俺は柄にもなく緊張していた。これからPhoton Maidenのみんなに俺と咲姫の交際を伝える。何より心配なのは乙和さんの反応だ。いや、心配というより恐れている。彼女の今後次第ではPhoton Maidenが崩壊しかねない。俺はそれを危惧していて、本音を言うなら言い出したくなかった。秘密にしておきたかった。
だが咲姫は伝えたい、とあんな真剣な顔で言うんだ。だから断れない。本当に•••咲姫は強いよな。乙和さんから告白されてその返事をしないままにしてきた事、咲姫と付き合っている事を伝えるのが何より怖いことを言った。彼女は嫌な顔一つせずに、「大丈夫」と言葉を掛けてくれた。だから俺も頑張ろう。乙和さんならきっと大丈夫だろうと信じている。
咲姫「私たち、付き合う事になった」
衣舞紀「え•••?それ本当なの?」
咲姫「うん」
真っ先に衣舞紀さんが声を漏らす。それに対して咲姫は淡々と頷いた。
ノア「へぇー、天くんと咲姫ちゃんが。おめでとう!」
天「••••••ありがとうございます」
俺は静かに頭を下げた。そして、さっきから何も発言をしない乙和さんにも向かって、頭を下げた。
天「ごめんなさい、乙和さん。あなたとお付き合いはできません」
乙和「••••••うん。天くんが選んだんだよね?だったら私からは何も言わないよ」
思っていたより、乙和さんからの反応は薄かった。まるで分かっていたかのように、余裕のある対応をしてみせた。
ノア「えっ、乙和•••天くんに告白してたの?」
乙和「そうだよー。あの時は天くん、恋愛とか考えてなかったみたいで保留になってたんだよ」
ノアさんが無意識に爆弾を乙和さんに投げつけるが、それを軽く受け流すようにあの時の事を語った。でも••••••バカの俺でもわかる。乙和さんの心は少し濁っていた。少なからず、断られた事にショックを受けているはずだ。とても申し訳なくて、俺はこれ以上何もいえなかった。
天「••••••••••••」
咲姫「•••天くん」
咲姫が俺の手を握った。ハッとして咲姫に目を向けると、彼女は優しく微笑んだ。そうだ、今は、今だけはいつも通りに振る舞わないといけない。乙和さんが普段通りにしているのと同様に、俺もいつもの俺を演じなければならない。心の中で咲姫に感謝しながら、手を離した。
Photon Maidenのみんなは今レッスンをしている。俺は姫神プロデューサーに報告に来ていた。何って?もちろん咲姫と付き合った事だ。
天「この度、本事務所所属の出雲咲姫さんと交際をすることになりました。ご理解の程、よろしくお願いします」
姫神「•••そうか、あの子がな•••。私からは何も言わない、キミたちに任せる。それにキミはよく言っているじゃないか。『愛は人を強くする』と」
天「•••••••••そんなにベラベラ話した覚えはないのですが」
姫神「まぁ、キミと言うよりはキミの妹さん、と言った方がいいかな?」
天「月のやつホント余計な事しか言わねぇなぁ••••••」
あの愛嬌で場を和ませながらしれっと爆弾を投下してる光景が目に見えてわかる。家帰ったらとっちめるぞあいつ。
姫神「それと、キミに一つ訊きたい事があったんだ」
天「はい、何でしょうか?」
姫神「本格的に、うちの事務所の預かりにならないか?」
天「それは•••Photon Maidenの専属になれ、と言う事ですか」
姫神「話が早くて助かるよ。キミはあの子たちを信頼してるし、あの子たちもキミを信頼している。ここまで完璧なサポートと彼女たちの精神的なケアをできるのは、今後探してもキミ以上の者はいないと思ってな。みすみすこの機会を逃すわけにはいかないだろう?」
俺は今まで野良でマネージャーとして活動してきた。誰かを担当してほしい、と言われればすぐにオッケーを出していた。今はそれなりの立場があるから仕事を選べるようになったが、事務所に所属して専属になる、と言った事には前々から無視してきていた。
単純に一つを担当するというのは、その一つが滅びない限り別の担当に移れない。野良時代の時は一定の期間があったので、担当を転々としてきた。だからその場の対応力とか、そういった必要な事を手に入れる事ができた。今後の為にも、本当なら断って次の仕事に向けて準備をしなければならない。だが、俺はPhoton Maidenの「これから」を見てみたかった。その場で、自分の目で、自分の耳で、自分の身体で感じたかった。だから俺はーー、
天「わかりました。Photon Maidenの担当を続ける為にも、ネビュラプロダクションへの所属を希望します」
姫神「わかった。では今後とも、よろしく頼む」
天「はい、よろしくお願いします」
俺は頭を下げ、姫神プロデューサーと握手を交わした。これで俺は本格的にPhoton Maidenの担当マネージャーとして、地位を確立した。
その後は普通に仕事に移り、スケジュールの調整や、ライブの交渉等に時間を割いていた。流石に東京ドームばりのデカい規模は無理があったが、それでも一万人が入れるような規模には頼む事ができていた。いやー今までいろんな俳優担当して、ライブとかイベントとかに連れて行って実績をあげた甲斐があったってもんよ。これでも日産スタジアムに担当連れていったことあんだぞこの野郎(謎の強気)。
いやーPhoton Maidenもこれからどんどん忙しくなるなー。仕事持ってきて忙しくさせてるの俺だけども。なんか今日はやけにテンションが高い気がする。安心感、とかそういったものもないわけではない。Photon Maidenを離れる確率はほぼゼロになったのだから気分がいいのだろう(自己分析)。
天「これからもっとライブを成功させれば、Photon Maidenは頂点に近づく•••」
俺自身でも気持ち悪いな、と思うような笑みが漏れる。いかんいかん、平静を保たねば。こんな顔見られたら恥ずかしくて死ぬ。
咲姫「天くん、嬉しそう」
天「おほぁ!?」
後ろから咲姫に声を掛けられて飛び上がった。いつからいやがった!?というか気持ち悪い顔見られたー!
