死神と不死鳥と時々天才   作:しろねぎ

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お待たせしました。


八割は宛にならない

ピラーやワルキューレについての有識者として講義する為に、欧州から日本へ戻る様に要請された。何の為に講義をするのかと思ったら、日本でもようやくワルキューレを選抜する試験を行うと言う話しじゃないか。セカンダリ・ピラーの“ヤドリギ”の追跡も難航しているし、何よりヤドリギはワルキューレ以外は確実に殺す様な特性を持っていた為、俺の所属は欧州預かりだったが、アレハンドロ司令と隊長のルサルカは日本政府のこの要請に対して承諾した。正直俺が無力だったのは確かだ。

 

だから俺はこの講義はかなり気合いを入れていた。ワルキューレになる人間を死なせない為にも。だけど現実は酷かった。日本の日和見主義は予想を越えていたのだ。

 

「……つまり何ですか?日本政府はワルキューレ選抜は国際社会に対するご機嫌とりでやっていると?」

「残念ながらな。君が欧州から来てくれたのは嬉しいが……」

 

選抜の教官をしている自衛官の“高屋敷”さんが政府の実情を話してくれた。日本はピラーによる被害を対岸の火事だと思っているらしい。

 

「……そうですか。まぁ偉い人の考えなんて関係無いですけどね」

「あまり無茶な行動は控えて欲しいのだが」

「無茶はしませんよ。無茶は好きじゃないので。ワルキューレに必要な事は教えますけど」

「そ、そうか。取り敢えず講義を頼んだぞ」

 

そう言われて浜松基地の中にある座学用の部屋に入る。中に居るのはワルキューレ候補の現役自衛官と条件を満たした民間の候補者だ。民間とはいえ自衛官の親類等の条件があったが。

 

その候補者達は“男”である俺を見て多少ざわつく。仕方無いか。

 

「静かにしろ!今からピラーとワルキューレに対する講義を行う!!とはいえ、日本の我々がワルキューレの戦いを間近で見る事は無い。なので欧州から特別講師に来て貰った!所属は国連になっているが、日本人の……」

「志摩・飛鳥です。欧州でワルキューレと共に戦ってます」

 

ワルキューレと共に戦う。その言葉にざわつきが増す。

 

「共に戦うってのは語弊がありましたね。ワルキューレの弾除けやってます」

「弾除けなんてそんな……」

 

俺の言葉に一人が反応を示す。綺麗な黒髪をした少女だった。確か沖田・桜だったか。あの“沖田空将補”の娘さんか。

 

「実際囮みたいな物です。ご存知でしょうけど、ピラーに通常兵器は無力なので。外装は剥がせても中身は無傷なんですよ」

「あの、核兵器が効かなかったのは……?」

「事実です」

「っ」

 

核兵器が効かない。それを聞いて全員が息を呑んだ。そうだよな。核兵器が効かないなんて想像出来ないよな。

 

「……それに対抗出来るのがワルキューレ。戦乙女です。だから貴女達に俺は感謝します。候補であろうと、何であろうと」

 

候補者全員に対して頭を下げる。

 

「……面倒な前置きは良いから早く講義してくれませんかねぇ?」

「あ、天塚さん!!そんな言い方してしまっては……」

「いや、まぁ、そうですね。早く始めましょうか。じゃあ、まず確認からで。ピラーに対してどれくらいの情報を知ってます?」

 

俺の質問に少し間を置いて沖田さんが答える。

 

「志摩さんが先程仰られた通り、通常兵器が効かない。後は人類に対して敵対的である。でしょうか」

「成る程、他には?」

 

質問に沖田さんは考える素振りを見せる。が、それ以上の情報は持っていなかった。

 

「……やっぱり情報あんまり渡ってないな。えっと、まずピラーが出現した場所では“枯渇現象”が起きます。植物は枯れ、動物は死に絶えます。人間も例外は無くですね。軽い内は倦怠感程度ですが、放っておけば確実に死にます」

「厄介だね枯渇現象……対策は無いのかい?」

 

先程前向きは要らないと言った“天塚・弥生”が質問してくる。

 

「対策はピラーを早く倒すしかありませんね。オーディンの加護を受けたワルキューレなら枯渇現象で倒れる事は殆んどありません。体調が凄く悪ければ倒れたりはしますが」

「体調管理は大切って事かい」

「冗談抜きに生命線ですね。現場で倒れたのを回収するの結構大変でしたし」

 

