天「••••••あ?もう朝か••••••」
万年筆を動かす手を止めて、俺はカーテンを開ける。朝日を身体全体で浴びると、一気に疲れと眠気が襲いかかってくる。
天「ねっむ••••••残業している社会人はバケモノしかいねぇのか••••••」
朝早くから出勤して日が越えるまで残業しているサラリーマンの身体はどうなっているのか、純粋に気になる。脳とか見てみたい。
天「•••あー•••少しでもいいから寝てぇ•••」
残っていた、というより今日明日の分の仕事を終わらせていたので、日が跨ぐのは仕方がなかった。何せ今日はライブの交渉。明日あるライブの設営などで、こう言った地味な作業ができないからだ。
月「お兄ちゃん起きてるー?ってクマすっご!?どうしたの!?」
天「仕事してた」
月「えぇ••••••?あんまり無茶しないでね?というか今日ライブの件の相談とかあるんでしょ?せめてクマはどうにかしようよ」
天「現場に行くまで時間はあるから、事務所の方で仮眠でも取らせてもらう」
月「ここで寝てもいいんだよ?」
月がそう提案したが、俺は首を横に振った。
天「ここで寝るよりも、あっちで寝たほうが寝坊しなくていい」
月「あそこベッドとかないよね•••?」
天「本当は嫌だが床寝で我慢する」
もしくは仕事部屋で椅子に座ったまま寝るか。最低限ソファでもどっかにあればいいのだが•••応接室を借りてあそこで寝るという手もある。
月「何処で寝るかは勝手だけど、早く朝ご飯食べちゃって。すぐ片付けて遊びにいきたいから」
天「ん」
フラフラと揺れながら俺は階段を降りる。視界はぼんやりとしていて、今にも眠ってしまいそうだった。
月「本当に大丈夫?一回寝た方が•••」
天「大丈夫だ、大丈夫。寝れば収まるから」
月「信用できない件について」
妹からジト目をむけられるが、俺は気にしない。黙々と朝食を食べながら、眠気と戦い続けた。
眠たい状態のままスーツに着替えて、おぼつかない足取りで家を出る。日光を浴びても、ただ眩しいだけで眠気が覚めることなどなかった。
天「おっとと•••ねみぃ」
眠たい、マジで眠たい。もう地べたでいいからさっさと寝たいよ。
通行人「兄ちゃん、姉ちゃん•••?どっちかわかんねぇや。大丈夫かい?」
天「大丈夫です。昨日仕事で寝てないだけで•••」
通行人「その若さで仕事で働き詰めかぁ•••嫌な世の中になったもんだねぇ」
なんか誤解されてるけど一々説明するのもダルいので、俺は軽く会釈して通り過ぎた。やけに事務所までの道が長く感じるが、気の所為だと思いたい。
天「ふああぁぁぁ••••••にしてもなぁ•••こんな調子で交渉とかやってられねぇよ••••••」
脱力感も相まってか、俺の脳内はめんどくさいモードへと突入していた。
天「•••チッ」
そして徐々にイライラし始めていた。自然と目つきも鋭くなり、周りを睨むように歩いていた。
ようやく事務所に到着すると、Photon Maidenの面々は誰一人として来ていなかった。今日は仕事部屋を使う気はないので、レッスン部屋にお邪魔する。
天「•••あっ」
足がもつれて、前にぶっ倒れる。
天「いてて•••あーくそ。この時期の床は冷たくて気持ちいいな••••••」
うつ伏せから仰向けになり、俺は天井を見つめる。自然と瞼が重くなっていき、俺の意識は途絶えた。
感覚が現実へと引っ張られていく内に、後頭部に感じる柔らかさに気がつく。何に触れているのかと、目を開ければ、目の前にはノアさんの顔があった。
ノア「あ、起きた?こんなところで寝てるからビックリしたよ」
天「••••••もう一回寝るか」
恐らくノアさんに膝枕をされている状態なので、俺はもう一度目を閉じた。
ノア「ダメだよ。今日は大事な仕事があるんだから」
天「まだ眠いです」
ノア「昨日何時まで起きてたの•••?クマすごいよ?」
天「寝てないですよ。今日明日の仕事片付けてたんですから」
ノア「無理し過ぎ•••。そんなに頑張らなくてもいいのに」
そっとノアさんが俺の頭を撫でた。小さくて冷たい手が心地良い。だがその所為で余計に眠気を誘われた。
