ライブ当日まで十日を切った。着々と準備を進めていく傍ら、今日も彼女たちのレッスンを集中してジロジロと見ていく。
天「(うん、昨日よりも動きが良くなってる。このまま行けば十分に間に合いそうだな)」
ミスも少なくなってるし、各々の課題も達成へと向かっている。今日は変にダメ出しをしなくて良さそうだった。
天「•••••••••」
ただ無言で踊る姿を眺めてるだけでも楽しい。彼女たちの動きに、日に日に見惚れていってるらしい。
もっとダンスを見ていたい、もっと歌を聴きたい、その欲望に詰まった感情だけが、俺の心の中で渦巻いていた。
練習が終わってしまって、俺はつい名残惜しさを覚えてしまう。それ程までに、俺は夢中になっていたようだ。
天「••••••集合」
もどかしさを隠そうとしないまま、俺は彼女たちを呼び寄せた。
全員が真剣な眼差しで俺の顔を見る。それによって自然と気が引き締まったような気がした。
天「今日は文句を言うところはありません。しっかり動きが良くなってきてますし、それぞれのやらなければならない課題も進んでいます。このままの勢いで本番に備えてください」
咲姫•乙和•衣舞紀•ノア「はい!」
大きな声で返ってきた返事に俺は頷いた。
ここでやっと休憩時間に入る。俺は異様な眠気を感じて、レッスン部屋の壁に体重を預けていた。
天「•••••••••」
咲姫「天くん」
天「おぉ、咲姫」
汗を拭いている咲姫が、こちらにまで寄ってきていた。隣に座り、俺に顔を向ける。
咲姫「どうだった••••••?」
天「よくできてた。頑張ったな」
よしよし、と頭を撫でてやる。されるがままの咲姫は穏やかな表情で目を閉じていた。
乙和「天くん天くん!私はどうだった!?」
そこに乙和さんが興奮気味にやってきた。俺の目の前で急ブレーキをかけてストップする。
天「乙和さんもよくできていたと思います」
乙和「•••••••••」
天「•••••••••」
乙和「••••••それだけ?」
天「それだけですが••••••?」
しばしの沈黙の後に放たれた乙和さんからの疑問に、俺はハッキリしない回答を返した。
乙和「私も咲姫ちゃんみたいに構ってよー!」
天「えぇ••••••」
ノア「ちょっと乙和。天くんを困らせたらダメでしょ?」
そこにノアさんが仲介に入ってきてくれたが、乙和さんの暴走は止まることを知らないらしい。
駄々っ子、とは言わないが少しそれに近かった。
天「はぁ••••••」
俺はため息を吐いて、仕方なく乙和さんの頭に手を置く。
これでも彼女の方が歳上とは到底思いたくないんだよなぁ•••。
乙和「お、おぉ•••!なんだかすごい新鮮••••••!」
天「これで満足ですか?」
乙和「えへ、えへへへへ〜!大満足!」
どうやらお気に召したようで、乙和さんは溶けたような緩い笑顔でニタニタとしていた。
咲姫「むぅ••••••」
天「おっと•••」
咲姫が俺の腕を引っ張る。座っている状態だとそこまで体幹が活かせないので、俺はそのまま咲姫の方向へ強引に引きつけられてしまった。
天「どうした?」
咲姫「ぎゅう••••••」
天「•••あーはいはいわかったよ」
俺が乙和さんの相手をしてたからまた変に嫉妬でもしたのだろう。
なんかよくある事なのもあって、俺自身も慣れてしまっていた。
彼女の背中に腕を回して、密着する。咲姫の柔らかい身体が俺の身体に沈んでいく。
天「•••うわ、すげぇ眠れそう」
咲姫「そのまま寝てもいいよ?」
天「まだやる事あるし起きてないと•••」
俺の仕事はまだ終わっていない。また彼女たちのレッスンを見ないといけないのだ。
乙和「よーし眠たいなら私が起こしてやるぞー!それー!」
天「ちょ!?ぐふっ!」
後ろから乙和さんのダイレクトアタックが背中に襲いかかってきた。
衝撃によって感覚の暴走が襲いかかってくるが、密着してるおかげもあってか、あまり辛くはなかった。
衣舞紀「これじゃあおしくらまんじゅうね••••••」
天「ちょっと•••見てないで助けてください」
ノア「天くん!今から行くからね!!」
天「絶対助けに行く雰囲気じゃないんですけど!?」
明らかに目が血走ってるし!ノアさんも抱きついてくる流れだろこれ!!
