天「ただいま•••って何だこれ」
家に帰り着いて玄関の扉を開けると、目の前にデカい段ボール箱があった。心当たりがない俺は首を傾げてしまう。
月「どうしたとこうしたもないよ。佐々木さんからのだよ」
天「あっ•••あの人ガチで送ってきたのか••••••」
月「え?佐々木さんと何かあったの?」
リビングから顔だけ出した月が首を傾げていたが、俺には先ほどと打って変わって心当たりしかなくて唇を引きつった。
天「昨日衣舞紀さんに連れて行かれたジムに佐々木さんがいてな。その時に送りつけるって言われた」
月「昨日休みだったのあの人••••••。通りで肉くるわけだよ••••••」
月は大きなため息を吐く。送られる張本人になる俺は正直な話笑えん。
月「えぇ•••どうするの•••?この量消費するのどれくらいかかるかわからないよ」
天「••••••今来るかわからないけど、助っ人呼ぶか」
月「助っ人•••?ーーあっ!」
一瞬わからなかったが、すぐに察したのか声を上げた。俺はすぐに携帯を取り出して、とある人に電話をかける。
天「もしもし、俺です。•••はい、佐々木さんからてす。今から来れますか•••?はい、わかりました、ありがとうございます」
話がついたので、俺は携帯をポケットにしまった。
月「大丈夫そうだね。それじゃ、張り切って作るぞー!」
パンッ!と小気味良い音を立てながら頬を叩いた。俺は段ボール箱を抱えて、キッチンにまで持っていく。
月「もしかして一人だけ?」
天「あぁ、一人だけ」
月「次は全員で来たりは?」
天「わからん」
月「全部食べるまでどれくらいかかるかわからないなぁ••••••」
あはは、と月は力なく笑った。それは俺も同じだが、タンパク質が入ってきたのでそこまで苦とは思わない。
月「というより、ちゃんと筋トレしてきたっぽいね。佐々木さんがいたってことは」
天「おう、死んだ」
月「簡潔スギィ!」
実際無理なのにも付き合わされて、身体はボロボロになっていた。普段から鍛えているから筋肉痛にこそならなかったものの、単純な疲労は残っていた。
天「やっぱジムは行かなくていいかもな。疲れるわ」
月「そう言いながら衣舞紀さんに連れて行かれそうだけどねー」
天「マジでありそうだからやめてくれ」
一瞬で顔が引きつる。月は完全に他人事なのでゲラゲラ笑っていた。少しムカつくのでデコピンを一発ブチ込んでやる。
月「いったいなぁ!暴力反対!」
天「うるせぇ」
月「ごめんなさい•••」
耳元でギャーギャー騒がれると耳がイカれるので圧をかけて大人しくさせる。
月「最近のお兄ちゃん怖いんですけどー?」
天「気の所為」
月「今は顔怖いけど」
天「期末テスト死にそう」
月「マネージャーが欠点取って補習とか笑い者になるからやめてよ?」
天「最低限赤点は回避するらつもりだが••••••」
ライブの準備だったり仕事だったりで勉強には全く手をつけていなかった。このまま行けばガチで赤点を取ってしまいそうである。かなりマズい状況だ。
月「勉強教えよっか?高校一年のくらいはできるし」
天「ノアさんに教えてもらうわ。めちゃくちゃ頭いいしあの人」
月「あれー私はー?」
天「お前は知らん」
月「冷たっ!?」
絶対お前が混ざったら、問題発言の連続で勉強どころじゃなくなる。ノアさんもノアさんでだいぶヤバいけど。
月「なんだかんだ珍しいよね、お兄ちゃんが料理に参加してるの」
天「ん?あー•••なんとなくな」
流石に肉切って焼くくらいのことはできるので、一緒になってやっている。流石に月よりは不器用さが目立つが、今までやってきたやってきてないの差だ。
ピンポーン!
