ライブの日程合わせに、俺は珍しく苦戦を強いられていた。七月にやる分、八月にやる分を数種持ってきたが、組み込むのが少し厳しい状況だったのだ。もしかしたら、一部は九月に回る可能性もあるかも知れない。
そしてそれは、学校でも考えなければならない事態でもあった。授業そっちのけで俺は調整に勤しんでいた。
焼野原「(神山、すげぇ集中力だな•••あいつそんなに勉強好きだったか?)」
実際はパソコンに隠れながら頭の中で何度も日程を納得いくまで組み直しているだけだが。
天「(チッ•••やけに合わんな••••••ここに入れたらここができそうにないし••••••)」
メンバーや事務所の面々と相談して決めよう。こういう時こそ周りの意見も大事だ。かなり不本意ではあるが。
天「(しかし、意外と上手くいくものだな•••)」
最近ライブ会場を押さえるのがやけに順調だ。少し怖いまであるレベルに。これもPhoton Maidenの名が広まった証拠なのだろう。そう思うだけで嬉しくてニヤけが止まらなかった。
焼野原「(今度は薄ら笑い始めた!?神山どしたんだ!?)」
そして俺の後ろでは焼野原くんが一人で叫んでいた。それを俺が知ることなどない。
昼休みになればいつも通りのメンバーで昼食を摂り始める。
陽太「なんつーか•••雰囲気変わったなお前ら」
天「あ?どういうことだ」
不意に放った神無月の言葉に、俺は首を傾げた。咲姫は無言でもぐもぐとご飯を食べていて、ノアさんは反応を示していた。
ノア「そう?あまり変わらないと思うけど」
天「ん」
陽太「•••ヘイSaki彼らの色を見てくれ」
咲姫「天くんのは見えませんが、ノアさんは幸せそうな色をしています•••」
天「ちょっと待て今の小ネタなんなんだ」
完全に携帯についてるアレじゃん。たまにセクハラ系の質問の餌食にあってるアイツじゃん。
陽太「うわーお前担当の人にまで心閉ざしてんのかー?」
咲姫「いえ•••多分今は何も考えていないだけと思います••••••」
陽太「え、何?脳がオーバーヒートでもした?」
天「色々考える事があったからな•••それで頭パンクしそうだから何も考えたくねぇ」
陽太「うわぁ•••お察しだわ」
神無月は大して俺の仕事を知ってるわけでもない。だが面倒だと言うことだけは理解しているらしく、わかりやすく同情していた。
咲姫「もしかして、ライブの日程•••?」
天「正解。数が多すぎて今月来月に全部組み込むのが難しそうなんだ•••」
ノア「九月に回したりは?」
天「それも考えましたが、八月に比べたら客集まらなさそうなのであまり入れたくないんですよね•••」
九月とか普通に学校とか始まってるからあまり金持ちの学生を引き入れ辛い。
陽太「じゃあ四連休に入れたらどうだ?そこなら集まりやすいと思うが」
天「•••その手があったな」
我ながら盲点だった。すぐにメモ帳を開いて、そこまで大きくないライブ名をそこに書き込んでいく。これでかなり調整が楽になるだろう。
天「助かるわ、神無月」
陽太「そりゃどーも。というか、変に馴染んだなぁ•••」
神無月はため息混じりに言葉を発した。元々こいつは人と絡んだりしない。しても研究チームの面々だけだった。それをよく知る俺は、彼の変化を喜ばしく思っていた。
天「まぁ、これで今日の仕事が少し楽になった。喜ばしいこったな」
ノア「じゃあ早く上がれそうだね」
天「あー•••いえ、今日は真っ直ぐ帰ろうかなと•••」
ノア「何かあるの?」
天「まぁそうですね。家でやりたい事があるので」
陽太「あぁ、あれか。悪いな、頼んでもらって」
神無月が思い出したように頷いた。俺はそれに大して小さくだが頷き返す。
ノア「え?え?どういうこと?」
陽太「男同士の大事な用だ。変に口を挟まないでもらいたい」
ノア「数学と理科しかまともにできないくせに」
陽太「ここで学力は関係ないよな!?」
いじけたノアさんが神無月に言葉を浴びせる。俺と咲姫は顔を見合わせて、二人に向かって笑った。
