佐々木さんから送られた大量の肉は、何とか消化しきる事ができた。俺も月もしばらくは肉を食べたくないという思考に至り、食卓に肉が並ぶ事は一、二週間ないだろう。
月「はぁー!やーっと食べ終わったー!もう肉食べたくなーい!」
天「同感•••マジで肉はいいわ••••••」
ソファに仲良く並んで座りながら、俺たちは大きくため息をついた。パンパンになった腹が苦しい。
月「みんなで焼肉したのはかなり助かったよ•••あれでほとんど消費できたから•••」
天「そうだな•••みんな死んでたけど」
全員食べ過ぎで家の中で寝込んでしまってたし。俺と衣舞紀さんは普通に起きてたが、みんなは夜まで熟睡コースだった。
結果、全員がうちに泊まるハメに。広い家で良かったと心の底から感じたよ。
天「•••やっぱりちゃんと言っておくべきだったな。量少なくしてくれって」
月「なんで言っておかないかなぁ•••おかげでこんな地獄を見るハメになっちゃったよ•••」
天「いや、マジですまん。今後気をつける」
月「信用できないなー•••」
うん、多分信じない方がいいぞ。佐々木さんの事だ、無視して大量に送りつけてくる未来が見える。甘んじて受け入れるしかなかろう。俺たち何も悪い事してないのに。
月「お兄ちゃんは今日までとってきた大量のタンパク質を無駄にしないようにね•••?」
天「わかってるよ。いつも通りに筋トレとかしてたらいずれは」
そんな途方のない話をされても月は面白くないようで、ふーん、と興味なさげに反応を示した。俺自身もそこまで話題に出そうとも思わないので、これ以上は話を続けなかった。
天「んじゃ、寝るわ」
月「早くない?明日何かあるの?」
天「特に急ぎの仕事があるわけでもないが•••なんか今日は早く寝たい気分なんだよ」
少しばかりか眠気もあって、ベッドに入れば今すぐにでも寝てしまう自信がある。というか眠い寝たい。
天「じゃ、おやすみ」
月「おやすみ〜」
手を振る月に軽く振り返してから、俺は二回の自室に上がってベッドにダイブした。
早くから寝たのもあって、朝の目覚めは快調だった。妹から強制的に起こされる事もなく、俺は一階に降りて呑気にテレビを見ていた。
月「おはよー。早いねー」
天「昨日あんなに早く寝たら流石にな?」
月「毎日これくらい早く起きてきて欲しいんだけどなぁ〜」
天「無理」
月「即答•••」
自信満々に否定すると、月から呆れた声が漏れたのがわかった。自然はテレビに移ったままだが、意識だけは妹に向けていた。
月「そういえばライブの方は大丈夫そう?」
天「わからん。俺はハコを用意するだけで、それをどうするかはみんな次第だ」
月「むっ。少し無責任じゃないかな?マネージャーならちゃんとサポートしてあげないと」
少しお怒り気味の妹が意見をぶつけた。俺は顔を向けて、小さく首を横に振った。
天「できるならそうしてやりたいさ。でも、今回は少し厄介でな。次やるライブもその更に次にやるライブ、二つの準備を進めてるからサポートに手が回せないんだ」
月「それって、そんなに間がないってこと?」
天「あぁ。一週間しかない」
月「えっ!?すぐじゃん!」
中々に詰まったスケジュールを聞いて、月は驚愕の声を上げた。
天「だからPhoton Maidenには手を回す事ができない。後はプロデューサーとか自分たちでどうにかしてもらわないと」
月「•••少しでも、少しでもお兄ちゃんがみんなに何かしてあげられないの?」
天「•••本当に少しだけなら、話し相手くらいはできるが」
それも仕事をしながらになってしまう。恐らく話半分に聞くだけで、かなりつまらないことになるのが目に見えていた。
月「それだけでもだいぶ違うから、ちょっとくらいら大目に見てあげよ?」
天「••••••相変わらず甘いんだな」
月「お兄ちゃん程ではないけどね」
天「どういうことだそれ」
普段から人を甘やかしてる記憶はないんだがな。このバカの錯覚じゃないのか?
