もっと頼ってもええんやで?
天「気持ち悪っ•••!」
夕焼けがカーテンの隙間から入り出した頃、吐き気が止まらない俺がベッドに寝転がっていた。
天「あークソ•••風邪ってこんな辛かったか••••••?」
いつもなら寝てたら勝手に治ってた、なんて事ばかりだった。だが今回は眠れない上に今までの風邪の何倍もキツいと来たもんだ。ふざけんなマジで。
天「月、早く帰ってきてくれねぇか••••••」
どうせガラにもなく一人で寂しいとかそんなんだろう、恥ずかしい限りだ。どうしてこうも変わってしまったのだろうか、俺は。
完全にPhoton Maidenが原因だ。彼女たちにマネージャーとして絡むようになってから、色々なモノが変わってきている。
天「•••チッ、バカみてぇ••••••」
これじゃ俺がPhoton Maidenが大好きみたいじゃないか。俺はあくまで仕事で彼女たちのサポートをしているに過ぎない。さっさとこんな風邪治して溜まった仕事を消化しなければ。
とは言ったものの、身体が苦しくてそれどころではない。というか無理。動けん。
天「Photon Maidenの誰か来ないかな••••••」
こういう時だけ都合よく頼るのは、人として終わっているだろう。俺自身はマネージャーとして頼られる存在でいなければいけない。彼女たちに頼るなど言語道断だ。
天「••••••せめて、お粥くらいは食っておくか••••••」
キツい状態だが、無理矢理身体を起こす。テーブルに置いてあるお粥の入った器を手に取ろうとしたが、それはするりと通り抜けた。
天「あっ••••••」
そのまま体勢を立て直すことも出来ずに無様にぶっ倒れる。身体を起こそうとするが、頭痛に加えて吐き気、更には視界が安定しないときたもんだ。最低最悪な状態が出来上がっている。
天「ふっ•••ぐぅ•••」
力を振り絞ってなんとか立ち上がる。いつもの伸びた背筋などなく、今はただの猫背へと化していた。
天「あーやべ•••これ倒れるわ•••」
どうせならこのまま気を失った方が楽なのではないかと思い始めていた。グルグル回る視界に翻弄されながら、ベッドに戻ろうとした時ーー、
ピンポーン!
インターホンが鳴った。俺は引きずるようにゆっくりと歩いていく。壁に寄りかかりながら一階に降りて、玄関まで歩いていく。鍵を開けてドアノブを捻った。
天「••••••衣舞紀さん?」
目の前には、長い銀髪を束ねた衣舞紀さんが立っていた。知ってる人に会えて安心したのか、俺の身体の力が一気に抜ける。
衣舞紀「わっ、天、大丈夫•••!?」
倒れそうになった俺を衣舞紀さんが支えてくれる。そのまま体重を全部預けたかったが、それは流石に衣舞紀さんが潰れる可能性があるのでやめた。
衣舞紀「すごい熱•••すぐに横にならないと!」
衣舞紀さんは急いで俺を自室まで連れて行く。なんで場所知ってんだよ。教えた覚えねぇぞ。
そのままベッドに寝かされて、額に張る冷却シートを取り替えてもらう。
衣舞紀「もしかして、ずっと寝てたの?」
天「まさか••••••キツくて寝るとかそれどころじゃありませんでしたよ」
吐き捨てるように言葉を投げる。そう、と衣舞紀さんは短く返すだけで、特にこれといったものはなかった。
衣舞紀「お腹、空いてるでしょ?お粥温めてくるわね」
器を抱えて、衣舞紀さんは部屋を出て行ってしまう。その後に俺は大きくため息を吐いた。
天「••••••すげぇ情けねぇ••••••」
一歳歳上とはいえ、相手は女だ。しかも自分の担当の。そんな人間に甘えてしまっている自分が、許せなかった。
衣舞紀さんが戻ってくるのは本当にすぐだった。俺の前に座って、レンゲでお粥を掬おうとした。
天「自分で食べられます•••」
これ以上頼るのは、俺の精神的にも良くない気がした。手を伸ばしてレンゲを取ろうと思ったが、
天「あ?•••取れねぇぞ」
