梅雨と同時に暑くなるのマジ勘弁
二年生になってしばらくが経ち、徐々に暑さを感じ始めていた。
もう六月。一学期の終わりが少しずつ見え始める頃合いの時期だ。
そして••••••。
天「今日も雨か••••••」
梅雨の期間でもある。窓から外を眺めれば、大きな勢いで地面に突撃する水滴の姿があった。
濡れるから嫌なんだよな、雨。
焼野原「やっぱり梅雨はこんなもんだよなー。帰る時面倒なのが嫌だわ」
天「そうだな••••••」
焼野原「そういやお前、出雲さんと相合傘とかしねぇの?」
唐突な質問に、俺は「は?」と呆れた声を漏らす。そしてげんなりとした表情で彼の問いかけに答える。
天「ねぇよ」
焼野原「え?ないの?普通に雨の日はいつもやってるもんだと思ってたわ」
天「お前俺のことなんだと思ってんの?」
焼野原「出雲さん激甘クソ野郎」
天「殺すぞ」
変なあだ名つけんじゃねぇよボケ。キッ、と睨みつける。
焼野原くんはすまんすまんと口だけで謝るばかりで、反省した様子はなかった。
天「でも、ジメジメすんのは少し嫌だな••••••」
雨のおかげで湿度が高まり、汗が出やすくなっているのだ。
制服の胸元をパタパタと扇いで風を送るが、生温い風しか飛んでこない。
天「暑いな••••••」
身体からまた汗が流れ出すのがなんとなくわかった。
多少の苛つきがこもった息を吐き、窓際に体重を預けていると、横から冷たい心地よい風が顔に向けて送られた。
天「••••••ん?」
顔を向けると、そこには電池式の小型扇風機を片手に、俺に向けていた咲姫の姿があった。
咲姫「暑そうにしていたから」
天「俺よりお前の方が暑いだろ。道民なんだし」
咲姫「私は十分涼んだから大丈夫」
天「そう言うなら、お言葉に甘えて••••••」
彼女がそこまで言うなら無下にできないだろう。素直に聞き入れて、扇風機から放たれる風を顔で受ける。
一部だけとはいえ、涼める部分があるとだいぶ変わるものだ。みるみるうちに身体中の汗が引いていった。
天「外の部活とかしてる連中には嬉しいだろうな、梅雨は」
焼野原「逆に室内競技の連中は死んでるだろうけどな」
天「雨とか関係ないからな、あそこは」
ケラケラと笑う。俺も室内競技を色々経験してきた人間だからある程度の気持ちはわかる。こういう時だけ外競技の連中が羨ましくなるものだ。
天「傘使うの面倒なんだよな••••••傘さしても濡れる時は濡れるし」
焼野原「もう傘ささないで走っていったら?」
天「雨避けられるくらいの瞬発力があったらな」
焼野原くんを小突きながら、俺はふっ、と息を吐いた。
そこで、咲姫がハッと顔を変える。何か思い出したのだろうか。
咲姫「そういえば、天くんと相合傘をしたことがなかった」
天「話戻りやがった••••••」
見事に原点回帰した。焼野原くんはそれが面白かったのか、腹を抱えてゲラゲラと大笑いしている。
焼野原「いってぇ!?」
とりあえず一発蹴っておいた。
天「いや、する分にはいいけど••••••濡れるぞ?」
咲姫「私は濡れても構わないから」
天「強情••••••」
ここまでくるとむしろ尊敬するわ。どうしてそこまで俺の為に自分を犠牲にするの?もっと身体大事にして?
