いつも通り学校が終わり、俺は事務所で次のライブ会場探しに電話を掛けていた。意外と成果は出て、今月はもうすぐ終わってしまうからもう入れられないが、来月分は二つ入れることができた。再来月は三つ。どんどんマネージャーとして仕事ができているな、と個人的に満足し始めていた。
乙和「そーらくんっ!電話終わった?」
肩にぽん、と手を置いて後ろから乙和さんが顔を覗き込ませる。あの告白以来、乙和さんからのボディタッチが異様に増えた。彼女なりの俺へのアピールかもしれないが少しそういうのは苦手だ。後少し慣れもきていたので、この程度で一々取り乱す程暴走することもない。
天「ライブの予定、たくさん組みましたよ。来月も再来月も大忙しなので、頑張ってください」
乙和「おー!頑張るぞぉ〜!」
姫神「神山くん、君に客人が来ているぞ」
天「え、俺にですか•••?」
わざわざ事務所にまで来るような俺への客って誰だ••••••?俺は席を立って、入り口まで足を運んだ。
柚木「やぁ、神山天マネージャー」
天「••••••なんだ母さんか」
月「ちなみに私もいます」
天「お前は何もねぇだろ帰れ(辛辣)」
月「今日のお兄ちゃんキツ過ぎない!?」
相変わらず平常運転の神山兄妹を見て、母さんはクスリと笑う。が、すぐに面持ちは真剣のそれになり、俺も気を引き締める。
柚木「ちゃんとあなたがマネージャーとして、仕事をしているのか気になって来たわ」
天「今ちょうどその仕事に区切りがついたところだ。後はその分のスケジュール調整をするところだけど」
柚木「ずいぶんと真面目にやってるのね。所詮は新しくできたDJユニットの癖nーー」
天「それ以上は、母さんでも許さん。彼女たちをバカにするようなら誰であろうとぶっ殺す」
俺は母さんに殺気を向ける。月が怯えた表情を見せるが、今はこの子の心配をしている暇などない。
天「どうせ、彼女たちのパフォーマンスとか歌とか、何も知らないんだろ?」
柚木「え、えぇ•••」
天「チッ、何も知らないでバカにしてたのか•••来い。一回だけでも見てみろ。かなり見方が変わるぞ」
舌打ちを残して、俺は事務所内へ戻る。その後ろを母さんと月が続く。事務所内の人たちには悪いことをしたな•••あからさまに不機嫌な顔を見せてしまった。
レッスン部屋に通すと、一斉に全員が俺たちに目を向け、そして困惑の表情を浮かべた。そりゃそうだろう。知らない人間を二人連れて来たのだから。
咲姫「天くん、この方たちは•••?」
天「俺の妹と母さん」
月「神山月です!よろしくお願いします!」
柚木「神山柚木よ•••」
月は元気に、母さんはぶっきらぼうに自己紹介をする。
衣舞紀「も、もしかして•••神山柚木さんですか•••?」
柚木「え、えぇ。そうよ」
衣舞紀「私、あなたの大ファンなんです!新人の女優をわずか一年で売れっ子にした実績!とても感動しました!」
柚木「そ、そうなの•••ありがとう」
母さん、マネージャーとしての腕は確かだからなぁ。担当した女優さんの才能とかのあれこれもあっただろうけど、その半分の成果は母さんにもある。
ノア「わあぁ•••月ちゃんカワイイ•••!天くんと顔そっくりだぁ•••!」
ノアさんは俺と月の顔を交互に見比べている。俺と月は顔を見合わせて、同時に笑顔を作る。
ノア「カ、カワイイーーー!!!300点!!」
そしてぶっ飛んだ評価をつけられた。流石の俺も苦笑いを浮かべてしまった。だが、月はとても楽しそうで、なんだか微笑ましかった。
乙和「天くん妹いたんだねー。ちっちゃくて可愛い〜」
天「そこまで身長変わんないですよね•••」
乙和「そんな細かいことはいいの!」
ほっぺたをプクリと膨らませて乙和さんが怒る。俺はまぁまぁと嗜めた。
月「あっ、あなたは!」
咲姫「えっ、わ、私•••?」
柚木「あら、あなた可愛らしいわね••••••うちの天、かなりいい男と思うのだけど、どうかしら?」
咲姫「は、はい。天くんは•••普段は顔とか可愛いですけど、仕事をしている時はとてもカッコいいな、と思います」
柚木「そ、そうじゃないのだけど•••まぁいいわ。うちの子に好感を持ててるようで安心したわ」
多分今のは『付き合ってみないか』という体で質問したな。咲姫がド直球に捉えて対応してくれたから助かった。
月「じゃあ、お兄ちゃんと付き合ってみませんか?」
おいゴルァ!(ガチギレ)せっかく平和的に終わると思ったのに爆弾投下しやがって!もう許さねぇからなぁ!
