日本国首相。つまりは国会の最高権力者だ。そんな偉い人の孫娘が目の前に居る。理由は分からないが、普通じゃない。
「……失礼ですが、何の御用ですか?」
精一杯平静を装って質問する。何かあったら人生詰むぞ俺ッ……!!
「先程も申し上げましたが、勇名轟く貴方様とお話しがしたかったのです。それと、祖父からの手紙を預かっています」
「て、手紙……ありがとうございます……」
手紙がメインじゃね?と思ったが、流石に言えなかった。いや、首相からの手紙とか滅茶苦茶怖いんだけど。取り敢えず仕舞っとこう……
「今すぐ読んで頂けますか?祖父から、渡したらすぐ読んで頂く様に言われてまして。急かす様で申し訳ありません」
逃げ道を塞がれた。
「……ハイ」
えっ、益々怖いんだけど。死ぬの?俺。
「……えっと、なになに……」
【拝啓 志摩・飛鳥殿 貴殿の活躍は国内外問わず、評価されており、我が国にとっても大きな希望となっている。】
めっちゃ褒めてくれてる。えっ、嬉しい。でも希望は大袈裟だ。
【その功績、そして人望を考慮し、後日行われる催事に招待したいと思う。是非とも参加して貰いたい】
「……パーティーのお誘い、ですかね?」
「そう言えば祖父が、今回の作戦が成功した場合、何か催し物を行うと申しておりました。その招待の手紙でしょうか」
手紙の入っていた封筒に、もう二枚紙が入っていた。これが招待状だろうか。もう一つは何だ?
もう一つの紙を開いてみると、とんでもない事が書いてあった。
【催事の翌日、縁との見合いの席も用意する予定だ。色好い返事を期待する】
「ブフォ!?」
「如何なさいました!?」
読み終えた瞬間、反射で紙を破ろうとしたぞ!!何この訳の分からない状況!?脳みそ焼き切れるわ!!
「今日どうなってんだよぉ……」
「あ、あの……?」
「蛍川さんは、手紙の内容御存じないんですよね?」
「は、はい。もしや何か失礼な事でも……?」
ここは正直に言うべきか?後々になるのも良くないよな。
「……お見合いするらしいです」
「志摩様がですか?」
「そうですね……蛍川さんと俺が……いえ、私がですね」
「祖父が志摩様とですか?」
「何で!?見合いの組み合わせ特殊過ぎるわ!!……あっ」
やってしまった。思わず突っ込んでしまった。
「あ、お気になさらず。貴方様の性格やお話しは、アズズさんや、宮古さんから聞いておりますので」
「アズズと宮古?」
「はい、私達は同期と言われる間柄なのです」
「成る程」
「ですので、私に対する接し方もアズズさんや、宮古さんと同じ様にして頂きたいのですが。それに蛍川だと祖父と同じでややこしいので、縁と呼んで下さい。私も飛鳥様と呼びますので」
このタイプの人は案外曲がらないからなぁ。早々に降参した方が良いな。
「……分かった。でも様付けはやめてくれ。慣れない」
「はい」
「………………」
いや、状況悪化してない!?そんな気軽に話し掛けられないけど別に!?
「お見合いの件ですが、祖父の気紛れみたいな物ですので、あまり深く考えない方が宜しいかと思います」
「……そうなんだ。生きた心地しないわ」
「私との縁談は嫌ですか?」
「そう言う訳では……いや、正直困ってるけどさ」
「成る程、祖父に報告します。嫌いだと言われたと……」
「待って!?」
「冗談です」
「真顔だったよね!?」
「ポーカーフェイスなんです」
「何かルサルカ相手にしてるみてぇだわ……」
こんな感覚久し振りだわ。もうこれ俺が完全に勝てないタイプの相手だわ。
「ルサルカ。欧州のセカンド・ワルキューレですか?」
「やっぱり有名人だなアイツ」
「有名人なら、飛鳥さんもですよ」
「所詮は吹けば飛ぶ存在だけどな」
「アズズさんや、宮古さんから聞いた通りの人ですね。自己評価がとても低い御方です」
自己評価も何も、吹けば飛ぶのは事実ではあるが。
「数多の戦場を翔び、生き残るのは人類にとって希望なのです。自分を卑下しないで下さい」
「そう言われても、実感湧かないな」
感慨に耽っていると、また部屋の扉が開かれた。何人目だこれで。
「飛鳥~!!起きたって聞いたから、ご飯持ってきたよ~!!」
