敏腕(感)男、マネージャーするってよ   作:如水くん

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皆様、あけましておめでとうございます。また新しい一年がスタートしましたね。私はマイペースに毎日を過ごしています。これから自動車学校に行ったり、親知らず四本一気抜きをしたりと、やる事が多々あります。それでも更新は毎日続けさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。今回の新年回は過去最高の17672文字となりました。三日間かけて作り上げましたが、まさかここまで行くとは思ってもみませんでした。いやーおじさんびっくりしちゃった☆長々と書いておりますが、最後まで見てくださると幸いです。


番外編
治安最悪新年


十二月もほとんど終わりを迎え始め、今世間は大晦日間近で賑わっていた。俺もその内の一人で、大晦日を心待ちにしていた。いや、実際に楽しみなのはおせちなんだけども()

学園は冬期休暇で、俺は仕事をしては家でダラダラと過ごす毎日を繰り返していた。たまに仕事終わりに咲姫とデートしたりなどしたが、流石に彼女は実家に帰っていることだろう。仕事納めはもうしたから、ほんのわずかなあいだだけだが休みを得る事ができた。

 

月「お兄ちゃん起きてるー?」

天「えっ、なんだ?」

月「咲姫さん達がうちに来てるよー」

 

え、マジ?俺は急いで身体を起こした。月についていくように一階に降りて行って、玄関へと直行する。

 

咲姫「こんにちは」

乙和「やっほー、来ちゃった!」

衣舞紀「ごめんね、急に来ちゃって」

ノア「月ちゃんカワイイ•••後でお部屋一緒に行こ?」

 

ゾロゾロと四人ともお揃いで本当にやってきていた。俺はおぅ、と小さく声を漏らす。

 

月「皆さん揃いも揃ってどうしたんですか?兄に何か御用でも?」

咲姫「実は、新年を天くんの家で迎えようと思って」

天「•••••••••••••••」

月「•••••••••••••••」

 

狭い玄関で長い沈黙が続く。俺と月は完全に真顔になってしまっていて、固まってしまった。

 

月「え、マ?おせちの材料買ってこないと••••••」

乙和「そう思って•••じゃじゃーん!買ってきてあるのだー!」

 

後ろ手に隠していた大きな袋を、乙和さんはこれでもかと見せびらかす。確かにおせちの材料だ。エグいくらい入っている。

 

月「こ、こんなにいいんですか!?」

ノア「新年迎える時は、お父さんもお母さんもいるでしょ?特にお父さんは食べそうかな、と思って」

月「大正解ですよノアさん!お父さんたくさん食べますから助かります!」

天「いくらしましたか?こっちで出しますよ」

衣舞紀「気にしなくていいよ。これ、事務所持ちだから」

 

まーた事務所か。お前ら金ありすぎだろ。この量、確実に万はいってるに違いない。事務所側の経済力に恐怖を少し覚える。

 

天「というか咲姫、お前実家に帰らなくていいのか?」

咲姫「両親にはちゃんと言ってあるから大丈夫」

天「いや、そういう問題じゃなくてだな••••••」

 

家族なんだから帰ってやれよ、親御さん悲しむぞ。オッケーしたお父様お母様の心情が少し気になるが。

 

咲姫「天くんは私と一緒にいるの、嫌•••?」

天「嫌じゃないしむしろ嬉しいさ。けど•••新年はやっぱり家族と迎えるべきだと思うんだ」

 

一年に一回しかない大事な大事なモノだ。それをただの恋人である俺よりも、家族で楽しく迎える方がいいに決まっている。

 

咲姫「好きな人と過ごしたいって送ったら、OK出してくれた••••••」

月「えーなにそれー!お兄ちゃんのプレッシャーどんどん高まるじゃーん!」

 

俺そっちのけで月が騒ぎ始める。現に俺は少し冷や汗を流していた。なんか遠回しに圧をかけられているようで、肝が冷える。

 

衣舞紀「••••••大丈夫?少し顔色悪いわよ•••?」

天「大丈夫です•••多分。まだ先のことなので•••」

 

数年先の事を今考えて恐れるのは、精神的に良くないのでやめておこう。

 

月「皆さんどうぞこちらに!お茶出しますよ!」

天「明日明後日は賑やかになるなオイ」

 

ちなみに今日は12月30日。明日が大晦日だ。なので彼女たちは今日泊まって、新年を迎えるのだろう。

リビングにみんなを通して、月がお茶を淹れる。俺はスマホ片手に茶を飲み始めた。

 

乙和「何かやる事ないかなー。ここってゲームとか置いてないの?」

月「私がゲーム持ってますよー。でもパーティゲームは持ってないんですよね••••••トランプとかしますか?それならいくらか遊ぶ方法ありますし」

ノア「私は賛成かな」

咲姫「天くんは?」

天「ん?まぁ、暇だしやるか」

 

スマホを切って、ポケットに入れる。月は小走りで自分の部屋へと向かって行った。必然と、いつものメンツが出来上がる。

 

天「そういえば衣舞紀さんの実家って神社でしたよね?」

衣舞紀「えぇ、そうよ」

 

来年は衣舞紀さんのところで初詣だな。何お願いしよう、いやもう決まってるわ。とっくのとっくに決まってるわ。

 

乙和「私何お願いしようかな〜」

ノア「それ人に言ったらダメじゃなかった?」

乙和「そうなの?よく知らないからなぁ〜」

咲姫「私は決まってる••••••」

 

俺と同じく咲姫ももう願い事を決めているようだ。もしかしたら、もしかしたら同じかもしれないという淡い希望を持った。

 

月「おーまたせしましたー!神山家長女月、ここに参上!」

 

お前は冥府神ハ◯ス様か。またあのゲームやりたいなぁ。作者は買い直して六、七年ぶりにやってるらしいけど。

三章9.0神器周回ダル過ぎ案件。後パンドーラの射爪はイケメンってはっきりわかんだね(作者)。

 

衣舞紀「何からやる?私はなんでもいいわよ」

乙和「じゃあババ抜きー!」

ノア「乙和が一番苦手そうなのを自分で選ぶんだ•••」

乙和「苦手じゃないもん!」

 

最早恒例行事と化している乙和さんとノアさんの言い合いは、今日も絶好調だった。俺たちは温かい目でその光景を見つめる。

 

