どんどん料理が運ばれてきて、俺は腹の虫を鳴らしていた。店内に響く事はなくても、その音はかなりの大きさだ。
乙和「天くんお腹減りすぎ〜。足りないんじゃないの?」
天「デザートもいくので問題ないかと」
あんまり食べ過ぎても太るだけなので、程々に抑えるくらいがちょうどいいのだ。
それに体重を増やしたい、と言った欲もないので、無駄な脂肪をつけないを心がけているつもりである。
衣舞紀「育ち盛りの男の子でしょ?食べないと大きくなれないわよ?」
天「これ以上背を伸ばしたいとは思いませんよ」
衣舞紀「あら?そうなの?更に私が大きくなって天を追い越すのも悪くないわね〜」
天「むっ•••」
衣舞紀さんに身長を抜かされるのは少し嫌な気がした。まぁだからと言って今すぐ食べる訳ではないのだが。
天「もぐもぐ•••」
咲姫「もぐもぐ•••」
ノア「まるで兄妹みたい。食べる早さがそっくり」
俺と咲姫が同時に咀嚼しているのを、ノアさんは微笑ましそうに眺めていた。
天「別にそんなに似てないと思いますが•••」
咲姫「天くんとはあまり似てるところはないと思う••••••」
衣舞紀「そんな事ないわよ?普段から無表情なところとか、そっくりよ」
果たしてそれはそっくりといっていいのだろうか。いつも無表情の人など吐いて捨てるほどいると思う。
乙和「あむっ、んむっ。それを言ったら天くんと衣舞紀も似てると思うけどなー。お堅いところとか」
衣舞紀「それはどちらかというとノアじゃないかしら?」
ノア「私?そんなにお堅いかなぁ•••」
天「ノアさんはお堅いというよりただヤバいだけかと」
ノア「ヤバくはないよ!?」
いや、あんな姿見せられたら嫌でも認めなければならなくなる。マジであれはヤバいし失礼過ぎるがキモかった。
衣舞紀「私はそんなに天と似てないと思うよ?そもそも考え方とかまるっきり反対だし」
衣舞紀さんはかなり真面目でストイックだが、俺はどちらかというと自由な性格だ。仕事とかは真面目に取り組む方だが、それは責任があるからこそのものであって、そういったものがないなら俺はすぐに投げ捨てる。
天「(••••••そう思うと、本当に母さんに似てるな俺は•••••••••)」
仕事だけに対してはえらく真面目で、それで他の事は大してどうでもよくて。好きな事は追求して••••••。いや、そもそも俺に好きな事があったか怪しい。
咲姫「どうしたの•••?」
天「いや、何でもない」
少し表情が濁っていたのか、それを見逃さず咲姫が心配を掛けてくる。ただぼんやりと母の事を考えていただけなので、言葉通りに何でもなかった。
天「まぁ••••••そんな大した事じゃないさ」
そう、実際に大それた事を考えていたわけでも、悩んでいたわけでもない。かなりどうでもいいことだ。
乙和「でもでも〜、似てなくても天くんと咲姫ちゃんは兄妹に見えるな〜」
天「なんかそれ前にも言われた気がするんですが•••」
ぼんやりとだが、どこかで言われたような記憶がある。元々妹には月がいるんだし、今更一人増えてもあまり変わらない希ガス。
咲姫「天くんの妹•••私が?•••いつでも甘えられる?」
天「そんな四六時中は相手できないぞ?」
乙和「一応相手はしてあげるんだね〜。やっぱりお兄ちゃんだな〜」
天「できることなら月の兄なんて辞めたいですよ()」
ノア「目が本気だ••••••あ、でもその時は私が月ちゃんをお持ち帰りして••••••!」
あーもうまたノアさんのスイッチ入っちゃったよ。普通に面倒くさいからやめてくれマジで(切実)。
天「月はあげませんよ」
乙和「そうだよね〜。月ちゃんはみんなのものだもんね〜」
天「••••••そうっすね」
俺は苦笑する。正直なところ、あいつは野に放っていいのかすら少し疑問に感じている。いやまぁ大丈夫ではあるのだろうが、変に問題を起こしそうで怖い。
