天「あー••••••まぁ、そんな感じでよろしくお願いします。後はこっちで色々と調整しますので、はい。よろしくお願いします。はい。では、失礼します」
電話を切り、俺は椅子の背にもたれかかった。何とかライブのハコを押さえる事ができて、少し安心する。今月だけでもまぁまぁな量のライブを入れているし、来月もたんまりある。これからもかなり忙しくなるが、仕事だから仕方ない。
スケジュール調整等の他の仕事は先に終わらせていたので、俺は軽く暇を持て余していた。レッスン部屋にお邪魔して彼女たちを眺めるのもいいが、なんだか今はそんな気分じゃなかった。
天「•••父さん、ちゃんと上手くやっているのか••••••?」
あれから一週間以上経つが、父さんからは何の連絡もない。死んではいないのは確かだが、いかんせん気になって仕方がない。
そもそも国の連中は何考えてるのかさっぱりだ。まさかとは思うが戦争するとか言わねぇだろうな。もしそうなら何が何でも断る。命に関わる事に巻き込むな自分らだけでやれ。
天「はぁ•••心配だ••••••」
最悪の場合警察沙汰もあり得ると父さんも言っていた。今そんなに人手不足なの?軍。厳し過ぎるから人来なくなってんじゃねぇの()
天「あー•••こもるのもダルいな。出よ出よ」
俺は仕事部屋から出る。そして自由気ままに事務所内を歩き始めた。おーおースタッフ連中が色々話してるよ。さーっと仕事が終わった俺は楽でいい。
んで、歩いていたら当然レッスン部屋に着くわけなんだけども。まぁ入る気起きないし、ガン無視でいいや。そう思って素通りをキメこもうとしたらーー、
乙和「天くんもう仕事終わったの!?」
天「うおぉ!?」
バンッ!とドアが思い切り開いて、中から乙和さんが飛び出した。俺はビックリして飛び上がる。
天「はい•••終わりましたよ」
乙和「じゃあこっちおいでよ〜。私たちの練習、見ないの?」
天「はぁ•••わかりました、行きます」
乙和「わーい!」
俺は渋々頷いた。乙和さんは喜んでレッスン部屋の中へと戻っていく。俺もそれに続いて中に入った。
衣舞紀「あれ、天?もう仕事終わったの?早いね」
天「はい。今日は軽い調整とライブの交渉だけでしたから。また一つ持ってきましたよ」
咲姫「本当•••?」
天「あぁ」
汗を拭いていた咲姫から疑問の声が上がる。俺はそれに対して涼しく頷いた。事実なのだから変に態度を変える必要もない。
ノア「またライブ入ったんだ。最近絶好調だね」
天「まぁ、仕事ですから」
端的に言い切る。所詮は仕事でやらなければならない事だからやっていること。もはや作業だ。
乙和「もっと嬉しそうにしてもいいのにー」
天「これからもあると思えば、一々喜ぶ気にもなりませんよ」
そんなことしてたら疲れてしまう。というか、乙和さんが元からこういう人だったな。完全な価値観の違いだ。
衣舞紀「でも、ライブが入る度に乙和は食事制限しないといけないから、クレープは食べられないわね」
乙和「はっ•••!そうだったぁ••••••!」
乙和さんは頭を抱えてうずくまる。次のライブも近いので、今も乙和さんは甘いもの禁止令が出ている。そして更に次のライブも近くに控えているので、禁止令は継続される。地獄の無限ループの完成だ。
乙和「天くんっ!」
天「俺に当たらないでください」
怒った様子で俺に掴みかかった。俺は何一つ悪くないので、面倒な子供と遊ぶような感覚で流す。
乙和「クレープ食べたいー!お菓子食べたいー!」
天「駄々こねないでください子供ですか。あー•••なんか低カロリーで甘いものとかなかったっけ••••••」
ノア「ソ◯ジョイとか、オススメだよ」
乙和「あれは口の中パサパサするからやだー!」
ノア「ワガママばっかり••••••」
ノアさんが呆れてしまった。かくいう俺も少し呆れているが、というか相手にするのが面倒になってきていた。
天「はぁー•••仕方ない。今日の帰り、クレープ食べますか」
乙和「えっ!?いいの!?」
衣舞紀「ちょ、ちょっと天•••!」
