迎えた修学旅行当日。この日の為に数日分の仕事をやり遂げた俺は、既にダウン状態だった。まだ移動前だと言うのに既にクタクタになってしまっている。
昨日も仕事仕事仕事の仕事三昧だったおかげで、まともに眠る事ができていない。なので修学旅行前の教師からのありがたいお言葉も全く耳に入らない。悲しいなぁ。
焼野原「お前クマヤベェことになってるんだけど••••••」
天「•••いや、まぁ、色々あってな」
焼野原「概ね仕事なんだろ?お疲れさん」
天「あぁ•••とりあえず早くバスに乗せてくれねぇかな••••••今すぐにでも寝てしまいたい」
焼野原「もう少し待てよ」
天「ん•••」
頭がカクンカクンと一定のリズムで上下に動く。視界が揺れ、前方もまともに視認できなくなってしまう。
焼野原「おい、移動だぞ」
天「あぁ••••••」
何処か意識のないまま、焼野原くんに引かれて移動する。もう身体のほとんどに力が入っておらず、ただただ彼に身を委ねてる状態だ。俺はホモじゃない。
バスに乗せられて、俺は適当にドカッと座る。すぐに図ったかのように咲姫が隣に座った。早い。
咲姫「眠たい?」
天「ん•••徹夜が続いたから流石にな••••••」
ぼやけた視界で何とか咲姫を認知するが、それでもかなり曖昧なものだった。まず視界とか認知とかそれ以前の問題で、もう既に死にそうなのだ。
ーーバスが出発した。エンジンの音で少しだけ目が覚めたが、それでも今の眠気の前では全くの無力だった。
天「悪い、少し寝させてくれ•••」
咲姫「うん、いいよ」
咲姫が頷いたのを確認して、俺は力を抜いて彼女の肩に頭を乗せた。
いくら女の子とはいえ、肩の部分は骨が主なのでやはり硬かった。枕として使う分にはそこまで気にならないが。
そしてそのまま俺は身体の思うがままに、意識を閉ざした•••。
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天「••••••んぅ」
薄らと目を開けると、まだバスは移動を続けていたらしい。起きたのも振動が鬱陶しく感じたからだろう。
天「今どこらへんだ•••?」
咲姫「もう少しで空港に着くよ」
天「あぁ•••そうかい。飛行機に乗ってる時ももう一回寝るか•••」
咲姫「まだ寝るの?これ以上寝たら夜眠れなくなるよ?」
天「••••••それもそうだが、寝足りん」
所詮は小一時間程度の睡眠だ。まだまだ眠気はしっかりあって、身体のダルさも残ったままだった。
りんく「あ!天くん起きたの?」
元気のいい声と共に、ひょこっとりんくが前の席から身体を乗り出してニコニコしながら俺を見下ろしていた。
天「なんだりんく。前だったのか」
りんく「ちょうど良く空いてたからねー!いや〜飛行機に乗るのなんて久しぶりだなー!」
天「日本に来る時以来になるのか。久しぶりの飛行機は楽しいだろうよ」
りんく「天くんは飛行機最後になったのいつ?」
天「去年が最後だな。ちょうど咲姫と北海道に行った時に乗った」
りんく「北海道行ったの!?楽しかった?」
天「味噌バターラーメンが美味かった」
端的に俺は食の事だけをかいつまんで話す。いや北海道ならではの建築物とかも見たりはしたけど結局は飯だよ飯。食文化しか勝たん。
天「結局は•••咲姫と一緒に旅行に行ったって言う事実が、大事かもな」
りんく「咲姫ちゃんのこと、大事なんだね」
天「あぁ、大事さ、大事な大事な恋人だからさ」
咲姫を抱き寄せ、頬をくっつける。彼女はくすぐったそうにしていたけど、あまり嫌な顔していなかった。
天「咲姫やみんながいなかったら、俺はきっと腐ったままだった。だからみんなには感謝してるよ」
彼女の頭を撫でながら、俺は微笑みながら言葉を漏らす。りんくに目を向けると、彼女も笑っていた。
りんく「天くんってさ、優しいね」
天「そんなことはないさ。ただあの子達に尽くしてるだけだよ」
自虐よろしく笑いながら俺の無力を嘆く。きっとあの子達は俺の力無くしてもいずれはこれくらいの地位へ辿り着いていた。俺のサポートなど、力など、ただの些細なモノに過ぎない。
