ライブ本番五日前。追い込みに追い込みを重ねる期間に突入した。練習量もこれまれとは比べ物にならないくらいに厳しいものになってくるだろう。
そんな中俺は、仕事をしながらPhoton Maidenのレッスンを見ていた。姫神プロデューサーも一緒だ。
その所為なのか、いつもより彼女たちの緊張感がピリピリと伝わってきた。
天「どうです?かなりいい具合に仕上がっていると思いますが」
紗乃「そうだな。少し前とは比べ物にならないくらい上達している。これならライブも大丈夫だろう」
プロデューサーから直々に太鼓判を押してもらえた。その事実だけでもかなり大きいものがある。
それを聞いていた目の前の四人の表情が、少し和らいだ。
天「人の話聞く暇があるならダンスに集中してください」
そしていつもの俺の甘さも今回ばかりは消す。厳しく注意して、彼女たちの気を引き締めさせた。
紗乃「お前自身もちゃんと変わってるようで安心したよ」
天「まだ高校生ですからね。身体的にも精神的にもまだまだ成長できる時期ですよ」
紗乃「そういえばそうだったな。まるで高校生とは思えないくらいの生活だがな」
天「もう慣れですよ。俺からしたら日常と変わりありません」
キーボードを打ちながら、俺は小さく笑う。三年くらい前からやっている仕事だ。今更何かが変わっても本質が変わることがない限り、俺にとっての日常は変わらない。
姫神プロデューサーの俺を見る目がやけに優しいのは気の所為だと思いたいが•••。
紗乃「お前には迷惑をかけるな」
天「仕事なんで大丈夫ですよ」
紗乃「相変わらず淡白だな」
天「後仕事集中したいんであまり話しかけないでください」
紗乃「••••••一体誰に似たのか」
プロデューサーは大きくため息を吐いて、Photon Maidenのダンスに目を光らせていた。
俺はもうすぐ終わりそうだったので、急ピッチで仕上げている。
天「•••••••••」
紗乃「•••相変わらず集中していると喋らないんだな」
天「ん••••••」
コクリ、と頷く。パソコンの画面に集中しているので、プロデューサーの顔は一切見ていないのでわからない。
カタカタカタ、とレッスン室内にキーボードを打つ音が何度も響くが、それでも音楽にかき消されてしまう。
キュ、キュッ、とシューズが床の摩擦によって音を発しているのが耳を澄まさなくてもわかった。
天「••••••よしっ」
そして丁度、俺の方も仕事が完了する。最後のエンターキーだけは、少し強めにカタンッ、と叩いた。
天「よーし終わった終わった。•••あ、まだ踊ってた」
俺の方は終わっても、まだフォトンの方は終わっていなかった。みんな真剣な表情でダンスに取り組んでいた。
天「•••まぁ、ミスはないようですし、リハーサルも多分大丈夫でしょう。これでもまだ五日あるんですから、余裕が持てそうです」
紗乃「そうだな。後は調整をして備えよう」
プロデューサーの答えを聞いて、俺はすぐにスケジュール帳に「調整期間」と書いた。
何をするかは家に帰った後にでも考えよう。
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そういえば今日はハピアラのメンツが家に来る手筈だったはずだ。咲姫も俺の手を逃がさんとばかりに握って歩いている。
天「腹減ったなー•••」
咲姫「何処かで食べてから帰る?」
天「いんや。どうせ月が俺と咲姫の分を作っているだろうし、やめとこう」
食べて帰ってきたってバレたら何されるかわかったもんじゃない。危ない橋は渡らない主義だ。
というかもうあいつらは来てるのだろうか。詳しい時間までは言ってなかったので、いつ来るのかは俺にもわからない状態なのだ。
天「りんくの事だからもう来てそうなんだよなぁ••••••」
というか昼前から既にいそう。それで月とワイワイ遊んでそうだ。容易に想像がつく。
しばらく歩いて、家が見えてきた。玄関を開けると、見慣れない靴が四足。もう確実にあの四人だ。
天「やっぱりもう来てたか」
俺たちも靴を脱いで、リビングに顔を出す。
テーブルに少女が五人。楽しそうに談笑していた。
いち早く気づいた月がこちらに手を振ってきたのがわかった。
月「お兄ちゃん!咲姫さん!おかえりー!」
天「ただいま」
咲姫「お邪魔します••••••」
俺と咲姫も、控えめながらに手を振り返して座った。
りんく「お邪魔してまーす!」
天「••••••いつから来てたんだ?」
りんく「えーっとねー、朝の十時!」
天「はえぇよ!絶賛仕事中だよこっちは!」
なんつー時間から来てんのこいつら!?あまりにも早すぎるだろ!?
