休日前の金曜日。終業式が来週に迫っているのもあって、周りの雰囲気は明るかった。
勿論その中には俺も含まれていて、そのテンションの高い教室内で友人と会話をしていた。
焼野原「神山!冬休み中どこか行こうぜ!」
天「26日は確実に休みだが••••••ライブ明けだから絶対に咲姫が逃してくれねぇんだよな」
男子生徒A「クソ!リア充めが!」
男子生徒B「クリスマスライブ•••行きたかったな」
天「なんだ?チケット外れたか?」
何気なく訊いてみたが、何やらかなり深刻なようで、男子生徒は力なく頷いた。チラリと見えた顔は、なんだか泣きそうな表情だった。
男子生徒B「紛失した••••••」
天「ガチモンじゃねぇか••••••心当たりねぇのかよ」
男子生徒B「ない•••完全になくした••••••」
天「うん、なんか、その•••ドンマイ」
あまり言葉を掛けてやれないのが辛いが、これに関しては完全な自己責任だ。とやかく言うこともできん。
男子生徒B「そういうわけだからクリスマスは予定がなくなっちまった••••••」
男子生徒A「大丈夫だ!俺がいるぞ!」
男子生徒B「おぉ•••!クリスマス一緒に飯食いに行くか!」
男子生徒A「あぁ!盛大に焼肉でも食いに行こう!」
なんか勝手に二人で盛り上がる所為で、俺と焼野原くんが置いてけぼりにされてしまった。
彼と顔を合わせて、ま、いいか、とお互いに笑った。
焼野原「まぁとりあえず予定は空けられないって事だな」
天「悪いな。自分じゃどうなるかさっぱりで」
自分で休日を管理しているわけではないし、有給を取ろうにも、仕事に穴を開けるのは不安でいっぱいになるのでできない。面倒な仕事に就いたものだ。
天「今後の事を考えたら、お前らと今のうちに遊んでおくべきなんだろうけどな」
焼野原「そんな歳で仕事なんてしてるからだろー?遊べるのは学生のうちだけだぜ?」
天「••••••十分遊べてるさ」
俺は焼野原くんから視線を逸らし、床の自分の足元を見ながら微笑む。
天「今こうやってワイワイ話してるのも、今まで生きてきたからこそだ。その中には辛いことも楽しいこともあったし、遊んだりもした。別に大人になってからも遊べないわけじゃないんだ。暇見つけて、どっかで会いたいな」
焼野原「•••会いたいだなんてしみったれた事言うんじゃねぇよ!まだ後二年あるんだぜ!?どっかで暇作って遊ぶぞ!」
天「••••••わかった。楽しみにしてる」
それがいつになるのかは、俺にはわからない。だが、その時が必ずくるということだけは確信した。
天「••••••そういや次の授業は?」
焼野原「体育だな」
天「••••••着替えるか」
焼野原「そうだな」
周りの奴らはみんな着替えを終えて、ゾロゾロと体育館に向かっていた。
急いで体操服に着替えて、なんとか間に合うことができた。
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今日の体育は二学期最後の授業ということで、体育館で自由に遊んでいいとの事らしい。
俺は焼野原くんに誘われて、二人でバドミントンをしていた。
天「オッラァ!」
焼野原「いや速っ!?どんなパワーしてんのお前!?」
風を切る音と共にラケットを力一杯に振り抜くと、それに応えるようにシャトルが加速する。
とは言ってもシャトルは全く重くないので簡単に返されるが。
焼野原「しっかしメチャクチャ動けるよなーお前。体育の成績普通だったのにな」
天「これでも、剣道、柔道、銃剣道は一通りやってきてるからな。身体は全然動かせるぞ」
剣道の要領でふくらはぎを使って地面を蹴り、すぐさまシャトルの落下地点へ移動する。
そしてまた力一杯に振り抜いて、シャトルをぶっ飛ばす。
焼野原「武道マンかよ!いや、軍人の人間だしそりゃそうか!」
スパンッ!と小気味良い音が響いた。彼も彼で運動部に所属している人間だ。動きも早いしシャトルのスピードもある。
天「よっと。あ、やべ」