月「ババ抜きですねー、カード配りますよー」

 

慣れた手つきでシャッフルし、俺たちにカードをどんどん配っていく。全員にカードが行き渡ると、月は思い出したように、あっ、と声を漏らした。

 

月「ちなみにジョーカーは入ってませーん」

天「ジジ抜きじゃねぇか!」

 

ババ抜きよりもタチの悪いジジ抜きへと変貌を遂げてしまった。これはめんどくさくなってきたぞ。

 

月「まぁまぁいいじゃないか。ババ抜きもジジ抜きもそう変わんないって」

 

やたらこいつらしくない口調でまくし立てる月。ババがどれかわからないって時点でだいぶクソなんだよなぁ()

ちなみに順番はジャンケンで一位になった人から時計回りになった。勝ったのはノアさんで、ノアさん、乙和さん、衣舞紀さん、咲姫、俺、月の順番になった。

 

後半、俺、咲姫、衣舞紀さん、ノアさんは先に上がって、月と乙和さんがタイマンをしている様子を見ていた。月は一枚、乙和さんは二枚。つまり乙和さんがババを持っているということになる。

 

月「どっちかなー?どっちかなー?」

乙和「は、早く引いて〜•••」

 

こんな場面でもKagkムーブをキメるあたりこいつは性格が悪い。乙和さんが見事に弄ばれて困惑してしまっている。

 

月「•••こっち!ーーやった!」

 

勢い十分に引いたカードは、見事にペアになったらしい。意気揚々と二枚のカードを捨てて、飛んで喜び始めた。

 

乙和「うぅ•••負けちゃった••••••」

ノア「乙和は顔に出過ぎ。ジジ抜きだったからよかったけど、これがババ抜きだったら最下位確定だよ?」

乙和「天くんと咲姫ちゃんは無表情過ぎて怖いよ!」

 

何故か俺と咲姫に当たり始める乙和さん。俺は咲姫と顔を見合わせ、クスリと笑う。

 

天「俺はやってる時何も考えていませんから。勝手に顔が死ぬんですよ」

咲姫「ずっと天くんの顔を見てた」

天「妙に視線感じるなと思ったらお前かよ!?」

 

やたらゲーム中見られてるなと思ったら原因は咲姫だった。普通に怖いからやめてくれ。

 

月「次なにやるー?」

天「月、お前そろそろおせち作らなくて大丈夫なのか?」

月「あっ、そうだった!やばいやばいっ!」

 

焦った顔で勢いよく立ち上がり、月はエプロンを着ける。それに続いて、衣舞紀さんとノアさんも立ち上がった。

 

衣舞紀「私も手伝うわ。一人じゃ大変でしょ?」

ノア「このノアさんに任せなさい!」

月「ありがとうございます!助かります!」

 

キッチンに三人が立っている中、大して料理ができない俺はスマホから漫画を読み始めた。

 

乙和「なにこれ?」

天「剣◯焦ぐって漫画です」

咲姫「面白い•••?」

天「面白いって言うよりは••••••アツいな、すごく」

 

読んだらわかる。剣◯焦ぐは面白いだとか面白くないだとかで判断するものじゃない。とにかくアツい。アツ過ぎるのだ。

 

乙和「不良少年が剣道する漫画なんだー。なんだか面白そう」

天「読んでみますか?」

乙和「見る見るー!」

咲姫「私も•••!」

 

咲姫と乙和さんの顔が俺の顔に隣にやってくる。携帯の小さい画面では、少し窮屈だった。俺は多少の暑苦しさに耐えながらページをめくっていった。

 

現在発売されている六巻まで読むと、乙和さんと咲姫の顔が変わっていた。

 

乙和「なんていうか•••すごく頑張れそうっ!」

咲姫「私も•••なんだか少しアガッてきた••••••!」

天「影響受け過ぎだろ•••俺も剣道やりたくなってきたけどさ」

 

軍の剣道部の新年稽古会、来年は参加しようかと思い始めたが、まだ迷っている。どうしよう。

 

月「お兄ちゃん剣◯焦ぐ好きだねー。読むの何周目?」

天「分からん、三周はしてるかもな」

 

この漫画は永遠に読める気さえしてくる。それ程までに心を震わせてくれるのだ。

 

月「えっと•••六時か。お兄ちゃん、お風呂入れて」

天「あぁ」

 

俺は立ち上がって風呂のスイッチを入れる。後二十分もすれば勝手に沸くだろう。

 

天「入る順番とかどうしますか?」

月「私は後でいいかな。正直これ終わる気しないし」

 

具材を切りながら月はため息を吐いた。量的にも大変だということだけはよくわかる。

 

咲姫「私は天くんと一緒ならいつでも••••••」

ノア「月ちゃんと一緒に入りたいっ!!」

 

うるっせぇな•••。急にノアさんが大声で叫んで、耳がキーンとなった。俺の顔が苛立ちで歪む。

 

乙和「あれ•••?この流れだと私、衣舞紀と一緒に入らないといけないっぽい•••?」

衣舞紀「あら、私は全然構わないわよ?乙和の身体を隅々まで洗ってあげるわ」

 

いい感じに中々騒がしくなってきた。

先に俺と咲姫が入って、その次に衣舞紀さんと乙和さん。最後に月とノアさんということになった。

 

月「防音完璧だからって変な事しないでよね?」

天「しねぇよ」

咲姫「••••••ッ」

 

月の言葉に俺は真顔で返すが、咲姫はわかりやすく顔が赤くなった。そしてその顔を隠そうと俺の背中に頭を埋めた。ハイ可愛い優勝。

 

ノア「咲姫ちゃん•••!その仕草、イイッ!すごくカワイイ!」

天「うん、咲姫早く入ろう。これ以上ここにいたら色々言われまくって病む」

咲姫「うん••••••」

 

咲姫の手を引いて、俺たちは脱衣所へ逃げ込む。

 

天「はぁ•••月のやつ、容赦なさ過ぎだろ••••••」

咲姫「恥ずかしかった••••••」

 

さっきは後ろに抱きついていた咲姫だったが、今は目の前にいる。抱きしめながら頭を撫でると、更に顔が胸に押しつけられる。

 

