放課後になり、俺は事務所そっちのけでライブ会場に足を運んでいた。仕事の方は前日にあらかじめ終わらせておいたので、今日は心置きなくライブの準備に取り掛かることができる。
スタッフA「あ、神山さん。こんにちは」
天「こんにちは。まだやる事残ってますか?」
スタッフA「いえ、もうほとんど終わってます。後は当日分くらいですね」
天「えぇ•••早•••」
俺の出る幕など微塵もなかった。これは泣けるぜ。え?じゃあ無駄足だったって事?ガチめに凹むんですけど。
天「•••あ、そうだ。この中にDJのリミックスができる人っていますか?」
スタッフA「え?リミックス?神山さんDJやるんですか?」
天「しませんよ•••ウチの今度のライブで曲をリミックスして出したいなって話をしたので、教えてくれる人とかいませんか?」
スタッフB「すみません•••生憎こっちにはいません」
天「•••そうですか」
これも無駄足。今日はツイてないな••••••。家帰って寝ようかなマジで。
•••でも『アイツ』に頼むのは面倒なんだよなぁ••••••。まぁまぁ気難しいし。
天「•••はぁ、仕方ねぇ」
Photon Maidenの為だ、ここは一肌脱ぐか。いざというときは月を使えばいいし。
そういうわけで俺がやってきたのは、犬寄家である。ここのチビガキにどうにかして交渉してやらねば。
インターホンを押すが、反応はない。連打する。反応はない。ドアをぶん殴るが、反応はない。
天「居留守すんじゃねぇよクソ!」
窓に向かって大きい声で叫ぶと、その小さな窓から、ピンク色の髪がぴょこっと飛び出した。
しのぶ「••••••何?うるさいんだけど」
気怠さと苛立ちが半分ずつ混じった声を出したのは、犬寄しのぶ。祖父に凄腕のDJを持ち、彼女自身も陽葉学園のリミックスコンテストを総なめしてる腕前だ。
天「お前に頼みがあってな。話だけでも聞いてくれないか?」
しのぶ「面倒くさい。それにアタシ今ゲームやってるんだから」
天「またゲームか•••月はそれでも成績とってるから何も言わんが•••お前は良くねぇだろ勉強しろ」
しのぶ「そもそも人に頼みにくる態度じゃないんだけど•••?」
天「普通に対応しても話聞こうとしないだろお前」
しのぶ「まぁそうだけどさ」
相変わらず冷たいヤツだ。俺は頬をポリポリと掻きながら、どうしようかと迷った。正直な話交渉材料がないのでまぁまぁ詰んでいる。
天「なぁ頼むよ。多少は礼くらいするから」
しのぶ「•••そもそもなんで天がわざわざうちに来たの•••?月じゃなくて」
天「今俺が担当してるユニットのライブがあるんだが、曲のリミックスをするつもりでな。ただ肝心のDJ様がリミックスやった事ないって言うから、お前なら何とかなるだろうとおもったんだ」
バカ正直に説明をしたが、しのぶは全く興味を示していないのが目を見てわかった。
しのぶ「•••それだけ?」
天「それだけだ」
しのぶ「はぁ•••なんかもうちょっと面白いものでも出てくるかと思ったけど、月と違ってお堅いなぁ•••」
天「悪かったな堅物で」
こっちは真面目に頼みに来てんだから逆にふざける方がおかしいだろう。窓に映るしのぶの姿はいつの間にか消えていて、しばらく経ったら目の前のドアの鍵が開く音がした。
しのぶ「仕方ないから、特別に教えてあげる」
天「••••••サンキュ」
なんだかんだ甘い妹の友人に、俺は微笑みを返した。
部屋に通してもらい、少しばかり見慣れたDJ機材たちに目を向ける。うん、全くわからん!もしこれが竹刀だったら作者は大喜びするんだろうなぁ()
えぇ、それはもう。興奮し過ぎて死ぬ自信すらあるね(作者)。
しのぶ「ほら、教えてあげるから来なよ」
天「ん」
とりあえずしのぶがパソコンの前に座ったので、俺はその後ろに立って顔だけをパソコンに向ける。
しのぶ「ちょっと、顔近いんだけど•••!」
天「こんぐらい近くないとよく見えねぇだろうが」
しのぶ「ほとんど横にアンタの顔があるんだけど•••!?」
