運命のライブ当日。俺は月を連れてPhoton Maidenの控え室へと居座っていた。既に会場内は人でごった返していて、うるさいくらいに声が聞こえていた。
天「月、今のところはどうだ?」
月「••••••まだわからない。遠いのもあるけど、まだそう言った感情は見えないね」
流石に距離があれば月でもわからないようだった。軽くため息を吐いて、机に頬杖をつく。
天「一応大事を思って色々持ってきたが•••」
ナイフ、催涙スプレーその他諸々。ぶっちゃけここまで準備する必要はなかったような気がする。多分使わないだろう。
乙和「本当にやるの•••?大丈夫•••?」
乙和さんが心配そうに俺と月を見るが、案外精神的に余裕のあった俺らは薄らと笑みを浮かべた。
天「問題ありません。乙和さんは自分とライブの事だけを考えてればいいんです」
咲姫「でも、あんなたくさん人がいる中でどうやって見つけるの••••••?」
天「秘策がある。だから大丈夫だ」
チラリと月に目を向けると、妹は頷いた。
衣舞紀「じゃあそろそろ行ってくるけど、決してニ人だけで済ませようとしないで。警察やスタッフの方々も来てるのだから、頼らないと」
月「わかってますよー!衣舞紀さんは心配性なんですから!」
月はおちゃらけて見せるが、これはあくまで衣舞紀さんに悟られない為だ。本当は警察とスタッフに頼る気など一ミリもないからな。
ノア「•••••••••」
その事をわかっているノアさんは、ただ言葉を呑んでいた。
咲姫「では、行ってきます」
咲姫から、続々と部屋を出て行く。衣舞紀さん、乙和さんが出て行ったところでノアさんは佇んでいる。
天「どうしたんですか?遅れちゃいますよ」
ノア「ステージに立つ前に、天くんから元気を貰いたいな」
彼女は腕を小さくだが開いた。俺は微笑み、手を伸ばしてノアさんを抱きしめる。
ノア「••••••うん、これなら頑張れそう」
俺の胸の中に顔を埋めていたノアさんが、口を開いた。俺は何も言わずに、ただ彼女が満足するまで抱きしめ続けた。
ノア「••••••もう大丈夫だよ」
そう言うと、ノアさんは自分から離れた。少し名残惜しかったが、彼女はこれからたくさんのお客さんの前でパフォーマンスと歌を披露するのだから、ワガママは言えない。
天「頑張ってください」
ノア「うん。私らしく頑張ってくるね」
手を振りながら、彼女は急いでステージへと向かって行った。俺はノアさんを見送る時の笑顔を消して、鋭い瞳で月に目を向けた。
天「それじゃ、行くか」
月「うん」
月もそれは同じなようで、殺意すらこもった目をしていた。周りに悟られないように、感情を押し殺しながら観客席へと向かう。
俺たちに用意された関係者席は上の階の端っこ辺りだ。遠いだけで別にステージがよく見えないわけでもないのがありがたい。
月「••••••••••••」
既に月は会場全てに意識を集中させて、犯人探しに勤めていた。俺は能力を解放する前に、神無月からもらっていた薬を手に取る。
天「•••まさか使う時が来るとはな••••••」
使う事なんてないと思っていたのにこんな事になるなんてな、としみじみと感じる。が、そんな事を考えている暇はないので、薬を口の中に放り込んで飲み込んだ。
そして魂を脳に接続する。周りの空気や音が何千倍にも感じ、今にも吐きそうになった。
天「(キッツ••••••だが、これなら会場の人間全ての動きがわかる)」
客が動作を起こすたびに揺れる空気を感じ取って、今何をしているのかを把握するのだ。だから魂の消費が激しい。薬を飲んだとはいえ、長くは持たないだろう。
月「••••••••••••見つけた!二階席右側!」
天「了解!」
俺は席を立って即座に走り出す。音を立てないように足音を殺しながら、それでもスピードを出しながら。
僅かながらに鉄の臭いがした。通路側の一番後ろの席に座っている男からだ。その臭いは服の中から感じ取れた。••••••恐らく銃だ。しかもサプレッサー付きのだ。
天「••••••」
男の動向を窺いながら走る。まだ多少の距離があるが、後数十秒もすれば到着するだろう。
••••••男が立って、移動を始めた。目立たない位置で射撃をするつもりなのだろう。俺は更に足を動かす速度を上げて、男の元へ向かう。
天「後少し•••!」
もう少し、もう少しで間合いに入れる。が、男はその時銃を取り出した。俺の予想通り、サプレッサー付きのハンドガン。それも殺意マシマシのFN-57だ。小型のライフル弾で確実に彼女たちを殺す気でいる。
男が構えた。俺は堪らず地面を蹴って、男の銃を持つ右手に飛び込んだ。
男「!?」
突然の俺の乱入に、男は困惑した。そのおかげで引き金が引かれる事はなくなり、そのチャンスを逃す事なく銃身をぶん殴る。
男「あっ•••!?」
銃は男の手を離れて、カランカランと音を立てて地面を擦りながら移動していった。男の手を掴んで、キッと睨みつける。目つきの悪い、細身の青年だった。二十代なのは確実だろう。
天「捕まえたぞ••••••警察まで来てもらおうか」
男「いっ、嫌だ•••!許してくれ•••!ほんの出来心だったんだ•••!」
天「•••••••••出来心?」
