呪廻にて剣花は咲く 作:超親友
両面宿儺。
術師界隈においてこの名前を知らない呪術関係者はまず存在しないだろう。
1000年以上も前の呪術全盛の時代、当時の術師たちが総力を挙げても敵わなかったほどの圧倒的な強さを誇り、経緯は不明だが屍蝋として指が20本残された後もその指を消し去ることは出来ず、封印を経てもなお元来の縛りを受け付けず呪いを呼び寄せる呪物と化したという規格外さ。
宿儺は呪いの王と称され現代まで言い伝えられてきたが、それは誇張でも何でもなく純然たる事実だ。
もし宿儺が現代にいたらあの五条悟ですら勝てるかどうか分からない、と言えば宿儺という存在がどれほどのものなのか理解出来るだろう。
「そんな宿儺が受肉したなんて聞いたら……そりゃ上層部の爺さまたちが騒ぎ立つのも当然でしょ」
幾ら器になった子が宿儺を抑え込めるほどの逸材だとしてもだ。
保守派の集まりの上層部がそんな危険物をいつまでも放っておくとかあり得ないし、悟先輩が融通を聞かせてもあの手この手で邪魔しに来ることは火を見るより明らかだ。
というか、悟先輩が色々おかしいだけで普通の術師なら誰でもそう考えて当たり前だけど。
そんなことを考えながら歩くこと数分、目的地の校門が視界に入った。
同時に、かつての恩師も。
「久しぶりだな、国近」
「お久しぶりです、学長」
夜蛾正道。
傀儡呪術学の第一人者で高専の学長も務める凄い人だ。
悟先輩の学生時代の担当を務めて、俺もよくお世話になった。
「……苦労するな、オマエも」
「学長ほどじゃありませんよ、本当に」
ちなみにお互い五条悟被害者の会の筆頭会員でもある。
学長と飲みに行くと悟先輩の愚痴でいつの間にか朝になってたりすることも少なくない。
まぁ、一先ずそれは置いといてと。
「宿儺の器が見つかったって本当ですか?」
「信じられない気持ちは分かるが事実だ。私もついさっき会って確認した」
なんてこった。
もしかしたら夢かもしれない、なんて考えていたがどうやら現実だったらしい。
「オマエにもオマエの事情があるだろう。許可を出した私が言うのも何だが、あの話は無理して受けなくても構わない」
あの話、というのは教師の話で間違いないだろう。
「とりあえず色々と聞いてから決めようと思ってますよ。悟先輩にも言いましたけど、今やってる任務とかありませんし」
「そうか。ならあまり時間もないことだ、手早く済ませるとしよう」
歩きながらで構わないか、と踵を返す学長に頷いて後に続く。
高専自体は拠点として卒業後も訪れていたのであんまり久しぶりという気持ちはしないが、学長と二人で高専を歩くのは入学前の同期や先輩たちとの顔合わせ以来だから何だか懐かしい気持ちになる。
「悟からある程度聞いていると思うが、オマエには悟の補佐ということで今年入学する宿儺の器の子を含めた一年生の担当について貰う。後、場合によっては二、三年の方も面倒を見てもらうことになるだろう。まぁ副担任みたいなものだがな」
「え、一年生だけって聞いてたんですけど」
あのバカ目隠し説明適当過ぎじゃない?
「……まぁ、そういうことだ。話を続けるぞ」
「ハイ」
文句の一つでも言おうかと思ったが眉間を抑える学長を見て止めた。
ホント苦労してますね、ご愁傷様です。
「今年の一年生は現時点で三名。伏黒恵と虎杖悠仁、あとは家の事情で少しばかり入学が遅れるが釘崎野薔薇という女子生徒の三人だ」
確か虎杖くんが宿儺の器の子だったよな? おぼえとこ。
それにしても女子生徒とは……俺が学生の頃は同い年に女子なんていなかったら羨ましい限りだ。
恵くんは相変わらず名前の通り恵まれてるね~本人的にはどうでもいいとか思ってそうだけど。
「釘崎さんは反転術式使えたりとか?」
「使えない」
「ですよねー」
てことはまた硝子先輩のお世話になりそうだ。
京都の方に一人反転術式使える子が入ったって聞いたからもしかしたらコッチにもと思ったが、そううまいこといかないか。
まぁ呪術師自体が全然いないし、その中から更に希少な反転術式使える人材なんてそうそう現れたりしないだろう。
それから学長と諸々の話をして、とりあえず近いうちに返答する旨を伝えてこの話は終わった。
この後悟先輩との約束があったが、当人がまだ来てないのと喉も乾いていたので学長と一緒に学生時代によく使っていた自販機の前にやってきた。
「懐かしいですねここ」
「ああ。オマエと悟はよく互いの術式を確かめ合ってたな」
自販機の傍にあるベンチから一望できる広場を見て思わず笑みが漏れる。
あの頃は俺もやんちゃだったからよく悟先輩に突っかかって返り討ちにあってた。
