七月に入り、少しずつだが単独ライブへの準備が始まっていた。レッスンもライブを想定したものへと変わり、他のライブへの参加も増えていた。そして今月の半ばには期末テストもあるので、それへの対策もしなければいけない忙しい月へとなった。
天「だからって•••なんで勉強会••••••」
土曜日の昼。レッスンを終えた後は神山家で勉強会を開く事になった。俺は赤点さえ回避できればそれでいいのでやる気など一切なかった。
衣舞紀「ライブも大事だけど、期末テストで落とすと補習とかあるからね」
天「正直この中で危ないのって乙和さんだけですよね」
乙和「うぅ•••否定できないのが悔しい••••••」
この中でテストで赤点取りそうなのは乙和さんくらいだ。俺は赤点回避は確実にしてるし、咲姫、衣舞紀さん、ノアさんは普通に優秀だ。
衣舞紀「そういう天は大丈夫なの?」
天「失礼ですね。これでも毎回学年半分を維持し続けてますよ」
こんな俺でも得意教科くらいはあるので、苦手な部分はとりあえず赤点回避して他を伸ばしていれば半分の順位なんて余裕だ。
ノア「乙和さえどうにかなれば安心なんですけどね•••」
天「最早乙和さん専門の勉強会になりそうですね•••」
俺とノアさんはお互いに苦笑する。それが乙和さんは気に入らなかったのか、頬を膨らませて怒っていた。
咲姫「天くん、ここがよくわからない•••」
天「あぁ、そこはこの人の言葉がヒントになってるから、そこを改変して埋めてみろ」
咲姫が問題集の長文を指差して訊いてきたので丁寧に答える。ちなみに作者は現国が一番得意だ。
まぁ所詮は偏差値50より下の工業高校のだけど(作者)。
乙和「じゃあ天くんここはここは?」
天「いやそれ作者の心情のやつじゃないですか•••文章全部読めばわかるのでちゃんと最後まで見てください」
乙和「咲姫ちゃんと扱いが違う•••」
ノア「流石に違うでしょ•••問題の難しさ考えなよ•••」
乙和さんのは文さえ読めば簡単にわかる問題だが、咲姫のは改変したり、問題から指定された文字数もあるので、比較的にそっちの方が面倒くさい。
乙和「本当は恋人だから贔屓してるんでしょ!?」
天「たかが勉強でそんなに引きずったりしませんよ•••」
問題を解きながら呆れた声を漏らす。衣舞紀さんやノアさんはクスクス笑っていたが、咲姫は無言で問題に集中していた。
ドガン!!凄まじい音と共に何かがぶつけられた。全員がビックリして飛び跳ねたが、俺だけは察していた。確実にあいつだ。
猛「たっだいまぁ!天ぁ、久しぶりだなぁ!」
天「おかえり、父さん」
俺はいたって冷静に対処する。が••••••みんな怯えてしまってるな。父さん、見た目ヤクザだから仕方ない。
猛「あ?この子たちは•••えーっとフォト•••なんだだっけ」
天「Photon Maidenだ」
猛「あぁそうそれそれ!なんだ天、ハーレムじゃねぇか!どうやって誑しこんだんだ?えぇ?」
天「誑しこむもクソもねぇよ。勉強会してんだ」
ニヤニヤしながら俺をまじまじと見る父さん。そして、チラリと咲姫の方を見た。咲姫はビクッと怯えたように肩を跳ねて、俺に抱きついた。
猛「月から話は聞いている。こんなバカ息子だがよろしく頼むよ、咲姫さん」
咲姫「えっ•••?こ、こちらこそ、よろしくお願い•••します••••••」
父さんは咲姫に対して頭を下げた。この子なら俺を任せても大丈夫なんだろうと、確信が持てたのだろう。咲姫も困惑しながらだが、言葉を返した。
猛「それにPhoton Maidenの皆さんも、息子がたくさん迷惑を掛けると思うが、大目に見てやってくれないか?」
衣舞紀「もちろんです。天にはいつも助けられてますから」
乙和「天くんとっても優秀なんですよー!お仕事たくさん持ってきてくれるんです!」
