看病はありがたいけどウザいなと思う今日この頃
天「ゲッホ!ゴホッゴホッ!!」
もう日が暮れていたが、俺の風邪は治る気配が全くなかった。今も喉を痛めつけに来ていて、咳が止まらない。
天「••••••あぁー•••キッツ••••••」
正直に言えば、今日の朝よりも身体は参っていた。身体を動かすような気力すらも、今の俺にはない。飯も食えてないしまともに寝る事もできていない。頭痛は増していた。何かを考えて誤魔化す事もできない程、今は痛い。
天「•••吐きそうかも」
俺は無理矢理身体を起こして、トイレへと足を引きずりながら向かう。便器の前に身体を倒して、思いのままに嘔吐した。
天「おえぇぇ••••••!あ゛ぁ゛ぁ゛••••••喉いてぇ••••••」
何も食べていないので、出てくるのは胃酸ばかりだった。その所為で喉が焼けるような感覚に陥る。
天「あークソ•••たかだか風邪でこんな事になるなんて••••••」
恐らく精神的な不安も重なっているから、こんな事になっているに違いないだろう。マジで話し相手でもなんでもいいから、誰か来てくんねぇかな••••••。
ピンポーン!
天「•••あ?誰だ•••?荷物を頼んだ覚えはないが••••••」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!!
天「連打すんな!誰だよ!?ーーっと••••••」
つい大声を上げてしまって身体がクラッと傾く。壁にゴツっとぶつかり、体重を預けた。
天「と、とりあえず行かないと••••••」
相手が誰かくらいは確かめないといけない。もし本当に荷物を持った配達員だったら申し訳ない。少しだが時間がかかりつつ、玄関まで到着する。玄関のドアノブを捻り、開けた。
乙和「天くーん!大丈夫•••?」
天「•••乙和さん?」
目の前にいたのは乙和さんだった。いや、あのピンポン連打なんてするの乙和さんくらいだろう。俺の額に彼女の手が触れ、俺はビクッとしてしまう。
乙和「すごい熱•••!早く寝ておかないと!」
乙和さんが俺の手を引く。自室の場所を伝えて、そのまま凸った。そしてベッドに寝かされる。
乙和「ご飯はちゃんと食べた!?」
天「食べてないです••••••食欲なかったので」
乙和「あ、お粥•••今は食べられそう?」
天「わかりません•••とりあえず食べてみます」
乙和「うん、わかった」
乙和さんはお粥をスプーンで掬って、俺の口の中へ入れた。素朴な味が今だけは相当美味く感じた。よっぽど腹減ってたんだな、俺••••••。
乙和「どう?美味しい?」
天「美味いです•••」
乙和「良かったー!じゃんじゃん食べてね!」
天「ちょっと、あまり詰め込まないでください•••」
何が嬉しいんだか、ニコニコ笑顔で俺を見つめている乙和さん。俺は苦笑しか返せないが、本当は嬉しかった。
乙和「月ちゃんは?まだ帰ってきてないの?」
天「もうそろそろ帰ってきてもおかしくないとは思いますが••••••」
というか、そんな事より乙和さんに訊きたい事があったんだった。
天「レッスンとかはどうしたんですか?」
乙和「天くんの事が心配だから抜け出してきちゃった!それで行ってみれば死にそうな顔してたんだから、行ってよかったよ!」
天「••••••俺、そんなにヤバかったですか?」
乙和「もうちょーヤバかったよ!今にも倒れそうだったんだから!」
えぇ•••そんなにヤバい状態だったの俺•••?乙和さんが誇張表現してる可能性も否めないが、そこんところどうなのだろうか。
天「俺の顔の事はどうでもいいとして••••••流石に戻った方がいいのでは?」
乙和「大丈夫だよ〜!ちゃんとみんなに事情は説明してるから!逆に天くんから追い出された、なんて言えないよ」
むぅ、一理あるな。確かにそれは追い出しづらい。まぁでも、月が帰ってきたらお役御免って事で帰そう。そうすれば後味が残ることはない。
乙和「それにもう今日は戻る気ないから、このまま天くんの相手でもしよっかな〜と思って!」
天「•••は?(困惑)」
素っ頓狂な声が漏れた。••••••今なんつったこの人。流石にずっと居座られるのはなんかなぁ••••••。
乙和「流石に月ちゃんが帰ってきたら帰るよ?そうしないと天くんが怒りそうだし」
ある程度は俺の気持ちを汲んでくれるようで安心した。それでも月が帰ってくるまでは居座るようだが。
乙和「じー••••••」
天「あの•••気になって眠れないのですが」
俺は諦めて寝ようとしたが、乙和さんがずっと俺を見つめる所為で、気になって眠れない。
乙和「いや〜、こうして見ると天くんの顔って整ってて可愛いなぁって思って•••」
天「喧嘩売ってます?」
乙和「売ってないよ!?」
唐突に何かと思えば、可愛いと言われたので少しムカついた。
乙和「天くんはあまり可愛いって言われるの好きじゃないの?」
天「嫌ですよ。男なのに可愛いとか言われるのは•••」
乙和「そういうところが可愛いんだけどな〜」
天「風邪治ったら覚悟しておいてください」
乙和「おぉう•••ちょっと怖い••••••」
少し睨むと、乙和さんはたじろいだ。俺はすぐに目線を逸らして、ため息を吐く。それと同時にーー、
月「ただいまー!」
