Photon Maidenのみんなと事務所へ向かいながら、俺は月に電話を掛けていた。基本俺からの電話はノーコンマで出る妹は、いつもの光景のように、すぐにコールに対応した。
月『もしもしー?お兄ちゃんから電話なんて珍しいねー』
天「ん。いやな、乙和さんが今日の夕飯俺が作ったやつ食べたいって言うから•••それでいいか?」
月『えっ•••いいけど••••••』
天「いいけどなんなんだ?」
やけに不穏な空気を漂わせる妹に、俺は疑問をぶつけた。
月『家燃やさないでね••••••?』
天「いつの話してんだお前•••流石にキッチン燃やした時みたいな惨事はもうねぇよ」
ノア「でもキッチンは燃やしたんだね••••••」
多少月の声は漏れていたので、それを聞き取ったノアさんは、会話の内容を察して苦笑いを浮かべていた。
月『まぁいいけどね。今のお兄ちゃんなら心配してないし。それに乙和さんからの直々のお願いでしょ〜?よかったね』
天「へいへいそうだな」
俺は適当に流す。なんかこれ以上続けていたら、エゲツないワードが飛んできそうな気がしたからだ。
電話を切って、携帯をポケットの中にしまった。
乙和「どうだったどうだった!?」
天「会話聞こえてましたよね?俺が作りますよ」
乙和「やったー!」
乙和さんは俺の腕に巻きつきながら、飛んで喜んでいた。その姿が微笑ましくて、つい笑みを零す。
衣舞紀「こうして見ると•••乙和が天の妹みたいに見えるわね••••••」
乙和「あっ、ひどーい!私の方が先輩だぞ〜!?」
ノア「精神的な面は天くんの方がよっぽど大人だと思うけど?」
乙和「言い返せない••••••」
ノアさんはやはり乙和さんを言いくるめるのが上手だ。乙和さんは黙り込んでしまい、悩んでいるような表情になった。
咲姫「今日のレッスンはどうするの?」
唐突に咲姫が今日の内容について質問を投げた。俺はメモ帳を開いて、確認していく。
天「ライブも近いし•••それを想定した通し練習だな。あっ。乙和さんはライブ••••••大丈夫ですか?」
乙和「••••••わかんないけど、まだ時間はあるよね?それまでにはどうにかする!」
意外にも、強気な返事が返ってきた。少し安心する反面、本当に大丈夫なのかという不安も募った。
衣舞紀「大丈夫。天は自分の仕事に集中してていいよ。後は私たちでどうにかするから」
天「わかりました。ありがとうございます」
小さくだが、衣舞紀さんに頭を下げた。何故か乙和さんも同じように下げたのは少し気になるが、何も言わない事にした。
仕事部屋にこもって仕事をしている間ーーつまり一人の時はどうしても乙和さんの事が頭から離れなくなる。どうしちまったんだ、俺の頭。いつもならもっと仕事の事ばかり考えていただろう。
天「(••••••よくわからんな•••••••••)」
未だにこの感情が理解できずにいた。いや、心の奥底、魂の方ではわかっている。ただ脳が処理していないだけのことだろう。
天「••••••帰るか」
鞄を持って立ち上がる。そして出入り口の扉を開けると、そこで待機していたであろう乙和さんが、俺に抱きついた。突然の事でドキリとし、また別の意味でもドキドキした。
乙和「お疲れ様!帰ろっか!」
天「••••••そうですね」
••••••なんとなくだが、わかったかもしれない。俺、乙和さんの事が好きなのかもしれない。まだ確証は持てないが、恐らくそうであろうと自分の中で勝手に納得した。
家に帰り着くと、俺はすぐに夕飯作りに取り掛かった。その後ろでは月と乙和さんが談笑しながら俺を眺めている。
月「ねぇねぇ乙和さん!ぶっちゃけた話、お兄ちゃんの事どう思ってますか?恋愛対象として見れそうですか?」
乙和「えっ?えっへへ〜、天くんねー、すごくカッコいいよ!私を襲ってきた人を簡単そうに倒しちゃった!」
月「お父さんに鍛えられてますらからねー、うちの兄は。そこらのチンピラはボッコボコですよ」
いや•••そんな話してどうすんねん••••••。俺は顔が見られていないのをいいことに、わかりやすく呆れた顔をした。
乙和「それに恋愛対象かぁ〜、天くーん?」
天「何ですか」
乙和「私って、天くんの恋愛対象に入ってるのかなー?」
天「••••••••••••」
俺は沈黙を貫く。ここに月さえいなければ頷いて答えているが、妹がいる=面倒事という謎の式が成り立ってしまっている。だから喋りたくない。
月「何か言ったらどうなの?」
天「うっせぇな。後で植木鉢演出すんぞ」
月「なんかやけに今日乱暴だなこの兄は!」