咲姫「もしかして、お仕事入った?」
天「あ、あぁ•••まぁまぁな規模のライブに参加できるようになったから楽しみにしててくれ。いや実際にライブに出るの咲姫たちなんだけど」
咲姫「せっかく天くんが用意してくれたのだから、頑張る」
強く頷く咲姫。俺はため息を吐いて椅子の背もたれに体重を預けた。
天「なんかすまないな。立て続けにライブの予定突っ込んでしまって。休まらないだろ?」
咲姫「大丈夫。ライブは楽しいから、お陰でレッスンを頑張れる」
天「•••そうか。咲姫は偉いな」
ぽんぽん、と優しく頭を叩いた。まだ仕事が残っているので、これだけにしてまた机に向き直る。
咲姫「もう少しだけ•••」
天「せめてレッスンが終わってからな。俺もまだ仕事残ってるんだし」
咲姫「•••わかった」
少しだけ不機嫌そうに咲姫は部屋を出ていった。俺は苦笑を漏らして、万年筆を走らせた。
レッスンも終わり、俺の仕事も終わった。真っ先に咲姫が俺の方にやってきて、一緒に家路につく。事務所を出た瞬間に咲姫は俺の手を握って歩きだした。
咲姫「••••••大丈夫?」
天「えっ、な、何が?」
咲姫「お仕事してる間、ずっと辛そうだった•••」
天「•••ははっ、咲姫には敵わないな••••••」
俺は咲姫の手を引いて、公園のベンチに座った。咲姫も隣に座る。
天「乙和さんをフッた時、すごく心が痛んだ。共感覚とか何もない俺でもわかるレベルに乙和さんが傷ついていて、耐えられなかった。あの人の目の前では普通を装えたけど、今は無理だ」
ズキズキと音を出しているかのように精神がゴリゴリに削れていくのがわかる。
天「乙和さんに恨まれてないか••••••怖い」
俺らしくない弱々しい声だった。必死に絞り出したような、小さな声。咲姫は一層強く俺の手を握った。
咲姫「乙和さんはそんな人じゃないから大丈夫。きっとわかってくれる」
天「•••そうであって欲しいな••••••」
咲姫はきっと、俺がその場しのぎの返答をしているのはわかっているだろう。心情が普通に見られるから今相当暗い色をしているだろう。
天「さーて帰るか。月が飯作って待ってるだろうしな」
咲姫「••••••うん」
咲姫は頷いて立ち上がる。俺も立ち上がって、咲姫の手を握ったまま歩いた。明日には•••普段通りになっておこう•••感情を押し殺すのなんて、いつもやってきたじゃないか。
時を同じくして、乙和と衣舞紀はショッピングモールに来ていた。乙和が衣舞紀に甘いものを食べたいと頼んで二人でやって来ていた。
乙和「ごめんねー衣舞紀。付き合わせちゃって」
衣舞紀「あまり甘いものは食べたくないのだけど•••今日ばかりは仕方ないわね」
衣舞紀は乙和の心情を十分理解していた。あの乙和がここまで頼るのだから、よほどの事なのだろうと覚悟も決めていた。
衣舞紀「それで、どうしたの?」
乙和「今は、一人でいたくないと思って。衣舞紀を巻き込んじゃった」
衣舞紀「•••••••••天の事?」
乙和「•••••••••うん」
静かに問い掛けた質問の反応は、これまた静かな応対だった。音もなく乙和は頷いた。
乙和「天くんも酷いよねー。みんながいる前でフるんだもん••••••でも、これで私の初恋•••終わっちゃったんだなぁ••••••」
ポタポタと地に乙和の涙が音を立てて落ちる。衣舞紀はそんな乙和を優しく抱きしめた。
衣舞紀「残念だったね••••••今は泣いていいわよ••••••その方がスッキリするでしょ?」
乙和「うん•••!うん••••••!う、ひぐっ、あぁ、あっ、ああああぁぁぁぁ••••••••••••!!」
乙和は衣舞紀の胸の中で泣き続けた。もうそれは長い時間。彼女の涙が枯れるまで、衣舞紀は乙和を慰め続けた。もしこの状況を天が知れば、きっと彼はもう立ち直れないだろう。それ程彼は、心が弱い男なのだ。
そしてこの事を彼が知る事は絶対にないだろう。この日の出来事は二人の秘密として墓まで永久に封じ込められるだろう。
というかいい加減バンドリの更新まだかよってツッコまれそうですけど書く気力湧きません()あ、感想と評価お待ちしておりまーす。土日にアインシュタインより愛を込めて終わらせないとなぁ•••(絶望)