入ってきたのは宮古だった。手にはお盆を持っている。滅茶苦茶湯気が立っている。熱々だ。
「宮古待ってくれ。俺は今食欲が無くてな。それに今、来客中でな?」
「あっ、縁ちゃんだ!!ひっさしぶりー!元気してた?」
「お久し振りです、宮古さん。お陰様で元気ですよ」
同期らしく、フランクに挨拶する宮古。いや誰にでもこんな感じだわ。
「取り敢えず飛鳥、ご飯食べよう!」
「食欲無いって……」
「はい、あーん」
「聞けよ」
「あーん」
「食べないぞ。それに食べるなら、自分で食べるし」
何で人の前であーんされなきゃアカンのだ。手は何とか動くから自力で食うわ。
「食べ物を粗末にしてはいけませんよ、飛鳥さん?」
「そうだそうだ!縁ちゃんの言う通りだ!」
「……少しだけ食うから勘弁してくれ」
二人に押し切られる形で、食べる事にした。何なんだこの連携力……
「はいあーん」
「自力で食える」
「あーん」
「待て。そもそも、その肉じゃが滅茶苦茶熱いだろ。明らかに湯気が凄いぞ」
「暖めたから。姉御のリクエストのお肉ゴロゴロ肉じゃが!!」
そう言えば出撃前に天塚が肉じゃがリクエストしてたな……
「だから、あーん」
「冷ませよ!?」
「縁ちゃん、ふーふーしてあげて?」
「何で首相の孫娘にやらせる!?」
「ふーふー」
「しかもするの!?」
「縁ちゃんがふーふーした肉じゃが……食べなかったら付き人の2人に何されるか分からないよ?」
「付き人……?」
部屋の入り口を見ると、二人の女性がこっちを見ていた。顔がそっくりだ。双子だろう。一人は凄い形相でこちらを見ている。あの二人が付き人だろうか?
「紹介します。私の付き人をしている、一橋・渚と、一橋・遊馬です」
「一橋・遊馬です。宜しくお願い致します」
「一橋・渚……エンちゃんがふーふーした肉じゃがなんだから、食べなきゃ極刑だからね!?いや、食べても極刑!!ふーふーなんて羨ましい!!」
「食っても食わなくても死ぬの俺!?」
一人は大人しい常識的な自己紹介だったが、もう一人は中々恐ろしい事を言ってきた。遊馬って方が姉だな多分!
「私がお姉ちゃんだからね!?」
「……よく言われるんだな?」
「馬鹿にしてぇ!!」
「姉がすみません……」
キャラ濃いな。アズズと宮古の同期だし、これくらいじゃないとやっていけないのか?魔境過ぎるだろ。
「とにかく!!早くエンちゃんがふーふーした肉じゃが食べなさいよ!早く!!」
「……いただきます」
急かされたので、食べる。美味し……流石は宮古の肉じゃが。ジャガイモは固すぎず、出汁が染みている。これは美味い……
「美味過ぎて、馬になったわね……」
「飛鳥さん!?」
「大蛇の人!?」
姉の方は元ネタ知ってるのか。ノリも良さそうだ。しかしそれ以前に……
「今日俺ツッコミばっかりしてるんだよな。本来俺はボケ担当の筈……!!アイデンティティが無くなってしまうんだ!!」
「飛鳥は確かに存在がボケだよね」
「宮古!?何か酷くない!?」
「存在がボケ……?な、なんでやねん?」
「縁さん、無理にツッコミしなくて良いんで……いや本当に」
こんな所で真面目を発動しなくて良いので。
「で、宮古は食事持ってきた以外に用事あるのか?」
「なんでやねん」
「作戦会議、出れそうなら出るように伝えてってさ。タブレットでテレビ会議だよ」
「まぁ俺動けないしな。分かった」
「なんでやねん」
「取り敢えず俺も考えは纏めとくかぁ……オーディンの考えなんか分からんが、仮説は色々と……」
「なんでやねん」
「誰かツッコめぇぇぇぇ!!この人、俺が喋る度になんでやねん言うつもりだぞ!?」
「「「「……?」」」」
全員で首を傾げるな!?俺か!?俺がおかしいのか!?
「エンちゃんがあまりにも可愛かったから……」
「可愛かったねー!」
「新鮮な縁様が見れました」
「好評で何よりです。ツッコミをマスターしました」
「アズズ……今までツッコミに専念させてゴメンよ……俺もツッコミ頑張るから……」
決意を新たにさせられた俺だった。その後、会議の時間となり、みんな出ていった。療養中なのに、酷く疲れた。あと、宮古とアズズは仲直りしたみたいだ。俺もお祭り行きたかった……
遊馬と飛鳥って読み方似てるよね。