ムカつくので、まぁまぁガチのトーンで妹に脅しをかける。月は悲痛な叫びを上げながら大人しくなった。
乙和「どうなの〜?私は天くんの口から聞きたいなー」
天「二人の時にでも話しますよ」
乙和「••••••!じゃあ、後でね•••」
少し照れ臭そうな表情を乙和さんは見せる。俺は疑問を感じたが、気を抜くと本気でキッチンを燃やしかねないので、そっちに意識を向けた。
俺が作った夕飯は、乙和さんには好評だった。普段料理を作っている月からは、手痛い指導をくらったが、自然と嫌な気はしなかった。
月と乙和さんを風呂に入らせてる間に、俺は自室のベッドに寝転がっていた。今のうちに頭を整理しておこうと思ったからだ。
天「(••••••いや、ほとんど答えは決まってるか)」
俺は乙和さんの事が好きだ。もうこの気持ちに迷いはない。だからこそちゃんと向き合おうと決めたのだ。逃げる気など毛頭ない。
乙和「天くーん。お風呂空いたよー」
天「あっ、はい。でもその前に一ついいですか?」
乙和「うん?なになに〜?」
乙和さんは期待した表情で、俺の隣に座った。俺は身体を起こして、床に足をつけて腰を下ろした。
天「乙和さんは俺の事をどう思ってるんですか?」
バカか俺は。何故こうも回りくどい事をしたんだ。
乙和「もちろん、今も好きだよ!」
が、乙和さんから返ってきた返答は、迷いのないとても明るいものだった。
いや、俺は逃げた。わざと乙和さんに先に確認させてから、自分はダメージを受けないように無意識のうちに逃げていたのだ。我ながら情けなくて自分自身をぶん殴りたくなる。だがそれは後だ。今は乙和さんに自分の想いを伝えなければならない。
天「俺は•••昨日一昨日の間、自分の気持ちがわかりませんでした••••••乙和さんと一緒にいると変にドキドキして、落ち着かなくて•••。でも、今ならハッキリと自信を持って言えます••••••好きです、乙和さん。俺と付き合ってください」
顔が熱かった。きっと乙和さんも、初めて俺に告白した時はこんな感じだったのだろうか、と気を紛らすように頭の中で考える。
乙和さんに目を向けると、彼女は嬉しそうに笑っていた。そしてそのまま俺に抱きついて、
乙和「うん!私も、私も天くんの事好き!大好きだよ!」
いつもの元気な感情に加えて、とても幸せそうな何かを交えながら声を上げた。俺も抱きしめ返して、乙和さんの身体を感じていた。
風呂から上がった後は、いつものようにーー昨日からだがーー二人でベッドで寝ていた。今はお互いに恋人同士なので、変に緊張することなく抱き合っていた。
乙和「天くんの身体あったかーい。でも硬いね」
天「そりゃ鍛えてますからね。そういう乙和さんは柔らかいですけど•••妙に肉を感じますね••••••少し痩せましょうか?」
乙和「女の子にそれは禁句だぞー!でも、ちょっと太ったかなー、とは思ってる•••」
ちゃんと自覚はあるようで、どこか安心した。今度衣舞紀さんも交えて一緒に走ろうかな、と軽い計画を立てる。
乙和「でもそっかー•••私ついに、天くんの彼女になっちゃったんだ••••••」
感慨深い様子で、乙和さんは呟いた。俺は無言だったが、頭では乙和さんに似たような事を考えていた。よくこんな美少女の彼氏になれたな、と。いやあんま似てねぇわ。
乙和「これで明日から遠慮なくイチャイチャできるね!お昼休みはみんなの前で恋人宣言しよっか!?」
天「しなくていいですよそんな事。それで殺されるのは嫌ですし」
乙和さんの事を好いている男子たちに刺される未来が見える見える•••。軽くゾッとしたが、相手はズブの素人だろうし、対処自体はできるだろう(油断)。
乙和「えへへ〜、えへへへ〜!」
天「嬉しそうですね」
乙和「嬉しいに決まってるよ!天くーん、好き!」
天「俺も好きですよ」
まだ何処か夢見心地な感じを受ける乙和さんに対して、俺は淡白だった。俺自身も嬉しいと思っているが、ここまでオーバーに出そうとは思わない。
乙和「ね、ね。もっとくっ付こう?」
天「はい」
先程よりも強い力で、乙和さんを抱き寄せる。小さな身体が、俺の胸の中に収まった。
乙和「すっごく安心する••••••もうこのまま寝てしまいたいな••••••」
天「明日も学校ですから、流石に寝ましょう」
乙和「うん•••おやすみ、天くん」
天「はい、おやすみなさい」
お互いほぼ同時に目を閉じて、意識を手放した。明日はもっと騒がしく、楽しくなるだろうなという、期待を込めて。
感想評価オナシャス!ところで、昨日一昨日にあったハーメルン界隈の騒ぎって結局何だったの?