呪廻にて剣花は咲く   作:超親友

4 / 5
04

 

「あれが宿儺の器か」

 

 呪霊が祓われた廃ビルの屋上。

 その片隅で佇む黒い僧衣を着込んだ呪詛師は、新たに高専に入学した三人の一年生──正確にはその内の一人、虎杖悠仁を見て笑みを溢した。

 

「色々と確かめさせてもらうとしよう」

 

 そう言って取り出したのは20ある宿儺の指の内の1本。

 その指と虎杖悠仁を交互に見て思考を巡らす呪詛師は、次いで五条悟とその隣を歩く亜麻色の髪の呪術師へ目を向ける。

 

「五条悟は手筈通り器から引き離すとして……問題は彼だね」

 

 朽網国近。

 朽網家相伝の術式の使い手で、虎杖悠仁の入学と同時期に教師として高専にやって来た1級呪術師。

 その姿を見て肉体に刻まれた記憶が脳裏を巡り、その術式の全容と人格を把握した呪詛師は思わずと言った風に嘆息した。

 

「彼まで器から引き離せば流石に五条悟が感づくだろうし、たかが指1本程度じゃ時間稼ぎすら出来ないで祓われるのが落ちか」

 

 1級と格付けられているが、その実力が特級と比べても遜色ないというのは朽網国近という呪術師の本質を知る者たちの間では周知の事実だ。

 呪詛師自身もそれを理解してるが故に、如何すれば彼を宿儺の器から引き離すことが出来るか瞼を閉じ熟考する。

 

「もう1本の指は別のところで使う予定だし、私の残穢を残すわけにもいかない……となれば」

 

 脳裏を過ぎったのは以前自身に協力を求めてきた特級呪霊の集団(・・・・・・・)

 実力は優れていても呪術師に対してまったくの無知であることを思い出した呪詛師は、無知の彼らだからこそこれから戦おうとしてる呪術師がどういう存在なのか、そしてどれだけその力が脅威なのかを学んでもらおうと判断した。

 

「話を受けるのはもう少し後にするつもりだったけど、これはこれで都合がいいからね」

 

 仮にその結果がどちらかの死であったとしても、自身の思い描く計画には何ら支障はない。

 そんな思惑を胸中に秘め、呪詛師はクツクツと嗤いながら廃ビルの影へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「───出張ですか?」

【うん。ま、すぐ終わるだろうけど僕が戻るまで色々引き継ぎよろしく】

「その色々の範囲に明日までの仕事とかないですよね?」

【………じゃあそういうことだから!】

「おい待て」

 

 待たずに通話が切られる。

 ……ご丁寧に電源切ってるあたりそういうことだろう。

 明日までに終わる仕事じゃなかったら呪ってやるからなあのバカ目隠し。

 

「そう言えば、明日は交流会のことで学長に呼ばれてたっけ」

 

 懐かしいな交流会。

 正直参加したメンバーがメンバーだから全然やり応えなかったけど、それでも色んな術式見れて良い経験にはなったから無駄な時間だったとは思わない。

 それに今の京都(向こう)の生徒のことを考えたら一年生たちにはいい刺激になることは間違いない。

 本来なら一年生は参加しないけど今年は人数足りないらしくて俺の時みたく参加させるって学長が言ってたし。

 

「今年は結構いい勝負するかな?」

 

 去年は乙骨くんが無双したらしいけど今年は海外行ってるとかで出場しないらしく、三年の秤くんは停学中。

 ぶっちゃけ今の状態だと東堂くんを誰も止められないから完敗だろうけど、一年生……特に虎杖くんの成長次第ではそれも分からない。

 京都(向こう)は人数足りてるから一年生が出てくることはないだろうし、加茂くんとかは恵くんや狗巻くんの二人でなら抑えられる。

 

「腕の見せどころだねぇ」

 

 交流会までに一年生をどれだけ仕上げられるか、少なくとも団体戦で放たれる2級呪霊は難なく祓えるようにさせるのが最低条件。

 恵くんと釘崎さんは術式を持ってるからそこを伸ばしていけばいいけど、虎杖くんは術式持ってないしそもそも呪力の扱い方から教えていかないといけない。

 まぁその辺りは俺よりも悟先輩の方が教えるの上手いと思うから、俺は恵くんと釘崎さん担当かな。

 

