翌日、俺はやけにスッキリと目が覚めた。頭痛や倦怠感は一切なく、風邪がしっかり治ったことを証明していた。朝一でスマホを手に取り、画面を点ける。すると、一つの通知が入ってきていた。
ノア『風邪を引きました』
天「••••••移してしまったな、これ」
Photon Maiden in俺のグループに送られたメッセージを見て、俺は心底後悔した。あの時看病させずに帰しておけば、こんな事にはならなかっただろうと。
天「詫びも兼ねて行かないとな••••••」
頭をボリボリと掻いて、自然とため息を吐いてしまう。少しながら面倒だなぁ、という感情がどうしても湧いてしまう。しかも昨日の分の仕事を今日で終わらせないと行けないのだから尚更だ。
天「あまりこう言う事はしたくないが•••」
学校で仕事を終わらせる。今までそういったことはしてこなかったが、今回は緊急事態でもある。
月「お兄ちゃん起きてるー?あ、ちゃんと起きてるね。朝ご飯できてるよ」
天「ん、わかった」
頷き、ベッドから降りて一階に向かう。朝食をすぐに食べ終えて、俺は急ぐように学園へと向かった。
学園にいち早く着いた俺は、誰もいない教室の中でパソコンを起動した。手書きの作業の方は授業中にでも少しずつ進めて終わらせるつもりだ。授業はパソコンを使うので、必然的に作業をする事はできない。バレたらバレたでかなり面倒な事になるので避けたいのだ。
天「うっへぇ•••多•••」
仕事の量に俺はひくひくと情けなく口が微動したのがわかった。眉間には皺が寄っていて、尚更情けない顔になる。多分今誰か来たら、俺は覇気のない絶望した顔をしていると指摘される事だろう。
天「とりあえず、やれる事はやっておこう」
俺は決意を抱いた。キーボードに両手を伸ばして、誰もいない静寂と化した教室内で、ただキーボードを打つ音だけが鳴っていた。
授業中は隠れてメモ帳の方の仕事をこなしながら、隙を見てパソコンの作業も進める。昼休みになる頃には、半分は終わっていた。
もちろんその昼休みも、全て仕事に費やすつもりだ。
咲姫「天くん、お昼ご飯•••」
天「悪い、仕事があるんだ。今日は一人で頼めるか?」
咲姫「私も手伝うよ?」
天「••••••飯、食わせてくれないか?とても飯を食べながら作業をするのは難しい」
少し恥ずかしい提案だったが、咲姫は微笑みながら頷いた。俺の弁当箱を出して、作業の合間合間に口に入れてくれる。
咲姫「はい、あーん」
天「あむっ、もぐもぐ•••今更ながら恥ずかしいな、これ」
周りの視線が集まってるからやけに落ち着かない。女子たちはなんかニヤニヤしながらひそひそ話してやがるし、これ絶対良くない噂流れるよ最悪やん。
咲姫「終わりそう?」
天「昼休み中は難しいかもな•••後30分くらいあるとはいえ••••••」
現状を突きつけられて、俺は少し萎えそうになっていた。あーダル。少し遅れてもいいから事務所で全部終えてからノアさんのお見舞い行こうかな。
•••いや、一度決めたら最後やり抜くのが俺の流儀だ。こんな仕事さっさと終わらせてやる。
天「咲姫、一気に詰め込んでくれ」
咲姫「えっ?う、うん••••••」
咲姫は弁当箱ごと持って、俺の口の中に中身を放り込んだ。俺の頬はハムスターのように膨らみ、大きく咀嚼を繰り返す。
咲姫「大丈夫•••?」
天「ん」
俺は頷く。すぐに作業に取り掛かり、キーボードを打つ手がどんどん加速していったのがわかった。
女子生徒A「すごーい。神山くんそんなに早く打てるんだー」
咲姫「あっ•••。天くん、仕事中に話しかけられるのはあまり好きではありませんので•••」
女子生徒A「そうなの?ごめんね〜」
クラスメイトはすぐにその場を離れた。俺は心の中で咲姫に感謝を述べて、またパソコンの画面に集中した。
