期末考査は無事終了し、俺は晴れやかな気持ちで席を立った。
天「はー終わったー!」
咲姫「お疲れ様、天くん」
天「おう、咲姫もお疲れさん」
気がついたら隣にやってきて、労いの言葉をかけてくれる咲姫の頭を撫でてやる。
彼女は目を閉じて俺の手の動きに合わせてゆらゆらとゆったり揺れていた。なんか可愛いな。
焼野原「俺••••••ヤバいかも」
が、やり切った気分とは全く対照的な、沈んだ声音で焼野原くんが肩を落としてながら呟いた。どうやら死んだらしい。
天「何処ミスったんだよお前••••••」
焼野原「今回のテストの解答•••一つずつズレてた••••••」
天「あっ(察し)」
赤点コースまっしぐらですねお疲れ様です強く生きてください。
天「まぁ•••二学期頑張れ。先生も採点で気づくだろ」
焼野原「•••はい••••••。あ、そうだ。神山って行く大学決めてんの?」
いきなり顔をあげたかと思えば、そんな質問が彼の口から飛んできた。
天「特に行きたいところはないからな•••仕事場から近いのもあるし星朋大学に行くつもりだ」
焼野原「あ、神山の学力じゃいけねぇじゃん」
天「うっさいわ」
痛いところを突いてくるなこいつは。というかテストで解答ズラすバカには言われたくない。
天「本番までにはどうにかする。都合のいい事にウチには勉強教えてくれる先輩がいるわけだし」
咲姫「ノアさんのこと?」
天「そう」
咲姫「ノアさんの迷惑にならない?」
天「••••••まぁ、その時は大学一年だろうし大丈夫だろ」
計画性がないが、ノアさんなら大丈夫だろうという謎の安心感がある。まぁあの人俺やPhoton Maidenのみんなに甘い(乙和さんは除く)しイケるイケる(適当)。
焼野原「いいよなお前は可愛い先輩に勉強教えてもらえるんだからなぁ!!俺もお前みたいにマネージャーになればそう言うご褒美貰えんのかよぉ!?」
天「••••••それを俺に言われてもな••••••」
そもそも俺は望んでこんな関係性になったわけじゃない。気がついたらこうなっていたのだ。
天「というか俺普通に仕事あるんだわ、じゃあな」
咲姫「私も練習をしないと••••••」
焼野原「あ、あぁ••••••」
咲姫の手を引きながら、教室を後にする。彼を置いてけぼりにしたのは少し心が痛むが、ここで遊んでいるわけにもいかない。
すぐに学校を飛び出して、事務所に急いで向かった。
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まだテストの結果は返ってきてないのだが、個人的な観点から見ればある程度の結果は予測できる。
ただ、これでもかと嫌な面で予想しやすい人間が一人いるのだ。そう、乙和さんだ。
天「••••••それで、どうだったんですか?」
仕事を始める前にレッスン部屋に訪れて、咲姫を除く全員で乙和さんに詰め寄っていた。
誤魔化すような笑いを出す余裕もないのか、汗を流しながら俺たちの顔をそれぞれ流し見ている。
乙和「え、えーっとぉ•••赤点は免れた••••••かな?」
天「は?」
こめかみに青筋を立てながら俺は乙和さんを睨みつける。ノアさんと衣舞紀さんは、俺みたいに怒った様子ではないが、不満はかなりある模様。
乙和「許してー!」
天「•••••••••はぁ、全く」
呆れてモノも言えない。自分の顔を腕で覆って防御の体勢に入っている乙和さんに目を向けながら、とてつもなく大きなため息を吐いた。
乙和「だ、大丈夫だよ!最終的に大学に受かればーー」
天「大学受験を無礼るなよ?」
食い気味に、そして威圧的に俺は乙和さんに言葉を投げつける。その瞬間に彼女の口は動きを止めて、微かにだが震え始めた。
乙和「だって、だってぇ••••••」
というかもう泣きそうになってんだよな。流石にこうなるとは思ってなかったのか、ノアさんと衣舞紀さんは少し固まっていた。
天「あーもう泣かないでください、子供じゃないんですから」
乙和「だって天くん怖いんだもん••••••!」
天「もう怒ってませんよ。だから泣き止んでください」
子供をあやすように優しく抱きしめて、背中をさすってやる。
ねぇ、俺一応乙和さんより歳下だよな?なんでこんな事になってんの?