何かが俺の中でプッツンと切れた気がした。目の前の男は恐怖に怯えてしまっている。そして自然と、掴んでいる男の手を握り潰そうと握力が増していた。
男「ぐっ、あぁっ•••痛い•••!」
天「出来心ってお前言ったよな•••?そんな身勝手な理由で彼女たちを傷つけたのか?なぁ?」
ミシミシと音がし始める。このままいけば恐らく男の右手は骨ごと潰れてしまうだろう。
男「ごめんなさいっ•••ごめんなさい•••!」
天「••••••謝るくらいなら最初からするな、クソが」
男の手を離すと、痛そうに自分の手を抑えてうずくまり始めた。駆けつけた警察に事情を説明して、身柄を引き取ってもらう。
天「••••••あっけねぇな」
所詮はこんなもんか。本当に殺す気なら、一々予告なんてせずに直に事務所に凸ってくるだろう。所詮は政治的にガキな大人の悪い行動だ。つまらん。
接続を解除すると、力が抜けてその場に崩れ落ちる。脳への負担が相当大きかったのもあって、かなりボーッとしていた。
天「とりあえず•••戻らないとな••••••」
安定しない視界で注意深く歩きながら、関係者席へと戻る。席に座ると、すぐに身体の力が完全に抜けた。
月「お兄ちゃん大丈夫!?」
天「流石に、長くやり過ぎた••••••身体うごかねぇ••••••」
月「もう•••無茶し過ぎだよ••••••でも、無事終わって良かったね」
天「あぁ••••••」
月の言葉が全く頭に入ってこない。完全に脳が休みたいと懇願しているようだ。それを精一杯反発しているが、後少しでもしたら負けてしまうだろう。だが••••••、
天「担当のライブくらいはみてやらないとな•••」
彼女たちは一生懸命頑張っているんだ。その姿だけは目に焼き付けておかないと。
天「••••••••••••」
月「お兄ちゃん?」
天「悪い、話しかけないでくれ。集中できない」
既に疲れ切った脳で集中できてるのかすら怪しいが、恐らくできているだろう。彼女たちの音楽やダンスが、頭にしっかりと流れ込んでいた。彼女たちの輝かしい姿は、オーバーロードによって疲弊した脳でも、記憶に残してくれていた。
Photon Maidenのライブは終わった。俺は月に支えられながら控え室へと戻り、椅子にドカッと座った。
天「はあぁぁ••••••」
そして無意識にドデカい欠伸を一つ。口を目一杯開いて、息を外へ放出する。
月「お兄ちゃん、お疲れ様」
天「あぁ、お前こそな•••」
お互いに健闘を讃えあう。拳を軽くコツンとぶつけて、俺はダランと腕が下がった。
月「しばらくは休んでおいた方がいいね」
天「そうだな•••」
後一、二時間くらいは動けないだろう。そんな長い時間まで月に付き合わせてしまうのは、少し申し訳なかった。
乙和「たっだいまー!」
乙和さんを先頭に、メンバーが続々と戻ってきた。
咲姫「天くん、大丈夫••••••?」
天「あぁ•••何とかな••••••」
本当は大丈夫なワケないが、心配させないためにもここは強がっておこう。
衣舞紀「お客さんの反応、良かったわね。ライブは文句なしの大成功!天も、会場を用意してくれてありがとう」
天「いえ、それが俺の仕事ですから」
俺は笑顔を必死に作ってその場を取り繕う。徐々に身体が限界を迎えていたのがよく分かった。
月「お兄ちゃん、帰れそう?」
天「無理そうだな•••しばらく休んでから帰るわ」
もうクタクタな状態なのを月が見かねて声をかけた。これ以上は危ない俺は、それに甘えた。
ノア「じゃあ私が残るよ。みんなは先に帰ってもいいですよ」
月「あのー•••ノアさん。流石にそこまでしてもらうのは•••」
ノア「大丈夫。今日は神山家に泊まる予定だったから」
天「••••••絶対今決めましたよね」
だってそんな予定聞いてないもん。俺も月も初耳だ。いつでも大歓迎だからいいのだけども。
乙和「あっ、じゃあこれから天くんと月ちゃんの家で打ち上げしない?」
月「あっいいですね!私腕によりをかけて料理作っちゃいますよ!」
咲姫「天くんは大丈夫?」
天「問題ない」
あまり喋りたくないので手短に済ませる。これで俺の家に大量の人間が集まる事が確定した。これもうわかんねぇな。
乙和「それじゃ天くん、あとでね〜」
乙和さんたちは控え室を出て行った。部屋の中は、俺とノアさん二人だけが残される。
ノア「天くん、お疲れ様」
二人きりになった途端、ノアさんが俺を抱きしめた。身体が動かせない今は、されるがままだ。
ノア「天くんのおかげで、私たちは無事にライブを終えることができたよ。本当にありがとう」
天「いえ、そんな•••」
ノア「そんなこと、って思ってるかもしれないけど、私にとっては、すっごく嬉しかったよ」
見事に思っていた事を言い当てられ、口ごもる。
天「これも仕事ですから•••責務を全うしただけですよ」
ノア「素直じゃないんだから」
ノアさんが頬を膨らませた。俺は苦々しく笑い、ノアさんに軽く体重をあずける。
天「でも、これで安心して眠る事ができます••••••」
ノア「寝ちゃっていいよ?ちゃんと起こしてあげるから」
天「••••••はい、お願いします••••••」
遂に限界を迎えた俺は、まるで死んでしまうかのように薄らと目を閉じて、意識を無情にも切り離された。
R18の方もありまっせ。見たい人向けでーす。