それを硝子先輩に治して貰ってまた悟先輩に挑んでの繰り返し……今考えてもバカだな俺と思う。
だけど、そんな
悟先輩や硝子先輩だけじゃない、伊知地や七海さんに学長、そして───……
「飲むか?」
「あぁ、すみません」
思考を打ち切り、奢ってもらった缶コーヒーを受け取って一口含む。
あ……これブラックだ。俺微糖派なんだけどな。
ブラック飲める人って、ていうかコーヒー飲める人ってどんな気持ちでコーヒー飲んでるんだろう。普通に考えてコーラとかファンタの方が美味いと思うのって俺だけなのかな。
そんなことを考えながら缶コーヒーを飲み切る。
正直何か他の物飲んで口直ししたいが、学長の手前失礼だから後でにしようと思ったのも束の間、
「ほら」
「ん……あ、わざとブラック買いましたね」
「まだ治らんのか子供舌」
俺そんなに子供舌かなと思いつつ、呆れたように笑う学長を後目にコーラを一気に飲み干す。
うん、やっぱりコーヒーなんかより断然こっちの方が美味いわ。
「学長」
「なんだ?」
「さっきも言いましたけど、教師になるかならないかはまだ決めてません。けど、仮になるとしたら」
生徒にはめいっぱい楽しんで貰いたいです。
そう言うと、学長はコーヒーを傾けながらそうなるかはオマエ次第だと笑った。
▽
「国近お待たせー」
学長との休息を終え、時間になったので悟先輩と約束した集合場所へ向かい待つこと数分。
悟先輩が二人の男の子を連れてやってきた。
一人は恵くんでもう一人がおそらく宿儺の器の虎杖くんだろう。
「相変わらず治ってないですね遅刻する癖」
「治す気ないからね」
いけしゃあしゃあと……こういうところが学長とか庵さんの気に障ってるんだろうな。
「久しぶり恵くん」
「どうも」
バカ目隠しは放っておいて隣の恵くんに挨拶する。
気分は可愛がってる甥っ子に久しぶりに会った叔父さんの気分……いや、そこまで親しくないから近所の子供に挨拶するおばさんの気分?
「先生、この人がさっき言ってた新しい先生?」
「そうだよ。一級術師の
「へー、てことはここの卒業生ってことか」
「そうだけど、呪術師は基本的に全員高専の卒業生だよ」
あれが宿儺の器の虎杖悠二くんか。
……確かに、悟先輩の言う通り見所のありそうな子だ。
ていうか正直、素の身体能力だけで言ったら俺より高そうな気がする。
と、そんな俺に視線に気づいたのかそれとも先輩との話が終わったのか、虎杖くんがコチラへ視線を向け頭を下げた。
「俺、虎杖悠仁。これからよろしく朽網先生!」
「よろしく虎杖くん。ただ、まだ先生になるかは決めてないから先生付けはいらないよー」
「「え」」
とりあえず大事なことだから修正すると何故か先輩まで虎杖くんと同じような顔をし出した。
ちなみに伏黒くんは当たり前でしょって嘆息してる。
「今日学長と話してないの?」
「話しましたよ。ただ学長が嫌なら断っていいって言うんで、もうちょい考えてから決めようと思って」
「あの脳筋学長余計なこといいやがって」
聞こえてるからね?
「それに考えてみれば、
「それなら問題ないでしょ。国近当主なんだし」
「当主だからこそですよ。家は先輩と違って一人で好き勝手すると下がとにかくうるさいんで」
「僕とは違ってってどういう意味だよコラ」
そういう意味だよ。
まぁ先輩の言う通り問題ないだろうけど、もしもがあって赴任した後からその問題持ってこられても面倒だから念には念をってやつだ。
「先生、もし朽網さんが教師になったら俺たちの担任になるってことですか?」
「んー? なになに恵、僕が担任じゃなくなるのが嫌なの?」
「逆ですよ」
うわ、先輩凄い顔してる。
恵くんも先輩には結構行くよなぁ……ある意味尊敬する。
「ざーんねんでした! 国近が来ても僕は恵たちの担任で国近は副担任でーす」
「そうですか」
どうしようあの目隠しのこと先輩って呼ぶの恥ずかしくなってきたんだけど。
恵くんが七海さん並みの大人の男性に見えるんだけど。
「ま、いいや。じゃあ国近の家がゴネそうになったら言ってよ、僕が何とかしとくから」
「何とかできると思いますけどやらないでください」
割とマジで。
家は御三家並みに大きい家じゃないからそんなことされたら拒否できないし、そうなったらそうなったで五条家と仲悪い他の御三家との間に板挟みになっちゃうから。
まぁ俺が悟先輩と一緒に行動してる時点で手遅れな気がするけど、まだ個人同士の付き合いって言えば凌げるから。家同士の付き合いになったもう弁解できないから。
「大人って大変だな伏黒」
「……大体あの人のせいだけどな」
恵くんの同情が心の深いところまで染み渡った。