天「•••とりあえず入るか」

咲姫「うん•••」

 

俺たちは服を脱いで、洗濯機に入れていく。風呂場に入って、まず最初に頭と身体を洗った。

 

咲姫「背中、洗うよ?」

天「ん、頼むわ」

 

せっかくなので、彼女からのご厚意を受け取る。咲姫に背中を向けて、俺はあぐらをかいて座った。その後ろに咲姫は両膝をついて座り、身体を洗う用のボディソープの染みたタオルを背中に置いて、擦り始めた。

 

咲姫「痛くない•••?」

天「大丈夫だ」

咲姫「良かった•••んっ、ふっ••••••」

 

なんか変な声が聞こえるんだけど。チラリと後ろを見ると、一生懸命に俺の背中を洗っている咲姫の姿があった。頑張ってやってるから自然と声が漏れているのだろう。

 

咲姫「終わった••••••」

天「おう、ありがとな。次は俺がやる」

咲姫「いいの?」

天「あぁ。俺もやってもらったんだ。遠慮するな」

咲姫「じゃあ••••••」

 

咲姫は俺に背中を向ける。タオルを背中に当てて、傷つけないように優しく、優しく動かし始めた。

 

天「背中小さいな」

 

こうして見ると、本当に華奢な体型をしていると思う。こんな身体からどうやってあんなDJプレイをしているのかと、少し興味が湧いた。

 

咲姫「逆に天くんは大きい••••••」

天「これでも全然細身な方だぞ。周りの俺も同じくらいの男は大体デカい」

咲姫「そうなの••••••?」

 

咲姫が首を傾げるものだから、俺は軽く噴き出してしまう。

 

天「テレビとか見てたら、男の背中くらい見る機会いくらでもあると思うが?」

咲姫「あまり気にして見てないから、覚えてないかも」

 

なんとも咲姫らしい回答が返ってきた。俺はそうか、と言葉を送ってまた笑う。

お互いに背中も洗って、後は自分で洗えるところを済ませてからシャワーで全て流した。

ようやく湯船に浸かる事ができ、俺の股の間に咲姫の尻が乗る。

 

天「はぁ〜••••••何もしてないけど疲れが取れるー••••••」

咲姫「溜まってた••••••?」

天「そりゃなぁ。咲姫もそうなんじゃないか?」

 

共感を求めて咲姫に訊いたが、意外にも彼女は首を横に振った。

 

咲姫「天くんがいるから、平気」

天「おぉう•••そう答えるか•••」

 

咲姫の返答はただの惚気だった。ちょっとどう返せばいいか、恥ずかしくて俺にはわからなかった。

 

咲姫「天くんはそんな事ない•••?」

天「どうしてもな•••。精神論より理屈で通るから、なんとも言えん•••」

咲姫「変に合わせないところは、好感持てる」

天「お褒めに預かり光栄でございます」

 

フォローも欠かさない辺りよくできた娘だ。ご両親の育て方が良かったのだろうか。

 

咲姫「天くん••••••」

天「ん?」

咲姫「大好き」

天「•••俺もだ」

 

そして、どちらからともなくキスをする。変にズレが起こらないように咲姫の頭に手を添えながら。

 

咲姫「んっ、ん、ちゅっ、ちゅぅ•••」

 

いつもしているのに、そのいつも以上に咲姫の唇が柔らかく感じた。

 

天「••••••そろそろ上がるか」

咲姫「うん•••待たせるわけにはいかない」

 

ほぼ同時に湯船から上がり、俺たちは身体を拭き始めた。

 

全員が風呂に入ったのを確認して、夕食を食べる事になった。もしかしたら初めてかもしれないな、神山家でのPhoton Maidenとの食事は。

 

乙和「おいしー!月ちゃんお料理上手だね!」

月「ありがとうございます!喜んでもらえると、作った甲斐があります!」

ノア「私、月ちゃんに女として負けたかもしれない••••••」

 

ノアさんが暗い顔でそんなことを呟く。チラリと月を見ると、妹は頬をポリポリと掻いて居心地が悪そうに笑った。

 

月「衣舞紀さんは早かったんだけど、ノアさんの遅れのカバーまでやってたら、こうなっちゃった」

天「行き過ぎた気遣いか•••」

 

こいつらしいといえばこいつらしいが、どれだけ手助けしたんだろうか、この妹は。あまり考えたくないな。

 

月「ところでお兄ちゃん、お風呂上がるの遅かったけど咲姫さんと何してたの?もしかしてセックス?」

咲姫「えっ•••!?」

天「あのさぁ•••」

 

咲姫がボンッと音を立てて顔を真っ赤に染めた。俺に関しては呆れてものも言えなかった。

 

衣舞紀「月って容赦ないよね•••」

ノア「そこがまたカワイイからっ•••!」

 

いや可愛いか?ただデリカシーが欠如してるクソだと思うのだが。

 

乙和「そもそも食事中に話す内容じゃないと思う!」

天「え、乙和さんからそんな言葉出てくるんですね•••」

乙和「出てくるよ!?人の事なんだと思ってるのさ!」

 

つい素で失礼な事を口走ってしまった。反省はするが後悔はしない。

 

月「それでヤッたの?」

天「いやヤッてないが•••」

月「本当に?嘘ついてない?」

天「ついてないついてない。俺が嘘つくタマか?」

咲姫「授業中に寝てても寝てないって嘘ついてる••••••」

天「•••••••••••••••」

月「論破されてやんのダッサwwwwww」

天「表出ろテメェ」

 

咲姫から学校での態度を言われて言い返せなくなった。そこを月に漬け込まれて、俺はついいつもの家での口調が出てしまう。

 

月「キャーこわーい!ノアさん助けてー!www」

ノア「よしよーし怖かったねー!」

 

そしてこの中で一番甘いであろうノアさんに縋り始めた。これもうわかんねぇな。

 

咲姫「•••ごめんなさい••••••」

天「いや、謝らなくていい。いつものことだから」

 

小さく息を吐きながら、飯を食っていると俺は何かを思い出したように顔をまっすぐ向けた。

 

衣舞紀「どうしたの?」

天「月、みんなの部屋とかどうする」

月「あーそれなら問題ないよ。使ってない部屋を掃除して布団敷いてあるから」

天「はー良かったー•••」

 

