陽葉学園に到着したはいいものの、正直今日は授業を受ける気など毛頭なかった。パソコンに隠れながらメモ帳に万年筆を走らせるのを繰り返し行い、少しずつだが仕事を片付けていった。
流石にバレたら面倒なので、ちょいちょい教師の顔を窺いながら進めているが、これがなんともいえないストレスになる。ふっつうにイライラする。
天「(あー、さっさと終わらせてぇ••••••)」
あまりにも溜まっている仕事が多すぎて軽く病みそうだった。昔に比べたらマシなのが幾分かの救いではあるが、それでも大量の仕事を前にするとダルくなる。
それでもやるんだけどさ。それが俺の仕事なんだし。少しだけだが聞こえる蝉の声が、少しだけうざったかった。
昼休みに入ると、俺はいつものように咲姫に昼食を誘われた。が、仕事が残っているから断ろうとした。
天「悪いな。今日中に片付けないといけない仕事があって、少し無理そうだ」
咲姫「•••うん••••••」
それだけでそんな悲しそうな顔をされるのは流石に堪えるものがある。今すぐ撤回して付き合いたいが、そうすると夜遅くまでやるハメになってしまう。それは中々にキツい。
衣舞紀「天ー、咲姫ー、お昼食べましょー?」
悩んでいたら、乙和さんとノアさんを引き連れた衣舞紀さんが、教室の前まで来ていた。俺と咲姫を見つけて手を振ってくる。
咲姫「••••••行こう?」
天「はいはい、わかったよ•••」
流石にPhoton Maiden全員からのお誘いとなれば断るのは難しいだろう。俺はパソコンを持ちながら立ち上がって、咲姫に手を引かれながら衣舞紀さん達の元へ向かった。
ついて行く事数分。学食に連れて行かれ、俺は飯に手もつかないままキーボードを叩き続けていた。
乙和「ご飯くらい食べなよ〜。お腹空いちゃうよ?」
天「正直終わる気しないんですよね、これ。飯食ってられませんよ」
ずーっと文字を打ち込んでいるが、一向に終わりが見えない。別に昨日の分だけやって残りは事務所でやってもいいが、今更始めたものを一度止めるのは少し億劫だった。
ノア「ちゃんと食べないと、仕事にも支障が出るよ?」
天「大丈夫です。そこまでヤワじゃありませんから」
衣舞紀「風邪引いてた時は死にそうな顔してたじゃない•••」
天「う、うっさいですよ!」
衣舞紀さんから呆れ混じりの声が聞こえ、俺は顔を赤くして言い返す。他の三人から笑い声が出てき始め、更に自分自身が惨めに感じられた。
ノア「ムキになる天くん•••カワイイ••••••!」
乙和「まーたノアが暴走してるよ•••」
天「とりあえず人の事可愛い言うのやめません?怒りますよ?」
ノア「笑顔だけど怖い••••••」
殺意マシマシの笑顔をノアさんに送ると、彼女はすぐにたじろいだ。咲姫はいつも通りのやり取りを、ただ微笑みながら眺めていた。
咲姫「天くん、前よりもPhoton Maidenに馴染んだ気がする••••••」
天「••••••そうか?個人的には変わってないと思うが」
咲姫「今は、少し楽しそう••••••」
天「••••••••••••?」
咲姫の言葉の意図が読み取れず、俺は首を傾げた。
衣舞紀「天〜?仕事はいいのかしら?」
天「あっ•••」
メンバーの面々と話していた所為で、全然進んでいなかった。俺は大きくため息を吐いて、椅子の背に体重を全部乗せる。
天「•••もういい。飯食べます。なんかこれ以上進む気がしません」
パソコンを閉じて、俺は弁当にありつく。他のみんなが既に食べ終わっていたので、ジロジロと食べている姿を見られる。ものすごく恥ずかしい。
天「な、何ですか•••見せ物じゃないですよ」
乙和「なんか美味しそうに食べるからつい見ちゃうんだよね〜。それに口元汚してるし」
天「後で拭き取るんで気にしないでください」
乙和「子供みたーい」
天「ははっ。乙和さんにだけは子供扱いされたくないですね」
乙和「ちょっとそれどういうこと!?」
乾いた笑いと共に吐いた毒に、乙和さんはわかりやすくくってかかった。
衣舞紀「天も言うようになったわねー。でもあまり言い過ぎるのはダメよ?」
天「それくらいは考えて発言しますよ。まぁ、乙和さんが子供っぽいというのは、基本は言動からですけどね」
ノア「あはは。でも私もそう思うかも。なんか乙和って、子供だったり小動物だったり、そんな感じがするかな」
乙和「ノアもそんなこと言うの!?」
咲姫「皆さん•••あまりイジめない方が••••••」
見かねた咲姫が乙和さんの味方をし始めたので、俺たちもそこでお終いにした。
天「ごちそうさま」
咲姫「いつの間に•••」
みんなで話しているうちに、俺はさっさと飯を食べ終えて弁当をしまった。そこでタイミングよく昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、そこで解散となった。
