八月も後半に差し掛かり、真夏日はまだまだ続いていた。リビングで月と二人きりになりながら、時折聞こえてくるテレビの音を聞き流していた。
月「あっつーーいぃ!!今日暑過ぎない!?」
天「エアコン入れるか?」
月「いれてー!というか何でお兄ちゃんはそんな平気そうなの!?」
天「鍛え方が違う」
そもそも少し前に九州に行ってガンガンに太陽を浴びてきたばかりだ。この程度の暑さでへばっていては神山家では生きていけない。
エアコンのリモコンを手に取って冷房を起動する。
しばらくして冷たい風が徐々に身体を蝕んでいくのがわかった。
月「あーそういえば今日お父さんとお母さん帰ってくるらしいよ」
天「ふーん、珍しいな。お盆の時は帰ってこなかった癖に」
月「言い方悪いよ。二人とも忙しいんだから仕方ないよ」
まぁそうだけどそれでもお盆に帰ってこないと言うのは流石にどうかと思う。
天「ぶっちゃけ二人が帰ってこようがこまいがどうでもいいんだけど」
月「この兄は••••••」
大きな欠伸をしながら、グチグチ文句を言いながらもノートに色々書いている月を眺める。
天「んで、ぶっちゃけ受験の方はどうなんだ?」
月「うーん•••一応期末はしっかりオール九十点以上取ったから多分大丈夫とは思うけど••••••」
天「まだ不安要素が残るなら気が済むまでやりなさい。まだまだ時間はあるから」
月「はーい。なんか今日は優しいね」
天「•••••••••」
月「お?照れてるな?」
天「照れてねぇよボケ」
今更こいつ相手に照れる必要が何処にあるって言うんだ。舌打ち混じりに視線を逸らすが、妹のニヤニヤは止まらない。
月「えぇー?言い訳するんでちゅか〜?本当は嬉しいんでちゅよね〜?」
天「黙ってろマジで」
月「おぉ怖っ」
こめかみに青筋を立てながら睨みつけると流石に黙った。テレビを不機嫌そうに眺めながら舌打ちをする。
月「最近舌打ち癖になってない?みんなの前でしちゃダメだよ?」
天「わかってる。そこは気をつけるつもりだ」
月「私は?」
天「知るか」
月「クソがよ」
お前も大して変わらねぇじゃねぇか。お互いに悪態を吐くのはお馴染みなご様子で。
月「お父さんたちが帰ってきたら何しようかな?」
天「母さんは知らんが•••少なくとも父さんは酒飲んで寝てそうだな••••••」
月「うん••••••そうだね」
ある程度察しがついていた妹は、苦笑混じりに頷いた。
ピンポーン!!
天「あ?」
月「あれ?」
五月蝿い蝉の鳴き声すらも貫通するインターホンの爆音に、俺と月は顔を見合わせる。
そもそも父親母親だったらわざわざ押さずに勝手に鍵を開けて入るのがよくわかっていたからだ。
天「お前なんか頼んだ?」
月「特に何も」
首を傾げながら玄関に向かい、扉を開ける。
美夢「こんにちは」
天「••••••美夢に、リリリリのみんな」
これまた意外なお客様に、俺は彼女たちの顔を二、三度見返した。
天「えっ、何の用?」
春奈「月さんが受験勉強を頑張っていると聞いて飛んできましたわ」
天「ぜってぇ建前だろ。本音言え本音」
胡桃「遊びに来たよ〜」
コイツら••••••。四人が家にいる間に父さんと母さんが帰ってきたらどうしようか。母さんはいいとして父さんは絶対にダル絡みしてくるに決まっている。
月「誰来たのー?あっ!胡桃ちゃんにみいこちゃん!」
みいこ「お久しぶりなの!」
俺の横を抜けていった月が、すぐさま胡桃とみいこに絡んでいった。お互いにキャッキャと子供らしく騒いでいるサマはなんだか面白かった。
天「まぁ、とりあえず入りなさい」
美夢「うん、お邪魔します」
四人を中に入れてお茶を用意するが、まだ月胡桃みいこの三人組は騒いで遊びまわっていた。元気過ぎない?