枯渇現象の影響受けながら一人背負って移動するのはしんどい。いや本当に。

 

「後はまぁ、ピラーは攻撃の優先順位を決めていると思われます」

「優先順位ですか?」

「はい。一番優先的に狙うのがワルキューレ。つまり貴女達です。英霊機ではなくワルキューレその物を狙います。次に航空戦力。そして地上戦力の順番ですね」

「それなら、戦場で一番危ないのはあたし達って訳かい」

 

天塚さんの言葉に全員が息を飲む。そりゃ自分が一番危ないと言われると怖いよな。

 

「その通りです。今、戦場に出るのが怖いって感じた人は正しいので、情けないとか思わなくても大丈夫ですよ」

「そう、なんですか?」

「はい。少なくとも自分はそう思っているってだけですが」

 

今声を出したのは、最年少ワルキューレ候補の“渡来・園香”だった。まだ十一歳の小学生の年齢だ。怖いと思う気持ちは人一倍だろう。

 

「そうなんですね……私、怖いと思うのはダメだと思ってました」

 

怖いと思うのはダメかぁ……その辺りの考えってどうなんだろうか。

 

「うーん、皆さんって、何の為にワルキューレ……戦乙女になるんですか?色々理由って結構あると思うんですが」

 

この問いかけに真っ先に返答したのが沖田さんだった。

 

「ピラーを倒し、世界を救う為にです!!覚悟も出来ています!!」

「あー……そんな感じ……」

 

滅茶苦茶不安になる返答だった。周りの自衛隊出身は問題無さそうだが、身内が自衛隊出身で適性持ちだっただけの民間候補者達は少し不安そうだった。

 

「……私の返答は不満でしたか?」

「不満と言うか心配ですね。因みに覚悟って何の覚悟か聞いても?」

「命を懸けて戦う覚悟です!!」

「お、おぅ……」

 

俺的に一番困る返答来ました。なんて直接言える訳も無く、言葉を選ぶ。どうしようか。なんて考えていると、沖田さんが少し怒った様子で俺に言った。

 

「なんですか?ハッキリ言って下さい」

 

……これは言うしか無いだろう。周りの民間候補者達は色々悩んでいるみたいだし、考え方に違いがあるみたいだ。あんまり気を張り過ぎても良くないって事を教えよう。

 

「正直言って、命を懸けて戦うのはやめて欲しいです」

「何故ですか?」

 

沖田さんイライラMAXやん。生理?

 

「命懸けでピラーを倒す。それを実行して死んで貰ったら困るからですよ」

「……比喩ですよ。覚悟はそれだけあるって意味です」

「まぁ、比喩なら良いんですよ。本当に比喩で済む相手なら。でも、覚悟って言うなら重すぎますよ。周りの人は命懸けって結構難しいみたいですし」

 

俺に言われてから沖田さんは他の候補者を見た。何人かは沖田の覚悟に困惑しているみたいだ。

 

「負ければ死ぬのに……重すぎる事なんて無いと思います」

「負ければ死ぬからその覚悟は重いんですよ。何で負けた時の事を覚悟しなきゃならないんですか?それよりかは“生き残る覚悟”を持ってくれた方が俺は嬉しいですね」

「生き残る覚悟かい?ピラーがヤバかったら尻尾巻いて逃げろって?」

 

天塚さんが俺の言葉に反応した。意外とこいつも“覚悟決めてる勢”だったか。

 

「ぶっちゃけ逃げて貰った方が嬉しいかもしれませんね。部隊全滅とか一番最悪なんで。今までも何回かやらかして、戦線が後方まで下がって被害拡大したとかありますよ。逆にワルキューレが多く生き延びれば戦線の維持は結構出来ます。後方まで下がっても押し上げれるので」

「そんなにワルキューレって強いのかい?」

「数が揃えば強いですよ。敵が相当な初見殺しでも無ければ。個人で強かったワルキューレは少ないですし、数が大切かと。連携の力で何度救われたか」

 

実際大きさや力で勝るピラーを倒すには数しか無い。ワルキューレが自爆特攻しても倒せるピラーは少ないし、セカンダリ級になると、初戦は情報集めてから、後に攻略なんてざらだ。だから戦線の前方は使い捨ての基地で、少し後方で補給出来る様にしてあるのが多い。

 