仕事をすぐに終えて、俺は家へと直帰した。月が少し驚いていた様子だったが、そんなことは気にせずに自室へと向かっていった。
すぐに机と向き合って、レポート用紙を広げる。
天「さーて•••書くか」
ちなみに書く内容は魂の研究の事だ。まだ証明自体は終わっていないが、ある程度の過程を書いて後からあいつが付け加える手筈になっている。
天「そもそも•••俺はもう研究者じゃないんだけどな•••」
神奈月の奴、俺も研究チームの一人として証明が終わった際に紹介する予定らしい。今更俺が入ったところでなんになるんだと思うが、奴には奴なりの流儀があるのだろう。仕方なくノッてやるのだ。
天「こんな堅苦しい文書くの苦手なんだが•••」
論文みたいな感じになるので、どうしても頭の良さそうな文になってしまう。そこらへんは俺と相性が合わないようだ。
月「お兄ちゃん?ご飯できてるよ?」
天「••••••あっ、食べるわ」
月がドアを開けて顔を出したので、俺は椅子から降りてリビングへと向かう。そしていつも通りの二人きりの夕食を食べる事になる。
月「今日はお仕事上がるの早かったね。そんなに楽だったの?」
天「大方の部分は学校で自然と終わったからなぁ。後は神無月に頼まれて書き物をしてた」
月「陽太さん、最近どんな感じ?」
天「上手く馴染んでる。ノアさんや咲姫とも話してるし、孤立はしていないな」
月「そっか。あの人、堅苦しいから。仲良くなるにも人を選びそうだしねぇ」
月は安心したように笑いながらおかずを口にする。月のその意見には俺も賛同した。あの堅い奴と打ち解けるには相当人を選ぶ。それは事実だった。
天「まぁお前は後数年でもしたらあいつの助手でもなんでもするんだろ?」
月「そうだよー。こんな身近に研究者がいるなら頼らないとね!」
こいつの将来が今から楽しみになってくる。神無月と二人でテレビに出た時は、盛大にイジってやろうと今決めた。
夕食も食べて風呂も入った。また作業を再開しようと自室に戻ると、携帯がブーブー鳴っていた。誰からの着信かと思えば、ノアさんだった。
天「もしもし?どうしましたか?」
ノア『なんだか無性に天くんの声が聞きたくなって。迷惑じゃなかった?』
天「迷惑だなんてとんでもない。そういうことでしたら、全然付き合いますよ」
多分作業を続けていればいずれはノアさんの声が聞きたくなるだろう。俺から電話をする手間が省けたと思えばいい。
ノア『あっ、聞いて聞いて。今日乙和ったら、練習中に甘いものが食べたいーって騒いでね』
今日の出来事を楽しそうに話すノアさんの声は、少し弾んでいた。俺は相槌を打ちながら、応えていく。
天「そうですか、それは楽しそうですね。俺も現場にいたかったです」
ノア『早く帰らないで私たちのレッスンを見ていこう?』
天「••••••そうですね。近いうちに」
正直あまり乗り気ではない。ノアさんのダンスを見るのも楽しいが、それを見ていても場所が事務所なので、どうしても仕事の事が頭の片隅にこびりついて離れないのだ。
ノア『どうしたの?元気ない?』
天「いえ、至って普通ですよ。ただ、なんだか寂しいなっ、て••••••」
ノア『あの天くんが寂しいって言うなんて•••変わったね』
天「俺は変わりませんよ。これまでもこれからも」
ノア『ううん、天くんは変わっていってるよ。少なくとも、最初の頃の素っ気なさは全くない』
それは単純に今の環境に慣れたからだと思うが、そんな野暮な事は言わないようにした。俺はただ苦笑を返してその場を繋ぐ。
天「明日は少し、甘えてもいいですか?」
ノア『天くんが私に!?ももももちろん!たくさん甘えていいよ!?』
天「すみませんさっきの言葉撤回してもいいですか•••?」
純粋に暴走しそうになってるノアさんに恐怖を抱いた。やっぱりヤベー奴は格がちげぇよ全く。
作業が進みそうになかったので、俺はベッドに寝転がって通話を続けた。が、眠気に襲われて、繋げたまま俺は寝落ちをキメ込んでしまった。
んじゃ、明日も投稿するんで、オッスお願いしまーす。