いざとなったら俺の部屋と月の部屋で三人三人で分かれて寝ればいいが、流石にそれはキツいので助かった。

 

月「咲姫さんはお兄ちゃんの部屋安定ですよね?」

咲姫「うん」

 

当たり前のように頷く咲姫。周りからおぉー、と感嘆の声が漏れていた。

 

乙和「アツアツだね〜」

天「ちょっ、やめてくださいよ」

 

乙和さんにまでからかわれ始めて、居心地がかなり悪かった。こういう時に限って咲姫は平然とした顔をしている。何故だ。

 

月「そもそも咲姫さん結構うちに入り浸ってますからねー。最早家族ですよ家族。あ、いずれなるか」

天「まだ先の話だろ」

月「そうだけどねー。ところでお兄ちゃん、大学は行くの?」

天「あー•••考えてねぇな。このまま高卒でマネージャーでいんじゃねって思い始めてる」

?「俺はそんな真似ゆるさねぇぞ!!」

 

後ろから突然デカい声が響き渡って、全員が驚いたようにビクンッと跳ねた。振り向くと父さんが厳つい顔で立っていた。

 

猛「天!お前はちゃんと大学に行け!Fランでもいいから出ておけ!」

月「今年のお仕事は終わり?」

猛「ん?あぁ。まぁ新年になったらまたすぐに行かないといけないけどな」

 

頭をガリガリと音を立てて掻きながら、父さんはため息を吐いた。よっぽど疲れているのか姿勢は良くなく、猫背だった。

 

天「帰ってきたなら早く風呂入れよ?」

猛「わかった。んで、大学はどうするんだ?」

天「••••••時間くれ。すぐには決められん」

 

進路をそんなパッと出せるわけがない。だが大学に行って何かをしたいという欲もないので、ただの金の無駄遣いになるような気がしてきた。

 

猛「まぁいい。ゆっくり決めろ。だが高卒だけは許さん」

天「へーい•••」

 

こんなことで一々悩みたくないんだけどな••••••。気分が落ち込んで、少し萎えた。

 

衣舞紀「じゃあ星朋大学はどう?陽葉とも近いし通いやすいと思うのだけど」

 

星朋大学•••あぁ、近くにあったあのデカい大学か。あそこなら有名なDJユニットのメンバーもいるし、行くにしてもちょうどいいかもしれない。

 

咲姫「私も星朋大学に行く」

天「お前俺が行くから決めてねぇよな•••?」

咲姫「•••?天くんが行くから決めたよ••••••?」

 

辺りに沈黙が走り、俺と咲姫はお互いに首を傾げたままだった。それに耐えきれず、ついには月が大声で笑い始めたという惨事が起こった。

 

夕食が終わると、後は各々で行動するようになり、俺と咲姫は流れるように寝室へと移った。特にやることもないので、ベッドに寝転がってすぐに寝る準備に入る。

 

咲姫「明日、楽しみ•••」

天「そうだな。俺も初めての事だから、ちょっと楽しみだわ」

 

今まで経験したことのない新年に、俺はガラにもなくワクワクしていた。例年と違うのは、あまり行き過ぎた行動ができないというのもあるが、そんなのはほんの僅かなデメリットに過ぎない。

 

天「明日は新年きっちり迎える為に、寝まくるかね」

咲姫「それでも寝過ぎるのはダメ」

天「手厳しいな••••••咲姫だったら甘えさせてくれると思ってたのに」

咲姫「それに寝てても月ちゃんに起こされる」

天「••••••それもそうだな」

 

最近毎日のように起こされている俺は、少し言葉を濁した。時刻は22時を回り始めており、多少ながら眠気が襲い始めている。

 

天「そろそろ寝るか」

咲姫「うん。おやすみ、天くん」

天「あぁ、おやすみ」

 

久しぶりに言い合うおやすみは、なんだか少し特別な気分に浸る事ができた。明日は更に面倒になる事うけあいだが、まぁ大丈夫だろう。

 

朝になると、俺は震えてベッドから出たくない欲が異様に高まった。無意識の内に咲姫を抱きしめて暖を取っていたらしい。

 

天「はーさむっ」

咲姫「天くん、あったかい••••••」

 

俺は大して寒さを凌げてるわけでもないのに、ただ抱きしめられている咲姫はあったまっていたようだ。何故だ、ズルい。

 

月「••••••朝からなにやってるの。コタツ出すよ」

天「あぁ••••••コタツ解禁は今日だったな••••••」

咲姫「そうなの••••••?」

 

大晦日の我が家の習慣を存じない咲姫は疑問符を浮かべていた。俺と月は小さく笑い、俺はベッドから出た。

倉庫に月と一緒に歩き、扉を開ける。大掃除をしたおかげで、前のような埃っぽさは全くなかった。むしろ快適すらある。

 

月「とりあえず大人数用のおっきいの出そうか。お兄ちゃん大丈夫?」

天「任せろ。伊達に鍛えてないからな」

 

倉庫の中に入って、無造作に置かれたコタツを持ち上げる。かなりの重量だが、そこまで重いとは思わなかった。ぶつけないように慎重に倉庫から出て、月は扉を閉める。

 

月「ソファの場所は隅に移してるから、コタツ置いたらしまっといて」

天「わかった」

 

コタツを抱えたままだと前が見えにくくて参った。月の言葉があまり耳に入らないままリビングまで赴く。

 

衣舞紀「おはよう、天。一人で大丈夫?」

天「問題ありません。よっと•••」

 

コタツを音を立てないようにそっと置く。コンセントに繋いで電気を送って起動させる。後は月と衣舞紀さんに任せて、俺はソファを持ち上げて倉庫へと運んだ。

 

ざっと十人は入れそうなドデカイコタツは、やはり六人では大き過ぎた。間隔を多少空けてもかなりの余裕があり、足を伸ばし放題だった。

 

乙和「快適快適〜。ずっとここにいたいくらいだよー」

ノア「うちなんかよりも全然大きくてビックリした•••こんなコタツあったんだね」

月「親戚がうちに流れ込んで来た時に買ったらしいですよ。その時は私もお兄ちゃんも小さかったのであんまりわかりませんが」

 

