朝になって目が覚めると、隣に咲姫がいる事に気がつく。そういえば昨日からしばらく泊まり続ける予定だったんだよな、こいつ。
まだ起きる様子のない彼女の身体を揺さぶって、声を掛ける。
天「咲姫、朝だぞ。起きろよ」
咲姫「ん、んぅ•••」
小さく声を漏らしながら寝返りを打つ咲姫。まだ寝かせてやりたいが、どのみち月が起こしにくるので騒がれる前に目覚めさせなければ面倒なことになる。
天「起きろ、咲姫。朝だって」
咲姫「もう少しだけ••••••」
いや起きてんのかよ。モゾモゾと動いて俺の服を引っ張る咲姫。まるで甘える小さな子供のようだった。
天「はぁ•••全く」
薄らと笑みを零して、彼女の頭を撫でる。安心したような表情になったのが、すぐにわかった。
月「起きてるー!?」
天「起きてる。あんまり騒ぐなよ」
勢いよく扉を開いた月が、喚くように声を張り上げた。無表情のまま、俺は静かな声で妹を鎮めた。
月「あれ?咲姫さんは?」
天「ここ」
ピッ、と人差し指を下向きに指す。そーっと覗きにきた月は、おぉー、と声を漏らした。
月「メチャクチャ甘えてる••••••」
天「いい加減起きて欲しいんだけどな」
月「こんな姿、お兄ちゃんにしか見せないと思うけどねー。ものすごく貴重と思うよ?」
天「••••••そういうもんか?というか•••おい、起きろ。起きろって。練習遅れるぞおい」
咲姫「んぅ•••後ちょっと••••••」
まだ寝ていたいのか、俺のお腹に顔を埋めた。流石に今度は優しくできないので、ベッドから降りて咲姫を置き去りにした。
天「ちゃんと降りてこいよ?」
月「え冷たくない?」
天「このまま延々とねだられるよりマシだろ」
月「でも冷たくない?」
天「ウゼェな次お前いけ」
月「きゃー!」
月を抱えてベッドに放り投げる。二回ほど跳ねてから、妹は咲姫にくっついた。
月「あ!咲姫さんいいにおーい!」
そして咲姫に絡み始めたのを確認したら、俺はそそくさと一階へと降りた。
欠伸をしながら、ゆっくりと一段ずつ階段を降りる。そしてリビングを開けると、意外な人間がいた。
猛「おぅ、久しぶりだな」
天「帰ってきてたのか」
どうやら知らないうちに父さんが家に帰ってきていたらしい。呑気にテーブルの前に座って、朝から酒を飲んでいた。
天「くっさ•••昨日から飲んでただろ••••••」
猛「お?バレたか?久しぶりに家に帰ってこれたからなぁ、かなり気が緩んじまったよ。後これお土産」
ゴトン、という鈍い音と共に置かれたのは、少し大きめのアタッシュケースだった。
天「いや何これ」
猛「金」
軽い動作で開けられたケースの中身は、ギッチギチに詰め込まれた諭吉先生だった。
天「何故急に金?」
猛「いやお前の担当クリスマスライブするんだろ?色々足しになったらいいと思ってな」
天「今更過ぎるんだよ!ライブ日いつだと思ってんだ明後日だぞ!?」
猛「えマジ?•••あ、本当だ明後日がクリスマスだったわ。いやー遅れてすまんすまん」
父さんがヘラヘラと笑いながら頭をポリポリと掻く。俺は呆れながらため息を大きく吐き、アタッシュケースをこちらに引き寄せる。
天「まぁくれるなら貰っておく。事務所に渡して色々融通利かせてもらうわ」
猛「抜き取ったりすんなよ?」
天「しねぇよアホか」
元から給料貰ってんのに今更金を欲しがるつもりもない。俺の横にケースを置いて、椅子に座った。
天「んで、次の仕事はいつだ?」
猛「明日には家出るけど」
天「相変わらずだな••••••」
忙しいようで。俺には関係ないから特に気にしてはいないが、まぁ死なない程度に頑張ってて欲しい。
猛「ありえないくらい適当でお父さん泣きそうなんだが」
天「いや知らねぇよ」
父さんの白々しい泣き演技にも、俺は無表情で返す。
そこに階段を降りる音が聞こえ、月と咲姫が来たのを確信する。
猛「おっと、んじゃ後は任せるわ」
天「ん」
父さんは席を立って、自室に引っ込んで行ってしまった。