天「俺の顔はどうでもいいから早く教えてくれ」
しのぶ「なんでそんなに平気なんだ•••!」
だって、彼女持ちなのにそれ以外の女を意識するのはなんか罪悪感がね•••。
しのぶ「それでこれをこうしたら••••••」
天「•••••••••」
しのぶ「こうなって•••って聞いてるの?」
天「続けてくれ」
しのぶ「•••なんかやけに冷たいな」
天「今は仕事の一環でやってるからな。ノンストップで続けて欲しい」
しのぶ「•••はいはい、わかったよ」
ため息を吐きながら、しのぶはやれやれと首を振った。俺は何も反応を返さずに、ただパソコンの画面を凝視していた。
しのぶ「大体がこんな感じ。後はそのDJ次第だから、失敗してもアタシには当たらないでよね」
天「そんなクソみてぇな真似はしねぇよ」
しのぶ「だろうね。またおいでよ。今度は月と一緒にさ」
天「は?行くわけねぇだろ、用ねぇし」
しのぶ「••••••なんでこんなヤツに親切に教えたんだアタシは••••••」
心底後悔した表情のしのぶ。一々反応を示してくれるから、こちらもからかいがいがあるってもんだ。
天「俺は行かないが、月はちょくちょく遊びに行ってるしな•••妹の事、大切にしてやってくれよな」
しのぶ「当たり前じゃん。アタシの数少ないゲーム仲間なんだから」
天「はぁ•••月もいい友達を持ったよ•••うちのメンツとも仲良くしてるし、安心したわ」
しのぶ「言ってる事が兄を通り越してお父さんなんだけど•••?」
天「え、マ?」
この歳で父親か•••嫌だな••••••。精神的にまぁまぁ効いて、俺は少し凹んでしまう。
しのぶ「ま、まぁ•••天もいずれはそうなるんだし、さ?」
天「•••そうだけども••••••納得いかねぇ」
俺はモヤモヤを残したまま、犬寄家を後にした。事務所に戻るのが面倒だったので、そのまま家に直帰する。
時刻は六時半を回っており、もうそろそろレッスンも終わる頃合いだろう。事前に事務所には行かないと思う、と連絡を入れておいたので衣舞紀さんが待ち伏せてる事もないだろう。
数十分程歩いて、神山家に到着した。慣れた手つきで玄関を開ける。
天「ただいま」
声は返ってこなかったが、キッチンの方で音がするので恐らく月が夕飯を作っているのだろう。顔だけ出してすぐに自室に入ろうそうしよう。
キッチンの、というよりリビングのドアを開けて、顔を出す。
月「おかえりお兄ちゃん」
衣舞紀「おかえりー天。どうだった?」
天「•••なんで衣舞紀さんがいるんですかねぇ••••••」
目の前には何故か衣舞紀さんがエプロンを着けて月と一緒に晩飯を作っていた。やけに似合うな、エプロン。
衣舞紀「すぐにできるから、先に座ってていいわよ」
天「•••はい」
ここにいるのが月だけなら、ガン無視して自室に逃げ込んでいるところだ。だが今回は衣舞紀さんがいるので、その手に走る事ができない。解せぬ。
衣舞紀「リミックスの件、どうなったの•••?」
天「とりあえず知り合いに色々教えてもらったので、明日にでも咲姫に伝えて一緒に取り掛かろうと思います」
衣舞紀「そっかー。じゃあ明日は咲姫に天を独り占めされるわけか•••今日はたくさん天と遊ぼうかな〜」
天「••••••こっわ(ボソッ)」
別に咲姫と一日くらい一緒にいても何かが変わるわけでもない。それくらいで独り占めって言われるのはどうなのだろうか。
衣舞紀「今日は一緒にお風呂にも入っちゃおっかー?」
天「えぇ•••」
月「お風呂入る回数減るから是非お願いしたいです」
衣舞紀「月もこう言ってるし、どうかしら?」
天「月テメェ!」
月「へっへーん!素直にイチャつかないお兄ちゃんが悪いんだよーだ!」
所謂あっかんべー、なるものを月は俺に向けてくる。なんか久しぶりに見たぞそれ。そして無性に腹が立ったので、月には頭突きをかましておいた。スッとしたぜ。
明日から入院しますので十日まで投稿できません。申し訳ない。十一日にお会いしましょう。