ライブは無事に成功した。そもそも俺はライブ当日に会場には来ていない。理由は疲れに疲れまくって日曜日に動けなかったからだ。風邪の次は過労とか情けなさすぎて泣けるぜ。学校を休む事にならなかったのが、何より幸いだった。
月「んで、そんなバカやらかしてみんなに顔向けできるの?」
天「知らん」
朝飯の席はかなり冷えていた。月が睨みつけながらご飯を口に運んでいる。
天「別に俺があっちに行ってもやる事ないからな。行こうが行かまいがどうでもいい」
月「とりあえず言っておくけど、ノアさんに怒られても知らないよ?」
天「•••••••••かっくじつにダルいな」
付き合ってからのノアさんはかなり俺に対して過保護になったというか、何かと心配するようになっていた。昨日もライブが終わってから、滅茶苦茶連絡が来ていてクソビビった。
天「正直なんて言われるかわからんわ•••」
月「さーてどうだろうねー。命の保証はないかもしれないよー?」
天「さらっと怖いことを言うなよ」
ごく自然な流れでそんな事を言うもんだから警戒してしまう。実際はそこまで酷い事になるとは思わないが、一応注意だけはしておこう。
月「後、これは私からの純粋な質問だけどね」
天「ん、なんだ?」
月「キスってもうしたの?」
天「まだ」
月からの問いに、俺は無表情で答えた。妹は『やっぱり』と言いた気な顔をしている。悪かったな遅くて。
月「お兄ちゃんヘタレすぎませんか?」
天「いや、まだ付き合ってちょっとしか経ってないんだが••••••」
月「時間なんて関係ないよ!どれだけ愛が深いかが重要なのです!そういうわけだから早くキスでもセックスでもしちゃいなよ!」
天「こんな早い段階でセックスとか身体目的と思われそうで嫌だ」
月「あ、それは一理あるかも。でも•••おやおや〜?随分とノアさんを大切にしていらっしゃるようで〜?」
天「うぜぇな殺すぞ」
月「野蛮人!やっぱりお父さんの息子だ!」
殺意マシマシで月を睨みつけると、やけにリアクション強めに反応を示した。
月「全くもー。ノアさんにそんな態度取ってないよねー?」
天「うちの家族くらいにしかこんな顔しねぇよ」
月「つまり結婚した後はこうなると?」
天「余計な事言わなければよかった•••!」
見事に月の掌の上で踊らされてしまった。頭を抱えて机に顔をぶつける。ガンッ、と小気味いい音が鳴り、更に情けなくなる。
月「それよりも、早く準備して家出た方がいいと思うよー?時間ないよ」
天「あれ!?ガチじゃねぇか!」
時計を見ると、普段家を出る時間の数分前となっていた。俺は急いで飯をかき込んで、準備に勤しんだ。
学校に着いて、俺はすぐに自分の席に座った。あんなに焦って登校した癖に時間は全然余裕で、ホームルームまでまだ10分もあった。
咲姫「天くん、昨日は大丈夫だった?」
天「一日寝てたらすぐ良くなった。悪かったな、変に心配かけて」
咲姫「ううん、大丈夫。それよりもノアさんがーー」
ノア「天くんいるっ!?」
咲姫が何か言いかける前に、教室のドアが爆音と共に開いた。汗だくのノアさんが荒く息を吐きながら立っていた。どういう絵面だこれ。
しかもあの汗塗れの女、こちらに走ってきやがった。なんか嫌な予感がするので、立ち上がって咲姫を避けさせた。
そしてノアさんはそのまま俺に凸ってきた。多分座ってたら衝撃に負けてぶっ倒れていただろう。
ノア「昨日すっごく心配したんだから!急に月ちゃんから倒れたって聞いて怖かったんだよ!?」
天「あーはいはいすみませんすみません。この通りちゃんとピンピンしてますよ。後ここ学校内なんで考えてください」
ノア「••••••本当に大丈夫?」
天「えぇ、ちゃんと生きてますよ」
そう言うと、ノアさんは離れた。俺は少し安心したように息を吐いて席に着く。
天「ライブの方に行けなかったのは申し訳ありません。まぁでも、成功したようで何よりです。次のライブは来月にありますので、そっちも頑張ってください」