衣舞紀「月といると楽しいものね。天はいつも面倒そうにしているけれど•••」
天「•••疲れますから、あいつの相手は」
衣舞紀「でも、嫌いではないでしょ?」
天「そりゃそうですよ。たった一人の妹なんですから」
家族くらいは大事にしているつもりだ。え?父さん?あいつは知らん。何処かで野垂れ死んでようが関係ない。
ファミレスで飯を食べて、例のチャラ男店員からまたラ◯ンとか連絡先とかまた訊かれて少しキレた。
このまま解散となり、俺は衣舞紀さんに誘われて少し散歩をしていた。
衣舞紀「天•••大丈夫?」
天「もうあのファミレス行きたくないです•••」
あのホモ店員がいるってだけで近づく気が失せて仕方がない。もう金輪際行かん。
衣舞紀「でも天がそんな顔をしているから、相手も勘違いするんじゃない?」
天「生まれ持った顔にケチつけられたくないんですねど」
衣舞紀「それもそうね。なら素直に可愛いって褒めても悪くないわよね?」
天「それとこれとは話別ですよ」
可愛いって言われるのが嫌なのは俺の感情が入っているわけだし、普通にムカつくから控えて欲しい。
衣舞紀「暑いわね•••天、汗まみれだけど大丈夫?」
天「大丈夫ですよ。汗は昔からよくかくので」
多分身体が筋肉だらけだから、よく汗が流れるのだろう。
衣舞紀「でも、汗が流れてる男の子ってカッコいいと思うわよ」
天「••••••そうですか」
からかっているのはわかっているのに、どうしても顔が赤くなってしまう。
衣舞紀「おやおやー?照れてるなー?」
天「•••うるさいですよ」
俺の横顔に自身の顔を覗き込ませてくる衣舞紀さん。その所為で余計に恥ずかしくなり、顔を逸らしてしまう。
衣舞紀「本当に、天って可愛いわね」
天「••••••そろそろ殴ってもいいですか?☆」
いい加減にキレそうなので、一発wkrsムーブキメてやろうかと思った。それによって自然と笑顔が浮かんでしまう。
衣舞紀「天に私が殴れるかしらね〜?」
天「どういうことですか、それ」
やたら衣舞紀さんが挑発してくるので、乗っかってやろう。ガチで当たってしまったらアレなので、本当に軽い力で拳を飛ばす。
が、衣舞紀さんは躱す事などなく、突っ立ったまま俺の拳を頬に受けた。軽い音も何もないクソザコパンチを、彼女は笑顔で受け止めた。
衣舞紀「ほら、殴れないでしょ?」
天「•••最初から力抜くのわかってましたね?」
衣舞紀「えぇ。天が暴力を振るうなんて、月以外にありえないもの」
あ、月によく手出してるのは知ってたのかこの人。しかし、何でもかんでも見透かされているのは、気に食わなかった。
衣舞紀「•••そ、そんなに見つめられるのは•••ちょっと恥ずかしいかな••••••」
天「(よく見ると、本当に綺麗な顔をしてるな•••)」
衣舞紀「そ、天•••?」
天「えっ•••?」
頭の中で衣舞紀さんの顔の分析をしていたら、彼女の声に意識を戻された。
衣舞紀「ちょ、ちょっと顔が近いかな••••••」
天「あ、あぁ•••すみません」
無意識に顔が近づいていたようで、俺はすぐに距離を取った。珍しく衣舞紀さんが赤くなっている姿は、なんだか新鮮で可愛らしかった。
天「•••••••••」
今更•••本当に今更だが、俺は衣舞紀さんの事が好きなのかもしれない。こんなにドキドキさせられて気に入らないが、それでも本気で嫌とは思えないのはそういう事なのだろう。
天「••••••帰ります」
衣舞紀「えっ?う、うん。バイバイ•••」
自覚すると途端に気恥ずかしくなり、俺は頭を下げて逃げるように衣舞紀さんに背を向けて歩き出した。
明日からどう接していこうか、少し迷ってしまう。どうにかなるだろう、と普段なら勝手に解決するが、今回ばかりはそうは行かなかった。
とりま竹刀に油塗りましょうね〜。定期的に塗って強度を高めるんや。