咲姫「そ、それは••••••その•••」
咲姫は顔を赤くして口ごもった。母さんと月はそんな咲姫の姿を見てデレデレしていた。墜ちたな(確信)。
ノア「はぁ••••••咲姫ちゃんカワイイ••••••」
衣舞紀「ノア、そろそろ顔どうにかしよ•••?」
ノアさんもノアさんで表情崩れまくってるからなぁ•••それでも可愛らしい顔をしているのは羨ましい。
天「••••••じゃあ、そろそろ練習を再開してもらっていいですか?」
咲姫「うん、わかった」
咲姫が頷いて、マイクの前に立つ。あ、今からボーカルレッスンなのね。
咲姫が歌い出す。ライブ映像を見せて貰った通りの透き通った綺麗な歌声。数日前は乙和さんに凸られた所為でまともに聴けなかったが、今はよく聴こえる。
柚木「••••••綺麗ね」
月「うそん•••歌上手すぎない•••?」
天「••••••••••••」
母さんと月が驚いて言葉を漏らしているが、俺は咲姫の歌声を聴いていたいので、黙って集中する。
歌唱が終わると、咲姫は一息吐いた。それに合わせて、俺は集中を切らして、目を開ける。
柚木「•••すごい、すごいわ。とてもDJなんて狭い世界に置いておくのが惜しいくらい•••」
咲姫「ありがとうございます」
咲姫は丁寧に一礼する。それで他のメンバーも熱が入ったのだろう。気合い十分に歌を披露する。はぁー、すげぇよな俺。こんなすごい人たちの歌をタダで聴いてるんだぜ?感動ものだ。
柚木「天、ちょっと」
天「•••あぁ。月、そこで待っててくれ」
月は頷き、母さんは俺を連れてレッスン部屋の外へ出る。
柚木「ごめんなさい、見くびるような真似をして•••本当に無知だったわ」
天「褒めるのも貶すのも、実際に目に見てからにしろ。当たり前の事だろ?何も知らないくせに叩かれたら、相手はたまったもんじゃねぇだろ?」
柚木「あなたの言う通りよ••••••色んな人を担当してきた天とはやっぱり考え方が違うのね•••」
天「流石に価値観の違いに関してはとやかく言う気はないが、次からは彼女らを、Photon Maidenを侮辱するなら母さんだろうと容赦はしない」
柚木「えぇ•••でも、一つだけ母さんから忠告させて欲しいの」
天「なんだ」
不機嫌な顔を隠せず母さんに見せながら、睨みつける。母さんは一呼吸置いて言葉を紡ぐ。
柚木「あまり甘やかしたりしないように。ナメられてワガママを言われるような事があれば、あなたの精神に関わるわよ」
天「その時はその時だ。それに、ワガママくらい言わせてやらないと不満がたまるだろ」
柚木「相変わらず、甘いのね。それで後悔しても知らないわよ?」
天「俺は俺のやり方で彼女たちを導く。外野からの意見なんざ知らん」
少しドスを効かせて母さんに言葉をぶつける。ため息を吐いて、母さんは諦めたように首を振った。
柚木「わかったわ。あなたのやり方•••ね。是非とも見せてほしいわ。それじゃあね」
天「今日は家に帰るのか?」
柚木「悪いけど、今から戻って仕事なの。また月ちゃんと二人でご飯を食べてちょうだい」
天「わかった、じゃあな」
柚木「えぇ•••」
ここで俺と母さんは別れた。一人でレッスン部屋に戻ると、月が心配そうに寄ってきた。
月「お母さん、何か言ってた?」
天「相変わらず甘いだってよ」
月「確かにお兄ちゃん、人に全く厳しくしないもんね」
天「••••••そうか?」
乙和「うん、全く厳しくないよ。ライブとかレッスンのスケジュール全部任せてるけど、辛くなく技能が身につくように微妙に調整してくれてるもん」
天「あれ!?スケジュールの内容いつ見られた!?」
俺、どっかにメモ帳放ったらかしに置いたりしてたか•••?