何度もレンゲを掴もうとしても、スカッ、スカッ、とすり抜けていく。
衣舞紀「天、具合が悪いのに無理をするのはダメよ」
天「でも•••」
衣舞紀「ダメなものはダメ。今だって、まともにレンゲを触ることすらできなかったじゃない。そんな事で一人で食べさせる事はできないわ」
天「な、何ですかそれ•••!子供みたいに•••」
まるで自分が小さな子供のように扱われている気がして、キレそうになる。
衣舞紀「天は大人になり過ぎなのよ。何でもかんでも自分で解決しようとして、辛くても周りに全く頼らない。中学からマネージャーの仕事をしているから、一人で全部できるようにならないといけない、っていう固定概念が残っているんじゃないかしら?今の天は違うわ。事務所がある。Photon Maidenがある。私がいるわ」
天「だからと言って•••担当に甘えるなんて•••」
衣舞紀「いいのよ、甘えて。天の歳なら全然いいのよ。乙和なんて本当の子供みたいじゃない」
そこで乙和さんを引き合いに出すのはかなりセコい。だってあの人見た目も相まってガチのガキに見えるんだから。胸だけ頭おかしいけど。
衣舞紀「天は一人で抱え込み過ぎ。辛い時くらいは、私でもいいから頼っていいのよ?」
天「•••••••••わかりました、そうします」
衣舞紀さんのことだ。どうせ何かしら言ってもまたしつこく言いくるめてくるに決まってる。面倒だからさっさと話を済ませただけだ。
衣舞紀「はい、口開けて」
••••••結局俺は衣舞紀さんにお粥を口に突っ込まれた。彼女は頼りになる人だけど、やっぱり頼りたくないという感情が更に湧き出した。
看病をしてもらったお陰で、俺の体調はほとんど良くなっていた。衣舞紀さんも安心した様子で帰って行き、俺はそのまま眠ってしまった。
帰ってきた月が俺を起こして、そのまま一緒に夕食を食べることに。
月「看病の方、衣舞紀さんが来てくれたんだ。お兄ちゃん良かったねー」
天「•••••••••別に」
俺はそっぽを向く。月は何かを察したのか、やたらニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべる。
月「顔が赤いですぞ〜?もしかして衣舞紀さんとデキちゃってたり〜?」
天「•••••••••ねぇよ、バカ」
第一俺と衣舞紀さんが付き合う未来が見えないのだが。
月「•••少しは素直になったら?どうせ衣舞紀さんに一人で抱え込み過ぎー、なんて言われたんでしょ?」
天「お前はやっぱりお見通しなんだな」
相変わらず月は俺の事をよーくわかってる。怖いくらいにだ。俺は椅子の背もたれに体重を預けて、大きく息を吐いた。
天「そもそも、今の俺がどういう感情になっているのかイマイチわからん」
月「ほぅ」
天「なんかモヤモヤするというか、なんというか••••••」
月「(あ、ダメだこいつクソ鈍感だ)」
心の中でへばりついて離れないような、気持ち悪ささえある。これ以上考えても答えは絶対に出てこないので、俺は思考を閉ざす。
月「まぁ、お兄ちゃんにもいずれわかる時がくるよ。もしかしたら、近いうちにね」
天「••••••そんなに早くくるものか?」
月「今のお兄ちゃんの環境を考えたら、もう何か変化があってもおかしくないからね」
先程のいやらしいニヤニヤとはうってかわって、清々しいくらいにニコニコと妹は笑っていた。
天「よくわからんが、俺はいつも通りに過ごす」
月「お兄ちゃんはそれでいいよ。いつも通りに生活して、それで自然と答えが見つかってくるから」
天「•••••••••?」
月の言ってる事がますますわからなくなり、俺はついに首を傾げた。妹はただ笑うだけで、何も答えを返してくれない。俺はその後も、寝るまでこの事について頭を悩ませた。
車校の入校申請書類はよ書かねぇとマジでヤッベェ!すぐ仕上げよ!