呪廻にて剣花は咲く 作:超親友
「───じゃ、そういうことだから家のことはよろしく」
何かあったら連絡して、と言葉を残し電話を切る。
そのままスマホを机の上に置き、ソファに身を沈めてため息を一つ。
「とりあえず許可は取れたな」
高専の教職に就くという件は思ったよりもあっさり片付いた。
最近は顔出せてないしもう少し小言を言われるものと思ってたから拍子抜けだ。
まぁ元々厄介者みたいな扱いだし、当主になったのも家の総意というよりは条件を満たしてるのが俺しかいなかったからみたいな所も大きかったからな。
向こうからしてみれば、俺が居なくなってくれた方が色々とありがたいのだろう。
「呪術師は呪霊を祓うのが仕事なのに身内でいがみ合ってたら世話ないよ」
足を引っ張りあうなら好きにしてくれ。
俺はそれに関わるつもりはないし、邪魔するなら踏んでくだけだ。
「さて、どうするかな」
家の承諾は得られたので悟先輩の誘いを受けるか受けないかは俺次第。
まぁもう答えは出てるんだけど、少し気になることがあってどうにも煮え切らないというか何というか。
「高専の上層部が悟先輩に嫌がらせするのは今更だけど……最近色々ときな臭いよな」
近年の呪霊の活動に対しての上層部の対応には疑問点が幾つもある。
事前に開示するべき情報を明かさなかったり、呪霊の等級を偽って手に余る術師を派遣させたり、去年の乙骨くんの件からかなり粗が目立つようになってきた。
それが本当に粗だったらいい。上の人たちも歳だからそういうことももしかしたらあるだろう。
ただ、
「呪詛師と繋がってないだろうな?」
それが作為的に仕組まれたものならそうはいかない。
呪術師なら誰しも知る呪術規定。
これを管理し規定を犯したと判断して執行を命じるのは上だ。
その上が仮に呪詛師と繋がってるとしたら……考えたくないが今の呪術界は無法地帯ということになる。
「まぁ、それをどうにかするために悟先輩は頑張ってるんだけど」
呪術界の一新、そして強く聡い仲間を集めること。
それが悟先輩の夢で、あの人は俺にその夢を手伝ってほしいと言った。
俺はその頼みを承諾した。
俺もまったく同じ気持ちだったから。
「なら悩んでても仕方ないか」
誰が敵で誰が味方かは自分で見極めればいい。
上層部が呪詛師と繋がってるか定かではないが怪しいのは事実、それならより近いところで調べればいいだけの話だ。
重い腰を上げ、机の上に置いたスマホを手に取る。
画面を操作して開いたのは電話帳。
「あ、もしもし───……」
▽
「ということで、今日から高専で教鞭を執らせてもらいます一級術師の朽網国近です。よろしくね~」
場所は東京・原宿。
ヒラヒラと手を振って挨拶すれば三者三様の反応が返ってきた。
「よろしくお願いします」
「よろしく、朽網先生!」
「もっと面白いこと言え~」
誰が何を言ってるかは説明するまでもないだろう。
「虎杖くん制服間に合ったんだ、似合ってるよ」
「あざッス! つってもこれ五条先生がカスタムしたらしくて俺がやった訳じゃないけど」
「あー、あの人そういうところあるからね」
「それ伏黒も言ってた」
俺もよく連絡なしで任務の引継ぎ先に選ばれたりするし。
「先生のは自分で?」
そう言って虎杖くんが指差したのは俺の制服。
袖の部分をちょっと短く弄ってもらっただけで、それ以外は普通の制服と比べて特に違いはない。
ただ、
「これ学生時代のだから少し小さいんだよね」
「間に合わなかったんですか?」
恵くんの言葉にうなずく。
教師になると決めたのが昨日の夜中でそこから今まで大体半日くらい。
流石に半日で新しい制服を用意するのは無理と言われたので、急遽学生時代に着ていたのを引っ張り出して今に至るという訳だ。
「国近背伸びたよね」
「大体10㎝くらい伸びましたよ」
学生の頃は当時の悟先輩より小さかったが、今は悟先輩と同じか少し小さいかくらいまで伸びた。
そのせいで七分くらいに弄ってた袖がご覧の通りほぼ半袖になってる。
「僕の制服使う?」