月「さっきまでずーっとみんなでゲームしてたんだよ!」
天「へぇ•••何やってたんだ?」
月「スマ◯ラ」
大乱闘するあの例のゲームだった。この中だと月とむにの二強になってそうだな。
麗「私がずっと負けっぱなしで••••••」
天「•••そもそも家庭用ゲームに触れる事すらないような気がするな、麗は」
色々と疎いところが垣間見えていたので、こういったゲームの存在なんて知らないだろう。
月「あっ、と。お昼ご飯にしないとね」
天「あ、そうか。みんな食べてないのか」
朝の十時からウチにいるのだからそりゃ食べてなんていないだろう。なんでそんな簡単な事に気が付かなかったんだ?疲れてんのかな。
月「はいどうぞ!予め作っておいたんだよねー!」
りんく「わっはー!おいしそー!」
天「••••••気合い入り過ぎじゃね?」
咲姫「多すぎて全部食べられないかも••••••」
この中で喜んでいるのはりんくただ一人だった。それ以外は冷や汗をかきながら、なんとも言えない顔になっている。
天「•••食べられなかったら俺が食うから」
咲姫「うん•••お願い」
月「あれー?そんなに多かったですか?」
むに「多すぎるわよ!こんなに食べたらお腹壊しちゃうわ!」
真秀「流石にこんな量は無理だね••••••」
月「???」
天「お前絶対俺基準で作っただろ」
月「あっ•••」
察したような顔になって、月は誤魔化すように笑い始めた。
月「いやー•••すみません!」
りんく「大丈夫だよ!私がぜーんぶ食べるから!」
天「その細いお腹のどこにあんな量が入るんだよ••••••」
真秀「天も天であまり人のことは言えてないけどね••••••」
天「???」
俺は首を傾げた。
咲姫「天くんは筋肉を維持しないといけないから••••••」
むに「だからってそんなに食べるの?」
天「食わないと筋肉は無くなっちまうんだよ。特に肉を多めに食べないといけない」
りんく「打ち上げの時はすごかったねー!天くんと私でたくさん食べちゃってお店のご飯が全部なくなっちゃった!」
麗「あれは本当にお見事でした」
りんくが楽しそうに数日前の話をしている。そしてそこに麗の賞賛が入るが、あれは全く見事と呼んでいい出来事ではない。むしろやらかした方だ。
天「俺、何であんなに食ったんだろうな••••••」
咲姫「その場の勢い••••••?」
咲姫が首を傾げながらそんな疑問を零す。恐らく、恐らくだが、ストレス発散に食べまくったんだと思う。多分。
天「というかマジで多いな•••俺とりんくが処理するからいいとして、もしできなかったらどうするつもりだったんだお前」
少し睨みを効かせながら月に顔を向ける。そろーっと顔を逸らしながら、小さな声でボソりと言葉を放つ。
月「捨てる••••••」
天「食べ物粗末にすんなボケ」
月「ごめんなさい•••」
周りがシン、としてたのもあって、妹の声はしっかりと聞こえていた。
大量の白米の上に盛られた色々な肉が、これでもかと食欲を奪っていた。あまりにも多い。まるで山だな。
天「無理せずに残していいからな?」
咲姫「うん、ありがとう••••••」
むに「イチャイチャしないでほしいのだけど•••」
天「あれ、これで?」
普通の会話だった気がするんだが、むににとってはあまり気に食わなかったらしい。
ま、いいや、と切り替えて、肉を口の中に運んだ。うん、美味い。美味いが量が多い。
咲姫「美味しい••••••」
月「良かったーー!」
咲姫「でも量が多い••••••」
月「すみません••••••」
天「言うようになったな••••••」
以前よりも神山家にまた浸透している咲姫だった。ちなみに大半がすぐにギブアップをし、俺とりんくで残飯処理をする事になった。晩飯いらねぇよマジで。
後今日入学式でした。月曜から地獄見てきますw