インターホンが鳴った。俺は手を止めたがーー、
月「私が行くよ。今のうちに肉切っちゃって」
天「わかった」
俺より先に手洗い等を終わらせて、月は玄関の方に走っていた。やっぱり手際の良さの差は歴然だった。少し凹む。
月「はーいただいまー」
衣舞紀「お邪魔するわねー」
天「はっや!」
少しは玄関で何か話してから来ると思っていたら、本当に一瞬だった。
衣舞紀「佐々木さんからお肉届いたんでしょ?どんなのが来たの?」
天「その段ボールの中に入ってるのでご自由にどうぞ」
それだけ言ってすぐに作業に戻る。横を衣舞紀さんが通って、段ボール箱を開けるのを横目に眺める。
衣舞紀「どれどれ〜?ーーって、高級なお肉ばかりじゃない!?」
月「佐々木さんはいつもそんな感じのお肉送ってきますよ〜」
衣舞紀「やっぱり階級持ちはレベルが違うわね•••」
月「お兄ちゃん今度息子さんとご挨拶したら?」
天「え、やだ」
佐々木さんのご子息結構取っつき辛かった記憶しかないので、あまり会いたくないのだ。
天「あの人に付き合ったらそれこそ死んじまいそうだ」
月「••••••今のお兄ちゃんなら普通にいけそうな気がするけどなぁ」
天「あーやめろやめろ。中学の頃とはいえ、殺りあった時あの人本気じゃなかった」
月「おぉ•••怖」
衣舞紀「なんかやりあったの言い方おかしくなかった••••••?」
それは多分気の所為ですよ衣舞紀さんや。もう驚愕している彼女の姿はなく、ほぼ自然に肉を焼く作業に参加してた。
月「はぁ〜一気に楽になったぁ〜。衣舞紀さんありがとうございます!」
衣舞紀「いいのよ、私も食べるのだから」
天「今度焼肉パーティーしますか?メンバーのみんなも呼んで」
衣舞紀「あら、いいわね。こんなに量があるなら六人でも全然足りるわね」
何kgあるかぶっちゃけわからんし、多分六人で食べまくっても確実に余るだろう。残りは父さんの餌にでもしておくか。
月「よし!全部切り終わったー!」
天「ん、俺も終わり。フライパンもう一個くらいあったか?」
月「今衣舞紀さんが使ってるのしかないよ。後どうしよっか」
天「月は野菜切っててくれ。俺は皿とか出す」
月「りょーかーい」
俺はすぐに箸と皿を出してテーブルに並べていく。月は包丁を洗ってから、野菜をどんどん切り刻んでいった。
天「••••••?そういえば、俺の箸変わったか?」
月「ヒビ入ってたから変えたよー」
天「•••あれ気に入ってたんだけどな」
月「ただ真っ黒なだけじゃん。少しは模様とかに拘りなさい」
シンプルな無地とかのデザイン一切無しなのが好きなのだ。というか変えたなら先言ってくれよ、困惑するわ。
準備が一通り終わり、俺たちは先について肉を食べ始めた。焼肉のタレをぶっかけて、俺は口にそれを運ぶ。
天「ん、やっぱ美味い」
月「肉汁すっごい!佐々木さんに感謝•••!」
衣舞紀「美味しいー!毎日食べたいわね!」
いや、毎日は飽きるよ。流石にそれは無理。俺は苦笑を返す。月はそうでもないようで、頷いていた。
衣舞紀「ほら、天はもっと食べなさい。大きくなれないわよ?」
天「別にいいですって」
月「今ひとつ情熱がないなぁ•••吉◯吉◯か」
天「俺をあの変態殺人鬼と一緒にすんのやめてくんない?」
名誉毀損で訴えるぞこのやろう。人の事クソカス扱いしやがってさぁ。
衣舞紀「ほらほら、食べなさい」
天「ちょっ、入れすぎですよ」
月「お兄ちゃん私の分も食べてよー」
天「そんなに食えんわアホ」
衣舞紀さんに皿から漏れるレベルの量の肉押し付けられた上に、月の肉も寄越されたら流石にキャパオーバーしてしまう。
天「美味いけど•••多い」
衣舞紀「男の子なんだから食べられるでしょ?ファミレスの時みたいに」
天「あれはめちゃくちゃ腹減ってたからですよ」
衣舞紀「じゃあ私が食べさせてあげよっか?」
天「えっ•••?いや、いいですよ、そんな」
急にそんなことを言い出すもんだから、恥ずかしくなって顔を逸らす。衣舞紀さんも月もニヤニヤと俺を眺めていて、少しウザったい。
衣舞紀「遠慮しなくていいのよ?はい、あーん」
天「••••••あむっ」
肉を目の前に出されたので、俺は口を開いてそれを一口で食べ、赤い顔のまま咀嚼を繰り返す。
衣舞紀「いい食べっぷりだわ。ほら、もっと行くわよー?」
天「そんなに大量に入りませんよ!」
まだ口の中に肉が残っているのに、衣舞紀さんは更にプッシュを掛けようとしてきていた。月はそれを見て楽しそうに笑っていたが、俺は全く笑えなかった。
では、22日にまた会いましょう。