ライブが成功を治めた翌日。その日は休日で俺は自室に引きこもっていた。ようやく重荷が降りて、その反動からかずっとベッドで眠っていた。もう何時間も寝ていると思うが、それでも眠気は収まらない。まだまだ寝ていたいくらいだ。
月「お兄ちゃんいつまで寝てるの?いくらお仕事がないからって寝過ぎだよ」
天「•••悪い、ライブのおかげで仕事が重なってたから疲れてるんだ。まだ寝させて欲しい••••••」
月「だからって寝過ぎも身体に良くないよ!ほら起きた起きた!」
強引に毛布を剥ぎ取られて、俺は渋々と身体を起こした。立ち上がったと同時に大きな欠伸が漏れる。首を曲げて骨を思いっきり鳴らした後に、月と一緒に一階に降りる。
リビングのソファに座ってボーッとテレビを眺めていたら、今の時間が昼の12時である事を知らせる表示がテレビの左上にある事に気づく。
天「もうそんな時間か」
月「一日の半分を無駄にした気分はどうですか?」
天「まだ寝たい」
月「全くこの兄は•••」
ソファにもたれかかるように座っているが、この体勢だけでも既に眠そうになる。というか寝てしまいそうだ。
瞼が重くなってきて、カクンカクンと首も不安定な動きを見せ始めてきた。
月「ね!る!な!」
月が俺の肩を揺さぶったおかげでなんとか目を覚ましたが、それも一瞬のことだった。すぐに眠気が襲ってきて、視界が狭まってくる。
月「そんなに眠たいの•••?」
天「結構眠い」
月「どうしたものかなぁ••••••」
悩ましい表情を浮かべながら月が腕を組む。俺はそれを眺めながら目を閉じかける。しかしーー
ピンポーン!
インターホンの音が鳴って、それに驚いた俺は身体が跳ねた。
月「はーい」
月がすぐに玄関前まで走って行った。どうせ月が何か注文でもしたのだろう。俺はなにも気にせずに、また寝てしまおうと目を閉じた。
月「お兄ちゃんにお客さんだよ!」
天「•••は?」
どうやら俺に用らしく、目をぱちくりとさせて妹に目を向けた。
衣舞紀「昨日ぶりだね、天」
天「衣舞紀さん•••どうして来たんですか」
唐突な恋人の登場に、俺は引きつった顔を浮かべてしまう。衣舞紀さんはいつもの穏やかな笑顔で月の隣に立っていた。
衣舞紀「天の事だしずっと寝てるんじゃないかと思ってね」
天「嘘だろ完全にバレてんじゃねぇか」
ものの見事に言い当てられて冷や汗が流れた。月は感心したような顔を衣舞紀さんに向けている。
衣舞紀「本当にずっと寝てたみたいね•••ダメよ?昼夜逆転とかで生活バランスが崩れたら仕事にも支障をきたすわよ?」
天「わかってますけど、眠いのは眠いんですよ•••」
言ってるそばから俺は既に首が不安定な動きを見せていた。自然と目を閉じていて視界が真っ暗だったが、衣舞紀さんがため息を吐いたのがなんとなくだがわかった。
衣舞紀「どうしよっか•••?まだ寝かせた方がいいかな?」
月「多分夜まで熟睡コースですよこれ。流石に昼夜逆転は見過ごせませんよ」
衣舞紀「それもそうね•••何か起こせる方法がないかしら•••」
天「••••••すぅー••••••」
月「あ、寝た」
衣舞紀「はい起きるっ」
天「ん゛っ」
背中を思い切り叩かれて、変な声を漏らしながら目覚めた。そしてだんだんとイライラし始めてきたのがわかる。
衣舞紀「••••••よし、天!ランニングしよっか?」
天「え゛」
突然の提案に、俺は驚きと困惑が混ざった声が漏れた。月は苦笑を俺たちに向けている。
衣舞紀「眠たい時は運動に限るわ!ほら、今すぐ着替えた着替えた!」
天「え、えぇ••••••」
あまりにも強引な衣舞紀さんの行動に、ただただ俺は引っ張られてしまう。返す術もなく、俺は運動着に着替えさせられて、外に追い出されてしまった。
よく晴れた外を衣舞紀さんと一緒に走り続ける。夏休み後半だが、平日なのには変わりないのでスーツを着たサラリーマンが多くいた。多分昼休憩の途中だろう。
天「••••••」
衣舞紀「どうかした?」
天「いえ、何でもありません」
やたら顔が死んでるリーマンが多いな、と感じる。ブラック企業勤めか、はたまた残業確定のお知らせでもされたか。真意はわかりかねるが、何か良くない事が起こったのは確かなのだろう。
そして今後も忙しくなる事を考えたら、俺も近くにいる人たちの用に顔が死んでしまうのだろうか。そう考えたら少し怖くなった。
衣舞紀「もしかして、この先が不安?」
天「••••••はぁ、なんでわかるんですかね」
いとも簡単に思考が読まれて、ため息が漏れた。衣舞紀さんはいつもの明るい笑顔を見せて、口を開く。
衣舞紀「最近になって天の考えてる事が結構わかるようになったのよ?それに元からわかりやすい顔をしてるもの」
天「え、マジですか••••••」
衣舞紀「マジよ。そりゃ家族から思考を読まれてもおかしくないわね」
意外な事実を突きつけられて、俺は少し凹む。バシバシと衣舞紀さんが俺の背中を叩いたが、慰めにもなりゃしねぇ。
衣舞紀「もう少し走ったら折り返しましょう。その後はどうしようか?」
天「俺は何も考えてませんけど」
衣舞紀「さっきまで寝てたんだしそれもそうか。今日は天の部屋でゴロゴロしようかなー?」
天「•••いいですよ」
特に不満もない。俺は頷いた。しかし、何kmも走っているのにここまで余裕で会話できるのに自分自身が驚く。これも父さんから扱かれた成果なのかね。
衣舞紀「天の今後にも期待ね。また大きなところに連れて行って欲しいわね」
天「任せといてください。伊達にマネージャーやってませんから」
生意気な顔を衣舞紀さんに向けて、俺は少し走る速度を上げた。彼女もすぐに反応して足の動きが速まる。
まだ積み重ねていくものも沢山あるだろうが、いずれ必ず、俺はPhoton Maidenをもっと大きな舞台へと連れて行く。前々から決めていたことを、改めて誓った。
ちなみに咲姫のアフター終わったら完全に引退します。