暗がりの中に、一際強い灯りを放つ建物が一つあった。簡素な四角い白い建物で、大きさだけは無駄に立派だった。
自動ドアが開くが、開き切る前に腕でこじ開けて俺はまた走り出す。奥の扉をタックルで開けて、荒い息を吐きながら焦った足取りで歩く。
天「神無月•••」
?「お前•••天か?」
白衣を着た青年がこちらに振り返る。
神無月陽太。俺と同じ魂に接続する力を持つ、魂専門の研究者だ。
陽太「急にどうしたんだ。お前がここに来るなんて」
天「大事な話が、ある」
一息つきながら、俺は言葉を紡ぐ。その真剣な表情を見て、神無月の目が鋭くなる。
陽太「まぁ、そんな必死な表情してわざわざここまで来るんだ。相当の案件だろう••••••話せ」
天「実は•••俺の妹が、俺たちと同じ側かもしれない•••!」
陽太「それ、本当か•••?」
神無月の顔がみるみるうちに鋭いものになっている。最早殺意すら感じるレベルだ。
陽太「どんな現象が確認されている」
天「俺の考えてる事を読んだり、今日も先輩の家で飯を食べてきたんだが、その時に解ってたかのようにメールを送ってきたんだ。しかも飯に誘われた瞬間にだ」
陽太「タイミング的にも怪しいな••••••。しかし最悪だ。まだ仮説しか立ってない中でオーバーロードが三人に増えるのはマズい。一部では魂を非難するところもある。面に出ればお前の妹は研究材料にされて殺されるぞ」
天「わかってる。だがどうするんだ」
焦ったままの俺は、早口で神無月に問い詰める。神無月はため息を吐いて、首を横に振った。
陽太「魂の存在を証明する。もうこれしか残った道はないんだ。その上で、魂は安全で、俺たちに幸福をもたらすものだとも証明するんだ」
天「んで、俺が離れて何年か経つが、何か見つかったのか?」
陽太「••••••さっぱりだ。魂の存在はわかった。接続もわかった。だが、その位置が未だに解明できていない。脳の中心部でもなく、骨盤の中でもなく、心臓の中でもなく•••な」
神無月は諦めたような顔をしている。高校を中退してまで研究にのめり込んでいるみたいだが、成果はカケラもない様子だ。
陽太「研究チームも解散して、今じゃ俺一人で研究している。あ、そうだ。一応一つだけだが発見はあったんだ」
天「ん?なんだ」
陽太「オーバーロードを発動すると、脳波数が大きくブレる」
オーバーロードは脳に魂を接続する技術だ。それを会得するには脳波の莫大な振動に耐えうる脳と精神力が必要になる。基本はそれを効率よく抑えるために研究を重ねて、ようやくできるようになるものだ。だが月は、これを独学でやってのけていると考えた方がいいだろう。想像しただけでも末恐ろしい。
天「それを用いて証明はできないのか?」
陽太「したところでオーバーロードをできる人間が限られすぎている。完全な証明にはならない。もっとわかりやすく伝えないと••••••」
神無月は頭を悩ませた。いつもこうだ。当時俺がここの研究チームに属していた時も、後一歩というところで完全に行き詰まった。これで俺の心は完全に折れて、研究からは退いた。
天「クソ•••何か、何かないのか••••••!」
陽太「オーバーロードを使って、探し当てたりとかはどうだ?」
天「俺の能力ならいけるかもしれないが•••探し当てる頃には脳が完全に死んでしまう」
陽太「•••お前のは、一番脳に負担がかかるからな•••」
俺のオーバーロードは感覚の過敏化だ。空気の流れまでも感じる程に脳が活動してしまうので、一時間もすれば確実に脳死する。それだけでなく使用後の代償もバカにならない。
陽太「••••••いい加減帰ったらどうだ?もう夜の9時だぞ」
天「••••••そうだな」
これ以上話していても埒があかない。神無月はタクシーを呼んで、研究所前まで見送りきてくれた。