つい弱く返してしまった。それでも威力に負けて空高く舞い上がったシャトルが、真っ直ぐに落下を始める。
焼野原「ーーうらぁ!」
ジャンプ、からのまるで袈裟斬りのような振り下ろしによって、シャトルは床に向けて凄まじい速さで向かっていく。
天「流石にやられたな•••」
為す術なく、シャトルが床を小さく跳ねて転がった。それを拾って最初の位置に戻る。
天「んじゃ、やるか」
焼野原「次も俺が取るからなー?」
天「•••••••••」
チラリ、と横を目だけ動かしてみる。咲姫が小さく手を振っているのが見えた。
天「ふんっ!」
開始早々に強くラケットを振る。すぐに反応した焼野原くんは後ろに下がって応戦した。
焼野原「一発目からだいぶ強いの持ってきたな•••!」
天「こんなんで終わりじゃねぇぞっと!」
次はジャンプして右側目掛けてシャトルを打ち返す。
焼野原「いやちょっ!遠っ!」
焼野原くんからは距離のある位置を狙って打ったので、彼は必死に飛びついてなんとか弾く。
天「よいしょっと!」
またもジャンプ。上から大きく振り下ろして、今度は左側を狙う。
焼野原「くそっ!ハァ、ハァ•••」
またもギリギリで弾きあげる焼野原くん。次は確実に取れないだろう。それにまたギリギリのところに飛ばしてくると思っているだろう。
だから俺は逆に裏をかく。
ラケットを振り抜くーーフリをしてガットがシャトルに触れる瞬間に一気に力を抜く。
焼野原「ーーあっ」
完全に意表を突かれたようだ。表情から困惑しているのがひしひしと伝わってくる。
それに対して俺は、勝ちを確信した笑みを浮かべていた。
そして無情にもシャトルは小さな小さな、ごく僅かな音を立てて転がった。
天「•••よし」
俺もシャトルの音に負けないくらいの小さな声で喜びを露わにした。
ぜぇぜぇと荒く息をつく焼野原くんがトボトボ歩きながらシャトルを拾う。
焼野原「はぁ、はぁ•••次•••!」
天「•••いっぺん休もうか。無理させるわけにはいかん」
焼野原くんを座らせて休憩させている間に、咲姫に顔を向ける。
俺は小さく笑いながら手を振ると、
咲姫「••••••えへへ」
彼女も笑いながら振り返してくれた。
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焼野原「疲れたーー!」
焼野原くんの体力が限界に近づいたようで、バドミントンを中止して体育館の隅で大人しく座っていた。
天「それでも運動部かよ。疲れるにしては早すぎないか?」
焼野原「いやお前が動かしまくるからだろ!?お陰でこっちは体力使い切ったわ!」
天「部活でへばんなよ?」
ニシシ、と悪い笑みを浮かべる。焼野原くんも対抗したのか、力無く唇を上げる。
咲姫「隣、いい•••?」
天「ん?あぁ」
咲姫が俺の隣にちょこん、と座った。
天「いいのか?せっかくの自由時間なのに」
咲姫「うん。天くんと一緒にいる方がいいから」
焼野原「愛されてんなぁ••••••」
焼野原くんがやたらとニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。少しウザったい。殴ろうかな。
焼野原「ま、冗談はこれくらいにして。出雲さん、ずっと神山がバドミントンしてるところ見てたみたいだけど、どうだった?」
咲姫「すごくカッコよかった••••••」
焼野原「•••だとよ、彼氏さん」
天「••••••お前、絶対後で泣かすからな」
ストレートに褒められて、俺の顔は赤くなってしまう。舌打ち混じりに顔を隠して、俺は視界を真っ暗にした。
焼野原「照れんなって。褒められてんだから胸張れよ!」
天「••••••無理」
しばらくの間、というより、授業が終わるまで俺はまともに咲姫の顔が見られなかった。
ひっそりと手の隙間から覗くと、彼女はすぐにわかったようで、優しく微笑んだ。
とりあえず晩御飯食べ過ぎて腹痛めてるので大人しくしときますwそれではー。