ぱぁっと顔を明るくした乙和さんに対して、衣舞紀さんは焦った表情になる。
天「大丈夫です。そんなに多くは食べさせませんから。それにたまには食べないと、乙和さんのモチベーションが下がりそうです」
乙和「さっすが!私のことよくわかってる〜!」
天「いやあなたがわかりやす過ぎるんですよ」
咲姫「すごい早口••••••」
呆れた声がつい漏れてしまい、相当早く喋ってしまった。そこを咲姫は苦笑しながら呟いていた。
衣舞紀「じゃあそこは天に任せるけど•••甘やかさないようにね?」
天「わかってますよ。乙和さん相手だから変に遠慮しなくていいので、かえって楽です」
ノア「乙和の扱いを完全にマスターしてるね•••」
天「付き合う以上は、扱いくらいわからないとやっていけませんよ」
ノア「あ、今のなんだか名言っぽい」
天「えぇ••••••」
ノアさんが変なところに目をつけた。俺は困惑の声が口から出てくる。
衣舞紀「それじゃ、休憩終わり!練習再開しようか!」
ノア「あー•••またヘトヘトになっちゃう•••天くん、もっとレッスン楽にできない?」
天「してもいいですけど、ライブで恥かいても知りませんよ」
ノア「あ、やっぱり普通でお願いします•••」
ライブで失敗する絵面を想像したのか、すぐにノアさんは手の平を返した。やっぱりこの人は真面目だった。
レッスンが終わると、乙和さんは即座に俺にくっついた。手を繋ぐ、ではなく腕に抱きついていた。
乙和「終わったー!じゃあ早速クレープ食べに行こー!」
天「はいはい」
早く食べたくてたまらないのか、今の乙和さんはかなり興奮気味だ。俺は苦笑してただ乙和さんに引っ張られていく。
クレープ屋に着くと、俺は乙和さんが頼む前に普通サイズのクレープを一つだけ頼んだ。
乙和「一つだけ?」
天「えぇ。俺と半分こです」
乙和「えぇー!もっと食べたいー!」
これでもまだワガママを言うのかこの人は•••。俺はため息をついて、ずいっと乙和さんの目の前にクレープを運んだ。
天「んっ」
乙和「え、えっ?あっ、そういうこと•••あーん!」
乙和さんはクレープにかぶりついた。そしてとても美味しそうな表情で咀嚼を始める。可愛いなこの人。
乙和「久しぶりのクレープ•••おいしー!ね、ね、もっともっと!」
天「はいはい。どうぞ」
また乙和さんはパクリとクレープを頬張る。美味しそうに食べる姿にほっこりするが、このままだと全部食べられてしまいそうなので、俺もクレープに口をつけた。
天「もぐもぐ•••あっめぇ•••」
こりゃカロリーすげぇ事になってるだろうなぁ••••••。一つを半分に分けて正解だった。
乙和「後一口!後一口だけ!」
天「•••しょうがないですね」
すみません衣舞紀さん。やっぱり乙和さん相手だとちょっと甘やかしてしまいます。クレープを千切って、乙和さんの口の前まで持っていく。彼女はそれを俺の指ごと食べた。ねちゃっとした感触が指に伝わる。
天「ちょっ」
乙和「あー美味しかった!天くんの指も中々良かったよ?」
天「汚いです」
乙和「酷い!というか最近私の扱い雑じゃない!?」
腰に拳を当てて、怒った様子の乙和さんは頬を膨らませていた。俺は残ったクレープを口の中に放り込み、もごもごと口を動かす。そして飲み込んで、乙和さんに目を向けた。
天「雑じゃないですよ。俺はいつも通りの自分で乙和さんに接しているだけです」
乙和「それがこんな乱暴者だなんて思わなかったよ•••」
天「俺はそういう人間ですから」
乙和「そっか。でも、そんな天くんも私は好きだよ?」
天「••••••••••••ッ」
俺は恥ずかしくなって顔を逸らす。が、乙和さんは追い討ちをかけるように俺に抱きついた。
乙和「照れなくていいでしょ〜?ほら、帰ろ帰ろ!月ちゃんが待ってるよ!」
天「•••わかりました。帰りましょう」
そしてごく自然に俺たちは手を繋いで、家までの道を辿り始めた。
もうね、うん。はよ学校卒業したいね。早く仮卒して自由の身になりたいよ。車校あるけど。