東方幻葬郷~Invisible Illusion~ 作:狭間 栞
ここは何処だろう・・・・・・。
目を開けると視界に入ってきたのは、木製の天井板。
辺りを見渡してみると、僕は何処かの建物の和室に通され、今は畳の上に敷かれた布団で寝ていた。
体を起こしてみると全身に痛みが走る、だが身体に包帯も巻かれているし丁寧に布団も敷かれている。
これと言って何かされたという形跡も見当たらない。どうやら親切にも介抱されていたらしい。
誘拐された、という訳でも無さそうだし、好意に甘えてゆっくり休んで此処の人にお礼でも言いにいこうかな、動けないけど。
他から見ると訳の分からない事をぶつぶつと呟きながらもう一度横になる。
しかし、布団に寝転がったはいいものの自分が何処から来て、なんで気を失ってたのかさえも分からない。
これが記憶喪失って奴なのかな・・・・・・聞いた事はあるけどまさか自分がなるとは思いもしなかった。
自分の住所、経歴、家族。頭の中の何処を探してもそれらしい情報は見当たらなかった、名前を除いては。
「なんで名前だけは思い出せるんだろう・・・変だな・・・」
「大丈夫ですかー?」
「うわぁ!!」
突然声をかけられた驚きからか、痛みも忘れて布団から飛び起きて声のした方へと向く。
人がいたのか。びっくりした・・・・・・考え事に夢中で気がつきもしなかった。
その反動で思い出しかけた名前も吹き飛んだ、とても心臓に悪い。
まぁそんな事は置いといて、ここの家の人なのかな?
とりあえずお礼を言わなきゃと思い、顔を合わせるとそこにはとても綺麗な緑髪の女の子がいた。
いや、とてもどころじゃない、滅茶苦茶可愛い。
ふとさっきまでの行動を思い出し、よくわからない独り言をぶつぶつと言っていた事も聞かれていたのかと思うと急に恥ずかしくなってきた。
顔も近いし・・・・・・というか普通の距離なのだが今の僕の心理状況からするととても近い。
「なんですか人の事をお化けみたいに言って・・・・・・」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
気を悪くしただろうか。
頬を膨らませながらムスッとした顔の彼女を見ると非常に申し訳ない気分になる。
本当にごめんなさい、単純に驚いただけなんです。
あたふたしながら継ぎ接ぎに言葉を繋げた謝罪も『別に構いませんよ』と言って笑って返してくれた。
心の状況は全然なんだけど、とりあえずお礼だけでも言って置かなければ厚かましい人だと思われる。
というか言わないと僕が落ち着かない!
「どなたかは存じ上げませんが介抱して下さってありがとうございます・・・・・・」
「本当に助けたと思いますか?」
「えっ!?」
「フフッ、嘘ですよ。どういたしまして。」
険しい表情から一転して曇りの無い笑顔になる。
勘弁して欲しい……この何分間だけで何回心臓が止まりそうになったか。
だがこういった冗談を言ってくれる所からも敵意が無い事を悟る。
僕が今何処の場所にいるのかはわからないけど、素直に身寄りのない僕を介抱してくれたのは感謝するべきだ。
少し冗談を言われた事に面を食らってしまったが、続けて話そうとしていた所に女の子の言葉が先に入ってきた。
「お昼ごはんが出来てますよ、良かったら一緒に食べていきませんか?」
お昼ごはん?
・・・・・・という事は今はお昼なのか、いやでも流石にご飯まで頂戴するのは失礼すぎるというかなんというか・・・・・・。
手厚く介抱までしてもらったのに、その上昼食までいただくのはなんというか……有難いのだが僕の心がもやもやして表現できない。
とにかくこれ以上色々してもらう訳にもいかない。丁重にお断りしなければ。
「いえ・・・・・・流石にそこまでしていただくのは贅沢ですので・・・・・・」
「良いんですよ、ご飯は基本的に私が作ってますし文句は言わせませんよ。早く来てくださいね、冷めちゃいますから。」
そう笑顔で僕に言った後、彼女は上機嫌で部屋の外へと出て行った。
断り切れなかった事による大きな溜め息をつき、まだ痛みの残る身体を持ち上げる。
横にあった眼鏡をかけて居間へと足を運ぼうとしたその時。
その居間が何処にあるのかを聞いてなかった事を思い出し、もう一度大きな溜め息をつく。
本当何やってるんだ僕は・・・・・・。
どれだけさっきまでの自分が取り乱していたかがはっきりとわかる。
と、とりあえず部屋の外に出てみるか・・・・・・