館山基地へ行くのは三日後。それまで暇なので街をブラブラ歩く。クラウディアは機体の調整で居ないし、俺の機体は無いし。知らない土地だから行く宛も無いしな。どうした物かと考えてると、酒場が目に入る。
「酒場かぁ……酒はあんまり飲まないけど、たまには良いか。腹も減ったし」
酒場に入って店内を見渡す。中々盛況の様で、空いてる席は少ない。空いてる席はカウンター席くらいか。ふとカウンター席を見てみると、見知った背中を見付けた。ルサルカだ。
「よぉお姉さん、隣良いかい?」
「……何だ。貴君か」
「今はオフだしその話し方辞めたら?似合わんわ。何だよ貴君って初めて言われたわ」
「司令らしくないか?」
「やっぱりお前って何かズレてるよな。……マスター、取り敢えずエールとハムの盛り合わせで」
適当に注文してから、ルサルカをチラリと見ると、少し落ち込んでいるみたいだった。昔からだった。ルサルカは理路整然、付け入る隙も感じさせない完璧人間だと思われがちだが、滅茶苦茶分かりにくいが冗談とかも言うし、コミュニケーションが苦手なだけだ。それに対しても改善しようとして、努力している。その努力がズレた方面だから更に誤解される事も多いけど。
「私はまた何か失敗したんですか……」
「失敗と言うか努力の方向性が違うよな」
「……司令とは常に冷静で厳格な者です。あの話し方が最適と思ったのですが」
「“俺達の司令”がそれに当てはまるか?」
“俺達の司令”その言葉にルサルカは反応を示す。司令に一番近かったルサルカには最も効く言葉だろう。
「あの人は司令でありながら司令らしくありませんでした。ものぐさでデリカシーも無く……」
「でも優秀だったし、何より命を預けるに足る人だった。最も根本的な部分は俺と真逆だったけど、俺は嫌いじゃなかったよ」
「……根本的な部分?私は貴方とあの人は似てると思いましたよ。話し方も似てます」
「見栄っ張りな男の話し方なんて、みんな変わらないもんだよ。それに話し方なんて上辺だ。中身……信念が真逆なんだよ俺とあの人は」
「信念ですか?」
ルサルカはグラスを傾けながら聞き返す。
「そうだよ。つまりお前とも信念が真逆なんだよ。俺は最終的には他人の為に戦って無いし、飛んでない。人類の希望になるつもりも無い」
「では貴方は何の為に?」
「自分が生きる為だよ。戦友の死を他人の死を悲しんでやる。弔いもしてやる。死んだ戦友を思い出してやる。でもな、俺はそれを糧にはしない。戦う動機にはしない。ピラーを倒さなきゃ生きる未来が無いから戦う、それだけだ」
「……なら軍人なんか辞めてしまった方が良いのでは?逃げる事は出来る筈です。今回の戦いも危険でした、生きる為なら戦地に居るのは矛盾では?」
俺は目の前に出された酒を一口飲むと、ルサルカの問いに答えた。
「空を飛ぶ仕事って今は軍しか無いからな。輸送機でも構わないんだが、五年以上生き残ったパイロットは貴重でな。もう引っ込めなくなっちまった。生きたいけど空も飛びたい。だったら死なない様に戦って飛ぶしかない」
「昨日墜落してましたけどね」
「生きてるから良いんだよ。ほっとけ」
「冗談です」
「相変わらず分かりにくい!!」
酒を飲んで、ハムを口にする。塩加減が絶妙で美味い。やはりアルコールにはハムだな。
「……」
「何だよ」
「……」
「何か言えよ?」
「……いただきます」
「おおぅ!?」
こいつハム持っていきやがった!?あまりの早さに反応出来なかったぞ!!
