学校が終わり、俺はいつものように事務所で仕事をしていた。キーボードを叩いていきどんどん文字を並べていく。
天「あー、今日も楽に終わりそうだなー」
ライブが目前に迫って、こういった作業は少なくなっていた。が、その代わりに会場に赴いたりと、肉体的な面ではまぁまぁ忙しかったりする。
天「あ?なんかメール来たぞ•••」
このパソコンは一応事務所に送られるお知らせやメールなどを受け取れる設定にしている。事務所に何か質問でもあるのだろうか、すぐに開いて確認すると、俺は血の気が引いた。
『八月十五日のライブ当日、メンバーを殺してやる』
天「••••••なんじゃこりゃ」
これは所謂殺害予告というやつだろう。世の中こんなつまらん事を考える奴がいるからたまったもんじゃない。どうせハッタリだろうが、大事を考えて対処をしよう。俺はすぐに席を立って、仕事部屋を出る。
訪れた先は応接室だった。扉を開けると、既に姫神プロデューサーが革張りのソファに座っていたので、俺も向かいに座る。
姫神「キミがここに来たのはわかっている。私にも回ってきたからな」
天「話が早いですね。とりあえず、どうしますか?」
俺の言うどうしますかは、ライブを予定通りやるか、それとも中止するかの2択だ。姫神プロデューサーは一切表情を変えずに、その鋭い目つきを俺に向けていた。
姫神「できることならライブはやりたい。世間は夏休みで客も入れやすい。こんな機会を逃すのは惜しい」
天「そうは言いますが、彼女たちが危険な目に合ったらどうするんですか」
姫神「キミなら、キミなら絶対にどうにかしてくれると思っている」
天「••••••無責任ですね」
俺はため息を吐く。流石にただ仕事をこなすのと、殺されるかもしれない恐怖を取り除くというのはかなり違う。そこまで機転が利く人間と思わないで欲しいのだが。
天「まぁ、とりあえずは注意喚起をします。まだライブまで一週間あります。それまでにどうにかできれば」
できれば、だ。できればすぐに片付く。一応サツにも連絡を入れておくが、あまり信用はしていない。ライブに混ざって参加するか、それとも裏から凸してくるか、相手がどう攻めてくるかがわかれば対策しやすいのだが。
天「••••••はぁ」
憂鬱な気分になってしまう。大抵はハッタリだが、今こんなに気分が沈んでしまっているのはそれ程Photon Maidenが好きになっている証拠なのだろう。今までだったら何食わぬ顔で適当に流していたのに。
天「さて•••どうするか。姫神プロデューサーはライブをやるつもりでいるが•••もし彼女たちに何かあったら•••」
頑張ればどうにかなる、それは分かっていても『もしも』の恐怖心には勝てないでいた。
天「••••••オーバーロードを使う•••?いや、あまり世間に流すわけにはいかない。もし仮に使ってるところがバレたらおしまいだ」
いくらなんでもリスクが高すぎる。そもそも俺は魂に接続して能力を発現したところで少しの間しか持たない。
天「••••••いや、やるしかない。やらずに後悔するよりもやって後悔した方が何倍もマシだ」
俺は強く手を握って拳を作る。そして壁を殴った。骨とコンクリートがぶつかり、大きな音だけが部屋の中を反響した。
一度レッスン部屋へと赴き、俺はメンバーに事の次第を話した。予想通り、全員が驚いた表情へとなる。
乙和「殺害予告!?なにそれ!」
天「仕事してたら突然来ました。一応俺と姫神プロデューサーと話し合って、ライブはやる予定で通しますが、いいですか?」
衣舞紀「それはもちろんいいのだけれど••••••大丈夫かな••••••」
天「できる限りどうにかします。ですので、安心して練習してください」
俺は真剣な表情で彼女らに目を向けた。それぞれ、タイミングは違えど頷いたのがわかる。
咲姫「天くんが言うなら、きっと大丈夫」
天「信頼して貰えてるようで嬉しいな」
ふっ、と微笑する。とりあえずは今後の事を考える為、俺は事務所を後にした。
家に帰り着くと、予想外の早い帰宅に月が驚いていた。
月「早いね、何かあったの?」
天「あぁ。相当大事な話だから、聞いてほしい」
