呪廻にて剣花は咲く 作:超親友
在りたいように在る、そんな風に毎日を生きてる人がどれだけいるだろう。
自分の思うがまま、誰にも縛られることなく自由に生きられたのなら……そう考えたことは誰しも一度や二度あるだろう。俺だってそうだし、出来ることならそうしたい。
ただ、俺たちが思ってるよりも生きるということは難しい。
些細なことで喧嘩するし、価値観の違いから衝突したりもするし、集団の中で生きるために自分を押し殺さなければならなかったりもする。
地震や台風などの自然災害に見舞われることだってあるだろうし、もしかしたら無関係の事件にいつの間にか巻き込まれるかもしれない。
世界っていうのはそんな理不尽に溢れていて───だからこそ『呪い』が産まれ続けるのだろう。
「呪術師は歯車の一つ、ねぇ」
人が生きるために呪いを産み出し、産まれた呪いを
堪ったものじゃない、昔も今もその言葉を聞いた感想は変わらない。
それなのになぜ術師をやっているのかと聞かれれば、別に好きでやってるわけじゃない、仕事だから、と返すほかないだろう。
在りたいように在るのは難しい、それは呪術師だろうと同じ人間なのだから当然だ。
「そう考えると
「オ、オマエ呪術師カ?」
人っ子一人いない廃屋、それどころか周りに人気が微塵も感じられないあたり、既に事を済ませた後だというのは明白。
助けられなかったことを申し訳なく思いつつ、今回の仕事のターゲットである蛞蝓のような呪霊へ視線を向ける。
「本能のままに自分のやりたいように生きる。地位も伝統も関係なくだ、憧れるね」
「呪術師ハここ殺殺すスス」
成立しているようでしていなかった会話が途切れる。
もう少し話していたかったが、相手にその気がない以上は口を噤まざるを得ない……まぁ、別段時間稼ぎが必要な相手という訳でもなさそうなので問題はない。
さっさと片付けて晩飯にしよう、そう考えて蛞蝓呪霊から放射された粘液を跳躍し避ける。
「随分と殺意の高いことで」
常人なんて軽く溶かし尽くそうな粘液に気を取られていると、おろし金のような多数の歯が自身を噛み砕こうと迫っていた。
巨体に見合わずいい動きするなと感心しつつ、腰に差してる
「固った」
蛞蝓とは思えない強度に困惑したのも束の間、その隙をつかれ弾き飛ばされる。
飛ばされた先にはつい先ほど蛞蝓の吐き出した粘液、目視の後に体制を整えその真横に着地する……が、
「う、ぉッ」
着地の瞬間を狙ったであろう尻尾? の振り払いが直撃し、そのまま廃屋の壁を突き破り外に放り出される。
「いてて、流石に舐め過ぎてたか」
仮にも二級術師を返り討ちにしてるのだ。
術式も使わず呪具だけで、なんて甘いことは通じないらしい。
加えて、
「普通に弾かれたよな今の」
振り払いが直撃する瞬間に合わせた呪具を使った斬り払い。
普通に尻尾を斬るつもりで放ったが、刀身が沈み込んだと思ったら倍返しになって勢いが返ってきたので驚いた。
どうやらそこは見た目通り弾力性が強みらしい。
なるほどなるほど、確かにこれは二級の手には余る案件だ。
「そういうことなら、こっちもそれなりの対応をさせて貰おうか」
人手が足りないから、そう言われて手早く済ませようと気軽に受けたがどうやら外れクジだったらしい。
それともそう言えば俺が受けると思ってわざとそう言ったのか……ま、その辺は片付いた後にでも問いただすとしよう。
呪具を鞘に納め虚空へ手を伸ばす。
瞼を閉じ思い起こすのは、今まで幾度となく使ってきた自身の術式。
心の内に潜るように深く息を吐き出し───深層で脈動する
「何ダそれは」
追ってきた呪霊の言葉を耳に瞼を開けば、虚空を掴んでいた手には水晶のように澄んだ紺碧で彩られた剣が握られていた。
「始剣──…呪術師なんだ、術式は使って当然でしょ」
「姑息ナ!」
先ほどの噛みつきが再び迫る。
一度競り合いで勝ったからまた勝てると思い飛び込んできたのだろうが、生憎それは2級呪具相手の話。
家の相伝の術式相手には些か分が悪い。
「なニィ!?」
真正面から受け止めそのまま斬り下ろす。
それだけで自慢の歯は砕け、呪具が通らなかった肉体には驚くほど簡単に刃が入りそのまま巨体を両断した。
「だガ無駄ダ!」
終わり、と思ったが……両断され二つになった体はそれぞれが意思を持ち再びその牙を向けてくる。
術式は持っていないと思っていたが、どうやら分身・分裂に近い術式を持っていたらしい。ますます簡単に片付く仕事じゃなかったと内心愚痴を溢しつつ、確認の意味も込めて左右の蛞蝓呪霊を再び両断する。