というか、咲姫の場合これが普通な気がしてきた。何かしら突っかかってくるしすぐ甘えてくるし。相合傘も今までのに比べたらまだいい方だ。
そうだ、平常運転なのだ。そう、平常••••••。
•••そうでも言い聞かせないと、俺の中の理性がぐちゃぐちゃになりそうだった。
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昼休みになれば、ほぼ自動的に乙和さんがこの教室に迎えに来るのはわかっていたことだ。
昼休みになった次の瞬間には教室のドアが開かれて、乙和さんの元気な声が飛んでくる。
乙和「天くん!咲姫ちゃん!お昼食べに行こー!」
天「よっと••••••」
咲姫「今から行くね」
同時に腰を上げて、乙和さんについて行く形で教室を後にする。
廊下を軽い足取りで歩きながら食堂へ向かうが、珍しく咲姫から会話はなかった。
だが、しっかりと手は握られていた。油断も隙もない。
乙和「そういえば中間テストどうだった?」
天「俺たちの前に乙和さんはどうだったんですか?」
あの中だと成績面で一番怪しいのは乙和さんだ。
圧をかけるようにジロジロと乙和さんの顔を見つめると、咄嗟に彼女が目を逸らしたのがわかった。
天「••••••はぁ、全く••••••。三年生にもなって赤点ですか。受験生なんですからそれ相応の覚悟と自覚を持って勉強をしてください。Photon Maidenの活動が忙しいのは重々承知していますが、それでも赤点はありえません。普段からちゃんと勉強してるんですか?勉強は日頃から積み重ねないといい結果を残せません。テスト前の急ピッチで仕上げられるのはほんの少しだけなんですから。それに乙和さんも芸能界にいるプロだということには変わりないので、恥ずかしくない最低限の成績というものをですねーー」
乙和「わ、わかったよ〜。期末ではちゃんと頑張るから今回は許して!ね!?」
グチグチと説教をしていたが、乙和さんが強制的に打ち止めて俺に向かって拝んで許しを乞う。
天「••••••わかりました。次赤点取ったら姫神プロデューサーと二人で説教しますから」
乙和「が、頑張ります••••••」
今の一言が一番効いたのか、乙和さんの顔は恐怖もあったがやる気に満ちていた。
期待できそうだが、ここまで期待させといて赤点取りましたー、だったら流石にキレそう。
天「全く••••••」
咲姫「あまり怒らないであげて。乙和さんも好きで赤点を取ってるわけじゃないから」
天「•••わかったよ。これ以上は何も言わん」
咲姫に嗜められて、俺はため息混じりに乙和さんから顔を逸らした。
くいっ、と手を引かれて顔を向けると、咲姫が微笑みながら俺を見上げていた。
天「どうした?」
咲姫「天くんの顔が見たかっただけ」
天「そうかい」
コツン、とおでこ同士を軽くぶつけた。頬を薄く紅潮させながら微笑む姿が映り、顔を逸らした。
乙和「どうしたの?急にこっち見て」
天「なんか•••咲姫と顔合わせるのが恥ずかしくなりました••••••」
乙和「えぇ〜•••もう流石に慣れたでしょ?」
天「•••意外と慣れないもんですよ••••••」
あんな綺麗な顔されるのは何度見ても慣れない。普通にときめいちゃう。
学食に入って、それぞれ好きなものを注文して席を確保する。
衣舞紀さんとノアさんがやってくるまでの間は適当に駄弁りながら過ごしていた。
しばらくして二人がやってくる。そしてそこをきっかけとして、昼食を食べ始めた。
天「後一ヶ月で夏休みって、案外早いもんですね」
衣舞紀「そうね。本当にあっという間に過ぎていくから、気がついたらもう受験当日になってそうかも」
当たり障りのない話題を投げてみると、律儀に衣舞紀さんが反応を示してくれた。
しかし咲姫以外の三人が一気に受験となると••••••練習量を減らして勉強に集中させた方がいいのではと考えてしまう。衣舞紀さんとノアさんは心配してないが一人アレなのがいるからだ。
乙和「むぅ!」
俺の視線に気がついたのか、乙和さんは頬を膨らませて睨みをきかせた。何を考えていたのか確実にバレたことだろう。
乙和「ふーんだ!天くんも来年私と同じ目に遭えばいいもん!」
天「一応大学は行きますけど••••••でも今はあまり受験の事は考えたくないですよ••••••」
ノア「•••あっ、そっか。夏休みが来るってことは」
天「ライブで忙しくなる時期ですよ」
すぐ目の前にまで迫っている多忙な予定によって、勉強という部分は完全に頭から切り離されていた。正直考えていられる余裕なんてない。
咲姫「私はまだ後一年あるから大丈夫だけど••••••みんなは?」
三人に向けて首を傾げる咲姫。そう、一番の問題はそこなのだ。
天「練習量を減らす事も一応可能ですが、どうしますか?」
衣舞紀「ううん、いつも通りでお願い。なんとか両立してみせるから」
天「•••わかりました。ノアさんと乙和さんもそれでいいですか?」
ノア「うん、私は大丈夫だよ」
乙和「私もー!」
天「貴方は既に危ないですけどね」
乙和「五月蝿い!」
乙和さんの悲痛な叫びが学食中に響き渡った。俺はメモ帳を取り出して、予定を書き綴った。
次の投稿はもしかしたら来月とかそれくらいかなり先になる可能性が高いです。そこまで書きまくれるわけじゃありませんので。では。