東方幻葬郷~Invisible Illusion~   作:狭間 栞

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【第壱章】『嚆矢』
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夏の暑さもとうに過ぎ、秋の心地よい涼しさが頬を撫でる今日この頃。

ここ、博麗神社(ハクレイジンジャ)ではいつもと違う一面が顔を見せていた。

 

 

神社を取り囲むように生い茂った辺りの木々達はすっかり色を染め紅葉を予感させ、落ち葉を舞い上げる木枯らしは神社の悲愴感をよりいっそう漂わせる。

木材の色合いが閑散とした状況を演出させ、ひゅうという風の音がすべての要素をさらに駆り立てた。

落ち葉だらけの境内を出口に向かって真っ直ぐに進んで行くとそこにある立派に飾られた真っ赤な鳥居がよく目立ち、良くも悪くも秋の季節の象った、今日の神社はそんな神社であった。

 

 

そして、ここにもまたもう一つ……。

変わった神社の一面がまた顔をだしていた。

 

 

 

「あら~、博麗の巫女たる者がが昼間から寝てばっかでどうかしたのかしら~?」

 

紫色の服を纏い、金色の髪の上に被った特異的な白の帽子をした綺麗な女性は、布団に寝ている少女に向かって嫌味に話しかける。

 

 

「うるさいわね~、今は風邪引いてて寝込んでるのよ。見てわからない?

 用があるなら今日は無理だから、ほら帰った帰った。」

 

 

 

そっけない態度で女性を軽くあしらっている所を見ると、こうやって嫌味に言われるのはいつもの事なのであろう。

手慣れた感じに会話を終わらせ、自分はそそくさと布団の中に戻っていく。

女性はまだ何か色々と話しかけてきていたが彼女は話の半分も聞いていない感じだった。

まぁ、風邪で身体もだるくて頭もボーッとしている時にあれやこれやと話されても頭に入らないのは当然っちゃ当然だとは思うが。

 

 

「も~つれないわねぇ、せっかくこうやって看病しにきてあげたっていうのに……。」

 

 

「じゃああれやこれやと喋らないで欲しいんだけど……。頭痛いし、看病してくれるのは有難いんだけどさ。」

 

 

わかったわ、と言ったのも束の間

具合は大丈夫?とか

何かいるものはない?とか。

過保護並に心配して止まらない女性の様子に流石の彼女も呆れた模様。

何か言わないと終わらないなと思った彼女は流石に観念したのか、とりあえず水とお腹に優しい物とだけ言って置いて安心して布団に潜った。

 

 

「どうしてあんたは其処まで私にしてくれるのよ、今日のあんたなんかおかしいわよ。」

 

 

素朴な疑問だった。

 

確かに今は病人ではあるが、ここまで手厚く看病された事は今までには無かった。若干の違和感を覚えただけで

どうせまた何かの気まぐれだろう

と、それ以外にあまり他意は無かったのだが女性は綺麗な髪を揺らせ、振り返りながらこう言った。

 

「そうね……下心が無いと言えば嘘になるんだけどね、今日はあなたに大事な話があって来たのよ。」

 

深刻な顔だった。

 

 

「また異変?勘弁してよね……こんな時に、今回は私はパス。あんたか魔理沙辺りが代わりに行って頂戴。なんかそういう訳にもいかない様な顔してるけど、今は考えれる様な頭は持ってないのよ。」

 

 

面倒臭さが半分、嫌な予感が半分。

そんな所と言った感じだろうか。

いかにも興味が無さそうに少し大きな声で話す、何も起こっていないのに胸が締め付けられる感覚。彼女の言動の抑揚の仕方からそういう意図が伺えた。

まぁ正直、今は寝たい気持ちが一番勝っていただろうとは思うが。

 

 

「そうね……そう言われる気がしたわ。とりあえず、貴方抜きじゃ出来ない話だから今はしっかり休んで頂戴。これからやる事がたくさんあるからね、巫女さんには頑張ってもらわないと。」

 

 

これから気持ちよく寝るって時に嫌なことを聞いてしまった……こんな事なら先に寝ておけば良かった。

彼女の言葉を代弁するとこんな感じだろう。

せっかく安息の時間がやってきたと思った矢先のこれである、心配しないで寝なさいとは言っているが自分抜きでは出来ない話となると嫌でも神経が高ぶってしまう。

いい迷惑だ。

 

 

「はいはい、わかりましたよ。今はお言葉に甘えて休まさせていただきます。休める時間が今だけだと考えると気が参るわね、せっかくこれから寝るって時に……。」

 

 

自分の安眠を妨害された苛立ちから多少皮肉も交えて不貞腐れた感じで寝返りを打つ。

 

 

「それに……。」

 

 

「それに?」

 

「いや、何でもないわ。まぁ私が言わなくても新聞屋さんが届けてくれると思うわ、貴方へのモーニングコールは。」

 

 

先程までの深刻な顔とは打って変わって疑いの無い笑顔で彼女に微笑みかける。少し……笑顔の裏に不安を残しながら……。

 

 