放課後になる頃には作業をほとんど終えることができて、残りは明日片付ける事にした。Photon Maidenの面々から許可を貰って、俺は事務所には行かず、資料に書いてあるノアさんの家へと向かっていた。
天「さて•••もうほとんど回復しているといいが••••••」
俺は少しソワソワした様子で福島家へ向かって歩いている。つーかここまで来ておかえり願われたらそれはそれで嫌だな。その時はそのまま直帰したい。
しばらく歩いていれば、ノアさんの家が見えてきた。あー、そういや和菓子屋さんって言っていたな。
天「こんにちは」
店員?「いらっしゃいませ」
店内に入るとすぐに、若い女性の方が出てきた。ノアさんと同じ金髪だった。
天「福島ノアさんはいらっしゃいますか?」
店員?「あら?あなたもしかして、ノアが言ってたマネージャーさん?お見舞いに来てくれたの?」
天「はい。昨日は自分が観てもらったので、今日はお返しも兼ねて•••」
店員?「そうなのー、きっと娘も喜ぶわ。ささっ、入って入って」
天「あぁ、ちょっとーー」
有無を言わさず、ノアさんのお母さんらしき方は俺の背中を押して奥へと連れて行った。
そのままノアさんの部屋の前まで押されて、後はごゆっくりー、と行った感じに仕事へと戻って行った。すごい自由な人だな••••••。
俺はため息を吐いて、ドアを三回叩く。
ノア「お母さん•••?何回も来なくていいよ•••」
天「いえ、神山です」
ノア「神山•••?神山•••••••••天くんっ!?」
部屋の中からバタバタした音が聞こえた。まさか俺が来るとは思ってなかったのだろうか、かなり焦っている様子だ。
少しして部屋のドアが開く。パジャマ姿のノアさんが、顔を赤くして立っていた。
天「良かった。案外元気そうですね」
昨日の俺みたいに死にかけてないようで安心した。それにノアさんのご両親はいつでもいるから、何かと気にかけて貰えるだろう。
天「入っても問題ありませんか?」
ノア「はい•••どうぞ••••••」
やけにしおらしいノアさんは、ベッドに寝転がってしまった。俺はそこら辺に座って、鞄を置いた。そしてつい、部屋の中を見渡してしまう。
溢れんばかりの本本本。本だらけだ。小さい図書館と言うべきなのだろうか、かなりの数の書物が置かれている。中には学術書も混ざっていて、この人の好奇心の強さに驚く。
天「••••••すごいですね、本」
ノア「あはは•••興味をそそられる本はすぐに買っちゃうから••••••」
天「色んな事に興味を持てるのは、羨ましいです」
俺は苦笑気味に呟いて、俯く。今の仕事だったり学業だったりもあって、何かと手につけるのが難しかった。その結果、こんなまともな趣味のないダメ人間ができあがったわけだが。
ノア「もう、びっくりしたよ。急に来るんだから」
天「それ昨日のノアさんに言いたいですね」
ノア「うっ•••ああ言えばこう言う••••••」
天「でも、来てくれてすごく嬉しかったです。あの時ノアさんが来なかったら、死んでたかもしれません」
ノア「大げさだなぁ••••••。でも、ありがとう。そう言って貰えるとすごく嬉しい。天くんも来てくれてありがとう」
お互いに礼を言い合ったら、なんだか空気が軽くなった気がした。こんなに元気ならそこまで長居する必要もないなと感じて、俺は立ち上がろうとした。が、制服の裾をノアさんに握られた。
ノア「もう少しだけお話ししよ?お父さんとお母さんがいるとはいえ、しばらく一人だったから」
天「••••••はい、わかりました」
俺は頷いて、また座った。今度はノアさんの顔をしっかり見て、口を開いた。
感想評価オナシャス!誰か竹刀買ってくれ()