天「また今度来る。次は月も連れて」
陽太「わかった。その時にまた、色々と進めよう」
タクシーの到着は予想よりも圧倒的に早かった。すぐに乗って、俺は家に着くまで魂についてずっと考えていた。
タクシーを降りて、玄関を開ける。シン、とした空気が俺の心を虚無へと誘う。あまり音を立てないように靴を脱いで床に足をつける。築十年以上の家は、それなりにボロくなっていて、軋む音が鳴った。
月「•••お兄ちゃん?」
月がリビングからひょこっと顔を出した。俺の肩が震える。怖い。今の月が恐ろしくて、俺は固まってしまった。
月「どうしたの•••?何か怖いことでもあった?」
恐る恐る妹は俺に近づいてくる。俺はたまらず、その小さな身体を抱きしめた。
月「わっ。お兄ちゃんどうしたの?」
天「なぁ、月。隠さずに言ってくれ。••••••魂と接続できるんだろ••••••?」
月「ーーッ!?ど、どうして•••」
俺の嫌な予感は完全に当たっていた。月が驚いた、いや、恐怖に怯えた顔をしている。
天「だって、おかしいだろ•••?いつも俺が考えている事当ててくるし、今日だって、ノアさんの家で飯食うのを解ってたかのように、晩飯を作らないってメールを送ってきて。そんなの、わかっちまうだろ••••••」
月「••••••••••••うん、そうなんだ。私も、お兄ちゃんと同じ、オーバーロードだよ」
月は俺の背中に腕を回した。その手は酷く震えていた。
月「気がついたら、周りの人の考えている事が読めるようになってた。そして、その人の先の未来も•••。中には、後数日でどうやって死ぬかって事細かに解説されるように頭に流れ込んできて•••怖かった•••」
服から濡れた感触が伝わる。今月は泣いているのだ。まだ中学生という幼い精神には、人の死の予知を知ってしまうのは酷だろう。
天「月、約束してくれ。お前のその力は、絶対に誰にも言ってはいけない。絶対にだ」
月「うんっ、うんっ•••!」
更に強く月がしがみついた。まるで何かに縋るような、そんな必死な姿だった。俺も泣きそうになったが、兄の威厳が邪魔をして涙が出てくることはなかった。
風呂から上がって自分の部屋に入ると、月がベッドに座っていた。
天「•••何してんのお前」
月「えへへ•••怖いから、お兄ちゃんと寝たいなーって」
天「••••••そうか」
俺はそれだけで納得する。昔は一緒に寝てたのだから、別にいいだろう。それに兄妹だからお互いに変な事をする必要もない。
月「ごめんね。私のワガママに付き合わせちゃって」
天「俺はお前の兄だからな。妹のワガママくらい応えられないと」
月「•••今だとすっごく救われる。ありがとう、お兄ちゃん」
照れるように笑いながら、月は目線を逸らした。
天「月、明日お前をとある所に連れて行く」
月「えっ?どこどこ?」
天「俺が昔いた研究所だ」
月「••••••もしかして、私を研究するの?」
天「そんなもんだな•••とりあえずは、お前のオーバーロードの能力を確認する。もしかしたら、魂の証明に近づくカギになるかもしれない」
月「私が•••証明のカギに••••••」
呆然とする月。もしこの能力を活用することができれば、証明に大きく近づくことができるのは確かだ。
天「頼む、月。お前の力が必要なんだ」
月「••••••うん、わかった!私で役立てるなら、なんだってするよ!」
月が大きく頷いたのを確認して、俺は何処かホッとした。妹の頭を撫でて、ようやく感じた眠気に身体を任せようとした。
月「おやすみ、お兄ちゃん。お兄ちゃんのおかげで、明日も頑張れそう」
天「あぁ、おやすみ••••••」
そして無意識のうちに、俺の意識は完全に途絶えていた。
足トレの日だったので鍛えました。ふくらはぎ逝きそうです()