当時は俺はまだ四歳で、月は二歳くらいだっただろうか。十年以上の月日が流れて、そんな記憶はいとも簡単に消え去ってしまっていた。

 

衣舞紀「そういえば、お父さんは?」

天「仕事疲れでまだ寝てます。たぶん夜まで起きてこないと思います」

月「あ、お母さん夕方には帰ってくるって」

天「今年は珍しく全員揃うな」

 

いつもだったらどちらかがいるか、はたまたいないかで新年を迎えていたので、今年はかなりラッキーな部類だろう。

 

天「ふあぁぁぁ••••••」

咲姫「まだ眠い•••?」

天「寝てぇ」

 

まだまだ寝足りない俺は欠伸をしてしまう。月がおもむろにため息を吐いたのがわかった。

 

月「寝ていいよ。今日はほとんどやる事ないから。せめて夕食までお腹減らしてて」

ノア「晩まで寝るのは安定なんだね••••••」

 

遠回しの夜まで寝ていいよ、という許可をいち早くノアさんは感じ取っていた。俺はコタツを毛布に、倒れ込んだ。

 

天「••••••すぅー••••••」

乙和「えっ!?もう寝たの!?」

 

あまりの早さに、乙和さんが声を上げた。そこにすかさず咲姫が、人差し指を口元に当てる。

 

咲姫「しーっ。天くんが起きちゃう」

乙和「あっ•••そうだった」

月「咲姫さんも一緒に寝なくていいんですか?」

咲姫「私は平気だから」

 

頷く咲姫。この中でただ一人寝ているのが俺なので、まぁまぁ目立っていたが、俺の意識は無情にも途絶えた。

 

昼過ぎ頃に、俺は目を覚ました。身体を起こして周りを見ると、見事に全員が寝ていて、コタツの上のテーブルにはトランプが散乱していた。みんな遊び疲れて寝てしまったのだろうか。

隣には、わざわざ近づいたのかすぐそばに咲姫が寝ていた。そっと頭を撫でてみたが、反応はなかった。

 

猛「お目覚めのようだな」

天「ん、父さんか」

 

ちょうどリビングに入ってきた父さんは、月の隣に座った。

 

猛「随分と楽しそうだな」

天「俺は今まで寝てたけどな」

猛「かー!もったいねぇなーお前は!こんな美少女達と遊べるなんてこの先ほとんどないんだぞ!?今を楽しんでおけって!な?」

 

この先ない、なんて言葉は父さんがよく多用しているものだ。基本的にこの人が言ったことは大体真逆になる。つまりはこの先も俺は美少女と遊び続ける事になるのだろう。

 

天「あまりデカい声は出すなよ?起きるかもしれないからな」

猛「それもそうだな。周りに人がいるとはいえ、久しぶりに息子と二人で話せて俺は満足だ」

天「キモ」

猛「相変わらず辛辣だな•••」

 

男同士二人きりの何がいいのか。俺はまっぴらごめんだな。こんなゴリゴリの軍人と一緒なんて特に。

 

猛「もうそろそろ母さんが帰ってくる時間だな。今年は運がいいな」

天「まぁ、今までのを考えたら、そうだな」

 

父さんの言葉に、俺は頷く。その後はあまり話す事もなかったので、父さんは自分の部屋へ退散した。

俺も立ち上がって、せめて空きっ腹だけでもどうにかしようと思い、軽食を摂った。

 

しばらくしたら全員が起きて、月と衣舞紀とノアさんは夕食作りに取り掛かり始めた。必然と、俺と咲姫と乙和さんが暇になってしまう。

 

咲姫「何もやることがない••••••」

天「まぁ仕方ないな。多過ぎてもダルそうだし、ここは任せておこう」

乙和「天くんと月ちゃんのお母さんが帰ってくるのってそろそろじゃないの?」

 

時計に目を向けると、18時を指していた。もう帰ってきてもおかしくないだろう。

あまりにも暇なのでテレビをつけると、格◯けがちょうどやっていたので見始める。

 

乙和「あれ?格◯けって今日だっけ?」

天「いえ、来年の一日か二日の夜ですよ。これは今年あった分です」

乙和「来年もGA◯KT連勝するかなー」

天「するんじゃないんですか?どっかではヤラセ疑惑でてますけど」

 

でもGA◯KT育ちがいいから、ヤラセとは個人的には思わない。

 

月「来年のGA◯KTの相方って決まってたりするー?」

天「いや、出てないわ。当日までのお楽しみみたいな感じじゃねぇの?」

月「えぇー、つまんないな」

天「わからない方が、誰が来るか予想できて楽しいだろ?」

月「それもそうだねー」

 

月と軽く言葉を交わしてから、またテレビに視線を移す。それと同時に玄関の鍵が開く音がした。恐らく母さんが帰ってきたのだろう。

リビングの扉が開き、あったかそうなモフモフのコートを羽織った母さんが入ってきた。

 

柚木「ただいまーーって、何なの?この状況」

天「おかえり母さん。今年はPhoton Maidenのメンバー込みで年越しするぞ」

 

困惑気味の母さんに、俺はまるで休日に友達を家に誘うかのように簡単に言ってのける。

 

柚木「そう•••今年は賑やかになりそうね」

天「いや昨日から既に賑やかなんだわ」

柚木「昨日からいたの?若いわねぇ•••」

 

見た目は二十代に間違われてもおかしくないが、この人一応はアラフォーなんだよな。ちなみに父さんは四十過ぎてる。

 

月「よーっし!できたできた!晩御飯食べよー!」

 

どうやら夕食が完成したらしい。俺は立ち上がって、置かれている鍋を抱えた。

 

天「すき焼きか」

月「佐々木さんからお肉貰ったからねー。せっかくならここでたくさん使っておかないと!」

 

鍋をテーブルの上に置いて、箸や皿をそれぞれに配っていく。

 

猛「なんかいい匂いがすると思ったら•••すき焼きか」

天「一人で全部食うなよ?」

猛「わかってる。お客さんがいる前でそんなみっともない真似するかってんだ」

月「咲姫さん達がいなかったら一人で食べるつもりだったんだ••••••」

 

これでも少ないのか、と月はため息を吐いた。このままいけば精神的に疲れそうだからいいぞもっとやれ。

 