「食いたいなら自分で……もう半分無くなってる!?」
「ご馳走さまでした」
「人のハム半分強奪しといて満足そうな顔すんな!!」
クソ……酒の席で食べ物強奪されるなんて司令と飲んだ時以来……あぁ、成る程。
「また努力の方向性を間違えたな?」
「何の事ですか?」
「司令の真似したんだろ?」
「?私はハムが食べたかっただけです」
「自分で頼めや!!畜生何か懐かしくなった俺がバカみたいだ!」
「冗談です。司令の真似です」
「分かりにくい!!」
不器用ってレベルじゃない……何でこうも……
「因みに私と貴方は似ていますよ。私も空を飛びたくてパイロットになりました。今は希望になる為にですが、空を飛ぶ最大の理由は空に憧れた。好きだからです」
「……俺のハム凝視しながら言って無かったら多少は嬉しくなってたわ」
「……私にもハム分けて下さい」
「半分食ってまだ食うの!?……マスター、ハム盛り合わせ追加で……」
「ご馳走になります」
「もう酒の代金も出してやるよ全く……」
本当に……酒の席だけ司令に似やがって。
《ハム分けてくれ!!》
《さっき俺から半分持ってったでしょうが!?》
《忘れたなぁ。昔は振り返らない主義で……》
《もう良いです。ハム追加で》
《よっしゃ奢って貰った!!》
本当に似たな……いらない所まで。
「どうしました?」
「いや、何でも無い。少し思い出してただけだ」
「思い出……ですか。さっきの貴方と私が似ていると言うのは本当ですよ。空が好きで憧れて、飛びたくて。でもピラーが現れて……」
目を閉じ、語るルサルカ。俺も黙って話を聞く。
「その後パイロットに繰り上げでなって、“戦翼の日”や“セカンドワルキューレ”になったり色々ありましたが……やはり空が好きで、空の事を思わない日はありませんでした」
「……そうか」
「はい」
その後の言葉は無かった。沈黙が流れる。店の喧騒が有れど、俺達二人の間には物音一つ無かった。そんな沈黙を破ったのは俺だった。
「……やっぱりお前はその話し方の方が良いぞ」
「そうですか。ならこの話し方に戻しましょう。それではそろそろ私は帰ります。ご馳走さまでした」
「あぁ。またな」
「はい、失礼します」
ルサルカが店を出るのを見送ってから酒を追加で注文する。
「エールおかわりと、店の酒を一つ……瓶で酒買って帰って良いか?」
☆☆☆☆
自室の扉を開けると意外な人物。否、神が居た。
「……ショタ神様やんけ」
「その呼ばれ方は初めてだぞ」
「不法侵入ショタとかお姉さん達がお仕置きと称してあれやこれやしそうだな」
「貴様の思考はどうなってるんだ。不敬を通り越しているぞ志摩・飛鳥」
見た目がショタなのが悪い。おねショタでショタに主導権を握らせるな!!
「敢えてその思考を覗かせようとしているだろう貴様」
「分かる?」
「……ここまで理解出来ぬ人間は初めてだぞ」
「やったね。で、用事は何すか?」
「単刀直入に言う。“エインへリアル”になる気は無いか?」
「無いっすね」
俺の即答にオーディンが目を細める。怒ったかな?
「拒否する理由を教えろ」
「エイリアンリアルだかエインへリアルだか知らんが変なのになるつもりは無いっすね」
「“アレハンドロ”の後釜の様な物だが?」
「……へぇ」
「やはり興味を持つか」
性格良いのか悪いのか分からん勧誘の仕方をする。司令の後釜……あの“アレハンドロ・オストレイ”の後釜なら興味が出るのは当然の事だ。それどころかもう答えは出た様な物だ。
「ではもう一度問う。エインへリアルになる気は無いか?」
「無いな。絶対に嫌だね。誰があの人の後釜なんぞやるか。俺は誰かの為に飛ばない。そして俺の為に誰かを飛ばせるつもりも無い。あの人は色々託して死んだからな、本当に気に入らない」
またも拒否する俺にオーディンは怒りを向けずに笑った。大笑いだ。
「ははははっ!!あの男も嫌われた物だな!!」
「嫌いじゃ無いさ。だが最期の最期で大戦犯かましたんだ、ムカつきはするんだよ」
「まぁ僕の娘を泣かせたのは確かに赦せないな」
「男女関係で過保護な父親も嫌われると思うけどな」
「エインへリアルにならないのは不問としよう。面白い話をして貰ったからな」
「それはありがたい事で……非礼の詫びって訳じゃ無いが、酒でも飲んでくか?買ってきたんだ」
酒瓶を見せるとオーディンは興味深そうに見る。
「人間の酒か……たまには良いだろう」
「ショタのままで飲むなよ?」
「娘でもエインへリアルでも無い貴様に別の姿を見せるつもりは無いな」
「そーですか。まぁ構わないか。盃出すんで待ってなよ」
そう言って盃を“五つ”出す。そうするとオーディンは不思議そうな顔をした。
「貴様は見えないお友達が居るのか?」
「流石、ご明察。都合の良い時にたまに思い出してやる友達だけどな。名前は“アレハンドロ”“エイミー”そしてルサルカから聞いた名前でしか無いが“シーリーン”だよ」
「シーリーンに関しては思い出す以前の話だろう」
「あぁ、やっぱり居たんだな?シーリーン」
「……あぁ。今も世界を護る為に戦っている」
記憶には無いがルサルカの話では、シーリーンはクラウディアの妹らしい。世界にとっての恩人と言っていたから気にはなっていた。
「貴様は誰かの為に飛ばないと言った割には酒をこうやって飲むのか?女々しいな」
「休みの時くらいは戦友や恩人の事を考えてやるさ。飛んでる時は死にたくないの一心だからな」
「人間とは不便だな」
そう言いつつもオーディンは盃を受け取った。
「……乾杯」
「神と盃を交わす人間が居ようとはな……味は悪く無いが詩の蜜酒より美味くは無いな」
オーディンは盃に入った酒を飲み干すと一言残し、姿を消した。
「神様の酒と比べられても困るんだが……さて」
席を立ち、窓から夜空を見上げる。見上げた夜空にある月が、盃の中にある酒に反射して映っていた。
酒ッ!!飲まずには居られないッ!!
現状アニメには居ないキャラ紹介。
アレハンドロ司令。伊達男。
エミリー。ファースト・ワルキューレ。可愛い。
シーリーン。クラウディアの妹。可愛い。