月が帰ってきた。こちらに向かってくる足音がどんどん大きくなっていった。
乙和「月ちゃん帰ってきたし、私はそろそろ帰ろうかな」
月「お兄ちゃん大丈夫ーーって乙和さん!?どうしてここに!?」
乙和さんが立ち上がったと同時に、月が俺の部屋に入る。そして、見知った顔を見て驚いた。
月「もしかして、お兄ちゃんの看病してくれていたんですか!?ありがとうございます!よかったらご飯食べて行きませんか?」
乙和「えっ!?いやー流石にそれは悪いかなー•••」
お前すぐ人を飯に誘うよな•••。友達にもそういう誘い文句掛けてセクハラしてんのかなぁ••••••。こいつホンマ怖いわ。
月「お兄ちゃんも乙和さんがいた方がいいでしょ?」
天「••••••さぁな」
俺は曖昧に返答する。それに対して月はニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべていた。
月「ほうほう、つまりは一緒がいいと」
天「うるせぇな••••••」
乙和「えぇ〜?天くん私とご飯食べたいの〜?」
しかもタチが悪いことに乙和さんが便乗してしまっているのだ。逃げ道がない。完全に詰みが確定してしまった。
天「•••あぁもうわかったよ!食いたいって言えばいいんだろ!」
乙和「じゃあしょうがないなぁ〜。この乙和ちゃんが一緒にご飯を食べてしんぜよう」
明日風邪治ってたらマジでぶっ潰してやる。俺は多少ながらの殺意を抱いた。
結局乙和さんはうちでご飯を食べる事になり、俺は少しばかり辟易としていた。ストレスが溜まるってこういう事なのかな•••(謎の悟り)。
月「はい、どうぞ!たくさん食べてくださいね!」
乙和「わーい!いっただっきまーす!」
天「•••いただきます」
月の作った料理を、乙和さんは美味しそうに食べる。それに対して俺は、まだ頭痛が残っているので、ちびちびと食べる。
乙和「天くんいつもの食欲はどうしたの〜?」
天「風邪引いてる時にまで求めないでくださいよ」
俺の対応は至って淡白なものだった。乙和さんからの冗談まじりの問い掛けにも、無表情、無感情で返す。
月「乙和さん、あまりお兄ちゃんをからかわないであげてください。多分まだ頭が痛いんだと思います」
乙和「あ•••そうだったんだ•••ごめんね天くん•••」
天「いえ•••」
この人普通におバカだから、そこら辺まで気が回ってないのだろう。ノアさんしっかり教育しておいてください。
乙和「なんだかすっごく嫌な事を言われた気がする!」
天「気の所為だと思いますよ」
ちなみに俺は変わらずお粥だ。胃袋は多少余裕ができたので、多めに腹にぶちこんでる。
乙和「天くんもお肉食べた方がいいんじゃない?」
天「流石に肉までは受け付けてないですよ」
お粥とかお腹に優しいものはいいが、肉や味が濃いものは食べられる気がしない。
月「お兄ちゃん明日には風邪治してね?お仕事貯まるんでしょ?」
天「ゔっ•••その事を忘れていた••••••」
今日の分の仕事を明日の分と並行してやらなくてはいけない。あー、これは詰んだは。マネージャー辞めてぇ。辞めないけど。
こういう事があるから体調は崩したくないのだ。面倒事が増える増える•••。
乙和「じゃあ私が手伝ってあげよっか!?」
天「何もできない未来が見えるので遠慮します」
乙和「酷い!」
そもそもあなたはレッスンが忙しいでしょうが。こっちにまで手を回せる余裕は絶対ないと言い切れる。
乙和「天くんったら冷たいんだから•••!」
天「元から俺はこんな感じですよ」
月「••••••なんだかカップルみたいだね」
天「は?」
乙和「えぇ!?」
俺は絞り出た声を、乙和さんは驚いたような声を上げた。
天「どこがそんな風に見えるんだよ•••」
月「だってねぇ?お互いに気を遣わずに言い合ってるから、何年も一緒にいる恋人みたいだなーって」
乙和「そ、天くんとはそんな関係じゃないよ〜•••」
乙和さんは顔を赤くしながらおちゃらける。一応まだ告白の返事は保留にしてるからなぁ•••乙和さんにとっては複雑な心境だろう。
天「今は恋愛とかそういうのはどうでもいい。とりあえずはPhoton Maidenの今後の事だけでいい」
乙和「•••••••••」
乙和さんが明らかに気分を落としたのがわかった。だが今の俺はこんな感じだ。恋愛よりまず仕事。その思考は変わらない。
月「ちゃんと相手作ってくれないと、神山家の今後が掛かってるんだからね!」
天「へいへいわーってる」
俺は適当に返す。その後も、乙和さんは気分が暗いまま食事を続けた。
飯さえ終われば、乙和さんがここにいる理由はないので、鞄を持って、玄関に立っていた。
天「今日はありがとうございました。気をつけて」
月「ありがとう乙和さん!バイバーイ!」
乙和「じゃあね!バイバイ!」
最後は元気よく家を出て行ったが、暗いのには変わりなかった。最後の最後は押し込めてなんとか明るく振る舞っていたが、やはり見え隠れするものだった。
天「(近いうちに、返さないとな••••••)」
不安しかないが、俺はキッチリ正面から臨もうと、決意した。
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