「何なら二年生の皆に手伝ってもらうのも有りか」

 

 二人は体術とかその辺てんでダメだし、動ける二年生に指導して貰うのは我ながらいい案だ。

 二年生の担当の日下部さんは色々予定が重なってるとかで今高専にいないし、二年生たちは一年生に教えることで改めて自分の動きの粗に気づくかもしれない。

 

「そうと決まれば明日皆に相談してみようかな」

 

 顔合わせも兼ねてって伝えれば拒否はされないだろう。

 確か恵くんとは顔見知りだった筈だし、交流会に出場する以上二年生の皆も足は引っ張てほしくないと思うだろうしね。

 

 一先ず交流会のことはこの辺にしといて、そろそろ悟先輩の引き継ぎの確認でもしようかな。

 何だかんだであの人も大事な書類とかは先に片付けてるだろうから特に心配はしてないけど。

 

「ちゃちゃっと終わらせてさっさと寝よう」

 

 眠りに就いたのはそれから三時間後───伊知地からの緊急事態の連絡を受けたのは、そこから更に五時間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 突如として発生した特級呪霊の受胎。

 受胎の発生した場所は少年院上空、受胎発生から既に三時間が経過しており避難誘導が9割完了した時点で施設を閉鎖、しかし未だ5名の在院者が施設内に取り残されておりその救出のために呪術師を派遣───そこまではいい。

 

「特級に変態するかもしれない任務に一年を派遣……? ふざけてる!」

 

 走る、走る、走る。

 

 本来なら特級、どんなに低く見積もっても1級の案件だ。

 それを高専に入って間もなくの、2級が精精の一年生を派遣するなんてあり得ない。

 伊知地には俺が行くまで絶対に三人を施設には行かせるなと言ったが、あの三人は受胎が変態を遂げる前に取り残された人を助けようとするだろう、そういう人種だ。

 だけど俺の考えが正しければ今回の件、

 

「失念してたわけじゃない。けど正直舐めてた……ここまでして虎杖くんをッ」

 

 悟先輩の出張、他の術師の不在、突如現れた特級……これだけ材料が揃ったらもう確定だ。

 

「あの老害ども……!」

 

 特級を祓い終わったら覚えておけ。

 二度と舐めたこと出来ないように徹底的に潰してやる。

 

「受胎が変態したら今の三人じゃ絶対に勝てない、早まるなよ三人ともッ」

 

 在院者を救出できても特級が変態して鉢合わせたら終わりだ。

 それまでに俺が駆け付けて特級を祓う、それ以外に三人を生きて高専に帰らせる方法はない。

 

「よし、見えてきた!」

 

 伊知地の迎えを断り、呪力で強化した五体で走ること数分。

 ようやく目的地の少年院が見えたのを確認して、後は三人の安否を確認するだけ、

 

「───あ?」

 

 その直後にそれは起きた。

 今まで戦ってきたどの呪霊よりも膨大な呪力の気配、上空から隕石の様に落下して来た呪霊(ソレ)は、下卑た笑みを張りつけて言った。

 

「朽網国近だな?」

 

 その言葉に答える暇もないまま、

 

「死ね」

 

 業火が視界一面に広がった。

 

 

 

 

 

 

 周囲の木々ごと纏めて焼き払い、今もなお轟々燃え盛る眼前の光景をその単眼に映して特級呪霊──漏瑚は嗤った。

 

「フン。呪術師など所詮この程度だ」

 

 脳裏を過ぎる呪詛師に返すように言葉を吐き、漏瑚は襲撃を成功させた際に落ち合うと決めた場所へその歩みを進めようと振り返る。

 

「蓋を開けてみれば弱者による過大評価。何が脅威か、まったくもって反吐が出る」

 

 朽網国近。

 自身と同じ特級クラスの術師だと話に聞いて来てみれば、奇襲一つ見抜けなかったただの間抜け。

 この程度の相手を脅威と呼ぶなど所詮は紛い物の人間かと心底落胆した面持ちで、漏瑚はやはり人間の協力など仰ぐものではなかったと後悔する。

 