そして俺の予想大当たりだよ!しっかり抱きついてきやがったよ!
後暑い!流石にこの人数+俺以外汗かいてるから暑い!
衣舞紀「みんなくっついてるなら私も混ざっちゃおうかな〜?」
天「衣舞紀さんもですか!?というかこの流れ一回何処かでやったような気がするんですけど!?」
衣舞紀「気の所為よ!よーし行くわよー!」
トドメとばかりに衣舞紀さんまでもが突っ込んできた。
広々としたレッスン部屋の端っこで、俺たちはギュウギュウに固まっている。広さを全く生かしきれてない。
紗乃「気になって来てみたが••••••お前たちは何をやっているんだ?」
そこに、困惑と呆れが入り混じった表情で姫神プロデューサーがやってきた。
俺は無表情だったが、他の四人は青冷めていた。まぁいつも怒られてるしそりゃそうか。
天「なんかもうよくわかんないです」
紗乃「漠然とし過ぎだ••••••。まだ休憩時間なのか?」
天「••••••あ、ちょうど終わりですね」
紗乃「なら早く次の準備をしろ。神山も遊び過ぎるな」
天「サーセン」
珍しく今回は俺が怒られた。ちきしょうめが。
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レッスンが終わって、暗くなった街を五人でゾロゾロと歩いていく。
天「今日は災難だった••••••」
何がどうして、あんな暑苦しい事をしなければならないのか理解に苦しむ。
思い出すだけでも汗が噴き出しそうだ。
ノア「プロデューサーが来た時はものすごく焦りましたよ!急に来るのだけはやめて欲しいです!」
天「プロデューサーが来た時のみんなの顔、凄ったですね。結構面白かったですよ」
乙和「私たちは面白くないよ!すごく怖かったんだから!」
ギャーギャーと喚き立てる乙和さん。結局怒られたのは俺一人なので、今回は彼女たちは関係ない。それでも怒られるかもしれない、という恐怖はかなり効果のある事なのだろう。
衣舞紀「でもそこまで怒らなかったのが意外ね。あんな事をしていたのに」
衣舞紀さんが首を傾げながらそんな事を呟く。言われてみればあんなおふざけをしておいて、そこまで言われなかったのは本当に意外だ。
天「••••••ん?」
ちょうど建物のテレビから映像が流れていたのが目に入った。何故かやたら変な違和感を感じてしまい、それをまじまじと見つめる。
天「あっ•••これ」
咲姫「何かあった•••?あっ」
続いて見に来た咲姫も、テレビを見てハッとなる。続々と確認にやって来ては、驚いた表情を見せる。
画面に映っていたのは、我らがPhoton Maidenのクリスマスライブの告知だった。
乙和「すごい•••こんなところでも大々的に宣伝しているんだね」
ノア「そうだね••••••」
しみじみとした表情の乙和さんとノアさんを見て、自然と笑みが零れる。
宣伝をしている、というのは聞いていたが、まさかこんなところにまで手を出しているとは思わなかった。今日帰ったら軽くネットで探してみるか。
衣舞紀「それ程期待されてるって事よね」
咲姫「うん•••頑張らないと」
それに、この宣伝の効果は俺たちにもあったようで、更にやる気を引き出してくれるきっかけへと変わっていた。
天「•••よし。明日も思い切り追い込みますよ。そのやる気、明日まで取っておいてください」
もしかしたらこの中で一番やる気があるのは、俺かもしれない。確定だという根拠はないが、それでも負けてない自信にはあり得んばかりに溢れていた。
もうすぐ学校始まるってのに余裕過ぎてなんか逆に怖いな••••••。