ちょうど良いタイミングで二人がリビングに入り、彼の姿は確認されなかった。
月「あれ?お父さんいなかった?」
天「今ちょうど部屋に戻って行ったぞ」
月「咲姫さんに挨拶くらいしたらいいのに••••••」
咲姫「わ、私は大丈夫だから••••••」
頬を膨らませながら怒る月を、咲姫は少し困り気味に宥めていた。
俺はテレビから流れているニュースをボーッと眺めているばかりで、あまり意識が二人の方に向いていなかった。
月「とりあえず朝ご飯にしましょうか!」
天「耳元で叫ぶな••••••」
狙っていたのかわざわざ俺の目の前で妹はデカい声をあげやがった。耳がキーン、と鳴って気持ち悪い。
月「ほら早く準備して!」
天「へいへい••••••」
仕方ない、という様子で立ち上がり、俺は飯が乗った茶碗や皿を運んだ。
先に起きたのが仇となったのか、今は俺の方が眠かったという。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
事務所で仕事をこなしていても、何処か退屈な感情が湧いてきてしまった。
昨日から調整期間に入り、レッスンが終わるのがかなり早くなった。俺も仕事の量自体は減っていて、すぐに帰れる状況にある。
実際、今しがた作業を終えて、仕事から解放されたばかりだ。だがまだPhoton Maidenの方は練習が終わっていないので、一人で直帰するわけにもいかない状況になっている。
天「ふわああぁぁ••••••」
退屈な上に眠たくて、自然と欠伸が零れてしまう。寝ぼけ目を擦りながら、眠るような体勢をついとってしまう。
天「このまま••••••」
眠たくて眠たくてたまらなくて••••••俺はつい寝てしまった。
どれくらい経ったかわからない。だけど起きる気力もなくて、身体を起こせずにいた。
軽く誰かに揺さぶられているが、何故だか気にならない。
咲姫「天くん。天くん」
天「ん、なんだ•••?」
あまりにも長時間揺さぶられるものだから、つい目を開けてしまう。すると目の前には微笑んだ咲姫の顔があった。
咲姫「やっと起きた••••••」
天「あーやべ•••寝過ぎたか」
目をごしごしと擦りながら視界を整える。だんだんと咲姫の顔がハッキリと視認できるようになったところで、彼女に確認を取った。
天「今何時だ?」
咲姫「お昼の12時半••••••」
天「昼飯時か•••月が作ってるだろうし、さっさと帰るか」
咲姫「うん•••あ、天くん」
天「ん?」
立ち上がろうとしたところを咲姫に止められて、俺は首を傾げた。一体何事だ、と思った瞬間にーー、
咲姫「んっ」
天「ーーッ!?」
唇を重ねられる。しかも逃げられないように抱きつかれた状態で。
咲姫「ん、んぅ、ちゅ、ちゅっ••••••」
そういえば最近めっきりだったキスだ。久しぶりにするのもあって、咲姫の吸い付きは長かった。
しばらくしてようやく離れた彼女の顔は、エラく満足してた。
天「いきなりはやめてくれ」
咲姫「うんっ」
まだ嬉しいのか、彼女の声は弾んでいる。フッ、と鼻で息を吐き出し、咲姫の頬に手を添えた。
天「柔らかいな•••」
摘んだり指でつついたりして遊ぶ。少しだけ嫌そうに身じろぎしたが、そこはあまり気にしない。
咲姫はまだ俺に抱きついている状態なので、逃がさないように背中に腕を回した。
咲姫「ギュッてするのも、久しぶりかも••••••」
天「そうだな。あまりこういったスキンシップは減っていたかもしれん」
いつもより咲姫の抱きしめる力が強いのは、今までの分を取り返すつもりなのかわからない。だが愛されている事だけはわかった。
だから俺も強く抱き返してやる。彼女の柔らかい身体が、更に密着した。
天「••••••とりあえず、家に帰らないか?」
咲姫「まだもう少しだけ••••••」
朝にも同じような事を言っていたが、今は朝の時と違ってとても愛おしいワガママだった。
もうすぐ風呂なんでほな、ばいなら。