ノア「また寝そうになってる。なんだか小さな子供みたい」
天「失礼ですね。•••よっと」
ガキ扱いされたのが少し気に入らなかったので、俺は身体を起こした。首を曲げると、ゴキゴキと骨が大きく鳴った。
天「あぁ、そうでした。ノアさん、仕事終わったらここに戻りますので、帰りにご飯食べにいきませんか?」
ノア「わかった。何処に行くか決めてもらってもいい?」
天「•••••••••ファミレスでいいですか?」
ノア「あの時のドカ食いはやめてね••••••」
天「俺の空腹次第ですね」
俺は微笑む。ノアさんもクスクスと笑っている様子で、可愛らしかった。立ち上がって、俺は身だしなみを整える。
天「それじゃ、行ってきます」
ノア「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
ノアさんに見送られながら、俺は事務所を後にした。今思えば、さっきのやり取りがなんだか新婚夫婦みたいで少し気恥ずかしかった。
ライブの日程も決まって、俺はダッシュで次の現場へと向かっていた。
天「えっと、11時•••!現場まで後十分で着くが、設営どんぐらいかかるんだ•••!」
走りながら時計を見て時間を確認する。予定通りに進めば12時前には終わることができるが、現実的に考えてそう上手く行くとは到底思えなかった。
現場に着いたは着いたが、作業はそこまで進んでいる様子はなく、誰もが疲れ果てていた。
天「神山、到着しました!今どうなっていますか!」
スタッフA「えっと、アンプとか大きい楽器とか、まだ運び終わっtーー」
天「了解しました!」
俺はスタッフさんの言葉をかき消してすぐに走り出す。
スタッフA「••••••やっぱり仕事早いなあの人は••••••」
ドデカイアンプを抱えて走り、ステージに少々乱暴気味に置く。ゴトンッ、と鈍い音が鳴ったが、その程度で壊れるタマではないので放っておいた。楽器も、すぐに設置できるようにステージ脇に置く。
スタッフB「神山さんが来てくれたおかげで作業がすごく捗るよ、ありがとナス!」
天「いえ、これが仕事ですから」
俺は汗を腕で拭いながら小さく息を吐く。チラリと目を向けると、まだやる事が多そうだ。だが、証明の調整や音響の管理など、俺にはわからない事なので必然と手持ち無沙汰になってしまう。
スタッフB「後は専門の人しか仕事が残ってないっぽいので、神山さんは上がっても大丈夫ですよ」
天「では、お言葉に甘えて」
すぐに走り出す。時間は11時40分を指しており、今から全力ダッシュで事務所に着くのは30分後くらいになりそうだ。10分くらいの遅れならノアさんは許してくれるだろう。そうだろう。俺はそう確信して心に余裕を持ったまま走り続けた。
事務所に到着して、俺は荒く息を吐きながらレッスン部屋に凸る。
天「あ゛ー!つっかれたー!」
乙和「うわぁ!ビックリしたぁ!」
ぜーはー言いながら勢いよく俺が出てきたもんだから、乙和さんは飛び上がった。そこにすかさずノアさんがペットボトルを持ってきてくれる。
ノア「はいお水。お疲れ様」
天「ありがとうございます」
キャップを開けて胃の中に水を流し込む。全力疾走した後のカラカラの喉が潤っていく。
天「ぷはぁ!生き返った!」
衣舞紀「ちょっとおっさん臭いぞー」
天「どうせ生きてたらおっさんになるんですよ、それが早くなっただけです」
咲姫「理屈的••••••」
咲姫から苦笑を向けられた。今更になって見てみれば、全員レッスンは終わっているようだった。
ノア「ご飯、行くんでしょ?」
天「えぇ。行きましょうか」
衣舞紀「おやおや〜?デートかな?」
天「うるさいですね••••••」
仕事疲れからか不幸にも衣舞紀さんに苛立ちを向ける俺氏。クソ最低だった。
ノア「ほら、行くよ」
天「あぁはいはい」
ノアさんに手を引かれて、俺はそのまま事務所を出る。ちなみにファミレスでは普通にご飯を食べました。美味しかったです(小並感)。
筋トレ?しないしないしないそんなの。だってそんなの今週六日間やってるじゃん。一日くらい休みを入れたって筋肉が減ったりしませーん!www