東方幻葬郷~Invisible Illusion~ 作:狭間 栞
目の前の女の子が、可愛らしく袖を振りながら僕の方に話しかけてくる。
少し食い気味に話しかけてくるせいか、焦った僕の若干のあたふたとした問答がありながらも、ここの家族の方が笑顔で僕の入居を温かく迎え入れてくれた。
なんというか・・・・・・本当に人の良い人達だ。
正直、相手の視点から見て見ず知らずの人にここまでしてくれるのは、僕からすればよっぽどの聖人君子か腹に何か考えを持っているかのどっちかなんだけど、この人達は前者みたいだね。
心の片隅に若干の不安はあるが、無理やり自分を納得させて僕はここの人達と他愛も無い会話をした。
趣味とか好きな食べ物苦手な食べ物、本当にどうでもいい事から少し踏み込んだ所まで、色々と話した。
記憶があった頃の自分がどうだったかはわからない。
でも、話しているうちにどこか懐かしさを感じたし、自分は今この会話の中でいるんだという口の奥がムズかゆくなるような、そんななんとも言えない嬉しさを感じていた。
「そういや名前、名前まだ言っていなかったね! 私は洩矢 諏訪子(モリヤ スワコ)っていうんだよ
んでこっちのお母さんみたいなのが神奈子!」
「お母さんっていうな・・・・・・えーまぁ紹介に預かった八坂 神奈子(ヤサカ カナコ)だ、よろしくな」
苗字が別・・・・・・って事は家族じゃないって事?
てっきり家族だと思っていた僕は思わず出そうな言葉を飲み込んだ。
というか会話の雰囲気からしてそれっぽかったのに家族じゃないのは純粋な驚いた。
あちら側の複雑な家庭事情もあるのだろう、これから先の事も考えて、下手に散策するよりかは黙っていた方が、変な摩擦を生まない方がいいのであえて僕はそれを飲み込んだ。
もしかしてだけれども、あの女の子も・・・・・・。
「それでそれで、君のその隣にいるかわいい女の子が早苗っていうの!」
「東風谷 早苗(コチヤ サナエ)です。よろしくお願いしますね美琴さん」
やっぱり。
嫌な予感はしてした。
もしかしたらとは思ったけど、いよいよ苗字が全員違うとなると本当に聞かなくて良かったと改めて本気で思った。
こちらに向けてくる笑顔が凄い眩しくて、思わずこっちも笑みが出てきてしまう。
でも、こんな子でもそういった複雑な過去があるのかと思うと少し複雑になってくる。
いや顔が綺麗とか可愛いからとかそういうのじゃなくて、こんなに性格良さそうなのに一時は不運な出来事に巻き込まれてこういった現状になっている事が不憫で仕方ない。
まぁ僕がこんな事を思っていたって仕方が無いし、彼女達が今幸せなら僕はそれでいいと思う。
明るい自己紹介だったはずが、変な疑問のせいで僕の心境はちょっとだけ暗くなった。
無駄に考えこんでしまう癖、自分でも悪い癖だと思う。
「あっ、はい・・・・・・よろしく・・・・・・お願いします・・・・・・ね」
「あーっ!美琴君照れてるー!」
「か、からかわないでくださいよ諏訪子様!」
「ふふふっ、さぁ美琴さん 部屋に案内するのでついてきてくださいね」
「くれぐれも襲っちゃ駄目だよ美琴君」
「もう!神奈子様まで!」
「はははっ、じゃあ行ってらっしゃい」
そんなに照れていただろうか自分・・・・・・。
確かに早苗さんとの初対面はそれこそ顔真っ赤だったかもしれないけど、今は流石にそんな事無いと思うんだけどなぁ・・・・・・。
軽い茶化しももらって、いい感じに緊張も解けたから良しとするけどちょっと疲れたかな。
口と心の中では軽くそう思っていたかもしれないが、その時の僕の顔は感情と裏腹に確かに笑っていた。
たとえ半分はそう思ってても、やっぱり改めて自分はここに居ていいんだという安心感を感じて、安堵なのかそれとも純粋な嬉しさなのか、
心の中に風が吹いて身体が開放された感じがした。
「もう・・・・・・ひどいですよね早苗さん――。」
「まぁまぁ」
嫌だったとかそういうのじゃない。
ただ、冗談を言ってくれる事が嬉しかった。
僕は照れ隠しの為に、部屋を出るまでずっとさっきの愚痴を言っていた。
早苗さんはずっと笑顔でそんな僕の話に相槌を打ってくれ、一緒に笑ってくれた。
そんな反応が嬉しくて、僕もついつい色んな事を早苗さんに話しかけた。
申し訳ないと思う反面、ずっと僕が話す形になって僕達は居間から出て行った。
「・・・・・・記憶が無くなってても、その呼び方は変わってないんだな」