ノア「天くんは私たちの大事な仲間ですから」
猛「天ぁ•••立派になったなぁ••••••!最近お前の事ずっと見てきたが、よく笑うようになったし、父さんは嬉しいぞ••••••!」
父さんが号泣する。その怖い顔でされるとやっぱりというか当然気持ち悪かった。••••••ちょっと待て。なんか変な言葉が聞こえたぞ。
天「俺の事ずっと見てたって•••どういう事だ?」
猛「あーその事?お前の事が心配でな、双眼鏡なりなんなり使って観察してたんだ」
天「仕事しろよ」
何やってんだこの親父は。仕事ほったらかして俺の事見てたの?純粋にキモいとしか出てこないのだが。というかキレそう。
猛「仕方ねぇじゃん。部下パワハラしてもつまんねぇんだしさぁ!」
天「軍の闇を見た気がする•••」
猛「厳しくしないと強くならないから仕方ないだろ!逆にお前は甘いんだ!それで成果出してるから強くは言えないけどな!」
なんかもう•••完全に父さんと母さんを反面教師にして育ってるな俺•••厳しくし過ぎないのが俺の流儀へと成り果てていた。
乙和「というか天くんと天くんのお父さん全然顔似てないね〜」
猛「そうなんだよなぁー、ぜーんぶ母さんに持っていかれちまったよ」
天「性格は諸々月が持っていったからいいだろ?」
猛「うーんそれはそれで複雑••••••」
というか既に父さんはこの輪の中に溶け込んでいた。見た目に反した気さくな性格のお陰で、みんなからは既に恐怖だとかそういった感情は消え失せていた。
咲姫「天くんのお父さん、面白いね」
天「そうか•••?ただウザいだけだと思うんだけど」
猛「失礼かよ!本当にこいつは可愛気がねぇなぁ全く。月を見習え!」
天「••••••日頃からあんな問題発言する妹を見習いたくないな•••••••••」
俺は遠くを見る目になった。大方察している咲姫も、なんとも言えない表情をしている。
衣舞紀「月ちゃんは•••ちょっと••••••」
ノア「可愛いけど発言に問題が••••••」
月の悪名はPhoton Maiden内にも轟いていた。時たま事務所に遊びに来るが、かなりヤバい発言が目立つのが否めない。見た目に反して中身が変態過ぎる。
猛「月•••結構な事やってんだな••••••」
天「ちょっと前に月の友達に会ったけどセクハラがすごいって言ってたな•••あんな事も言うし、最早おっさんだよ、あれ••••••」
セックスは言うわいつキスしたかとか言うわで、大変だ。誰かこの妹の暴走を止めてほしい。多分無理だろうけど。
猛「まぁいいや。とりあえず風呂入ってくるわ。後は部屋にこもってるから好きにしろ」
天「あぁ」
俺は短く返すと、父さんは荷物を部屋に置く事なく風呂場へ直行した。涼しい顔をしていたが、本当はかなり疲れていただろう。元気な状態なら今頃殴りかかってきてる。恐らく仕事の方が大変なんだろう。俺にはその内部事情を知らないからなんとも言えないが。
ノア「天くんのお父さん、いい人だね」
天「••••••そっすね」
乙和「何で目を逸らしたの?」
神山家の家庭事情をある程度知っている咲姫を除く三人は首を傾げた。
咲姫「天くんのお父さん、いつも天くんを殴ってるみたい」
衣舞紀「も、もしかして虐待•••!?」
天「違いますよ。父さんはいつもそんな感じなんです」
ノア「日頃から暴力振るってるって、それ虐待以外にないと思うけど•••怪我とかない?大丈夫?」
天「だから大丈夫ですって。俺も俺で殴り返してますから」
乙和「天くんの家庭がすごいということだけはよくわかった•••」
乙和さんみたいに変に詮索せずに、簡潔にまとめてくれたらそれでいいのだ。ある程度知ってる咲姫は心配のカケラもない表情をしているのだから。
天「それでもなんだかんだ家族のことを考えてくれる、いい父親ですよ」