「いや、後数日もしたら届くみたいなんでいいです」
悟先輩の制服めっちゃ高そうだし何かあって弁償とか嫌だからね。
「それじゃ、そろそろ時間だし三人目迎えに行こうか」
「先生、俺ポップコーン食いたい!」
「後にしろよ」
そんなこんなで今日原宿に来た目的───三人目の一年生、釘崎野薔薇さんの捜索が始まった。
▽
悟先輩は一年皆で東京観光と言ってたが、今日集まった本当の目的は今の一年生がどれだけ戦えるか確かめるための実地試験だ。
ということで、先輩たちが釘崎さんを迎えに行ってる間に念のため試験場所が報告書通りか確かめに来てみたが、
「思ってたより濃いな……3級、もしかしたら2級がいるかも分からんね」
一夜の内に何らかの要因で強くなったのか、それとも報告書に記載されてる内容に誤りがあったのか……何にせよ教師生活の初日からやってくれる。
「恵くんは病み上がりだから今回は休むらしいし、二人が来る前に祓っとくか?」
釘崎さんは確か3級だから2級相手はキツそうだし、虎杖くんは……悟先輩が確か呪具渡す手筈だったからもしかしたら行けそうかもだけど、追い込まれて宿儺が出てきたりしたら面倒だし、やっぱり今の内に2級だけでも祓っておこう。
「元々今回の試験は地方と東京の呪いの違いを釘崎さんに知ってもらうためのものだしね」
そんな時間もかからないだろうし、手早く済ませて生徒に交流を深める時間を作らせてあげようか。
「誘い込んでるのか知らないけど自分から位置バラしてるのも都合がいい」
大方2級になって浮かれてるのだろう。
万能感に浸るのはいいけど相手は選ばないとダメでしょ。
「ちょうど範囲内だし、このまま術式使って祓っちゃうか」
「おーい国近、ストップストップ」
「ん?」
掌印を結んで術式を使おうとしたのと同時に、釘崎さんを連れて悟先輩たちがやってきたので手を下ろす。
「悟先輩、ここ2級いますよ」
「みたいだけど、それだけじゃないんだよね」
訳アリのようなので話を聞いてみると、どうやらここに子供が迷い込んだらしくその救助も今回の試験に含まれることになったらしい。
それで俺が術式を使おうとしてるのを見て、それに子供が巻き込まれるのを危惧して悟先輩は止めたとのこと。
「───俺も行きますよ。流石に今回のは二人の手に余るでしょ」
ということで、状況整理も兼ねて改めて今回の目的を説明すると恵くんが悟先輩にそう提言した。
「なぁ朽網先生、2級とか3級とかって何の話してんの?」
病み上がりだから恵はダメ、と言う悟先輩ともう大丈夫ですよという恵くんの会話を見ていると、隣で首を傾げる虎杖くんからそんな疑問を頂いた。
「はぁ? アンタそんなことも知らないの?」
「虎杖くんはついこの間まで一般人だったからねー」
悟先輩が説明してなさそうだったので、虎杖くんが高専に来た経緯を釘崎さんに簡単に説明する。
「特級呪物を飲み込んだぁ!? きっしょ! ありえないんだけど!!」
「んだと?」
まぁ幾ら呪いに無関係の一般人でも如何にも怪しい指を飲み込むのは俺もどうかと思う。
「ということで、虎杖くんと釘崎さんには3・4級の低級呪霊たちを相手して貰うつもりだったけど、2級呪霊がいるみたいだから俺が祓うまでちょっと待っててくれない?」
「2級って言っても大したことなさそうだし私は構わないけど」
「俺も大丈夫だよ朽網先生」
んー、これは聞く耳持たなそうな予感。
「それに子供がいるんなら早く助けてやらねぇと。なら人数は多い方がよくない?」
それはそうなんだけど、ぶっちゃけ二人がどんだけ戦えるのかよく分からないから判断しづらいんだよね。恵くんが来てくれるなら話は別だけど、まだ療養中みたいだし。
「悟先輩どうします?」
何にしても俺副担任だから担任の指示に従おうと思い、悟先輩の方へ顔を向ける。
そうして悟先輩が少し考える素振りを見せたのも束の間、
「悠仁、これ持ってきな」
どうやら二人を向かわせることにしたようで、懐から
疑問を浮かべる虎杖くんに屠坐魔のことを説明した悟先輩は、未だに納得してなさそうな恵くんを座らせると俺の肩に手を置いて言った。