天「この子達はすごいよ。自分達で考えて、努力して、今のプロとしての地位を確立してる。本当に、俺なんか必要なかったのでは、と思ってしまう。
咲姫「えいっ」
天「いたっ」
咲姫に額をつつかれて、多少ながら感じた痛みに目を細める。
隣を見ると、彼女が頬を膨らませて少し怒った顔をしていた。
天「悪かったよ」
頭を撫でながら、微笑む。それでも機嫌はあまり良くはならなかったが、先程よりはまだマシだった。
天「まぁ•••とりあえず寝たいな」
咲姫「ダメ」
天「うっす•••」
ニカッ、と気持ちのいい笑顔を浮かべて誤魔化すが、咲姫に躊躇なく止められた。ちくせう。
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まぁ飛行機内の席はあらかじめ決められていたので、咲姫から絡まれる事などなく、ゆっくりと睡眠時間を確保する事ができた。
大阪に着陸してからまたバスに乗って宿までの移動を開始したら、今度こそ彼女は隣に座った。
ちなみにりんくも先ほどと同じで前にいる。
天「あぁ、そうだ。りんく」
りんく「どうしたの?」
突然の問いかけに、りんくは首を傾げながらこちらを覗き込んだ。
天「咲姫と遊んでやってくれ。ホテルにいる間はあまりこの子と一緒にいてやれないからさ、頼む」
りんく「勿論!咲姫ちゃんは私の大事なお友達だからね!」
天「助かるよ」
咲姫「天くんが女子部屋に行けばいいと思う」
天「アホか。教師に見つかった時に何されるか」
“こういう”事に関しては教師とかの教員組はかなり五月蝿い。
男が女の部屋に上がり込むなんて何が起こるか簡単に想像ができてしまう。少なくとも事務所所属の人間として、行動は弁えないといけない。
天「何かあったら呼べ。その時は行くから」
咲姫「うん、わかった」
本当にわかったのか知らんが、本人は頷いていたのでわかったということにしておこう。
天「あーそうだ。おいひろし」
焼野原「俺はク◯しんのキャラじゃねぇよ!!•••なんだよ」
天「部屋一緒だったよな。ホテルの窓前の空間占領してもいいか?」
焼野原「いいけどなんで」
天「仕事するからだけど」
焼野原「ここまで来てまだ仕事すんのお前!?」
焼野原くんが前方からギャーギャー騒ぎ始める。俺は耳を塞ぎながらため息を吐く。
天「仕事してないと落ち着かないんだよ••••••今の内にやっておいた方が帰ってきた時に苦労しなくて済むし••••••」
咲姫「修学旅行の為に徹夜で仕事したのでは••••••?」
天「そーなんだけど、そーなんだけどさ!!なんか、こう、落ち着かないんだよ!!」
焼野原「その手の動きやめろ!!」
両手の指をぐにゃぐにゃと動かして表現をするが、待ったをかけられた。何故だ。
焼野原「•••まぁ仕事したいなら好きにすればいいだろ」
天「そーするわ」
咲姫「ダメ」
天「なんでだよ」
りんく「夜は私たちと遊ぶんじゃないの!?」
天「んなこと決めてなくね!?」
りんく「もう響子ちゃんたちとも計画立てたよ!?」
天「何勝手なことしてんだよお前ぇ!!」
俺の許可も何もなく好き勝手に予定を決めやがって。俺は席を立ってりんくの頭を掴んだ。
そして拳を作り出して、彼女の両側頭部に当てがう。そう、(作者の地元でよく言ってた)みさえだ。
りんく「いたたたた!痛いよ天くん!!」
天「悪い事を考える頭はこの頭か〜!?」
なんだかんだ俺もノリノリで、痛過ぎないように加減しながらりんくの頭をグリグリとイジめてやる。
バス内は笑いに包まれていたが、一人だけムスッとした顔のヤツがいた。
咲姫「•••••••••」
天「どうしたよ」
咲姫「天くん、楽しそう」
天「多少は楽しいけど•••」
咲姫「浮気?」
天「だからちげぇよ!?」
またもあらぬ誤解を掛けられて、俺は悲痛の叫び声をあげる。更に笑いは飛び交い始め、俺は顔を赤くして大人しく縮こまった。
明日も東京を適当にブラブラしていると思うので、もし会うことがあれば•••まぁ基本誰かと行動してるのでやめといた方がいいですけどねw