放課後になると、俺は急いで席を立ってネビュラプロダクションへと向かって走り始める。鞄に無理矢理詰め込んだパソコンが中で揺れ動いて鬱陶しいが、そんな事を気にしている余裕はそこまでなかった。
事務所に駆け込んで、俺はすぐに自身の仕事部屋へ入る。パソコンを起動し、ヘッドホンを接続して仕事モードへと意識を変える。
衣舞紀「••••••やっぱり、昼は悪い事しちゃったかな••••••?」
乙和「仕事早く終わらせないといけない用事でもあったのかな?」
ノア「多分月ちゃんの事じゃない?ご飯までに帰ってきなさいー、みたいな」
仕事部屋の前でコソコソと話しているみたいだけどバレバレですよ。敢えて何も言いませんが。
天「••••••あ、ミスった」
それでもやっぱり見られてるのは落ち着かなくて、ミスが多くなってしまう。でもここで何か反応を示せば、また衣舞紀さんにイジられる予感がした。なので我慢する。外には誰もいないと脳に刷り込ませるのだ。
天「••••••少しは早く終わるかもな」
時計を確認する。このままの流れでいけば、夜の九時前には終わりそうな気がした。一筋の希望が見えて、俺のやる気は更に高まった。
キーボードを叩きながら、メモ帳にも内容をどんどん記していく。二つのことを同時にやるのはあまり得意ではないが、集中力が高まってる今は何とかこなせていた。
あー、肉くいてぇ(無関係)。
時刻は夜の八時を回っていた。パソコンの作業を一足先に終えた俺は、残った手書きの方をこなしていた。辺りは真っ暗で、この部屋の電気だけは綺麗に点いている。いや、この事務所自体が夜遅くまで電気の光塗れだ。
天「(後少し•••)」
残り少なくなった仕事を集中力を切らさないままこなし続ける。多少の疲れは感じるが、このくらいはなんて事ないので手を動かす。
が、急に字が写らなくなった。万年筆を軽く振ってみるが、それでもインクは出てこない。
インク切れ。それだけでかなりのやる気が削がれた。
天「••••••は゛ぁ゛〜」
集中していたおかげであまり感じなかった疲れがどっと襲い掛かってくる。一気に倦怠感が溢れ出して、もうどうでもよくなる。
衣舞紀「天?まだ残ってる?」
ノックをされた直後に衣舞紀さんの声が聞こえた。俺は声を出すのすら面倒くさくて、立ち上がってドアを開ける。
衣舞紀「いるなら一言くらいは言いなさい」
天「母親ですかあなたは。よっ、と」
わざと勢いつかせて椅子にどかっと座る。衣舞紀さんが訝しげな表情を向けてきたが、俺は気にしない。
衣舞紀「何かあったの?」
天「万年筆のインクが切れました」
衣舞紀「替えは?」
天「もちろんありますけど、やる気なくなりました」
俺の応対を聞いて、衣舞紀さんは何となく察したらしい。わかりやすく苦笑しているのだ。
衣舞紀「後少しなんでしょ?頑張りなさい」
天「••••••はいはい、わかりましたよ」
渋々、といった様子で、万年筆の軸を外してインクカートリッジを取り替える。空カートリッジはゴミ箱に投げ捨てて、また作業に戻る。
衣舞紀「終わるまでここにいるから、頑張って」
天「少し時間かかりますがいいんですか?」
衣舞紀「いいわよ、別に。仕事をしている天の顔を見るの、好きだし」
天「えぇ•••どういう事ですか、それ」
衣舞紀「カッコいいって事よ」
どうしてこうもこんなセリフを恥ずかし気もなく言えるのか、俺は理解に苦しんだ。前々から思うが、男らしい人だ。
衣舞紀「特に目つきとか、集中して一つを見ているからか、すごく鋭いのよね。そこが一番カッコいいと思うわ」
天「一々説明しなくていいですよ•••!」
何も言わなかった所為か、衣舞紀さんは何故か解説を始めてしまった。それがかなり恥ずかしくて、俺は言い返してしまう。
衣舞紀「もっと素直になれば、可愛いのにね」
天「可愛いとか、思われたくないですよ•••」
男なのに、何故女が喜ぶような感想を持たれなければならないのか。どうせならカッコいいの方が全然マシだ。
衣舞紀「まぁでも、そのままの方が天らしいか」
天「結局何しにきたんですかあなたは•••」
ただ俺の邪魔しにきただけなら早く帰って欲しいんですけど()が、衣舞紀さんは微笑みながら俺の方を見るだけで、何も言わなかった。
天「はぁ、もういいです。早く終わらせて帰りますよ」
衣舞紀「そう。じゃあ早めにお願いね」
結局、衣舞紀さんがどう言う目的でここにいたのかは全くわからなかったが、変に退屈することなく仕事を終える事ができたので、その辺は心の中で感謝した。
咲姫の誕生日あくこいよ。石貯めて待ってるからぁ!(240連分)