「無駄ダ、オマエの攻撃は効かナイ」
嘲笑うように言った呪霊は二体から四体に増えていた。
姿形は一匹目と何ら変わらず疲労してる感じは見受けられない。
言葉通り斬撃が効いてる様子もなく、分裂の数に制限があるかどうかは不明。
ただ、術式を使う以上呪力を消費するのは必定。
呪力が無限の呪霊なんて聞いたことないし、それを考えればこの分裂にも当然限界はあるだろう。
なら対処の仕様なんて幾らでもある。
「こりゃあいい。どれだけ分裂できるのか見せて貰おうか」
「? 何ヲ言ッて───」
始剣を構えながら印を結び術式を発動する。
空を裂く音が響くのと同時、取り囲んでいた呪霊たちの体が宙を舞う。
それは手であったり足であったり、果てには頭や眼球であったりと様々で、呪霊は声にならない絶叫を発しながら細切れに刻まれていく。
「とりあえず一分間やってみようか」
返答は一際大きな悲鳴だった。
▽
「やっほー国近、元気してる?」
呪霊退治を終え補佐監督に報告を兼ねた小言を言い終え帰路についてると、現代最強の術師と何ともまぁタイミング良く鉢合わせた。
「お陰様で元気してますよ、悟先輩」
「それは何より。饅頭食べる?」
「いただきます」
雑に投げられた饅頭を受け取ると、ついこの前この近所のデパートで買った饅頭そのものだった。
何か話題になってたから暇つぶしついでに買ったものだが、悟先輩も買っていたようだ。
まぁこの人甘党だし、こういう系のはその辺の女子高生より詳しそうだから話題になってなら買うか。
「これ美味しいですよね、行列できるのも納得ですよ」
「へー、わざわざ並んだんだ」
「……先輩並ばなかったんですか?」
「だってこれ国近の家から取ってきたやつだし」
「は?」
何言ってんだこの人。
「国近に話があって来たんだけど伊知地に聞いたら任務中って言うじゃん? だから先輩が話ついでにわざわざ差し入れ持ってきて上げたってわけ」
話があるのは分かった。
けどどうやって俺の家入ったんだ? 肝心なところがまったく説明されてないんだけど……まぁこの人の場合、こういう時は何言っても適当なこと言って誤魔化されるだけだから今は流しておこう。
「で、話って何ですか?」
「国近ってさ今フリーだよね?」
「……まぁ、一応」
今受けてる任務は特にないし、七海さんみたいに助手と一緒に活動してる訳でもないので、一応フリーと言えばフリーだ。
しかし何だか嫌な予感がする。
悟先輩がわざわざ電話じゃなくて直に会いに来て要件を伝えに来る辺りが特に。
「宿儺が受肉したんだけどさ」
「……ん??」
宿儺? え、両面宿儺?? 特級呪物の???
「びっくりすることに器の子が宿儺を抑え込めるくらいの才能の持ち主でさ、折角だから指全部食べさせてから死刑にしようよ、ってことで高専預かりになったんだよね」
抑え込む? 指全部食わせる?? 高専預かり???
「ただ上の年寄りがうるさくてさ~、僕の預かり知らぬところで邪魔されるのも面倒だから国近に高専の教師になってもらって諸々手伝って貰おうかと思って」
教師? え、教師ってそんな簡単になれるものなんですかね?
「学長の許可はもう貰ってるから。それじゃよろしく~」
「は? おい、ちょ待て! バカ目隠し!!」
思わずいつも心の中で呼んでる名前で言ってしまったが、バカ目隠しは言うだけ言うと確定事項だと言わんばかりに返事も待たずどっかへ行ってしまった。
正直宿儺のこととか器のこととかまったく整理できてないが、それ以上に教師になるということが普通に嫌なんだけど。
しかも言葉的に宿儺の器の子担当っぽくない? 絶対に嫌だ、いくら悟先輩のためでも今回は絶対に引き受けたくない。
「ん?」
メールが飛んでくる。
スマホを取り出し画面を見てみれば、元凶からの追伸だった。
【器の子は僕に並ぶくらいの術師になるからきっと育て甲斐あると思うよ。あと恵とか顔見知りもチラホラいるからそこもよろしく p.s. バカ目隠し聞こえたからな後でマジビンタ】
『国近──…僕、夢が出来たよ』
「……………………はぁ。マジビンタやだな」
とりあえず明日学長のところに行って話だけでも聞いてみよう。
受けるか受けないかはその後で決めてもいいでしょ。
「今日はもう疲れた~早く帰って寝よっと」
人が生きてく上で、在るように在る、ということは難しい。
もう一度言うが、それは呪術師にとっても同じことだ。
アニメ始まりましたね(今更)
狗巻先輩とマイフレンドが登場するのが楽しみです。