猛「あ?これ佐々木さんの肉か?あの人またいいの送ってきやがったな」

 

既に生ではなくなった肉を見ただけで、いいものと判断するこいつの目はどうなっているんだ。

全員で八人だが、鍋の大きさ的にも多分余裕だろう。もし食えなくなっても父さんが全部食ってくれるという保険つきだ。

 

全員「いただきますっ!」

 

一斉に手を合わせて、それから箸を持ってそれぞれ具材を取っていく。

 

月「お父さん肉取り過ぎ!あーお兄ちゃんも!それと咲姫さんは野菜ばかり取り過ぎです!ちゃんとお肉と食べてください!」

天「鍋奉行ぢゃんお前」

 

すっかり取り仕切っている月は、別の意味で頼もしく見えた。

 

月「全く•••、月とお母さんを見習って!ちゃんとバランス良く取ってるでしょ!?」

天「母さん、肉と野菜どっちも取ってるように見えるけど肉ばっかり食ってるのバレバレだからな」

柚木「ギクッ」

 

怪しいと思ってチラチラ見ていたら野菜がほとんど減らずに肉ばかりが消化されていた。

 

月「お母さん!?バランス良く!」

柚木「月が怖いわ•••」

 

実の娘にここまで強く言われるとは思ってなかったのだろう。母さんが少し凹んでしまっている。

 

猛「仕方ねぇだろ。肉がうめぇんだから」

天「肉うめぇ」

月「この筋肉ダルマ共め•••!」

 

妹が忌々しくこちらを見てくるが気にしない。が、俺の器の中に野菜が入れられた。隣を見ると、咲姫だった。

 

咲姫「野菜も食べないと健康に悪い」

天「さんきゅ。じゃあ俺からは肉をやろう」

 

お返しとばかりに咲姫の器に肉をポトン、と入れる。彼女の唇が少し緩くなったのは気のせいだろうか。

 

月「なんで咲姫さんの言うことは聞くかなぁ•••!」

衣舞紀「そこは関係の差ね•••」

乙和「天くん咲姫ちゃんにはとことん甘いから」

 

衣舞紀さんの言葉に、乙和さんが便乗した。やれやれと月が頭を痛そうに横に振ったのが見えた。

 

月「兄がどんどん情けない人間になっていく•••!」

猛「おい天!お前飲まねぇのか!?」

天「いや飲まんわ•••というか周りに親戚でもなんでもない人たちがいるんだからやめろ」

 

睨みつけるが、父さんはヘラヘラと笑うだけで誘いを止めることはなかった。結構ウザい。

 

月「新年の祝酒は私も参加しようかなー。いい加減三人の眺めるだけってのも飽きてきたし」

衣舞紀「中学二年生がお酒って•••時代は変わるものね••••••」

天「月の舌で酒はかなりキツいと思いますがね」

月「お?ナメてんなお兄ちゃん?私の舌は日々進化してるってことを明日証明してあげるよ」

 

ふふん、と鼻を鳴らすが、どうせ泣きながらお茶啜る未来が見えた。

 

咲姫「私も飲んでみたい••••••」

猛「お?咲姫ちゃんも飲んでみるか?俺は大歓迎だぞ。どうせ何年かしたら娘になるんだからな!ガハハゴボォッ!?」

 

俺は耐えられずすき焼きのタレが入った瓶を父さんに投げつけた。割れはしなかったが、見事に父さんの額に直撃した。

 

猛「いっでぇな天コラァ!貴様に朝日は拝ませねぇ!」

天「黙れクソ野郎。何年も先の話すんな」

柚木「天とお父さんは相変わらずね••••••」

ノア「いつもこんな感じなんですか••••••?」

柚木「そうね。酷い時は血まみれになってるわよ。お父さんが」

乙和「お父さんっ!?天くんじゃなくて!?」

 

確かに普通に考えたら父さんが俺をボコボコにしている絵面を想像するだろう。だがこっちにはスピードがある。それの恩恵で逆に俺が潰しているのだ。

 

柚木「ごめんなさいね、騒がしい家庭で」

衣舞紀「いえ、ここまで親子関係なく言い合えるのはむしろ良いと思います」

乙和「壁がないのはいい事だよね〜」

 

先輩方から家庭を褒められているが今は気にならない。父さんが瓶を投げつけてきたからだ。後ろに咲姫がいるので、避けずにキャッチする。

 

月「いつまで騒いでるのー?年越し蕎麦作るよ?」

天「あぁ、わかった」

 

瓶を置いて、またすき焼きの肉を食べ始める。父さんは酒ばかりで、あまり食い物に手をつけてなかった。

 

十一時五十分となり、月が年越し蕎麦を持ってきた。器の中から湯気が沸き立つ。むせそうだ()

 

月「紅◯もそろそろ終わりかー。早かったなー」

天「•••••••••」

月「お兄ちゃんどうしたの?黙り込んで」

天「いや、来年はPhoton Maidenをあそこに連れて行きたいな、と思ってな」

 

全員の視線がこちらへと向く。母さんが呆れた顔で見ていたのがよく分かった。

 

柚木「難しい話ね。そもそもDJユニットって時点であの場では浮いてしまうわ」

天「しらねぇよそんなの、出れればいいんだよ。今Photon Maidenは勢いづいてるんだ。今だってテレビで取り上げられたりしてるんだし、ライブも大きいハコを安定して取る事ができてる。来年だ。来年こそは彼女たちを大舞台に連れて行ってやる」

柚木「はぁ•••どうしてこう、あなたは現実を見ようとしないのかしら••••••。いえ、見ないからこそ、ひたむきに頑張って今まで担当してきた人をのし上げたのよね」

 

それは、マネージャーとしてのやり方が母さんとは根本的に違うからだろう。俺は基本的には彼女達に色々任せている。自分たちでやるという考え方を染み込ませる為だ。

 

月「後三分だよ!」

 

月の声が反響し、自然と重苦しい話が途切れた。テレビに目を向けると、出演した歌手達全員が歌っていた。ラストだということを嫌でも思い知らされているようだ。

 

乙和「後一分っ!」

天「••••••今年ももう終わりか、早かったな」

 

五月にPhoton Maidenのマネージャーを務めることになった時は、内心イヤイヤだった。同い年で女しかいない。そんな環境でやっていくのは嫌でたまらなかった。それが今はその内の一人と恋人関係になって、紅◯に連れて行くなんてほざきやがる。

人はそう簡単に変わらないが、俺は多少の期間を経て、ここまで大きく変わった。元から褒められない人間だという事を自負していたが、Photon Maidenは違った。仕事を持ってくる度に感謝を述べてくれて、今まで担当してきた芸人や俳優とは全然違った。

彼女たちが俺をここまで連れてきてくれた。その事実は絶対に揺るがないし揺るがせない。感謝の意も込めて、俺は全力でこの仕事に真っ正面から対峙するつもりだ。

 

司会「さぁ、残り十秒となりました!十!九!