天「••••••あの、乙和さん任せてもいいですか?仕事したいんですけど」
衣舞紀「ダメ」
天「えぇ••••••」
どうやら俺に拒否権はないらしい。まぁそこまで忙しくないからいいんだけどさ。
結局数分間程、乙和さんをあやして仕事に戻る事ができた。ちょっと可哀想だったので、プロデューサーと二人がかりで説教をする件は無しにしておいた。
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仕事が終わって身体を伸ばしていると、一通のメールが飛んできた。携帯を手に取って内容を確認し、俺は短く「了解」と文字を打った。
ちなみに中身は月が桜田家で飯を食ってくるから適当に済ませてこい、との事だ。何食お。
天「適当に探すかねぇ••••••」
一人で飯を食うところはいくらでもあるが、意外と限られるので困る。
咲姫「天くん」
天「あ、咲姫」
仕事部屋に咲姫が入ってきた。俺は携帯をしまって、カバンを手に立ち上がる。
咲姫「一緒に帰ろう?」
天「あー•••悪いな、今日は何処かで飯食うから一緒に帰れそうにない」
咲姫「月ちゃん、何かあったの?」
少し心配そうな表情で尋ねる咲姫。そこまで深刻にならなくていいから安心してくれ。
天「いや、ただ友達のところで飯食ってくるってだけだ」
咲姫「私もついていっていい?」
天「あぁ、いいぞ」
咲姫「じゃあ、みんなにも伝えてくるね」
天「•••••••••あ、はい」
一瞬二人っきりで飯食うのかな、と思ったけどそんなことはなかった。
彼女は小走りで部屋を後にして何処かへと向かった。恐らく衣舞紀さん達を呼びに行ったのだろう。
天「••••••外で待ってるか」
欠伸を一つ呑気に放出しながら、俺は一足先に事務所の外へと向かった。
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Photon Maidenの面々と一緒にファミレスへと向かう。最早いつも通りの光景だった。
乙和「みんなでご飯って久しぶりだね!たくさん食べちゃうぞー!」
衣舞紀「乙和。ライブも控えてるんだからちゃんと考えて食べなさい」
乙和「衣舞紀のケチ!」
天「今日くらいはいいんじゃないですか?明日から節制すれば十分間に合うと思いますよ」
二人が言い合ってる中に口を挟む。途端に彼女らの顔が俺に向いたが、表情は様々だった。
乙和さんは喜びに溢れ、衣舞紀さんは納得いかない、と言いたげな顔だ。
乙和「さっすが天くん話がわかる!」
天「とりあえず明日からライブ日まで晩飯抜きでお願いします」
乙和「衣舞紀よりも鬼だった!」
天「冗談です」
乙和「天くんが言うと冗談に聞こえないよ〜•••」
なんか申し訳ない。乙和さんがイジりやすいのが悪いんや。俺は悪ない(クズ)。
店内に入って席に通してもらうと、すぐさま全員でメニューを見始めた。
天「腹減ってるしなぁ••••••チーズインハンバーグとサイコロステーキのセットいっておくか」
咲姫「私は•••天くんと同じものを」
天「咲姫の胃袋だと吐くぞ」
成人男性が一つ食べて満足する程の量だ。りんくじゃあるまいし、咲姫では到底無理だろう。
咲姫「••••••じゃあ、これ」
膨れっ面でミニハンバーグ定食を指差していた。ちゃんと身の丈にあったものを頼もうな。
まぁ当然と言えば当然なのだが、ハンバーグとサイステ程度じゃ腹など満たされそうになかった。どんだけ腹減ってんだ俺。
咲姫「天くんのソレ、食べたい」
天「ん?これか?いいぞ」
フォークで刺したサイコロステーキを咲姫の口の前に持っていく。そして彼女はそれを躊躇いなく口に含んだ。
咲姫「美味しい」
天「それはよかった」
ノア「な、流れるように食べさせてた••••••」
天「あっ(察し)」
ノアさんに指摘されて、今更「あーん」をした事に恥ずかしさを感じてしまった。顔が紅潮してしまう。
ノア「照れてる天くんカワイイなぁ〜」
天「うっさいですよ••••••」
そして相変わらずと言うべきなのか、ノアさんにイジられてしまう。本人はイジってるつもりはないのだろうが、俺からしたら恥ずかしくて堪らない。