「嫌なモーニングコールだわ、五月蝿いったらありゃしない。でも新聞屋がとり上げるっていう事はそういう事なんだろうとは思うんだけど、どうでもいい異変である事を祈るわ。」

 

「そうね……本当にそうでない事を祈るわ」

 

 

話の口調からして、とても心に余裕がありそうな彼女が柄にも無くしおらしい事を言うという事は、今回の異変とやらはそれ程深刻なのであろう。

少しだけでも可能性を信じていた彼女だったが、こんな事を言われてしまっては面倒臭い事というのはもう決まったようなものだ。

勘弁してほしいものだと巫女は思っただろうし、感情が思いっきり顔に出てしかめっ面をしている。

 

 

「あーもう!そんな事言われたら余計眠れなくなるじゃない!」

 

 

布団の中で手足をジタバタとさせながら不満の意を表す。

さっきから彼女も気にしないで早く寝ればいいと思うのだが……それでもなんだかんだで気にかけてしまうのが彼女の優しさであり人を惹きつける魅力なのかもしれない。

 

 

「何?その不服そうな顔は」

 

 

「あんたがそうやって真面目な顔するって事は、何か良からぬ事が起こる前兆なのよ」

 

 

布団から半分顔を出して頬を膨らませながら彼女に訴えかける。

事実、普段では起こらない事が起こっているし嫌に場の空気が凍りついている。

巫女の背中には冷たい冷や汗が流れ、悪寒が走り、ピクリとも動けないまま互いの体が硬直し一瞬の間が空く。

 

 

 

 

 

 

「霊夢さーん!」

 

 

静寂を切り裂くは一人の女の子の声。

黒い翼を羽ばたかせながら空から物凄い早さで地面についたかと思うとその履いている下駄で勢いを止め、少しよろけながら大事にそうに一枚の新聞を握りしめ巫女の方へと近づいてくる。

早すぎる来客に巫女は愕然としたが、今はそんな事を気にしている暇では無い。

いろいろとムズムズとするし、このなんとも言えない謎の正体を暴く為にもとりあえずは今は情報が欲しかった。ある意味嬉しい来客。

止まぬ頭の痛みを抑えつけるように額に手を当て、重たい身体を持ち上げてその少女の元へとずるずると足を運ぶ。

 

 

 

「ちょうど良かったわ文……大体はわかっているけど、一応用件は聞いてあげるわ。手短にお願いね。」

 

 

カラカラの声を発しながら彼女は目の前の少女に問いかける。

よろめく巫女を支えながら、今にも泣き出しそうな顔でその震えた手と声で彼女に応えを返す。

 

 

「霊夢さん……何も言わずこれを見て下さい……」

 

 

 

少女もこの世の終わりのような顔をしていて、真剣な顔で渡された新聞を奪うように手に取って一文字一文字を頭に流し込むように読んでいく。まず表の一面に目を奪われ、そこから無言で新聞を読んでいき終わりに近づくにつれてどんどんと巫女の顔が青ざめていく。

嘘か真かもわからない心情で新聞を読み終え、もう一度静まり返ったこの場を見渡し事態を把握する。

 

 

「嘘よね……またあいつの仕掛けた訳の分からないサプライズとかドッキリとか、あんた達も演技してるだけなんでしょ?そうなんでしょ!?」

 

 

あまりの動揺に喋り方がしどろもどろになり、先程までの頭の痛みや身体のだるさ、風邪だという事を忘れてしまう程その新聞には衝撃的な事が書かれていた。

何度も焦りながら求める答えを求めて彼女達に何度も何度も問いかけるが、彼女達は下を向いてずっと無言のままだった。

目を合わそうとしても合わせてくれず、訳の分からないわだかまりが巫女を苛つかせる。巫女が痺れを切らして何かを発しようとする所を、金髪の女性がすっと割り込む。

 

 

「仮にサプライズやドッキリだとしましょう。今日は何の日なの?あなたにとっては何も無い日だし、仮に他の人の特別な日だったとしても私達がここまで隠す理由なんてあるの?」

 

 

「それは……無いけど……」

 

 

余りにも鋭い正論であった。

確かに、巫女にとっての特別な日という訳でも無いし、巫女が忘れているという訳でも無い。知人にとっての特別な日でも無いしそれなら彼女に隠し通す必要が無いし、むしろ協力を求めてくる側だろう。

信じたくない一心で、苦し紛れに放った一言もその言葉によって無惨にも打ち砕かれる。

紛うこと無き、その紙面に書かれている事は本当なのだろう。

 

 

「本当……なのね」

 

 

「ええ、本当よ。私も確かめて来たわよちゃんと。」

 

 

「そう……ならわかったわ。とりあえず寝かせて、そこから考えるわ」

 

 

この場にいる全員が事態を把握し、より一層重くなった空気とわかった事による思い出される風邪での身体の重みと共に、重い足取りで彼女は布団へと潜る。

この睡眠が終わったら信じられないくらいの大きな出来事を解決しにいかなければならない……。

そんな事も考える暇も無く、彼女は深い眠りについた……。

彼女達をここまで震わせた新聞の一面には、こう書いてあった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『紅魔館当主、レミリア・スカーレット死す。』……と。

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