猛「八!」

柚木「七」

ノア「六」

乙和「五!」

衣舞紀「四」

月「三っ!」

咲姫「二•••」

天「•••一」

司会「零ーー」

 

全員「明けまして、おめでとうございます!」

 

律儀にカウントダウンをした後の一斉にあげた声は、家の外まで響き渡った。

 

新年を迎えた俺たちは初日の出を拝んでいた。暗い中から少しずつ露わになる太陽が、暖かくて美しかった。

その後はすぐに寝てしまい、起きるのはかなり遅くなった。そんな中でおせちをみんなで食べる。例年とは全く違うお正月だ。

 

月「まっず!!」

 

そして食事で発してはいけない言葉が俺の耳をつんざく。祝酒を飲んだ月が苦しい顔を浮かべていた。

 

猛「予想はしてたがダメだったな!ガハハ!」

天「んっ、んっ•••はぁ、うめぇ」

衣舞紀「さっきからずっと飲んでるけど大丈夫•••?」

天「平気ですよ。まだ去年の半分もいってませんから」

咲姫「んっ••••••んっ••••••」

天「咲姫、無理して飲まなくていいんだぞ?」

 

昨日の言葉通り、咲姫は俺と父さんと月に混じって酒を飲んでいた。が、咲姫も月と大して変わらないので、苦い顔で飲んでいた。

 

天「おいおい•••顔赤いぞ•••もうやめとけ」

咲姫「うん••••••」

 

呂律が回っていないのか、咲姫は頭をフラフラとしていた。目もトロトロになっていて、目の前がちゃんと見えているのかすら怪しい。

 

咲姫「••••••んぅ」

 

パタン、と俺の方向に咲姫が倒れた。慌てて抱き止めて、月に目を向ける。

 

天「月、水頼む」

月「わ、わかった!」

 

月がバタバタと急いで走っていく。水をコップに入れてすぐに戻ってきた。コップを受け取って咲姫に飲ませる。

 

天「しばらく大人しくさせておくか•••んっ、んっ••••••」

 

膝に咲姫の頭を乗せたまま、俺は酒を胃の中に流し込む。

 

猛「流石に飲み過ぎじゃないか?」

天「そうか?全然余裕だけど」

 

顔色は全く変わってないし酔った時特有のふわふわした感覚もない。余裕すぎて怖いくらいだ。

 

猛「初詣行くんだろ?いいのかそんなんで」

天「ん?まぁ大丈夫だろ。行くにしても咲姫が目覚ましてからだし」

 

飲みながら彼女の頭を撫でる。くすぐったそうに頭を動かしたのがわかった。

 

猛「それで捕まったりするなよ?」

天「大丈夫だ。それはない」

 

そもそも毎年酒飲んだまま初詣行ってた記憶しかねぇよ。何年もやって補導されてないから今年もおけ。

 

天「ごちそうさま」

月「早いね?あまりお腹空いてなかった?」

天「いや、酒で腹が膨れただけだ」

 

俺は大きく息を吐いて、テレビに目を向ける。朝の情報番組が正月特番をしているが、内容は全く面白くなかった。

 

月「そういえばみなさん、”アレ”は用意してきましたか?」

衣舞紀「あぁ、”アレ”ね。もちろんしてきたわ」

 

アレってなんだ•••?ものすごく気になるが、月が目で制してくるので訊きづらかった。

 

乙和「初詣までのお楽しみだよ〜」

天「•••••••••?」

 

結局俺はワケがわからずに、首をかしげたままだった。ちなみに数時間程で、咲姫が酔いから覚めた状態で起きた。

 

時間は大体昼頃、俺はたまにしか着ない私服を取り出していた。

 

天「うっわー•••なんか久々に見るものばっかだな••••••」

 

休みの日に咲姫と出かけることもあったので多少は取り出したりしてたが、それはほんの一部に過ぎない。クローゼットを開けば、まだ見ぬ服共がこんにちはしていた。

 

月「お兄ちゃーん?いつまで時間かけてるのー?別に化粧するわけでもないでしょ?」

天「あーはいはい。すぐ出るから待てって」

 

急いでジーパンを履いて、多少お気にの厚めのシャツに腕を通す。その上にジャケットを羽織って自室を出る。

 

天「みんなは?」

月「下だよ。多分お兄ちゃん、驚くよー?」

天「••••••マジでどういう事なんだ••••••」

 

朝から疑問だったものがずっと続いて、頭はグルグルしている。

月は軽く、俺はいつもと変わらない足取りで一階へと降りて行くが、リビングに出ても彼女たちの姿はなかった。

 

天「あ?いねぇじゃん」

月「お兄ちゃん後ろ後ろ」

天「ん?ーーなっ」

 

言われるがままに踵を返して、俺は目の前の光景に目を奪われた。

Photon Maidenのメンバーが浴衣に身を包んで、おめかししていた。が、俺が驚いたのはそこじゃない。

 

天「そもそも夏やったじゃねぇか」

 

夏祭りにみんなで行った時も、彼女たちは浴衣を着込んでいた。その所為で多少見慣れてしまっている。夏の時とは柄違うけど。

 

咲姫「似合う•••?」

天「すごく似合ってる」

 

訊かれたらそりゃ褒めるに決まってる。似合っていてすごく可愛い。周りに人がいなかったら抱きしめていただろう。

 