「な、なら私の覚悟は……」

「無駄では無いですよ。強い覚悟です。だからその覚悟を少しだけ生き残る方に持っていってくれれば大丈夫。死んだら何も出来ないんです。誰かを守る事もね。沖田さんはピラーを倒す為に戦うんですか?それとも誰かを守る為に戦うんですか?」

 

ちょっとカッコ付け過ぎかも知れないが、こんな感じの人にはこのくらいが丁度良いだろう。

 

「っ!私はっ!私は……この国を……大切な人達を守る為に戦います!そして生き残ります!!」

 

やっばい。思ったより火が着いたっぽい。メラメラって擬音が聴こえて来そうなくらいに。

 

「あーあ、やっちまったね。そうなった桜は大変だよ。付き合いが短いあたし達でも分かるんだ、火を着けちまったなら頑張って相手するんだね」

「マジでかぁ……って言っても、ここから結構ハードだし、丁度良いか」

「今の私はやる気に満ちています!何でもこなします!!」

 

本当にやる気の塊みたいだな。頑張るぞい!のポーズを本当にする人を初めて見たわ。でもまぁ、本当に頑張って貰わないと困るよな。

 

「じゃあやる気満々の沖田さんにお願いしよう!!」

「はい!何なりと!!」

「今から英霊機を受領して貰う」

「はい!……はい?」

 

うーん、動きがあざとい。結構大人びてるのに動きが若干子供っぽいのは強い。

 

「あの?英霊機の受領は叙翼式の後だと聞きましたが……?」

「そうだ。流石にそこまでの独断は困るぞ志摩」

 

沖田さんの疑問に答える前に、高屋敷さんが俺の判断に異を唱える。反対されるのは分かってたけど。

 

「まぁまぁ、何も全員に英霊機を渡す訳じゃ無いんですよ。取り敢えず一機だけです。叙翼式本番で英霊機の出し方が分からずに失敗とかにならない為にもね」

「ならあたしが英霊機を受領するよ」

 

今度は天塚さんが割って入ってきた。

 

「何も桜じゃ無くても良いだろ?あたしじゃ不満かい?」

 

な~んか怪しいな?……ああ、遠ざけてるのか。戦いから。よし、少し意地悪してやろう。沖田さん本人は覚悟を示したんだからそれ以上はお節介でしか無いからな。

 

「妙に突っ掛かりますね?沖田さんに英霊機を渡すのに何か不都合が?それに沖田さんの相手をしてやれと言ったのは天塚さんですよね?」

「あんた……あたしの意図分かって言ってるね?」

「えっ?えっ?何ですか?私、当事者なのに蚊帳の外な気が?」

「……まぁ天塚さんの意図は置いといて、正直ホントに一機は英霊機が欲しいんですよね。ピラーは待ってくれませんし」

 

うーん天塚さんからの視線が怖い。怖いだけで何も無いけど。

 

「あんたさっき個人で強いワルキューレは居ないって言ってなかったかい?」

「良い質問ですねぇ!!」

「……池上さん?」

「渡来さん正解!!っと冗談は良いとして、さっき個人で強いワルキューレが居ないとは言いましたけど、日本に関しては弱いワルキューレすら居ないですからね。もう論外よね。それに関しては俺は激おこですよ」

「激おことか久々に聞いたよ……」

 

一人くらいは予定を早めても問題ないくらいには人数不足だと思うし。何より英霊機乗った感覚とか俺は教えられないし、ぶっつけ本番で欧州に研修とか来られたら多分、大体の新人ワルキューレ死ぬし。うーんこの。

 

「そもそも日本って結構追い詰められてますからね。今、ピラー現れたら詰みですよ。現れない保証は無いんですよ?」

「……何で桜なんだい?」

「えっ、可愛いから……嘘です冗談だからそんな目で見ないで」

「か、かわっ……えへへ」

「桜お姉ちゃん嬉しそう」

 

何このカオス。いや、俺の冗談が原因なんだけどさ。

 

「ちゃんとした理由としては……一番芯が強そうだからですかね。英霊機って信仰によって力を得るらしいんですよ。簡単な言い方をすれば信じる心ですね」

「信仰……ですか?」

「そう、信仰。だから皆から信仰を集めた昔の大戦の機体が英霊機になる……らしいですよ。欧州の司令から聞いた話では」

 

アレハンドロ司令が言ってた。ルサルカも何と無く信仰みたいな感覚を感じるらしい。

 