ノア「天くんがスケジュール確認してる時に乙和が横でずっと見てたよ?」
天「嘘ですよね•••?全く気がつきませんでした•••」
咲姫「天くん、すごく集中して見てたから。私も隣で見てたけど気づかれなかった」
天「うせやろ•••」
衣舞紀「天は真面目だからねー。それ程集中して確認してたんでしょ?」
月「お兄ちゃんが仕事しっかりしてて何か安心したよー•••」
月が涙ぐんでいるので乱暴に頭を撫でてやる。
天「新人時代ならともかく、もう三年もこの仕事してんだ。流石に慣れる」
月「そう言いながら嬉しそうだけど〜?そこんとこどうなの〜?」
天「うっざ•••」
月「照れ隠し、乙〜wwwwww」
天「もうお前帰れよ!?」
咲姫「仲、いいんだね•••」
天「どこが!?」
口を挟んだ咲姫に驚愕の声をあげる。これのどこが仲良いのか教えてほしいのだが?
ノア「本当カワイイなこの兄妹•••カワイ過ぎて死んじゃいそう•••」
なんかノアさんは不穏な事言ってるし、あぁもうめちゃくちゃだよ。
月「それじゃあ、私は一足先に帰って夕飯の準備してるねー、お邪魔しましたー!」
月は勢いよく頭を下げて、笑顔で出て行った。俺はどっと疲れて、大きくため息を吐く。
天「マジで、俺の家族•••キャラ濃過ぎだっての••••••」
衣舞紀「キャラの濃さで言ったら天も人の事言えないけどね•••」
マジか•••俺そんなに濃いのか•••。個人的にはそんなつもりはなかったのだが•••。
乙和「じゃあレッスン再開しよっか!まだまだ時間あるから頑張るぞー!おー!」
咲姫「お、おー」
ノア「はぁ•••咲姫ちゃんカワイイ•••」
ノアさん、今日はカワイイムーブよくキメるなぁ•••叫びまくってるけど疲れねぇのかなぁ。いや、あんなダンス長時間できるんだから体力はアホあるだろうな。
俺はなんだか安心した顔で特等席で彼女たちの練習を眺めた。
練習が終わり、俺は咲姫と帰路を辿っていた。途中でコンビニに寄って、俺はホットミルク、咲姫はオレンジジュースを購入した。
天「んっ、んっ、はぁ•••あったまるなぁ」
咲姫「私も飲んでみたい•••」
天「人のもん飲んだり食ったりするの好きだなお前。ほら」
苦笑いしながら咲姫にホットミルクが入ったカップを渡す。彼女は躊躇いなく俺が口をつけた部分に口をつけて飲んだ。これ、間接キス•••!?
咲姫「あたたかいね•••」
天「そ、そうだな•••」
咲姫は間接キスのことなど全く気にした様子もなく俺にカップを返す。
咲姫「私のも、飲む?」
天「い、いや、遠慮する•••」
なんだか小っ恥ずかしくて対応がぶっきらぼうになってしまう。その所為で咲姫の表情が少し暗くなる。なんだか申し訳ないな。
天「あまり人からもらったりするのとか好きじゃないんだ。決して咲姫の事が嫌いで断ってるわけじゃない」
咲姫「•••うん」
暗い顔から微笑に咲姫の表情がチェンジしたところで、俺はカップの中身を飲む。
咲姫「今日も、楽しかった」
天「ん、そうだな。来月から忙しくなるから、頑張れよ」
咲姫「うん、頑張る」
咲姫は頷く。俺も頷き返して、上を見上げる。今日は星が綺麗だな。家に帰ったら、夜空でも見上げながら音楽でも聴くかな。そんな事を楽しみにしながら、チラリと咲姫に目をやる。彼女も丁度視線を俺に向けたところだろうか、ぴったり目があった。
咲姫「どうかした?」
天「何でもない」
微笑んで、前を向く。咲姫は首を傾げて疑問符を浮かべていたが、あまり気にした様子もなく歩を進めた。
明日金曜日かぁ•••キンタマキラ•••何でもないです。