「呪いの時代は儂らの手で作るに他はない」

 

 そう言葉を残し、最後にもう一度自身が焼き払った呪術師の骸を確認しようとして───その単眼を限界まで見開いた。

 

「バカな……無傷だと?」

 

 そこに地面に横たわる焼死体はなく、五体満足の呪術師が悠然と立っていた。

 

「驚いた。それにその呪力量……特級か」

 

 漏瑚は呪詛師から朽網国近の術式の話を聞いていない。

 正確には聞くに値しないとして早々に飛び出したからだが、もし聞いていればその疑問を解決する一助にはなっていただろう。

 そんなことは今更考えたところで後の祭りだが、術式が不明なら確かめるまでだと再び術式を使おうと手を伸ばして、

 

「なっ!?」

 

 術を放つ前にその右手が宙を舞う。

 斬られた、と判断した頃にはその隙をついて既に国近が迫っていた。

 

「貴様ッ!」

「おっとッ」

 

 咄嗟に斬られていない左手で掌底を打つが紙一重で躱され、カウンターの回し蹴りがその脇腹を捉える。

 

「この程度で!!」

 

 無理な体勢で放ったからか痛打には至らず、体勢を整えた漏瑚の術が国近の真横の壁から文字通り火を噴き直撃する。

 先ほどのように術式を使う前に手を斬られることはなかった、それならこれをどう受けると漏瑚は国近の動きの一挙一動を注視する。

 そして───その術式の片鱗を垣間見た。

 

 国近を呑み込まんとする業火、それを剣の形をした何かが幾重も重なり盾となって防いでいる。

 今は漏瑚の炎から身を守っているためその姿形が浮き上がって判別できるがその実態は不可視の剣。

 先ほど儂の右手を切断したのもあの剣だろう、と冷静に判断し追撃しようとしたのも束の間……風切り音を耳にした漏瑚は反射的に回避の行動を取っていた。

 

「それだけではないと言うことか!」

「ご名答」

 

 確認の意を込めて先ほどまで自身の立っていた場所へ目を向ければ、漏瑚の炎を防いでいる剣群とは別の剣撃がその背後の木々ごと斬り刻んでいた。

 どれだけの剣群を操作しているのかと内心思考しつつ、直感と予測を頼りに国近の剣撃から逃れながら漏瑚は時折見せる隙を火柱でついて国近の術式の穴を探っていく。

 

「ぐっ……!」

 

 だが国近の剣群はまるで限りがないと言わんばかりに漏瑚の術を全て通さず、反撃の刃も途切れることを知らない。

 国近は一歩も動かずその場で掌印を結ぶだけで、漏瑚の方は常に動き続けながら隙を伺い術を使う、どちらの動きが鈍っていくかは明白だろう。

 しかし、徐々に呪力による治癒では治しきれなくなってきたところで漏瑚は気づいた。

 

「(ヤツの腕の傷、いつ付いたものだ?)」

 

 掌印をする腕の下部、そこに自身がつけたものであろう火傷の痕があった。

 まさか、思考する漏瑚の脳裏に最初に奇襲した光景が脳裏を過ぎる。

 

「(確かめてみる価値はあるか)」

 

 ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ、と軽快な音が漏瑚の周囲で響く。

 その音とともに現れたのはアブのような姿の虫の呪霊。

 その呪霊たちは漏瑚が剣撃を避け続ける間に宙へ舞い上がり、そして四方八方のあらゆる方向から国近へと迫っていく。

 

「ん?」

 

 その呪霊に気づいた国近が怪訝そうな表情を浮かべつつも一瞬の間にその虫呪霊を宙で斬り裂いた───その瞬間、

 

「ッ!?」

 

 耳を劈くような大音量の奇声に体が怯んだ直後、国近の周囲を包むほどの大爆発が起こった。

 

「フッ、やはりな」

 

 爆発による火柱から逃れ出た国近の姿を見て漏瑚は自身の考えが間違いではなかったと笑みを浮かべる。

 

「………やるねぇ、君」

 

 そこにいたのは見るも痛ましい火傷の痕を左腕に負った国近の姿だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。