砕け散る間際に   作:長谷サトル

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あり得たかもしれない世界



プロローグ1 ある”世界”の日本史

西暦1954年(昭和29年)

 

未だ、太平洋戦争の傷跡と記憶が生々しく残っていた時代にそれは現れた。

 

広島と長崎に落とされた原子爆弾。それが発生させたキノコ雲のような黒い影は、見る者に否が応でも戦争を思い起こさせた。

 

「もうすぐお父ちゃんのところへいけるのよ……!」

 

被災者が危うく影に踏みつぶされそうになった時、彼の母親から何度も言われたというこのフレーズは、戦後日本が直面した厄災を象徴するものとして度々取り上げれられたものだ。

 

身長50メートル、体重2万トン。

 

もはや生物とは思えぬほど巨大なこの影には、護衛艦の機雷も、戦車隊の砲撃も、戦闘機のロケット砲も通用しなかった。当時発足したばかりの自衛隊では太刀打ちできなかった。

 

大きな影の前では、電車も、石造りの建物も、鉄骨もおもちゃ同然だった。そこにいる人々の存在など意に介さずに蹂躙した。

 

こうして影は、空襲から立ち直りつつあった東京と住民を再び火の海に沈めて去っていった。

 

その影をある者は肉親の仇と憎み、ある者は何としてでも抹殺すべしと恐れ、ある者はその生命力を解明するため保護すべきと主張した。

 

影は最終的に、オキシジェン・デストロイヤー(水中酸素破壊剤)なる特殊兵器によって葬られることとなる。その開発者の命と共に。

 

影の名はゴジラ。

 

人類が核兵器という罪の元に生み出してしまった、天敵たる『怪獣』だった。

 

千葉県館山沖でゴジラが倒された後も、日本人は怪獣の脅威にさらされ続けた。ゴジラという自然界の異物が、生態系に著しい影響を与えてしまったからだ。

 

火山から蘇った翼竜の突然変異体、ラドン。

 

南洋から飛来した極彩色の巨大蛾、モスラ。

 

人を喰らう灰褐色の人型巨大生物、ガイラ。

 

この他にも人間の常識を超越した怪獣が次々と現れる度に、日本人は多大な犠牲を払いつつ撃退してきた。

 

いずれも脅威ではあったが、なんとか通常戦力と関わった人々の知恵で抵抗することができた。

 

怪獣用の特殊兵器の開発が軍拡だなどという国内外の批判がありつつも、日本政府や自衛隊は装備を整え、戦術を練った。それがいつまた来るかわからない厄災を退けるのに必要だったからだ。

 

怪獣との戦いを経る度に、いつしか日本人は怪獣をそれほど恐れなくなった。

 

同じ震度3の地震であっても、大昔と設備が整った現代では人々が抱く危機感は違うだろう。それと同じだった。

 

特に、メーサー殺獣光線車を主力とする対特殊生物自衛隊(特生自衛隊/特自/JXSDF)が設立されてからは、怪獣は人間にとって天敵ではなく、対処可能な災害となった。

 

だが、その自信――あるいは過信――は打ち砕かれることになる。

 

初代ゴジラが消滅してから45年が経過した、西暦1999年(平成11年)

 

二頭目のゴジラが現れたのである。

 

 

 

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