椅子に座って、俺は鞄を置く。月は夕食の準備を止めて、俺の向かい側に座る。
月「いつになく怖い顔してるけど、どうしたの?もしかしてこの歳で漏らしちゃった?」
天「誰が漏らすかボケ。後変に話折ろうとすんな。••••••うちの事務所に殺害予告のメールが来た」
月「これまた物騒だね•••それで、どうしてその話を私に?」
月が首を傾げてそう問う。なので俺はこのままライブを続ける事や対策を話した。
月「なるほどね•••まぁ要は私とお兄ちゃんでその予告犯を捕まえようって話ね」
天「まぁそういうことだ」
月の能力を使って犯人を炙り出し、そこを俺が仕留める。能力を使っているのは人目からは全くわからないので、違和感なく事を運ぶことができるだろう。
天「そういうわけだから、来週は頼む」
月「りょーかーい。いやーまさかこの力でみんなのお手伝いができるのかー。楽しみだなー」
天「そんな楽しいもんじゃないだろ••••••」
確かに彼女たちのサポートをする、と事実的になる。月にとっては嬉しい事なのだろう。
俺は大きく息を吐いて、背もたれに体重を預けた。
天「はぁーめんどくせ。なんでこういう輩が湧くかなぁ••••••」
月「嫉妬とか気に入らなかったりとか、色々あるからね」
天「••••••やけに達観してるな」
月「能力のおかげで嫌でも人の悪い部分が見えるからね」
もう既に諦めた表情の月は、自分が置かれてる状況をよく理解していた。少しばかり同情してやりたいが、俺には月の世界がわからないので何も言えなかった。
天「••••••まぁお前も生きてるんだしな、何かしらあるだろう」
月「お兄ちゃんこそ、いつまでも冷めたまんまじゃなくて少しは明るくなったら?」
天「それは無理なお願いだな。人はそうそう変わらないもんだ。その事にとやかく言うのは自分勝手だと俺は思うが」
月「急に哲学的にならなくていいんだけど?さて、ご飯の準備再開しないと」
月は立ち上がって、台所の方へ向かった。俺も立ち、自室へと歩を進めた。
自分の部屋に入って、ベッドに転がる。
天「まさかこの薬が役立つ時が来るとはな••••••」
神無月から渡された薬の瓶を手に取る。中の球状の薬がコロコロと転がっているサマはまるでビー玉を眺めているようだった。
天「また忙しくなるが••••••仕方ない。マネージャーとして、彼女たちのサポートをしないとな」
一応はライブをする予定だ。そちらの方の仕事も片付けながら、犯人の動向にも目を光らせなければならない。やることが多いがこれも仕事だ。甘んじて受け入れよう。
月「お兄ちゃーん。ノアさん来てるよー」
天「え、マジか」
しばらく寝転がっていたら時間が経っていたらしい。もうレッスンは終わっててもおかしくない時間だった。俺は身体を起こして一階へと降りる。
ノア「こ、こんばんは•••!」
ノアさんが少し緊張した様子で椅子に座っていた。俺は何も言わずに隣に座る。
ノア「ね、ねぇ、天くん」
天「はい」
ノア「まさかとは思うけど、天くんが犯人を捕まえるなんて言わないよね?そこはライブスタッフとかに任せた方がーー」
天「俺と月で見つけて仕留めます」
月「言い方。それじゃまるで殺すみたいだよ」
食い気味に俺が無意識にドスを効かせた声を出すと、少し怒った様子の月が返ってくる。
ノア「どうしてそこまで•••」
天「俺と月には力があります。それをPhoton Maidenの為に使うだけですよ」
ノア「•••そっか、相変わらず優しいね、天くんは」
天「•••ま、マネージャーだからですよ」
月「お?照れてるな〜?らしくなく照れてるなお兄ちゃん〜?」
天「••••••チッ」
俺は舌打ちをして顔を逸らす。ノアさんは小さく笑って、俺を抱き寄せた。
ノア「天くんが優しいのはずっと前から知ってるよ」
天「•••そうですか」
今はただ照れ臭くて、ノアさんの言葉にも薄い反応を返すことしか出来なかった。
ちなみに今絶賛新年回を書いているところです。いつもは3000文字しか書かないのですが、今回は15000文字越えます。長々となってますがよろしくお願いします。