天「疲れねぇのかあいつら••••••」
美夢「二人とも月ちゃんに会えて嬉しいからね」
天「それもそうだな••••••あいつも受験勉強で疲れてるだろうし、いい気分転換になってくれるだろ」
春奈「そういう天さんは来年受験ですが、大丈夫なのでしょうか?」
天「••••••まだ来年だから」
春奈「ちゃんと勉強はしてください」
天「はい•••すんません••••••」
優秀で厳格なお嬢様からしたら現状の俺はあまりよろしくないらしい。ごめんて、仕事が忙しいんや。
月「お兄ちゃんもあそぼーよ!」
天「こっち仕事終わりだぞ。そんな元気ねぇよ」
胡桃「じゃあこっちから行っちゃうもんね〜!」
天「えぇ••••••」
呆れるのも束の間、白髪クソガキこと胡桃からタックルをいただく。痛みなどない軽い衝撃が走った。
天「ったく、よっと」
面倒になってきたので、彼女の足に手を回して抱き上げた。少し吃驚した様子だったが、すぐにいつもの好奇心旺盛な明るい笑顔になる。
胡桃「見て見て春奈ちゃん!高いよ!」
春奈「それは見ればわかりますわ」
美夢「やっぱり力持ちだね」
天「まぁ、月を抱える時もあるし慣れてるからな」
月「私お兄ちゃんに抱っこされた記憶ほとんどないんですけどー?」
天「寝落ちしたお前を誰が運んでると思ってんだ••••••」
少なくとも今年に入ってからは勉強を詰め過ぎて途中で寝てしまっているなんてザラだ。その度に抱き上げてベッドまで運んでいるこっちの身にもなって欲しい。
みいこ「みいこも!みいこも抱っこして欲しいの!」
天「はいはい•••どっこいせっと」
もう片方の腕をみいこに移して、一気に力を入れて抱き上げる。
みいこ「すっごく高いの!」
天「お気に召したようで何より何より」
美夢「私も後でしてもらおうかな••••••」
春奈「なっ!?あ、危ないですよ!」
なんか不穏な言葉が聞こえた気がするけど聞かなかった事にしておこう••••••。
月「咲姫さんいるのにこんな事してていいのかな•••お父さんに見られたらマズそうだよ?」
天「大丈夫だろ。咲姫はともかくとして父さんが帰ってくるにはまだ時間がーー」
猛「よぉ。随分とお楽しみみたいだな」
柚木「咲姫ちゃんに知らせてほいた方がいいかしら?」
天「••••••••••••どちら様ですか?」
月「お前の父親と母親だよ!!」
父さん、母さん•••タイミング最悪過ぎるよ••••••。
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猛「へぇ、遊んでただけねぇ•••なんかこれからヤるような流れに見えたのは気の所為か?」
天「何処をどう見たらそう見えるんだよ••••••」
明らかに俺をバカにしているような笑みを浮かべながら、父さんは尋問を始めた。なんなんだよコイツマジで。
月「ただ遊んでただけなんだけどなぁ••••••」
猛「まぁそれはどうでもいいとして」
いやどうでもいいのかよ。じゃあなんで訊いたし。殺そうかなこのクソオヤジ。
柚木「どうしてこう揃いも揃って良家のお嬢様がいるのかしら?」
天「友達です」
柚木「え?(威圧)」
天「友達です」
圧を込められながら再度訊き返されたので、少し語気を強めにして反抗する。
柚木「••••••どうやって知り合ったのよ」
天「••••••忘れたわ」
月「もう一年以上前だしね〜」
猛「なんというか•••お前らしいな」
うっさいわ。
柚木「とりあえず、どうしてここにいるのよ」
天「月の勉強を見に来てくれたんだよ。有栖川志望だから」
柚木「これまたお金のかかるところに••••••」
なんでこの母親金の心配してるんだろうか。普通に考えてウチの経済状況なら朝飯前のはずだが。
天「別に何処に行くかは月の自由だろ?好きにさせてやれ」
猛「お前が兄らしい事言うとなんか気持ち悪いな!」
天「黙れぶっ殺すぞ」
ここに穢れを知らない美夢がいようがお構いなしに、俺は父親に毒を吐き捨てた。
明日ようやく大阪に帰れる•••やらないといけない事一杯あるから頑張らないと。ではまた来週〜。