乙和「天く〜ん•••」
天「乙和さんーーってなんで濡れてるんですか•••」
振り向くと髪どころか服全体を水浸しにした乙和さんが、今にも泣きそうな顔で俺の方にとぼとぼと歩いてきた。
乙和「こっちに来てる途中に急に降り込んできちゃった!!」
天「あ•••なるほど」
俺は家と事務所が近いからいいけど乙和さんは普通に距離がある。そりゃ途中に雨が当たってもおかしくはないだろう。
実際雨が降ってるのを確認したのが俺が起きて一階に降りた頃だ。そのくらいの時間なら乙和さんはもう家を出ているだろう。
天「とりあえずこっち来てください。タオルありますから」
乙和「はーい」
素直にこちらによってきた乙和さんの頭にタオルを擦り付ける。髪がかなり水を吸っていたのか、タオルがすぐに染み付いた。
天「結構濡れてますね•••それに服も」
乙和「肌にくっついて気持ち悪いよー!」
天「はいはいどうせ後でレッスン着に着替えるんだからいいでしょう」
不満タラタラなご様子だが、ちゃんと天気予報を見ていない乙和さんが悪い。微笑みながら髪を拭いていると、なんだか乙和さんがいつもより子供に見えた。
乙和「なんか月ちゃんを見るような目になってる」
天「こうしてると妹の髪を拭いてる気分になりますので」
頬を膨らませて乙和さんが怒ったのがなんとなくだがわかった。身長が低いので少し見えづらい。
衣舞紀「乙和ー?そこにいるの?」
乙和「いるよー」
乙和さんが来ないのが心配になったのだろう。俺の仕事部屋に衣舞紀さんが声をかけにやってきた。
衣舞紀「あ、天。拭いてくれてたの?ありがとう」
天「これくらい大丈夫ですよ。後は衣舞紀さんに任せていいですか?流石に女性の服までは相手できませんので」
乙和さんの頭にタオルを被せたまま、身柄を衣舞紀さんに引き渡す。そのまま二人で出て行ったのを見送ってから、俺は椅子に座る。
天「期待を裏切らないなぁ乙和さんは」
最早笑いすらこみ上げてくるレベルだ。それ程に彼女らしさが際立っている。
天「まぁ、それが咲姫じゃないのがちょっと救いだな」
乙和さんの事を「そういう目」で見てないので冷静に対応できたが、もしそれが咲姫だったらどうだろうか。
可愛い大好きな恋人が髪も服も濡らしてこちらに助けを求めるのだ。男としてはドキドキの連続だろう。少なくとも俺は耐えられるか少しわかりかねる。
天「ま、いいや。仕事しよ」
一先ず自分のやるべき事を終わらせようと、俺はパソコンと手帳を取り出した。
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作業もだいぶ進んで、一度休憩に入った。椅子の背もたれに体重を預けて、ふぅ、と息を吐く。
天「この調子なら後一時間もせずに終わりそうだな。•••あっちの方はどうなっているだろうか」
少しだけ彼女たちの様子が気になったので、俺は立ち上がって仕事部屋を出た。軽い足取りでレッスン部屋まで赴き、扉を開ける。
•••ラッキーだ。ちょうど休憩に入ってたらしい。
咲姫「天くん••••••」
天「俺も休憩だから来た」
流石にあそこでボッチライフをするのは堪えるので、とりあえずここに来たわけだが•••みんな汗まみれだな。かなりキツい事をしてるのだろう。メニュー組んでるの俺だけど()
乙和「さっきはありがとねー天くん」
天「次からはちゃんと天気予報見てから家出てくださいね?」
乙和「はーい!」
元気に返事をしているが、次もやらかすのが目に見えてるんだよな。たかが雨に濡れるくらいだからいいけどさ。
ノア「相変わらず乙和はおバカなんだから」
乙和「なっ!?お、おバカじゃないよ!」
天「天気予報の確認忘れるなんて小学生レベルですよ」
乙和「むむむ〜!」
ノア「天くんには言い返せないもんねー乙和は」
乙和「うるさいうるさい!」
ここぞとばかりにノアさんに煽られる乙和さん。真っ向から受け止めてプンスコ怒っているが、大人なら簡単に躱してしまうだろう。本当に高二かこの人•••。
天「•••んで、しれっと隣にいるんだよなこいつは••••••」
知らん間に俺の隣に咲姫が座っている事に気がつく。クノイチかこいつは•••マジで気配とか分からなかったぞ。
咲姫「•••••••••」
衣舞紀「咲姫?」
咲姫からの応答がなく、俺たちは首を傾げる。チラリと横目に見てみると、彼女が目を閉じているのがわかった。
天「•••疲れてるみたいですね。少しだけ寝かせますか」
肩に寄りかかっていた彼女の身体を支えて、頭を俺の膝の上に置く。
ノア「天くんの膝枕っ!?」
天「咲姫が起きますよ」
人差し指を唇の前に持っていって、「静かにしろ」というジェスチャーをノアさんに送る。
彼女はすぐにハッとなって口を手で覆った。
衣舞紀「手慣れてるわね」
天「月が小学生だった頃はよくこうしてましたから」
やたら俺に絡んで遊び疲れて寝るのは、妹が小学生だった時はいつもの事だった。今は流石に俺の膝で寝ることはないが、少し寂しかったりする。
天「ただ•••寝心地は最悪と思いますがね。硬いですし」
咲姫の頭を撫でながら、俺は苦笑する。
筋肉の塊と化している太ももを枕がわりにしているのだ。首が痛くなったり、痕を残しそうな気がする。
衣舞紀「でも咲姫の顔、すごく安心してる」
天「そうですか?」
こちらからは表情がよく見えないので確認していないが、どうやら三人から見た咲姫はちゃんと寝ているようだった。
天「とりあえず後少ししたら起こします」
乙和「りょーかーい。あ、そうだ!この後さ、みんなでご飯食べに行こうよ!」
衣舞紀「いいわね。行きましょう」
天「••••••後で月に連絡しておきます」
ノア「月ちゃんも一緒にどうかな?」
天「一応誘ってみます。九分九厘来ると思いますがね」
乙和「それじゃあお昼はみんなでご飯だー!」
テンションの上がった乙和さんが立ち上がる。あ•••あんまり騒ぐと••••••。
咲姫「ん、んぅ•••?」
天「やっぱり•••」
騒がしさに反応して、咲姫が目を覚ましてしまった。パチパチと何度も瞬きを繰り返して、こちらに振り返った。
咲姫「私•••寝てた••••••?」
天「あぁ。そりゃもうぐっすりな」
咲姫「もう少し寝たい••••••」
天「もうすぐ休憩も終わるしダメだ。後は家に帰ってから寝なさい」
咲姫「••••••うん」
不満を残した様子の咲姫は渋々と頷いて俺の太ももから頭を離した。
天「それじゃ•••っと、俺も仕事に戻ります。昼の場所は自由にどうぞ。特にこだわりもありませんので」
それだけ言って、俺はレッスン部屋を後にした。歩きながら携帯を取り出して、月に電話をかける。
天「もしもし?今日の昼だが、Photon Maidenのみんなと飯食いにいかないか?」
月「え?行く行く!やったー!楽しみだー!」
天「乙和さんと反応そっくりだなおい•••」
似た者同士なのかはわからないが、妹が喜んでいるようなのでいいだろう。時間だけ伝えて、俺は通話を切って携帯をしまった。
さーて明日も執筆執筆ぅ!