俺は微笑む。いつもはあんな感じだが、いざというときは本当に頼りになる人だ。そういう面はカッコいいと思うし見習いたい。
ノア「はぁー•••天くんの微笑み、カワイイ••••••儚げなのに何処か美しさを感じる•••尊い」
天「本当に相変わらずですね•••」
微笑みは一瞬にして苦笑へと変貌を遂げた。それでもノアさんにはやはり受けるようで、俺はこの人の恐ろしさを改めて感じた。
勉強会は終わり、Photon Maidenのみんなはそれぞれの家へと帰宅していった。その後に月も帰ってきて、勉強会の事を聞くと、「私も参加したかった!」と嘆いていた。
今日は久しぶりに俺と月と父さんの三人で晩飯を食べる事になった。父さんとご飯を食べるのは実に久しぶりで、なんだか嬉しかった。
月「いーなー、勉強会いーなー。私も一緒にしたかったなー」
天「いつまで文句垂れてるんだ•••?また近々やるだろうから、その時に言うよ」
月「ホント?やったー!」
我が妹は単純だった。確実にやるかもわからない事に期待を募らせている。憐れだ()
猛「実際に見たが、本当に美少女揃いだな。お前よくあんな連中の一人と付き合えたよな」
天「•••言われてみればそうだな」
よくよく考えれば、咲姫程の美少女と付き合えるのは見た目も中身もイケメンのイイ男に限ると思う。今更ながら、俺の何処が気に入ったんだと疑問に思い始めてきた。
月「お兄ちゃんは誑しだからイケたんだと思うよ」
天「誑しちゃうわアホ」
猛「お前普通にモテてなかったか?」
天「男にはな•••」
中学のしっぶい記憶を思い出して口の中が酸っぱくなる。多分一目惚れだったんだろうな。俺の声とか何も聞いた事なかったんだろう。
月「ちなみに私は昨日また告白されました!えっへん!」
猛「おう月、そのコクった男の名前教えろや。今すぐぶっ殺したる」
天「やめろ野蛮人」
月の事になるとすぐに大袈裟になるんだからこの親父は•••。
天「そもそも、恋愛するしないは月の自由だろ?誰とくっつこうが別にいいだろ」
猛「できることなら石油王かイケメン俳優と•••」
天「ホント月の父親だよなお前••••••」
所望する相手が月と丸被りだよ。月は第二の父さんだな•••。見た目は天と地の差があるけど。
猛「俺の見た目バカにするな殺すぞ!」
天「だから何で心の中読んでくるの!?」
ここの奴ら全員俺の考えてることお見通しなのか••••••!?だとしたらもう家出する。咲姫の家に永住するわ。迷惑だろうからしないけど。
月「それでお兄ちゃんー子供はまだー?」
天「気が早ぇ•••」
猛「え、何、お前咲姫ちゃんとヤッたの?」
月が爆弾を投下し、父さんがそれを爆破させた。ホント余計なことしか言わねぇなこいつ。後で植木鉢演出したる。
月「もうヤッたんだよねー?ラブラブイチャイチャにゃんにゃんしたんだよねー?」
天「はーウザ」
反応するのも疲れてきて、俺の応対は雑になってきていた。もうマジでさぁ?やめてぇ?精神崩壊しちゃうよ。
猛「ちゃんと恋愛してるようで俺は何よりだ!ガハハハ!」
父さんはあまり踏み入らずに笑っていた。正直ありがたい。
天「••••••••••••」
月「どうしたの?もう咲姫さんシック?」
天「昼会ったばっかりだぞ?そんなすぐならねぇよ。ただ、ライブの事がどうしても心配でな」
月「それをどうにかするのがお兄ちゃんの仕事でしょ!?自信持って頑張って!」
俺の背中をバンバン叩いてエールを送る妹に、俺は笑い掛けた。
そうだ、俺が弱気になっていてはダメだ。気合いを入れるために、両頬を思いっきり叩いた。ヒリヒリとした痛みが、雑念を取り払ってくれる。
天「その前に期末テスト、乗り切るか!」
俺のやる気は、一層高まっていた。
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