ノア「こんな時に仕事の話はしなくていいの!」
ノアさんが俺の両頬に触れる。周りが見ている中でこんな真似をされるのは恥ずかしかった。彼女の手を掴んで軽く離す。
天「恥ずかしいので、やめてください••••••」
少しだが顔が赤くなった。ノアさんと目を合わせるのも気恥ずかしくて、目を逸らす。
ノア「カワイイ•••!」
咲姫「今の天くん、可愛い」
女子生徒A「神山くん可愛いよー!」
女子生徒B「声も可愛かったら完全に女子だよね」
天「••••••••••••殺すぞ?」
今の俺は、何一つ穢れのない笑顔をしている事だろう。だが殺意だけは溢れに溢れていて、その濃密な気配は教室中に充満していた。
ノア「天くん怖いよ•••」
咲姫「笑顔なのに•••怖い•••」
女子生徒A「もしかして人殺したことある•••?」
女子生徒B「怖いなーとづまりしとこ」
キャアキャア叫んでいた女子たちの顔が一気に青白くなったところで、俺はいつもの顔に戻す。後ムカついたのでノアさんの頬を引っ張った。
ノア「いたたた!な、なに•••!?」
天「あんまり可愛い言うのはやめてくださいね?」
ノア「照れる天くんカワイイn痛い痛い!」
言いかけた、というよりほぼ言われたので、更に引っ張る。というかノアさんのほっぺた柔らかいな。びよーんって伸びる。
引っ張るのを一旦やめて、両手で頬を押したり撫でたりする。
天「柔らか•••」
ノア「な、何•••?恥ずかしいけど•••」
天「餅みたいで触り心地いいですね、これ」
ノア「も、もう•••恥ずかしいって•••」
今度はノアさんが顔を赤くして顔を逸らした。俺は小さく笑いながら彼女の頬を堪能する。
陽太「天ー、いるかー?」
天「あ?神無月か、どうした」
気怠そうに入ってきたのは神無月陽太だった。頭をボリボリと掻きながら、こちらに歩いてくる。そして、よくわからない瓶を投げてきた。
天「なんだこれ」
陽太「アレ抑える薬。もし使う時があったら予め飲んでおけ」
天「本当は使わないのが一番なんだが•••まぁいいや。貰っておく。ありがとな」
俺は瓶を鞄の中に入れる。それを確認した神無月は、ポケットに手を突っ込んだ。
陽太「そりゃどうも。んで、朝からイチャついてんのか?まぁ予想通りではあったけどな。福島が急に教室を飛び出すのなんて、お前の事以外ありえないしな」
ノア「なんだか言い方が気に入らない•••」
陽太「お前本当に俺の事嫌いだよな」
ノア「だって私の天くんを持って行っちゃいそうだし•••」
陽太「そりゃ俺と天はそういう関係なんだから、しばらく借りたりする日は来る。その時は頼むわ」
天「••••••あの事を話したいが、流石に今は無理だな」
周りの目があるので、あまり迂闊な事が言えない。本来なら今の薬だって人知れずに渡されるべき代物だ。どうしてこいつがこんな大胆な行動を取ったのか、理解に苦しんだ。
ノア「早く戻らないの?周りの女の子たちにチヤホヤされたいでしょ?」
陽太「女ってみんなあんな感じなのか•••?新島と花巻は普通に接してくれるから助かるが」
天「衣舞紀さんと乙和さんとも仲良くしてるのか、良かったな。二人とも、とてもいい人だから」
陽太「新島からは身体ちゃんと鍛えた方がいいってうるさいけどな•••お前、なんかトレーニングやってるか?」
少し嫌々そうな顔で神無月は訊いてくる。俺は顎に手を当てて、最近の事を思い出す。
天「色々やっているが、下手に俺に訊くよりもジムのトレーナーに聞いた方がいいと思うぞ」
陽太「そこまで本格的にやる気はねぇよ!」
天「じゃあ衣舞紀さんに訊け。あの人の方がいい意見をくれる」
ノア「精々衣舞紀に厳しい意見をもらうことだね」
天「煽らないであげてください」
神無月に対してのノアさんは、ややS色が強かった。まぁあいつもあいつでノアさんとは仲良くやってるっぽいので、なんだか安心した。この調子で他に友達ができる事を、俺は切に願った。
学校後三日じゃあ!冬休み遊ぶぞこんなやろー!w