衣舞紀「天、顔顔」

天「えっ、そんなおかしかったですか?」

乙和「いつもよりふにゃふにゃだったよー?そんなに咲姫ちゃんの浴衣がいいのか!?」

天「仕方ないじゃないですか。可愛いものは可愛いんですから。ノアさんもそう思いますよね?」

ノア「カワイ過ぎて死にそうです••••••!生きててよかったって心から思った••••••!」

 

とりあえず咲姫LOVEなノアさんに話振っとけば勝ちだよなこれ。当の彼女はいつものカワイイムーブをキメ込んでて十分ヤバい。

 

柚木「話は終わった?そろそろ行くわよ」

 

何故かスーツ姿の母さんが玄関前で待っていた。俺は欠伸をしながら、靴を履いた。

 

行き先は衣舞紀さんところの神社だが、凄まじい人の量だった。逸れないように気をつけないといけない。

 

猛「俺が壁になるから、流されないようにな」

 

こういう時に巨体の父さんが役に立つ。勝手に人が離れていくほどの威圧感も相まって、父さんの周りには人が寄らなかった。

 

咲姫「天くん••••••」

天「ん?」

 

咲姫に声を掛けられて、彼女の方向に顔を向ける。チラリと目線を逸らすと、手の居所が悪かった。俺は苦笑し、その手を握る」

 

咲姫「あっ•••えへへ」

 

そしてわかりやすく嬉しさを露わにする。いつもはかなり無表情なのに、こういう時に限ってよく笑うのをズルいと思うのは俺だけだろうか。

参拝客の列は凄い事になっており、かなりの待ち時間を要する気がして来た。いや、お参りだけなのでそう時間はかからないだろう。早いペースで少しずつ前に進んでいるので、多分すぐ来る。

 

乙和「お昼なのに多いねー」

ノア「朝は多いから時間ズラしたけどここでも多かったってパターンかな」

 

それは意外とありそう。逆に朝は少なかったかもしれない可能性まである。

 

衣舞紀「そもそもこんな寒い中、朝から行こうとは思わないわよ」

猛「昔に比べて、家にいる方が多くなったからな、最近の日本人は」

 

ネットとかそこら辺の技術が発達したから、外に出て遊ぶのもまぁまぁ面倒な事だろう。最近外で遊ぶ小学生とかを中々見かけないのは、インターネットの所為だろうな。通話で繋がれるし。

ちなみに私の家の隣には公園がありますが、普通に子供達遊びに来ますよ。やっぱ田舎なんすね〜(作者)。

しばらくしていたら、俺たちの番がやってきた。10円玉を賽銭箱に優しく投げ入れる。

二礼二拍一礼。神社でのお参りのルールだ。ちなみに神社内の道の真ん中を通るのはアウトらしい。

お参りを済ませたら、後はおみくじバトルをする事になった。ちなみに主催者は月。父さんと母さんは二人でどっか行った。

一つ300円のおみくじを買って、俺は適当に選んで引く。

 

月「さーて結果はー?ーー中吉!しっぶ!」

天「俺も中吉だわ」

ノア「私は小吉かぁ•••」

衣舞紀「私は吉よ」

乙和「私も私もー!衣舞紀おそろーい!」

 

おい、全くオチつかねぇじゃねぇか。どれも微妙で結果的に全く面白くない。

 

天「咲姫は?」

咲姫「•••••••••大吉」

 

ボソリ、と小さな声で発せられたそれは、とても縁起のいいヤツだった。一斉にみんなが喜び始める。

 

月「咲姫さん大吉なんですか!?すごいですよ!」

乙和「なんて書いてるの!?見せて見せてー!」

 

咲姫にみんなが群がり始めたので、俺はそこから一歩引いた。そして寂しく一人でおみくじの内容を確認する。

 

天「仕事は•••『急がば回れ』か••••••変にがっつかずに堅実に行きますかね••••••」

 

俺はおみくじを財布の中に忍ばせた。凶とかそんな酷いものではないので、結ぶのはやめておいた。そしてまだワイワイ騒いでいる咲姫たちの中に、俺も混ざり始めた。

 

御守りを買ったりして、特にやる事がなくなったので家へ向かって歩いていた。ちなみに俺と咲姫の手はまだ繋がっている。

 

咲姫「天くん」

天「なんだ?」

 

突然名前を呼ばれて、俺は顔を向けた。

 

咲姫「お願い事は、何にした••••••?」

天「言ったら意味ねぇだろ?」

咲姫「そうだね•••秘密、初めて••••••」

 

そういえばお互いに秘密にしている事とかほとんどなかったな。俺はあるけど言わない方が彼女の為だ。

 

天「俺は毎年恒例の寝正月を過ごすわ。コタツで寝ながらみかんでも食べるか?」

咲姫「ーーッ!うんっ!」

 

好物のみかんに反応したのか、咲姫は大きく頷いた。

 

乙和「えー何何〜?みかん食べるのー?」

天「えっ、まだ残るんですか?」

ノア「残るのが悪いわけじゃないでしょ?もうしばらくは居座らせて貰おうかな」

天「まぁ•••いいですけど」

 

全然迷惑じゃないから構わないが、貴方たち家族と過ごさなくていいんですかねぇ••••••。ご両親悲しむよ?

 

衣舞紀「そうと決まったら、早く戻りましょう!」

月「寝正月バンザーイ!」

天「元気な事だな••••••」

 

俺は苦笑いを漏らす。手をクイッと引かれて、咲姫の方へ顔を向けた。

 

咲姫「楽しいね」

天「あぁ、うるさいくらいにな」

 

また今年も騒がしくて、忙しくて、それでいてかけがえのない楽しい時間が待っていると思うと、俺は嫌でも期待に胸を膨らませる事ができた。そうやって、楽しい時間が永遠に続けばいいと、絶対にありえない願望も自然にしてしまった。

 

天「咲姫は、ずっと一緒にいてくれるよな?」

咲姫「もちろん。今までも、これからもずっと一緒」

 

その言葉が聞けて安心した。俺は咲姫の手を引いて、先に向かって走っていく月と衣舞紀さんを笑いながら追いかけた。

今年の冬は、雪を溶かすくらいアツいモノにしてやろう、そう誓った。




それでは皆様、良いお年をを。私は自分の夢に向かって進んでいきます。もし何処かで会うことがあれば一緒に剣道をしたいですねw
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