天「あ•••なくなった」
咲姫に食べさせた分が最後になってしまったらしい。目の前の鉄板の上には、肉のカケラ程度しか乗っていなかった。
衣舞紀「もうみんな他に食べるものはない?」
天「あ、俺デザート食べます」
咲姫「私も」
乙和「私も私もー!」
ノア「甘いものが食べたいですね」
衣舞紀「やっぱりデザートは欠かせないのね••••••」
いつも通り、と言った様子で衣舞紀さんが苦笑混じりにやれやれと首を横に振った。
まぁみんな甘いもの好きだろうし仕方ないね。
各々好きなようにデザートを注文して、甘いひと時を味わった。
久しぶりに食べるパフェは、なんだかいつもの数倍美味しく感じられてる気がする。
天「うめぇ」
衣舞紀「本当、美味しそうに食べるわね」
あからさまに美味しいですよ、と言った表情でパフェを貪っているのだ。客観的に見れば美味しく味わって食べている事だろう。
咲姫「天くん、ほっぺたについてるよ」
天「あぁ、悪いな」
いつの間にか頬に付着していたクリームを咲姫に拭き取ってもらう。なんかガキ扱いされてるみたいで複雑だ。
咲姫「今の天くん、少し子供みたい」
天「たかがクリームつけてただけだろ?」
わしゃわしゃと頭を両手でかき乱してやる。指を這わせて乱雑に動かすと、髪型が乱れたのがわかった。
咲姫「イジワル••••••」
天「悪い悪い、戻すよ」
手櫛で彼女の髪型を整えてやるが、少し不恰好な感じになってしまった。申し訳ない。
ノア「普段髪の手入れなんてほとんどしてないんでしょ?メチャクチャになってるよ」
天「すまん、咲姫••••••」
咲姫「大丈夫。もうこれから帰るだけだから」
一切の悪態をつかずに、咲姫はニコニコと笑顔を貫き通していた。ええ子や。
デザートも食べ終わり、メンバー全員分の料金を俺が出した。彼女たちよりも金はあるので当然だろう。
ノア「ごめんね天くん。奢ってもらっちゃって」
天「大丈夫ですよ。普段からあまり使わないので」
乙和「じゃあ明日も奢ってもらっちゃっおっかな〜?」
天「流石に死ぬので勘弁してください」
微笑混じりに乙和さんの発言を受け流す。周りが幸せなら俺はそれでいいのだ。今の発言カッコよくない?
衣舞紀「お陰で明日も頑張れそう!ありがとう、天!」
天「いえいえ•••それじゃ時間も時間ですし、帰りましょうか」
全員が頷いた。俺も応えるように首を縦に振り、それぞれの行き先へと足を進めた。
もちろん俺と同じ方向には咲姫がついてくる。
天「にしても、大学受験かぁ••••••」
来年には受験生だというのに、あまり実感が湧かない。というか本当に大学に行くのかすら曖昧なまである。
咲姫「まだ一年あるから、今の内に対策しておかないとね」
天「あーそうだな••••••。ぶっちゃけ大学行く必要ないんだけどなぁ••••••」
とはいえこの学歴社会の日本では、最低限大学や専門学校には行っておきたい。
まぁ最近は高卒で成功している人間もいるし、変に拘る必要もないんだけどな。
咲姫「ダメ。私と一緒に大学に行く」
天「•••あ、はいわかりました」
グイッ、と俺の手を引っ張りながら不満気な表情をする咲姫。
俺は苦笑いを漏らしながら、前を向く。
天「まぁ、とりあえずは大学にはキッチリ行くさ。そもそもPhoton Maidenがいつまで続くかにもよるが」
明日にでもPhoton Maidenが解散、となれば俺はすぐにでも大学受験を捨てて何処かに飛んでやるよ。
現状で解散などまずあり得ないが。
咲姫「解散しないように天くんがたくさん仕事を持ってきてくれないと」
天「はーいはいわかってるよ。バックには事務所がついてんだ、どーんと構えてろ」
欠伸を一つしてしまって全く締まらないが、咲姫はちゃんと汲み取ってくれているようで、全くツッコまなかった。
とりあえず••••••ちゃんと大学受験に向けて勉強しよう、俺はそう決意した。めんどくせぇ。
では、自分はミルダムの配信をしますので•••え、D4の配信?しないしないしない。ワシそこまでグルミク上手じゃないし。じゃあ何をするのかって?ウマです(真顔)