「国近、引率よろしく」
「だと思いましたよ」
大方めんどくさいから俺に押し付けたんだろうな。
まぁ元々俺が祓うつもりだったから別にいいけどさ。
「2級は国近が引き受けるから悠仁と野薔薇は他の呪霊の処理と子供の救出優先ね」
「伏黒は?」
「恵は待機。まだ傷が癒えてないから」
恵くんが二割増しで不機嫌になったのを俺は見逃さなかった。
「じゃ、さっさと行きましょ」
「あ、おいちょ待てよ!」
方針が決まったからかずんずんと一人で進んでいく釘崎さんとそれを追いかける虎杖くん。
うーん、前途多難だ。
ま、気張っていくとしますかね。
「国近」
踏み出した足を止め振り返る。
「頼んだよ」
その言葉には適当に手を振って返しておいた。
▽
「悟先輩には引率頼まれたけど、2級の居場所は分かってるから二手に分かれようか」
廃ビルの玄関口で一度二人を呼び止めて簡単に動きを説明していく。
「俺は地下の2級祓いに行くから二人は上の階をお願い。出来る?」
「当たり前でしょ、子供のお使いじゃないんだから」
「虎杖くんは宿儺出すのは厳禁だからね? 出したら俺と先輩の首飛んじゃうから」
「分かった、宿儺は出さない」
一通り見た感じ上には大した呪霊いないみたいだから二人なら特に問題ないでしょ。
後は子供がどっちにいるかだけど……まぁ仮に
「じゃ、そういうことで。終わったら今度こそ東京観光行こうか」
「ホント!? 今度は嘘じゃないでしょうね!」
「先生俺中華街行きたい!!」
「嘘じゃないし、行きたい所あるなら東京じゃなくてもいいよ」
「よっしゃ! ならさっさと終わらせて観光行くわよ虎杖!!」
「おうっ!」
そう言って廊下を爆走して行った二人を見て、あの二人何だかんだで気合いそうだなと思った。
いやー、青春してるね良きかな良きかな。
「それじゃ俺も、早いとこ仕事済ませるとしようか」
奴さんも待ちくたびれてるだろうし。
そんなことを考えながら二人とは逆の廊下を進み、地下へ続く階段を下っていく。
他の呪霊と遭遇しない辺り、自然とこの場所が2級呪霊の縄張りと認識されてるのだろう。
もし上に溜まってるなら二人にはいい経験を積ませられるし、俺は余計な手間がかからないし一石二鳥だ。
「さて、ここか」
早く来いと言わんばかりに呪力の滾りを感じる。
そんなに焦らなくてもちゃんと来てあげてるっていうのに……って
「フライングかよ」
扉を開けるよりも早く呪力が弾丸と化して扉を突き破って来た。
同時に呪具を抜いて弾丸を横へ逸らす。
「如何にも呪いらしい真似するじゃん」
視界に映ったのは達磨のような小柄な呪霊。
その隣には──…意識を失ってる子供が倒れていた。
「コッチにいたか……なるほど道理で自信満々なわけだ」
いざとなったら子供を囮にでもするつもりだろう。
ニタニタと挑発するように嘲笑ってるのがいい証拠だ。
けどまぁ、
「子供の場所が分かった以上、コッチも術式を使わない理由はなくなった」
呪力を溜め再び弾丸として飛ばそうとする呪霊の腕を呪具を投擲して斬り落とす。
その隙に掌印を結び術式を発動、その呪力に驚いた呪霊が子供を盾にしようとするがもう遅い。
「はい、お終い」
不可視の剣が呪霊を斬り裂き、再生する間もなく塵と化す。
同時に廃ビルに満ちていた呪いの気配が大分和らいだので、虎杖くんと釘崎さんたちにはコッチは終わったという合図になったことだろう。
「うん、ちゃんと息してる」
呪霊が人質にしようとしていたので心配してなかったが一応子供の生死を確認しておく。
何でこんな所に足を運んだのかは分からないが、まぁこれを機に二度とこんな無茶なことはしないで貰いたいもんだね。
「お」
子供を担いで部屋を後にしたのと同時、廃ビルを包んでいた呪いの気配が完全に消滅した。
呪力の流れはしっかり確認できるので、どうやら二人も上手くやれたようだ。
それじゃ約束通り、ご褒美に東京観光に連れてってあげようじゃないか。
「…………あ、お金下ろすの忘れてた」
東京観光の前に銀行寄らないとな。