月「お兄ちゃん自身はわかんないだろうねー。鈍感おバカだから」
天「えぇ•••」
困惑気味な声が漏れた。月はヘラヘラと笑うだけで、その真相を語る事はなかったという。
日に日に暑さが増していく外に、俺は絶望感を感じていた。ただ歩いているだけなのに、汗が身体を伝って地面に垂れ落ちる。
腕で汗を拭い取るが、それでも汗は止まらず余計に増えたような気さえしてきた。
天「クソッ•••暑すぎんだろ•••」
しかも、こういう時に限って飲み物を持ってくるのを忘れてしまった。喉はもうカラカラで、意識が少しずつだが遠のいていたのが自分自身でもわかっていた。
天「おっとと•••」
視界が揺らぎ、身体の軸がブレる。小ジャンプを数回ほどして体勢を立て直すが、少し気持ち悪さを覚えた。
天「•••どっかで休もうかな」
ぐっすり眠っても身体は疲れを残していたらしい。もう学校まで目の前だが、近くのベンチにでも座って休憩しよう。まるで年寄りみたいだな。
衣舞紀「ほい」
天「ーーッ!!?」
突然首に冷たい感覚が襲ってきて、俺は飛び上がる。前に踏み込んで振り返ると、悪戯な笑顔を浮かべた衣舞紀さんが立っていた。その手には水の入ったペットボトルがある。
衣舞紀「おはよ、天。顔色悪いわよ?」
天「おはようございます•••大丈夫ですよ」
衣舞紀「見え見えの嘘をつかないの。はい、お水。飲ませてあげよっか?」
天「ガキ扱いしないでください。これくらい一人で飲めますよ」
取り上げるように衣舞紀さんからペットボトルを貰って、水を一気に流し込む。
天「んっ、んっ、んっ、ぷはぁっ。はー•••」
衣舞紀「全く、ちゃんと水分補給はしないとダメよ?この時期は特に」
天「忘れてたんですよ、飲み物持ってくるの。助かりました」
衣舞紀「どういたしまして。もうほとんどすぐだけど、一緒に行こうか?」
天「そうですね」
どうせ後数分歩いたら学年の違いで別れる事になる。それくらいのちょっとの間だが、一緒にいるのも悪くないだろう。
衣舞紀「もう佐々木さんのお肉はなくなった?」
天「昨日になってようやくですよ」
衣舞紀「すごい量だったものね。咲姫たちがいなかったらもっと時間がかかってたんじゃないかしら?」
天「後数日は肉生活でしたね••••••」
苦笑いが漏れて、目線もどこか遠くを眺めてしまう。
衣舞紀「これで天の筋肉がどれくらい増えるか見ものね」
天「勝手に期待しないでくださいよ。そんなすぐ結果が出るほど筋トレは甘くないですよ」
衣舞紀「それは私もわかってるわよ。私的にはもっと男らしい身体になって欲しいけどね」
衣舞紀さんがじっと俺の腕を見た。力を入れて筋肉の筋をこれでもかと出す。
衣舞紀「ちゃんと筋肉があるのはわかるよ。でも太さがないわね•••」
天「元が細いので」
こんなナリだから顔も相まって女と間違われるんだろうな•••今は腕を露出しているからバレることはないが、寒くなって厚着をするようになってからが地獄だ。
衣舞紀「今のままでも十分カッコいいわよ」
天「変にフォロー入れなくていいですよ•••」
変なところで気遣ってくるなこの人••••••。こっちは別に何も考えてないんだから、変に口出ししないで欲しい。
天「あ、そういえばライブの事を••••••昼に話します」
衣舞紀「もしかして、何かあった?」
天「全員に言っておきたい事があります。乙和さんとノアさんにも伝えておいてください」
衣舞紀「オッケー、わかったわ」
不敵な笑みを浮かべながら、衣舞紀さんは頷いた。それに対して俺は余裕のカケラもない、引き攣った表情だった。
いやそもそも明日投稿できるかわからんわ。車校の学科詰め込まんといけへん。