「思い込みって大事らしいよ。うん」

「思い込みって……どうやって英霊機を呼び出すんですか?」

「えーっと、普通に念じれば出るらしいよ。質量保存ガン無視だよね」

「念じる……」

「あっ、ここで出されたら部屋が潰れると思うから格納庫行こうか」

 

危ない……危うく圧死する所だった。いや、本当にここに直接出るかは知らないけど、“念じたら出ました”ってルサルカ言ってたもんな。

 

「待ちな、あたしの話はまだ終わって無いよ。しかも英霊機を出すなんて上が許可を出さない決まってる!」

「あー、その辺りは何とか言いくるめするわ。言いくるめに八十振ってあるから」

「何の数値ですか?」

「言いくるめの成功確率。つまり八割成功する」

「凄いですね!!」

「渡来さんが純粋過ぎてボケが成立しない!!」

 

純粋な心は俺には眩し過ぎる!!

 

「あっ、でも二割失敗するんですね……」

「そこで急に冷静になれる渡来さんは将来大物になるよ」

 

この子凄いかも。ボケを潰せるし生かす事も出来るのか。でも本当に二割ってやらかすんだよな。

 

☆☆☆☆

 

「で、結局その二割でやらかして偉い人の反感買って、色々評価下がって館山に居るんだよ」

「「「前フリの話が気になり過ぎる」」」

「懐かしいなぁ……飛鳥さんは変わらないよね。本当に」

「そりゃ俺はこれで完全体よ。機体が来れば究極体だぞ」

 

前フリ滅茶苦茶長くしたから皆食い付いたな。ぶっちゃけ言いくるめやらかした後、アレハンドロ司令の威光使ってゴリ押ししたから早めに英霊機出せたんだよな。叙翼式の日程だった日に、富士のプライマリーピラーが現れたから、早めに用意出来て正解だったわ。

 

叙翼式の前には俺も欧州行って“ヤドリギ”と戦ってたから初陣は見れなかったけど……

 

「それにしても本当に無茶するよなお前」

「ヤドリギの時も、殆んど木になった状態でも何かして居なかったか?」

「……ヤドリギの時?あー……」

 

クラウディアに言われて思い出す。身体が木になって、結局ギリギリ助かったけど、その時身体の変化が面白くて遊んだんだった。

 

「何やったんだこのバカは」

「普通に“木遁の術”って遊んだり、背中の木を見せながら這って動いて“ドダイトス”ってやったり、一番身体が侵食されてヤバかった時は動けなくて“ウソッキー”って言ったりしてた」

「不謹慎にも程があるぞ!?」

「ウソッキーの時はヤバかった。ルサルカに思いっきり殴られたもん。折れるかと思ったね。幹が。はっはっは!!」

「笑えねぇ!!」

 

やっぱりアズズは良い突っ込みをしてくれる。うーん楽しい。

 

「でも助かったのは俺以外にも何人か居たからな。気力無くすよりはバカやってた方が良かったのさ」

 

それでも大半は死んだし、暗かったけど、笑って過ごせる為に皆努力してたからな。

 

「……ったく。バカと話してたら時間なんてすぐ過ぎちまう。そろそろ準備出来たみたいだぞ。一応ウチも歓迎してやる」

「アズズは本当に素直じゃないなぁ!!アタシも歓迎してるよ!!クラウ!!飛鳥!!これから一緒に頑張ろ~!」

「わたしもクラウディアさんと、そして飛鳥さんとまた一緒に飛べるのが嬉しいよ」

 

それぞれが歓迎の言葉を口にする。ありがたいよな。嬉しくなる。

 

「私も……こちらこそ宜しく頼む!!」

「俺も機体が来たらすぐに飛ぶからな。少しの間は留守番だけど、また世話になる」

 

館山基地での生活と戦いが始まった。




まさかお気に入りが25件越えるとは思いませんでした。皆さん本当にありがとうございます!感想も頂けて嬉しい限りです。

一人称一覧。

クラウディア 漢字で“私”

アズズ カタカナで“ウチ”

宮古 カタカナで“アタシ”

園香 平仮名で“わたし”

桜 漢字で“私”

弥生 平仮名で“あたし”

晃 平仮名で“あーし”

晃はここには出てないけど一応。

シグルリ小説増えないかなぁ!!

感想等お待ちしてます!

神木化途中でヤドリギ倒せば何とかなるみたいだけど、治るのどれくらい掛かるんだろうね?完全に木になったらヤドリギ倒しても治らないし、時間掛かるなら、かなりの間ウソッキーや。
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